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官能小説 【小説版】タワーマンションの女たち 5話【LCスタイル】


待つ日々

あの日から、翔太は私の家に来なくなった。 もし、私が翔太の立場だったらと考えると、翔太が怒るのも無理はないな、と思う。けれど、どうすれば良いというのだろう。

私がデリケートゾーンのニオイに悩んでいることを言わずに、脚を開くことを上手に拒む方法は今のところ見当たらない。

「はぁ……」

溜め息が静かな部屋に響く。

「もうこんな時間……」

私は手元にあったスマホで時間を確認すると立ち上がった。 このマンションには、さまざまな施設が備わっている。

最上階にはバーが、地下にはスパと温室プールが、そして、他の階層にはジムやヨガスタジオなどがある。だから、わざわざどこかに出掛けなくても必要最低限の用事を済ますことが出来た。

私はスタイル維持の為に引っ越してすぐにヨガスタジオに通い始めた。ヨガを教えてくれているのは、同じマンションに住んでいる明さんだ。 私はヨガウェアに着替えると、ヨガマットとタオル、ペットボトルに入った水を持ってヨガスタジオに向かった。

ヨガの時間

ヨガスタジオに通い始めて随分経つけれど、未だに私の身体は硬いままだ。

「うっ……」

明さんと同じポーズを取ろうとしただけで、思わず声が漏れる。

「無理しなくて大丈夫! 出来るところまででいいからね」

「は、はい……」

爽やかな笑顔で言う明さんに私は情けない声で返事をした。 周りをくるりと見回すと、他の人たちは涼しい顔をして明さんと同じポーズを取っている。
私もいつか出来るようになるのかな……。

秘密のバー

ヨガは苦手だ。

だけど、ジムに行って鍛えることが嫌いな私にとって、スタイルを維持する為には欠かせない。要するに、消去法でヨガを選んだのだ。でも、ヨガを選んだのは正解だった。なぜなら、同じマンションに少し年の離れた友達が出来たからだった。

「はぁ〜、今日も気持ち良かった!」

「そうねぇ、身体は定期的に動かすのが一番よね」

莉奈さんと由美香さんが清々しい表情で汗を拭う。

「私は早くみなさんに追いつけるようにしたいです」

お粗末なヨガを披露してしまった私は俯き加減で言った。

「大丈夫よ! 私も最初は全然出来なかったし」

「そうそう、そのうち出来るようになるから、焦る必要なんてないわ」

「だといいんですけど……。莉奈さんと由美香さんはヨガをされて長いんですか?」

「私はここに引っ越してきてから始めたの」

莉奈さんは結んでいたセミロングの髪をほどきながら言う。

「由美香さんは?」

「私は若い時にやってて、ここに住んでからもう一度始めたの」

私の問いに由美香さんは眼鏡のブリッジを押し上げて、少し照れくさそうに答える。由美香さんには、確か大学生の娘さんがいたはずだ。つまり、私のお母さんと同世代だ。けれど、チャーミングな人で年の差をあまり感じずに接することが出来る。

「ここのマンションってすごいですよね。ヨガスタジオはあるし、ジムもプールもあるし。最上階にはバーもあって」

「瑠々ちゃんは、バーに行ったことってある?」

「私はまだ利用したことないんです。最上階からの景色が綺麗だろうなとは思うんですけど……」

「もし、瑠々ちゃんがセクシャルな悩みを持つことがあったら、行ってみるといいわよ」

「え? セクシャルな悩みですか?」

私は意外な言葉に驚いて、鸚鵡返しする。

「そう。最上階にはね、麗子さんっていう美人バーテンダーがいるの。その人がセクシャルな悩みを解決してくれるのよ」

「莉奈さんも私も行ったことがあるんだけど、とても素敵なバーだったわ」

「セクシャルな悩みって、なかなか人には相談出来ないでしょう? でも、麗子さんには不思議と言えちゃうの」

「でも、不安とかなかったですか?」

「そうね……。確かに不安はあったけど、それよりも一歩前に踏み出したいって気持ちの方が大きかったかな」

由美香さんの言葉にハッとした。

恥ずかしいからという理由だけで、一人で悶々と悩んでいたけれど、一歩前に踏み出す時は誰かの手を借りることも大切なのかもしれない。 それに、莉奈さんにも由美香さんにもセクシャルな悩みがあったっていうことだよね……?
私も行ってみようかな、最上階のバー……。

解決の糸口は

時間なら、持て余すほどある。だって、夜になっても翔太は来ないから。 翔太が来ない夜は一体何をしたら良いのかわからない。

勿論、論文を書いたり、家事をしたりはするけれど、それでも時間は余ってしまう。 それほどまでに翔太が私の家に来ることが、私の生活の一部になっていたということだ。

私は最上階に着くと、バーの扉を押し開けた。 ジャズが静かに流れる店内に一歩足を踏み入れると、そこは別世界だった。

「いらっしゃいませ。Bar ラブ・イマージュへ」

目の前に現れたのは、セクシーな格好が印象的な端正な顔立ちの女性だった。 この人が麗子さん……?私は恐る恐る一歩前に進む。その様子を女性はじっと見据えている。 バーに一人で入ったこともなければ、セクシャルな悩みを他人に話したこともない。 私の緊張は限界を超えそうだった。

