女性のための無料 官能小説・官能漫画サイト
エルシースタイル(LCスタイル)は、登録商標です【商標登録第4993489号】
ラブコスメが提供する情報・画像等を、権利者の許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます
官能小説 【小説版】タワーマンションの女たち 12話
前進あるのみ
依ちゃんの言葉はもっともだ。 日が経つにつれて、身に染みてくる。 雪沢さんに告白して、付き合うことが私にとってのゴールだ。 その為には勇気が必要だけれど、その勇気はなかなか沸いてはきてくれない。
雪沢さんと擦れ違えば挨拶を交わし、時折、ランチの時間が重なって一緒に食事をする。 いつも当たり障りのない会話だけをして、連絡先すら聞けない自分に自己嫌悪を繰り返していた。 困ったことに私は恋愛の進展のさせ方がわからない。 雪沢さんと話す回数は増えているけれど、恋愛に進展するような雰囲気は皆無だった。
「はぁ……」
「萌絵ちゃん、溜め息つきすぎ」
唐揚げを頬張りながら、依ちゃんは呆れ顔で私を見た。
「だって……」
「だってじゃないよ。萌絵ちゃんから仕掛けないからでしょ?」
最近、依ちゃんと飲むことが増えていた。話題のほとんどが私の恋バナだ。
「仕掛け方がわからないんだもん」
「いくらでも方法なんてあるじゃない。美味しいご飯屋さんに誘うとか、行ってみたい場所を聞き出して私も行きたいんですって伝えてみるとか、映画のタダ券もらったから一緒に行きませんか? って言ってみるとか」
「……どれもハードルが高い……」
「そんなこと言ってるから、なーんにも進展しないんじゃない」
依ちゃんは今度はローストビーフを頬張りながら、ビールの入ったジョッキに手を伸ばした。
「いい? 萌絵ちゃん。明日、雪沢さんに会ったら、デートの約束取り付けるのよ」
「自信ない……」
「なんの為に麗子さんにヌレヌレもらったのよ」
「勇気を持つ為……」
「だったら、ヌレヌレ塗って頑張りなさいよ。ヌレヌレ使うようになってから、前の萌絵ちゃんより可愛いよ」
「本当?」
「嘘ついてどうするのよ」
「でもなぁ……」
「知らないよ? 雪沢さんが他の女の子に取られても」
「それは困る!」
「でしょ? とにかく、明日、頑張りなね」
「うん……」
どこまで出来るかわからないけど、前進あるのみ……!
勢いが大事
意気込んでいた自分が嘘のようだった。 昨日の勢いは明らかにお酒の力だったことがよくわかる。 その証拠に、今の私は目の前にいる雪沢さんの話にニコニコ笑うことしか出来ていなかった。
「宮原さんとランチの時間が一緒になるとラッキーだなー」
「なんでですか?」
「だって、美味しいご飯を分けてもらえるから」
「あ……、あの、もし迷惑じゃなければ、雪沢さんの分も作ってきましょうか?」
「えっ!?」
「あ、ご迷惑ですよね……」
勢いだけで言ってしまったことに後悔をしてももう遅い。
「本当にいいの?」
「え?」
「作ってくれるの?」
「はい……、ご迷惑じゃなければ……」
「迷惑なんてとんでもない! すっごく嬉しい! 明日からお願いしてもいい?」
「はい……!」
嘘みたい……。こんなことってあるんだ……!
キスの感触
あれから数日、私は毎日雪沢さんにお弁当を作っている。 勿論、部署の人には秘密だ。 私が雪沢さんにお弁当を作っていることがバレたら、付き合っていると噂が立ちそうだし、面倒なことを出来る限り避けたかったからだ。 それに雪沢さんに“付き合ってないですよ!”と全力で否定されるのも想像しただけでつらすぎる。
「宮原さんってさ、唇がキレイだよね」
「え?」
まさか褒められると思っていなかった私は、ぽかんと雪沢さんを見つめてしまった。
「いつも潤ってるでしょ? なのに、派手派手しさはないし、品があるっていうのかな」
「……ありがとうございます」
これも麗子さんがくれたヌレヌレのおかげだ……!
「俺、唇がキレイな女の子って好きなんだよね」
「……!」
今、好きって言った……?少しは期待してもいいのかな……?
