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官能小説 【小説版】タワーマンションの女たち 17話
覚悟を決めて
結婚して、このマンションに住むようになってから二年が経つけれど、一度も最上階に行ったことはなかった。
それだけじゃない。
マンションにはプールやヨガスタジオもあるけれど、どれも購入する時に内見して以来、足を踏み入れたことがなかった。
家で仕事をしているから運動不足だということは百も承知だし、身体を動かす必要性もたるんだお腹を見て痛感している。マンションの管理費の中にそれぞれの施設の維持費は含まれているだろうし、存分に利用すればいいのだろうけど、こんなにも行く気になれないのは、もしかしたら、マンションの住人とばったり出くわした時に会話をしなければならないのが億劫だからかもしれない。
人が嫌いなわけではないけれど、人との関わりは必要最低限に留めたい。友達だって、仲の良い数人でいいと思っているほどだ。
そんな私が最上階のバーで見ず知らずの人にセックスの悩みを打ち明けようとしているなんて、自分でも信じられない。
それだけ、切羽詰まっているということなのだろう。
私はつけっぱなしにしていたテレビを消すと、ノーメイクのまま、スマホと財布を持って部屋を出た。
環奈と麗子
「いらっしゃいませ。Bar ラブ・イマージュへ」
ジャズが静かに響く店内に足を踏み入れると、品のある髪の長い女性が私を出迎えた。 店内を軽く見回すと、時間が早い所為か先客はいない。 相談するには、打ってつけの状況だ。
私は迷うことなく、カウンター席に座ると、「モスコミュールを」と言った。
「かしこまりました」と女性は頷き、しなやかな手つきでライムを絞り、ウォッカをグラスに注ぎ入れていく。
私は彼女の手元をぼんやりと眺めながら、相談する内容を順を追って整理していた。
私がちょうど頭の中の整理を終えた頃、「モスコミュールでございます」とグラスが差し出された。
「ありがとうございます」と言って、モスコミュールを受け取り、口をつける。
冷たいアルコールが喉を通り過ぎていき、喉が渇いていたことに初めて気が付いた。
「本日はご来店ありがとうございます。麗子と申します」
麗子さんは私がグラスを置くのを見計らって、名刺を差し出した。
「頂戴します」
半透明のオシャレな名刺に視線を落とす。そこには名前と店名が書かれているだけだった。 私はもう一度店内を見渡す。 どの調度品も品良く、整然と並べられていて好みの雰囲気だ。 こんなに素敵なお店なら、もっと早くに来てみれば良かった。 麗子さんは私のグラスの中身が半分になった頃、口を開いた。
「今宵、何をお望みですか?」
望み、か――。
いずれ、問われるかもしれない、とは思っていたものの、心臓の奥をきゅっと締め付けられたような緊張が走った。
今日は春馬とのセックスについて相談しに来たのであって、ただお酒を飲みに来たわけではない。
しかし、いざ、口にするとなると躊躇われた。
普段ですら、友達にも相談なんてしない。
唯一、相談相手となるのは、春馬くらいだ。
情けないことに数分経っても、私は話し出すことが出来なかった。
けれど、麗子さんは私に早く話すように促すこともなく、ただ黙って、私が話し出すのを待ってくれている。
「何をお飲みになりますか?」
そう問われて、「さっきと同じものを」と答えた。
麗子さんがモスコミュールを作ってくれている間に私は覚悟を決めていた。 ここで相談しなかったら、きっとこの先も春馬とのセックスの問題は解決しないだろう。 麗子さんにモスコミュールを差し出され、一口だけ口をつけると、私は麗子さんの目を真っ直ぐに見た。
「実は夫とのセックスがマンネリになっていることに悩んでいて……」
「そうだったのですね」
麗子さんの眼差しは優しい。 私は緊張が安堵に変わっていくのを感じていた。
「あなたはマンネリを打破されたいのね?」
「ええ……」
言ってしまえば、案外、なんてことはないらしい。 自然と麗子さんの質問に答えられている自分に驚いていた。
