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官能小説【13話】夢も欲も愛も飼い慣らして
愛との待ち合わせ
「まだ来てない、か」
急いで待ち合わせ場所へ向かったけれど、桃花のほうが先の到着だった。
約束の相手、友人の愛は遅刻癖がある。いつも小さな理由で遅刻をする。
だからといって、桃花は遅刻ができないたちだった。
スマホをタップしてメールを確認してみる。けれど新規メールはナシ。
きっと、貴之はまだ仕事中なんだろう。だから返事がない。もしかしたら、添付したデザインをかなり入念にチェックしているのかもしれない。
未だ返信がない理由を色々と考えているうちに数分が過ぎた。
今度はメッセージアプリを開いて愛からの連絡を確認してみる。するとちょうど。
『今駅着いた!ごめ』
メッセージがスタンプと一緒に送られてきて、ふっと和む。
相変わらずなのが心地よかった。待つのはそんなに嫌いじゃないし、ぼんやりと待ちゆく人のファッションチェックをするのも好きだ。
慣れっこになった待ち時間を過ごしていると。
「ごめーん!ごめんごめん!」
ひらひら風にひらめくフェミニンなスカートを揺らして愛が駆け寄ってきた。
「うん、大丈夫」
「ほんっとごめんね!久しぶりなのにまた遅れちゃったー。桃花に会うって思ったら気合入っちゃって!ね、見て。新作買ったの!」
愛が、桃花の前でくるりと回って見せる。
「わ、もしかして全身新作コーデ?」
「うんっ!可愛いでしょ」
「すごいね。奮発したじゃん」
「そーなのー。だから次のカードの支払いすごそう!」
すごそう、と言いながらあっけらかんと笑う愛を見て、桃花も一緒に笑顔になった。
癒されるなー、やっぱり愛可愛いし。
そんなことを思いながら、愛によく似合うコーデを改めて見る。
やっぱり洋服が好き。着た人の笑顔を想像するのが好き、見るのが好き。洋服に関わっていることが好き。
これまで『ただ好き』だった気持ちが『これが好き』そういう強いものになっている感じがした。
「ねー、今日どこ行く?遅くなっちゃったから買い物は無理だし。桃花に見てほしい服あったんだけどなー」
「いつでも見るよ。今度お昼に会お」
「うんっ!あ、じゃあカラオケ行かない?ゆっくり話せるし!」
「うん。だね」
「ね!」
可愛くなった理由
カラオケのルームに入ると、愛はすぐにいつもの曲を入れて楽しそうに歌った。桃花も一曲盛り上がりながら歌ったところで、ふたり落ち着いてお疲れの乾杯をする。
いつもの流れ。
やっぱり落ち着く、と桃花は思いながらソファに深く体を預けた。
「ねーねー桃花、メイク変えた?」
「えっ?変えてないよ。なんで?」
「うーん……。なーんか可愛いんだよね。絶対変えたでしょ!ズルいよ教えないとか!」
「変えてないってー。前に愛と会った時から化粧品も増えてないし」
「嘘!」
「ホント」
「じゃあなんで可愛いの?チェックする!」
愛は、むんずと桃花の顔を両手で包むと、間近でじっと見つめた。
目元で光るラメが瞬きをするたびに輝いていて可愛いし、女の子っぽい。唇だってつやつやだし。逆に、そんなふうに桃花が愛をチェックする形になってしまい、おかしくなって苦笑いをする。
「確かに。前とおんなじ気がする」
「ね?でしょ」
愛はつまらなさそうに手を離して、唇を尖らせた。
「でもなんか違うんだよね。可愛いっていうか色っぽくなったっていうか。あっ、分かった!エステでしょ!」
「ないない」
「えー……。じゃあ――、恋?」
「ええっ!?」
「ほらよく言うじゃん。女って恋したら可愛くなるって。私も可愛くなりたいし秘訣知りたいもん!」
「うーん……」
そういうふうに言われてしまって、すぐに桃花の頭に浮かんだのは貴之のことだった。
けれど、あなたの叔父さんが相手です、だなんて、どうしたって言いにくい。桃花は曖昧に微笑んだ。
「わっ!何その顔。めちゃくちゃエロい!」
けれどそれすら騒ぎの原因になる始末で、桃花はくすぐったい気持ちになった。