「唇ってさ、目と同じくらい印象に残るよね。食べる時も喋る時も動く場所だから」
そう言って、雪沢さんは私の作った卵焼きを口に運んだ。 雪沢さんの唇は少し薄くて、血色がいい。 あの唇に触れたら、どんな感触がするんだろう。
「どうかした?」
「あ、いや、なんでもないです」
自分の考えていたことがあまりに恥ずかしすぎて、私はしどろもどろになりながら、タコさんウィンナーを口に放り込んだ。 連絡先すら知らない片思いの相手の唇の感触を想像するなんて、はしたない……。
縮まらない距離
雪沢さんとこっそり一緒にランチを食べるようになって早一週間。特に進展はない。
いや、一緒にランチを食べるだけでも今までの私を振り返ると、進展だと言えるかもしれない。 でも、ランチ以外の時はとても距離を感じてしまう。
今日だってそうだ。 部署の飲み会で私は一度も雪沢さんと話をしていない。 雪沢さんは他の後輩の女の子や上司などに声をかけられ、楽しそうに談笑していた。 私はそんな雪沢さんを隅の方でちらりと見るだけ。同期の仕事の愚痴を聞きながら、然して美味しくもないお酒を飲んでいた。
やっと飲み会がお開きになり、二次会に行く人と帰る人とに自然と分かれて歩き出す。
私は出来るだけ目立たないように道路の端っこを歩き、最寄り駅に向かった。
ほとんどの人が二次会に行く。それがとても不思議だった。
会社の飲み会はあまり好きじゃない。
先輩や上司に気を遣い、つまらない話にも笑顔で相槌を打つのは苦痛以外のなにものでもなかったからだ。
飲み会が仕事の一部で給料が出ると言われれば頑張るけれど、飲み会に参加するのは必須なのに、自腹は切らなければならないし、給料も出してもらえない。
貴重なプライベートな時間をなぜこんなことに使わなければいけないのかということに、社会人になってから頭を悩ませている。
この悩みは、ランチの時間に一人でご飯を食べる理由と似通っていた。
「宮原さん!」
背後から声がして振り返ると、雪沢さんがこちらに向かって走っているのが見えた。突然のことに私は驚いて立ち止まる。
「偶然だね! 俺もこっちなんだ。駅まで一緒に行こう」
「……はい」
雪沢さんが私の隣を歩いている。なんだか夢を見ているようだった。 こういう時に気の利いた話題が浮かべばいいんだけど……。
「あの……、雪沢さんは、二次会に行かなくて良かったんですか?」
私は当たり障りのないことを口にした。
「今日はいいかなって。宮原さんはいつも二次会来ないよね」
「ええ……」
理由を素直に言ったら引かれてしまいそうなので、私は曖昧に答える。
「大概の人ってさ、みんなが行くから二次会に行くんだと思うんだけど、宮原さんって流されるってことないよね」
「そうですか……?」
「だって、ランチも一人で食べてるし、意思がはっきりしてるんだなぁって思ってたんだよね」
「そんなことは……」
ただ煩わしい関係が嫌なだけなのに、雪沢さんは好意的に受け取ってくれているようだった。 雪沢さんは、私が本当に考えていることを知ったら、どう思うんだろう。 不意に心配になる。
「すみません」
私は立ち止まり、バッグの中に手を入れた。スマホが振動したからだ。スマホを取り出そうとした瞬間、ポーチに入れそびれたヌレヌレが道路に音を立てて落ちる。
「あっ……」
雪沢さんはヌレヌレを拾い上げると、口元を緩めた。
「これがその唇の正体?」
「……」
私は恥ずかしくて無言で頷く。
「はい、どうぞ」
雪沢さんが差し出したヌレヌレを受け取ろうとしたその時、雪沢さんの顔が私に急に近付く。そして、唇が触れた。

驚きのあまり声が出せずにいると、雪沢さんは私の目を見て微笑んだ。
「あの……」
「キスしたくなっちゃった」
雪沢さんから視線を外せない。私にキスしたくなるってことは、雪沢さんもきっと……。
今しかない……!私はぎゅっと手を握り締めた。
「私、雪沢さんのことが好きです……!」
「うん、知ってる」
そう言って、雪沢さんはもう一度私にキスをした。
あらすじ
依ちゃんへ雪沢のことを相談する主人公。
ヌレヌレを使い始めた主人公は気づかぬうちに可愛くなって…