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官能小説 【小説版】タワーマンションの女たち 2話

気になる場所

匠を送り出し、家事を着実にこなしていく。

しかし、頭の中は、今日の朝マンションの人に聞いた最上階のバーのことでいっぱいだった。

“なんでも、そこのバーのマスターがセクシャルな悩みを解決してくれるらしいの――”

その言葉が料理をしていても掃除をしていても洗濯ものを畳んでいても、幾度となく過ぎっては消えていく。

「ふぅ……」

思わず口から溜め息が漏れてしまった。

「セクシャルな悩みを解決してくれるってことは、私の悩みも……」

当たり前だけど、他人にセクシャルな悩みを相談するのは勇気がいることだ。だからといって、友達に相談出来るようなことでもない。

自分のセクシャルな問題は、自分で解決するしかないのもわかっている。だけど、匠が気持ち良くなる為に私が出来ることってなんだろう?
その為の一歩すら、私にはわからない。

ひらめきの瞬間

夕飯の下ごしらえを終え、私はソファに座り、匠の帰りを待っていた。

「今日は遅いなぁ……」

壁に掛かっているガラス製の時計にふと視線を向けた。すでに二十一時を回っている。

小腹が空いて、何かつまもうかと思い立ち上がろうとしたその時、スマホが鳴った。画面を見ると匠からのメッセージが表示されている。

『ごめん、まだ仕事が終わらない。日付変わる前には帰れると思う』

私はすぐに匠に『お仕事頑張ってね。待ってるね』と手短に送った。匠が仕事中の時は、ぱっと確認出来るくらいの返信をするようにしている。忙しい彼と付き合うようになってから、私が気を付けるようになったことだった。

「そうだ!」

私はスマホをテーブルの上に置いて立ち上がると、財布と小さめのバッグを取りに行く。匠が帰ってくるまで二時間半はあるはずだから、今から行ったって大丈夫だよね。

テーブルの上に置いたスマホを持つと、セクシャルな悩みを解決してくれるバーに行く為に部屋を出た。

エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押す。エレベーターは上昇を続け、やがて到着を知らせる甲高い音とともに止まった。

エレベーターのドアが開くと、バーの扉が目に入る。
最上階のワンフロアがバーになっているようだった。

ここなんだ……。

入口が自動ドアではなく、扉だということが、秘密の場所のような雰囲気をより強くしていた。

私は扉を開ける前に、大きく深呼吸する。
心を落ち着けて扉を押しあけると、薄暗い店内が見えた。

恐る恐る足を踏み入れると、静かな空間にジャズが流れていて、一瞬で私はその独特な雰囲気に飲み込まれてしまった。

ドキドキのその向こう側

「いらっしゃいませ。Bar ラブ・イマージュへ」

穏やかな微笑をたたえ、私を出迎えてくれたのは、ロングヘアの美しい女性だった。私より年上だということはわかるけれど、どれくらい年上なのかはよくわからない。豊かな胸は半分露わになり、ウエストのくびれが強調されているドレスを身にまとっている。年齢不詳の美人といったイメージだ。

セクシャルな悩みを解決してくれるバーだと聞いていたので、もっといかがわしい店内を想像していた私は、そのオシャレさに拍子抜けすると同時に出迎えてくれた美人なバーテンダーの女性に見惚れてしまっていた。