まるで小学生の好きな子問題みたいだと思いながら、こんなふうになったのって初めてだな、と思い返す。
彼氏ができてもどこかで冷めていた。愛にはすぐに報告してきたけれど、その時も桃花はいつもいたって冷静で、騒いでいたのは愛のほうだ。
「ねーねー教えてよー! 絶対なんかあったでしょ! 桃花ー」
まとわりつく愛を可愛く思いながら、桃花がくすぐったい気持ちになっていると、ソファの上に投げ出していたスマホが震えた。
画面にはメールの新着。
「ちょっとごめん」
分かち合える親友
はやる気持ちを抑えながらスマホをタップする。
『デザイン確認した。これでアップする。やっぱり君には才能があったな』
たったそれだけのメール。
けれど貴之に認められたことが。
そのことが、桃花は心から嬉しかった。
「あれ」
気がつくと笑顔で泣いていて、びっくりして頬をこする。驚いたのは愛も一緒で、
「ちょっ、何桃花!何!」
慌てた様子で桃花の顔を覗き込んだ。

「ん、なんでもない」
「何!?ハンカチいる?あ、持ってないんだった!コレ、ナプキン使って。お店のだけど。てか何!?」
焦る愛を見ながら桃花は笑った。
「あのね、愛。愛の叔父さんとこに出したデザイン。OKだって。サイトに載せるって」
「え」
デザインを募っているので出してみる、ということだけは伝えていた。 当の愛はそんなことすっかり忘れていたのかきょとんとした顔で、けれどすぐに思い出したのか笑顔になった。
「やったじゃん!桃花のデザインって可愛いもん!」
「サイトにラインナップされるだけだけどね」
「でもスゴイよ!いっぱいの人が見るんだよ。気持ちいいじゃん!」
気持ちいい?
桃花は愛に手渡されたナプキンで涙を押さえながら、わずかに首を傾げた。
そっか。気持ちいいんだ。たくさんの人に見てもらって、見てもらえる場に置いてもらえて、小さなことかもしれないけれど誰かに見られてるとか少しでもいいねって思ってもらえるとか、そういうのって。気持ちいい
桃花は頷いた。
「ねえ、どんなの作ったの?見たい!」
「えー、いいよ。恥ずかしい」
「なんで!見たい見たい!」
引き下がりそうにない愛に、桃花は仕方なく作ったばかりのデザインを見せる。
「わ!やっぱ可愛い!」
愛は画像を拡大して、細かなディティールまで褒めちぎってくれる。それが例え友達のひいき目だとしても、桃花は心から嬉しかった。
一緒に喜んでくれたり、認めてくれたり。自分がやり切った気持ちがあるだけに、何倍も嬉しい。
私は本当は『クールキャラ』なんかじゃないから。桃花は心の中でそう思った。
全部全部隠して、傷つきたくないから苦しみたくないから隠して、だけど本当はそんなんじゃない。誰よりも欲深いから蓋をしてきたんだ。
欲しいものがいっぱいあるから、見ないふりをして楽な道を選択してきたんだ。
「ねえ愛。私、頑張ってみたいな」
「え。桃花はいっつも頑張ってるじゃん!」
当然のように言われて桃花は目を丸くした。
頑張ってこなかった。だけど目の前の友達は頑張ってると言ってくれる。別にどんなふうに演じなくたって、この子は『私で』いいんだな。そう思うとホッと気持ちが軽くなった。
頑張ったら見えるものがある。今まで知らなかったものが見えてくる。そのきっかけを桃花に与えたのは貴之だ。
強引に、欲を暴くレールに乗せたのは、貴之だ。
――会いたいな。
桃花は無性にそう思った。
桃花から貴之を誘ったことはない。自分から会いたいなんて言ったら彼は一体どんな反応をするのだろう。それを考えるとちょっぴり怖いと共に、会いたいと真っ直ぐに言える自分になりたいと桃花は思った。
⇒【NEXT】どこか惰性で続いていた時間はどれも意味のあるもののように感じ始めていた。(夢も欲も愛も飼い慣らして 14話)
あらすじ
友人の愛と待ち合わせをしている最中、新着メールを確認するが、貴之からは連絡がなかった。
まだ仕事中だろう、など考えていると愛から連絡が来た。
ゆっくり話せるから、とカラオケに行くと、愛からは「メイク変えた?なんか可愛くなった!」と言われ…。