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投稿官能小説「ねえ、撫でて」(藍崎恵衣さん)
投稿官能小説「ねえ、撫でて」(藍崎恵衣さん)
〜LC編集部のおすすめポイント〜
「これくらいの猫、来てませんか?」
些細なきっかけから始まる、隣人の彼への夏希の淡い恋。
距離を縮めたい…という夏希の思いがかわいらしいなと思いました!
お互いの間に初々しい雰囲気が流れていて、キュンとしてしまいました。
猫の存在がアクセントとなった、とても心あたたまるストーリーです♪
恋のライバル
小春さんと私は恋のライバル。
だけどこうして寝顔を見ていると、うーん…。私に勝ち目はなさそう。
可愛いすぎて私まで小春さんの頭を撫で撫でしてしまう。
女の子チックでふわふわしていてスフレのような感触が私の手に伝わってくる。
体も柔らかくて、いつもいろいろな体勢で、ときには恐れを知らぬほど大胆に草間さんを求め、寄り添っている。
大きなお尻も魅力的。大胆になれるのは拒否されない自信があるから。
自分がどうしたら可愛く見えるかわかっていて、演出しているに違いない。
小春さんは真ん丸の大きな瞳と折れた耳が愛らしいスコティッシュフォールド。
色合いはカフェラテ。カフェラテに浸った猫って感じ。そう、小春さんは猫。
小春さんの長くて綺麗な尻尾を人差し指にクルンと絡めたとき、インターホンが鳴った。
「どちら様ですか?」なんて聞かなくても誰だかわかっている。
ドアを開けると、予想通り、小春さんの飼い主である草間さんが立っていた。
「すみません。もしかしてまた来てます?」
「また来てます。そうだ、今日、チーズケーキ焼いたんです。よかったら一緒に」
「おっ、嬉しいな。夏希ちゃんが作るお菓子おいしいから」
私は得意なスイーツを口実に隣人の草間さんを部屋へ招き入れる。
今日は日曜日。早起きしてチーズケーキを焼いた。草間さんもお休みだと聞いていたから。
これってしたたかかな…。ほんの少し、自己嫌悪に陥る。
だけど、私がこうできるのも小春さんのおかげ。
小春さんは草間さんが洗濯物を干したり、取り込んだりするときを静かに狙っていて、窓を開けっ放しにしていると必ず隣の部屋のベランダにやってくる。
『また来てます』の『また』なのだ。最初に来たのは1年前。
草間さんが隣に引っ越してきて2日後のことだった。
恋心の咲く瞬間
仕事から帰ると疲れた体のアンテナが不穏な気配を察知した。
「んっ!な、なに?」
窓の向こう、ベランダの左隅でなにかが動いている。怖がりの私。じわじわ広がる手汗。
握っていた鍵がスルッと落下し、フローリングを傷つけた。
拾う余裕もなく、小花をモチーフにしたカーテンの隙間を凝視してみたけど、なにがいるのかわからない。
だってここはマンションの5階。泥棒も動物も現れたことがない。
ブルーのリボンがついたスリッパを脱いで、ペンギンのようにペタペタとゆっくり前進し…深呼吸。
恐る恐るカーテンを数センチだけ覗くように開けた。
そこに佇んでいたのが小春さんだった。
あまりの可愛さに急いで窓を開け、抱き上げると小春さんは「むにゃー」と鳴いた。
小春さんと桃色気分でイチャイチャ戯れること、1時間。
インターホンが鳴り、ドアを開けると見知らぬ男性が「これくらいの猫、来てませんか?」と両手で小春さんの大きさを表していた。
それが草間さんだった。
私の冬眠していた恋心がその手とその顔で一瞬にして咲いてしまった。
紫陽花のように蒼い色をした瞳。横顔が見てみたくなるほど筋の通った高い鼻。
触れたいと思わせるチェリーみたいな唇。白くて繊細な長い指。
草間圭祐さん、27歳。職業は外科医。白くて繊細な長い指でたくさんの命を救ってきた。