「どうぞ、こちらへ」

「はい」

私の声は上ずっていた。緊張したまま、私はバーチェアに座り、ゆっくりと顔を上げる。

「はじめまして。麗子と申します」

やっぱり、この人が麗子さんなんだ……。麗子さんから差し出された名刺を私はおずおずと受け取ると、「ありがとうございます」と小さな声でお礼を言った。

名刺にはバーの名前と麗子さんの名前だけが書かれている。それ以外の情報は何もない。 私が名刺を財布の中にしまい終えるのを待ってから、麗子さんは口を開いた。

「今宵、何をお望みですか?」

「お望み……?」

私はストレートな質問に口ごもる。 バーに入ってすぐそんな質問をされると思っていなかったのだ。

「ああ、ごめんなさい。先にお飲み物をお作りしましょう」

「じゃあ、カシスオレンジをお願いします」

「かしこまりました」

麗子さんの所作は美しい。無駄のない動きに私は思わず見惚れていた。

「カシスオレンジでございます」

麗子さんはあっという間にカシスオレンジを作り終えると、私の前にそっと置いた。

「ありがとうございます」

私はカシスオレンジに口をつける。しかし、緊張の所為か味がよくわからなかった。

「あなた、今、とても悩んでいるでしょう?」

麗子さんは落ち着いた口調で言い、私の目を真っ直ぐに見た。

「なんでわかるんですか……?」

「思い詰めたような顔をしていたから。お客様の秘密は厳守するわ。だから、どんな悩みでもおっしゃってね」

とは言われても、どこから話していいものか私は悩んでいた。 ニオイが気になるというべきなのか、臭い気がすると言えばいいのか、ニオイのしないデリケートゾーンにしたいと言えばいいのか……。
そもそも、そんな悩みを相談されて、果たして解決してくれるのかも甚だ疑問だ。

私が思案していても、麗子さんは急かすようなことはしない。 ただ黙って、カウンターに視線を落とし、私が話し出すのを待っている。

「あの……」

私は勇気を出して、話し始めた。

「私……、デリケートゾーンのニオイが気になるんです」

「それはどんな時に?」

「……エッチの時です。特に彼が顔を近付けた時に……」

「それは女性なら誰でも経験したことがあることね」

「そうなんですか?」

「そうよ。だって、デリケートゾーンのニオイは、人とは比べることが出来ないでしょう? しかも、パートナーが何も言わなければ、尚更何もわからないまま。だけど、自分ではニオイがしているんじゃないかって気になってしまう」

「そうです! そうなんです! 一度気になると、もうダメで。全然エッチに集中出来ないんです」

「エッチに集中出来ないのは、あまり褒められたことじゃないわ。エッチは二人で楽しむものですもの」

「二人で楽しむもの……」

私の中ではいつからかそんな気持ちは消え失せていた。

「あなたには、これを差し上げましょう」

そう言って麗子さんは、黒い棚の引き出しから、手のひらに乗るくらいの白い箱を取り出した。

「これはジャムウ・ハーバルソープと言って、インドネシアで生薬として用いられているものなのよ。そんなジャムウをニオイや黒ずみ対策をするために、ソープにしているの」

麗子さんは私に小さな白い箱を手渡した。

エッチな悩みについて会話する女性

「使い方はとても簡単よ。泡立てネットでソープを泡立てて、その泡をデリケートゾーンに3分間乗せてパックするだけなの」

「泡立ててパックをするだけで、ニオイが消えるんですか?」

「ええ、今よりきっとニオイが気にならなくなると思うわ」

「ありがとうございます! あの、ちなみにお代は……」

「差し上げるわ」

「えっ……」

「お飲み物の代金は頂戴するけれど、セクシャルな悩みの相談には、私が乗りたくて乗っているだけだから」

「でも、どうして……」

「ふふっ、それはいずれね」

麗子さんは上品に微笑んだ。 麗子さんって、とても不思議な人――。

私はカシスオレンジを飲み終えると、お金を支払い、席を立った。

「ありがとうございました。お客様に愛のある夜が訪れますように」

麗子さんの微笑みに私も自然と微笑み返していた。

【NEXT】⇒「朔、イってもいい?」けれど、けれど、私に突き抜けるような快感は…(【小説版】タワーマンションの女たち 7話)

あらすじ

マンションの最上階にあるバーを訪れた主人公。そこには美しいバーテンダー麗子がいた。 彼女に悩みを打ち合けるとあるものを手渡され…?

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