「お付き合いの長さに関係なく、セックスのマンネリについて悩んでいる方は多くいらっしゃるわ。そんな方にオススメなアイテムがあるの」
麗子さんは私に背を向けると、大きな黒い棚の引き出しから、何かを取り出しているようだった。 麗子さんは振り向き、私に手のひらサイズの箱を渡した。

「これはベッド専用香水のリビドー ベリーロゼよ」
「ベッド専用香水……?」
聞き慣れない言葉に私は独り言のように鸚鵡返しする。
「ベッドに入る直前に使うことで、セクシーな気持ちを誘うの。男性が夢中になる香りなのよ。これをあなたに差し上げるわ」
「えっ」
「あなたのお役に立てたら嬉しいわ」
そう言って、麗子さんは微笑んだ。
甘い香り
私はシャワーを浴び、ルームウェアに着替えると、仕事の続きをする為に仕事机に向かった。締切はもうすぐだった。 けれど、集中力はすぐに切れた。 リビドー ベリーロゼを使うのが楽しみで、そのことばかりに意識がいってしまうのだ。
そうこうしているうちに、スマホが春馬からのメールの受信を知らせる。 最寄り駅に着いたという連絡だった。夕飯は局で済ませてくると言っていたから、帰って来たらシャワーをすぐに浴びるだろう。 その前に立ち寄るのが寝室だ。
私は意気揚々と寝室に向かい、麗子さんからもらったリビドー ベリーロゼを箱から取り出す。 試しにワンプッシュすると、甘い香りが漂った。麗子さんによると、リビドー ベリーロゼは時間が経つにつれ、その香りに変化があるという。
「いい香り……」
リビドー ベリーロゼの甘い香りに思わずうっとりする。女性なら誰でも好みそうなふんわりとした甘い香りだ。 しばらくすると、甘い香りが少し爽やかになっていく。 そして、更に時間が経つと、甘さを伴った妖艶な香りへと変わっていった。
私がこんなにうっとりする香りなら、春馬もきっと心が揺れるだろう。 私は春馬が寝室に入る時間を逆算して、寝室にリビドー ベリーロゼを数プッシュした。
楽しみな時間
春馬がやっと帰って来た。 私はうずうずするのを抑えながら、春馬が寝室に行くのを今か今かと待ちわびる。 春馬がリビドー ベリーロゼの香りに気が付いて、いい雰囲気になれば、そのままベッドインしても良いと思っていた。
「おかえり。今日もお疲れ様」
「ただいま。はぁー、今日はしんどかったなぁ……」
春馬はどかっとソファに腰を下ろし、うなだれた。
「大丈夫?」
「うん。環奈、ビールちょうだい」
「今、持ってくるね」
私は缶ビールとグラスを持って来て、泡の加減に気を付けながらビールを注いだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
「大分、疲れてるみたいだね」
春馬の目の下には、いつもより濃いクマが出来ている。
「そうなんだよ。新企画の打ち合わせでさ。会議室に何時間も缶詰で。帰って来られただけでもラッキーだったかも」
「何かおつまみでも作ろうか?」
「本当? じゃあ、出汁巻きたまごが食べたいなぁ……」
「作るから待ってて」
私はキッチンへ行くと、出汁巻きたまごを作る準備を始めた。 春馬が寝室に行ってくれないのは計算外だけれど、仕事で疲れて帰ってきているのだから仕方がない。 春馬がシャワーを浴びている間にもう一度、リビドー ベリーロゼを使えばいいだけのことだ。
私はいつものように手際良く出汁巻きたまごを焼くと、春馬の待つリビングに行く。
「あ……」
私がキッチンに行っている数分の間に、春馬はソファに倒れ込むように眠っていた。 グラスにはまだビールが半分残っている。 本当に疲れてるんだなぁ……。 私は春馬にブランケットをかけると、出汁巻きたまごを冷蔵庫に入れた。
【NEXT】⇒春馬はいつにもなく優しいキスをすると、私をベッドに押し倒した…(【小説版】タワーマンションの女たち 最終話)
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あらすじ
セックスの悩みを抱え、環奈は初めてマンションの最上階のバーを訪ねる。
相談する内容を整理しながらも中々悩みを切り出せない環奈だが…?