「どうぞ、こちらへ」

「あ、はい……」

私は促されるまま、彼女の目の前のバーチェアに腰をかけた。

「はじめまして。麗子と申します」

夜にバーで悩みを聞く女性

麗子さんは華奢な指で名刺を差し出した。その爪にはネイルは施されていないものの、薄暗い店内でもわかるほど、丁寧に磨き上げられていた。

「ありがとうございます」

私はその名刺を受け取り一瞥すると、テーブルの上に置く。

「今宵、何をお望みですか?」

麗子さんは私を真っ直ぐに見て言った。

私の望み――。

悩みを相談する為に私はここに来た。けれど、いざ相談をしようとすると、言葉が上手く出てこない。

私が口ごもっていると、麗子さんは何か察したように「何かお飲みになりますか?」と心地よい声で言った。

「じゃあ、モヒートをください」

「かしこまりました」

麗子さんは無駄のない動作でモヒートを作っていく。
私は麗子さんばかりじろじろ見るのも何だか失礼な気がして、店内をぐるりと見回した。

店内にはカウンター以外にもテーブル席がいくつかあり、その中心にグランドピアノが置かれている。

「お待たせ致しました。モヒートでございます」

麗子さんは私の前にコースターを置き、その上にモヒートを置いた。

「ありがとうございます」

 私は一口モヒートを飲んだ。

爽やかな味が口の中に広がる。心を落ち着けるようにもう一口飲んだ。

「今宵、何をお望みですか?」

麗子さんは静かな口調でもう一度さっきと同じ質問をした。

「あの……、悩んでいることがあって」

「それはどういった悩みかしら?」

私は本当に彼女に悩みを伝えていいものか、一瞬躊躇する。それを見透かしたように「ここでの話は口外しないわ。秘密は守るから安心して」と麗子さんは言った。

麗子の助言

私はほんの少しでも疑ってしまったことが申し訳ない気がして、彼女から視線を外してグラスの水滴を指で拭った。

「同棲している彼がいるんですけど……」

私は意を決して続けた。

「エッチをしている時の彼が気持ち良さそうじゃなくって……」

「彼はエクスタシーを感じているのかしら?」

「はい……。ただエクスタシーに到達するまでが、気持ち良さそうじゃないっていうか……」

「そうだったのね……。彼は気持ち良くないとあなたに言ったことはある?」

「いえ……。多分、彼は私が傷つくと思って何も言わないんじゃないかなって……」

「男性が気持ち良くないと感じる時にはフィット感がないと思うことが多いと言われているのよ」

私は麗子さんの言葉にはっとする。「男性が感じるフィット感には個人差があるし、締め付ける強さを正確に測ることは出来ないと言われているわ。でも、弱いと気持良さには繋がりにくいことが多いみたいね」

もしかして、私の締め付けが弱いから、匠は気持ち良くなさそうなのかな……。

「締め付けって、解決するのは難しいことなんでしょうか……?」

「いいえ。膣トレーニングという締め付けを良くする為の方法があるの」

女性向けのコラムで幾度か目にしたことのある言葉だった。

「膣トレーニングをすれば、彼に気持ちいいって感じてもらえますか……?」

「きっとね」

麗子さんはそう言って、リキュールの並んでいる棚の隣にある大きな黒い棚の引き出しから小さな水色の箱を取り出した。

「これをあなたに差し上げるわ」

麗子さんはその箱を私に差し出す。

「これは……」

インナーボールと言うの。膣トレーニングをする為のケアグッズよ」

「えっ?」

「膣トレーニングって、ケアグッズを使うんですか?」

「ケアグッズを使わずに行う方法もあるみたいね。でも、私はこれをオススメするわ。手軽に膣トレーニングが出来るから、習慣にしやすいの」

「習慣ってことは、毎日するってことですか?」

「そうよ。毎日10分から15分使うことで引き締め対策をすることが出来るわ」

水色の箱の上部は透明になっていて中身が見える。水色の二つの球体が1cm弱くらいの棒のようなもので繋がっていた。球体には白い花の模様が描かれていて可愛らしい。

「可愛くて、ラブグッズに見えないですね……」

「デザインも素敵でしょう? 素材は医療用器具にも使用されているエラストマー素材が使われているから、安心して使うことが出来るのも魅力の一つなの」

これで毎日膣トレーニングをすれば、匠に気持ちいいって思ってもらえるのかな……。

私は半信半疑のまま、インナーボールを見つめる。

「これを膣に入れて締め付けるのよ。その時、下腹部にも力を入れると締め付けやすいと思うわ。箱の裏にも書いてあるけど、最初は一つ、慣れてきたら二つ入れて膣トレーニングをしてみて」

「ありがとうございます」

それから、私は麗子さんと少し話をした後、モヒートを飲み干し、お会計を済ませて立ち上がる。

「ありがとうございました。お客様に愛のある夜が訪れますように」

深々と頭を下げる麗子さんに会釈をすると、バーを後にした。

勇気が出ない

麗子さんからもらったものの、私は勇気が持てず、インナーボールを箱から出して眺めるだけに終始していた。

インナーボールは見た目の可愛さから、手にしていることも部屋に置いておくことも、全く抵抗はない。けれど、一人エッチすらしたことがない私にとって、これを自分の身体の中に自ら挿れるというのは、いささか抵抗があった。

「これのお代はいらないと言われたけれど、本当にもらっちゃって良かったのかなぁ」

インナーボールについている白い紐を持ち、目の前でインナーボールをぶらぶらと揺らしてみた。いくら膣トレーニングになるってわかっていても、自分で挿れるのは気が進まないなぁ……。

「ねぇ、匠……」

「ん? 何?」

私の上でピストン運動をする匠に問いかけ、私は口をつぐんだ。
やっぱり、今日も匠は気持ち良さそうには見えない。本人に確認してみたいと思う気持ちと事実を知るのが怖いという想いが交錯する。

「麻子、イっていい?」

「うん……」

彼は私の上でいつものように果てた。けれど、なぜか私の心の中には空しさしか残らない。

このままじゃダメだよね。
麗子さんのバーに行ったのは、匠が気持ち良くなさそうなのを解決する為……。
何もしないで悩み続けるより、まずチャレンジしてみなきゃ。

私は明日からインナーボールで膣トレーニングをすることを決めた。

【NEXT】⇒匠のために膣トレを始める決心をした麻子、果たして…(【小説版】タワーマンションの女たち 3話)

あらすじ

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