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官能小説【10話】夢も欲も愛も飼い慣らして


イきたい

こんな状況なのに、足の間で震える振動のせいで、下着がぐっしょりと濡れていくのが分かる。ベタついていくのが気持ちが悪い。
悔しい気持ちで保っていなければ、意識が持っていかれそうになる。こんな場所で痴態を晒すことになってしまう。
そういえば。音。そうだ。音でまわりにバレないだろうか。
パソコンの音しかないこの部屋では、小さなバイブの振動ですら皆の耳に届いてしまいそうだった。
桃花は体を小さくして俯いた。さっさとデザイン案を出して終わらせればいい。
それなのに、バイブのせいで上手く考えが走らない。

――もう駄目だ。外してってお願いしよう。私の負けだって認めよう。

そう思い桃花が貴之を見ると。

「社長、いいですか」

タイミング悪く、社員が貴之の席へ向かった。

「ああ」

「残りのデザイン組み込めたんで、明日再度チェックして納品で大丈夫だと思います。確認だけお願いしていいですか」

「ああ、分かった。今見る」

それで話は終わりだと思ったのに、ふたりで画面を覗き込み何やら話し始めてしまう。
桃花はぐっと唇を噛み締めた。

デザイン。
デザイン。
デザインを考えないと。

そう思うのに、やっぱり上手く思考がまとまらない。
意識が持っていかれる。ぐしょぐしょに濡れたソコに。
桃花は立ち上がった。トイレに行って外してしまえば、そう思ったのに。

「桃花」

低い声で呼ばれてびくんと動きを止めた。
社内中の視線が桃花に突き刺さる。

「座れ、桃花。続けるんだ」

「…………」

皆に見られながら感じている。声を呼ばれて今、私、イきそうになった。
気を失ってしまいそうな羞恥に苛まれながら、桃花はゆっくりと、刺激を与えないように腰を降ろした。
何も言えない。苦しくて仕方がない。イってしまいたい。
けれど達してしまったら、入ったままのバイブのせいで余計に苦しいことは分かっている。
体が熱く火照って汗が滲んでいる。
息も熱くて、まるで熱でもあるみたいに苦しい。

それから――。
やがて、ひとりふたりとスタッフは帰宅を始めた。
人数が減るたびにホッと力が抜けそうになる。そのたびに勝手に達してしまいそうになる。
それを桃花は何度もぐっと堪えた。
もう駄目。どうすればいいか分からない。

苦しい。
つらい。
切ない。
助けて。

「桃花」

お願い。イかせて

気がつけばすぐとなりに貴之が立っていた。
驚いて顔を上げると、いつの間にかもう誰もいなくなっている。

「私……」

桃花の目に、じわりと目に涙が滲んだ。

「真っ白か」

「…………」

「立て」

言われるままに桃花は立ち上がった。ずっと我慢していたせいで足が震えている。
貴之はその体勢のまま、桃花の下着へ手を入れてバイブを引き抜いた。

「あっ」

くちゅっといやらしい音がする。その瞬間イってしまいそうになったけれど、辿りつかなかった。
でも、やっと解放されたと思った。
やっと。
それなのに。

「座れ。これから一時間でひとつデザインを上げるんだ」

「や。無理だよ」

「無理じゃない、やるんだ」

「いや。いや。お願い、イかせて」

桃花は貴之にすがって懇願した。けれど貴之は首を縦には振らない。

「桃花、やるんだ」

そう言って桃花の後頭部を引き寄せると、貴之はまるで恋人同士のような優しくて濃厚なキスをした。とろけるような感覚に、桃花は腰から砕けて倒れ込みそうになる。
貴之はその腰をささえて、すぐにキスを終えた。

「一時間だ」

無情にも、桃花はそのまま座らされてしまう。
それ以上は何も言わずに席へ戻ってしまう貴之の背中を見ながら、桃花はどうしようもない気持ちになった。
体が熱い。
燃えるように熱い。
今すぐにベタついた下着を脱ぎ捨てて、自分で弄って達してしまいたい。
そうすれば楽になれるのに。

桃花は強くそう思ったけれど、そんなこと貴之が許すはずもない。
桃花は覚悟を決めてパソコンに向かった。

また別の快楽

一時間。
一時間だ。
一時間、必死でやってデザインを上げれば本当の意味で開放される。
その後。そうしたら。

気がつけば桃花は、これまでにないほど集中していた。情熱的なアイディアが浮かんでくる。形にしては試行錯誤し、また作り直してみる。
体の火照りは直らない。疼きはずっと変わらずにある。
軽いトランス状態に陥った状態で、桃花は思った。
気持ちいい、と。