私は子供の頃、何度か入院したことがある。
夜中にベッドの上で小さく丸まって泣いていたら、様子を見にきた担当医の武内先生が「怖くないよ」と背中を撫でてくれた。
草間さんもそういう医師。手術で命を救うのは勿論、その手で心も温めている。
こうして草間さんの姿を見ていると患者でなくてもそれがわかる。
同じ空間にいるだけで心が救われる。
私は草間さんが好き。
真面目な草間さんにはその想いが全く届いていないようで、ただの隣人として1年が過ぎた。
一緒にいるこのタイミングでときが止まればいいのに…。
まあ、私、原田夏希は地味すぎるくらい地味だし。仕事で向かい合っているのは常にパソコンだけだし。
なんかね…。そう、女子力が足りない。まだ24歳なのに。雑誌に載ってるモデルみたいになりたいな。
憧れだけが見えないスポットライトで浮かび上がって募る。
猫舌のわたしとあなた
小春さんを抱いていると、いい匂いがほんわりと私を包む。
匂い、というより、香り。それは、草間さんの香り。
草間さんの部屋に小春さんを届けに行ったとき、外国製の柔軟剤が置いてあるのが見えた。その香り。
草間さんは爽やかだけどちょっぴり甘い、シャボン玉が空に浮かんで青に溶けてゆく、そういう香りが好きなんだと思う。
草間さんにもっと近づきたい。誘ってほしい。寄り添いたい。
そう思いながらキッチンで水玉模様のカップに猫舌でも飲めるミルクたっぷりのカフェラテを入れていた。
私も草間さんも猫舌。ホットコーヒーは念入りにフーフーしないと飲めない。しかもブラックは苦手。
「僕たち、似てるね」
雪が降り、運行見合わせでごった返す駅前。
そこで偶然、草間さんと会い、2人でカフェへ。そのとき、草間さんがそう言って笑った。
草間さんの笑顔はタンポポの花束みたい。綿毛をふーっと飛ばして遊ぶような無邪気だけど複雑な私に幸せをくれる。
今日もいつもみたいに笑ってくれるかな。
ちょっと期待しながら、大きめにカットしたチーズケーキとカフェラテをテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
どうしたんだろう。声のトーンがいつもより低い気がする。
何度も視線を感じて草間さんを見ると、草間さんはそっと目を逸らした。
小春さんはハート柄のブランケットの上で眠ったまま。私と違ってハート柄がよく似合う。
無言でチーズケーキを一口含んだ草間さんは、フォークを置いて小春さんを撫ではじめた。
いつも「おいしい」って微笑んでくれるのに。きっと口に合わないんだ…。
私にもあんなふうに…そう思いながら俯いたとき、大きな手のひらが目の前にひろがった。
そして、草間さんが私の頭を撫でた。
ずっと、こうしてほしかったの
「髪、綺麗だなと思って。さらさらだし、いい香りがする。僕、香りに敏感なんだ。普段、消毒液の中にいるような生活だから」
私の目から無意識のうちに涙が零れ落ちた。
「ごめん。泣かないで。そうだよね、手術ばかりしてる手で触られたくないよね」
「ううん、違うの」
「えっ…」
「ずっと、こうしてほしかったの」
「じゃあ…、もっと撫でさせて」
私は紫陽花のような蒼い瞳を見つめて、素直にコクンと頷いた。
こうしてほしくてショートボブだった髪を伸ばし、ヘアパフュームをつけるようになった。
その香りと艶が私と草間さんの距離を縮めてくれた。
「ケーキ食べてくれないし、目も合わせてくれないから、嫌われたかと思った」
「ごめんね。なんだか照れちゃって。夏希ちゃんが…綺麗だから」
頬をほんのり赤く染めた草間さんが私の髪を指でクルクルしている。そして、何度も何度もやさしく頭を撫でる。
小春さんはそんな私たちを見て、大きく伸びをした後、再び目を閉じた。
これから起こるであろうことを愛らしい耳で察知したかのように。