学生時代にこれと似た感覚を味わったことがある。自分の中で満足できるデザインが上がる瞬間、これを感じた。
でもその時よりもうんと、今のほうが気持ちがいい。

飢えている。
満たされている。
それが同時に存在する状態。
何かを必死で作り上げる時と、エクスタシーに向かう時。そのふたつはまったく別のことではあるけれど、感覚の上では同じようなものなのかもしれなかった。
無我夢中で、今の自分の『最高』へ向かう。なんの言い訳もいらない。
だってこれは自分の『満足』のためだから。

結果を恐れて、本気じゃなかったと言い訳をする必要もない。
怖がる必要もない。
傷つくこともない。

だってこれは自分の『満足』のためだから。

結果は欲しい。
だけどきっと――、満足のいく頑張りをした先では、傷つくなんてことはない。
悔しさは生まれてもきっと、傷つかない。

私はこの瞬間、『満足』するんだから――。

約束の一時間

「できた」

桃花は立ち上がった。

「できたよ、貴之サン」

「ああ」

短い返事をして貴之が桃花の元へ歩いてくる。桃花は興奮状態のままで、頬は上気していた。
貴之は桃花のパソコン画面を覗き込むと、しばらく動かなかった。
桃花がごくりと唾を飲み込む。そして。

「よくやった。最初のとは雲泥の差だな」

「でしょ!」

桃花の声が思わず大きくなる。
子どもみたいに屈託のない笑顔で笑う桃花の姿を見て、貴之はその体を抱き寄せた。

官能小説挿絵:

くっついた体がぴったりと重なって、桃花はそのまま貴之の胸へ体重を寄せた。

「やればできる。それが証明されただろう」

「やったのは私だよ」

「ああ。だが、指導したのは俺だ」

「デザインのことなんか分かんないくせに」

「それでも、桃花のことならよく分かる」

貴之の手がそっと桃花の顔を上げさせて、どちらからともなく唇が重なった。

「君の能力を引き出せるのは俺だけだ」

「自意識過剰だよ」

「でも真実だ」

「世界中探したらまだいるかもよ」

「いない」

「どうして言い切れるの」

「男の勘だ」

「ああ、あてにならないヤツね」

「いや、俺の場合はあてになる。特に君に関しては。初めてイかせたのも俺だ」

「……分かってたの? 初めてだって」

「ああ」

「サイアク」

「そうでもないだろ」

会話をしながら貴之の手が桃花のスカートの中へ忍び込んだ。

「っ……、誰か戻ってきたらどうするの」

「そうだな。その時は桃花のイき顔を見せてやる」

「悪趣味」

「じゃあやめるか。あんなにイかせてくれって言ってたのに」

「!…言ってない!」

「そうか。必要ないんだな」

「…………」

「桃花。このまま帰るのか?」

貴之が、煽るように桃花の耳元へ囁きかける。桃花は貴之の服をぐっと掴んで押し黙った。
せっかくここまで頑張ったのに、それなのにこの人は意地悪だ。
そう思うと腹が立った。
だけど嫌いになれない。この人を……、どうしても嫌いになれない。

「――おいで、桃花」

桃花がそう思った矢先、貴之は優しい声を発した。
いつものように桃花の先に立って歩き出す。
それがいつもとひとつだけ違うのは、声音と口調がひと際優しかったことだ。

貴之はミーティングルームのドアを開けると、桃花をソファに座らせた。
下着を下ろすと、まだたっぷりと濡れた場所から糸を引いた。
床に落ちた下着はぐっしょりと濡れている。

「つらかったな」

そう言いながら貴之が触れただけで、桃花は軽くイきそうになった。
貴之は少しだけクリトリスを可愛がってから、浅く指を挿入した。

「あぁっ――」

桃花の唇から、吐息と一緒に声が零れる。

⇒【NEXT】いやらしい言葉を言われると、ぎゅっと蜜口が締まる。(夢も欲も愛も飼い慣らして 11話)

あらすじ

イきたい、と体が欲しているが、貴之は桃花の願いは聞き入れない。
オフィスには桃花と貴之以外いなくなった時に、バイブを抜かれ、やっと解放されたと思った。
しかし、願っていたエクスタシーは叶う事はなく、桃花は本当の意味で解放されたくて、デザインを突き詰める…。

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