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官能小説 【完結】Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 19話
選択肢
予想外の言葉に春はしばらくの間、答えに詰まった後、口を開いた。
「小都音って、倉前さんみたいな人がタイプだったの?」
「タイプって言うか、いいなぁって思って。そりゃ、わかってるのよ。倉前くんが春のことを好きだってことは。でも、何もしないでただ遠くから見てるのは嫌だなって思って。どうせなら、こっち向かせたいじゃない」
「わかった。応援する!」
「ふふ、ありがとう」
小都音はほっとしたように笑みをこぼした。
「あー、良かった!春に言うの結構不安だったのよね」
「どうして?」
「だって、春のことを好きな相手よ?春がキープしようと思えば出来るわけじゃない。それを私が狙いたいって言ってるんだもの。人によっては、絶交されちゃうわよ」
「キープなんて考えたこともなかった……」
「春はそうでしょうね。真っ直ぐ人を好きになろうとするから」
「え?」
「見てればわかるわよ。だから、夏野さんに飛び込んでいけないのよ」
「どういうこと……?」
「夏野さんと内館さんの間で揺れてるんでしょって言ってるの」
小都音は白ワインを飲み干すと他の客の相手をしていた稜治を呼び、同じものをオーダーした。桃の話題を振られるのが怖いのか、小都音がいるにも関わらず稜治は素っ気ない。しかし、小都音は全く気にしていないようだった。
「私は夏野さんが好きだし、内館さんのことは……」
「よく言うわよ。夏野さんの話をしてる時より、内館さんの話をしてる時の方が楽しそうに見えるけど?」
「似たようなこと、前に稜治さんにも言われた……」
「ふふっ、やっぱり、春ってわかりやすいのね」
春は言われて押し黙る。
「夏野さんも夏野さんよ。子どもじゃないんだから、内館さんと春が二人でいるのを見かけたからって、避けることないでしょ?デートの時間も頻繁に作るわけじゃないし、私は内館さんを選んでもいいと思うな」
「でも……」
「夏野さんから本気が感じられないのよね。いくら忙しくたって、時間を作るのが余裕のある大人の男でしょ。仕事を理由に時間を作らない男はクズよ、クズ」
「クズって……」
酔っ払っているのか、小都音はいつにも増して口が悪い。
「もうさ、一層のこと、内館さんに決めちゃったら?」
「内館さんに……?」
「そうよ。夏野さんの見た目や仕事振りに好意を持つ気持ちもわかるけど、素の自分でいられることの方が大切じゃない?自分の気持ちに素直にならないと」
「素の自分、か……」
春は今までのことを思い返していた。
夏野はクールな外見とスマートな立ち居振る舞いで、平凡な春の日常にトキメキをくれたし、恋をする楽しさを思い出させてくれた。勿論、トキメキと同じくらいもやもやとした気持ちも与えもしたが、それでも前の恋を引き摺っていた春にとって、一歩を踏み出すきっかけになったのは事実だ。
内館とは思いもしない出会い方をして、それから偶然が重なって、顔を合わせば話すようになった。きっと春が恋に恋するタイプならば、内館との出会いを運命と呼んで喜んだかもしれない。しかし、そんな風に思えるほど、春は若くもなかったし、夢見がちでもなかった。
春の心は揺れている。
それは小都音に指摘されずとも本当はわかっていることだった。わかっているからこそ、自分に言い聞かせるように夏野のことを好きだと口にしたのだ。
今も春に残っている感触は、夏野とのキスではなく、内館と繋いだ手の温もりだった。
揺れる心
いつものように春が化粧直しをしていると、桃が入って来た。
「春さん、今日からまた一緒にランチしてもいいですか?」
桃は入って来るなり春の隣にポーチを置き、少し気まずそうに言う。
「いいに決まってるでしょう?小都音には査定が近いから同期と話がしたいみたいって伝えてあるから」
「ありがとうございます。色々考えたんですけど、やっぱり、私、稜治さんのこと諦めきれないなって思って」
「それでもいいんじゃない?」
春の言葉に桃は驚いたように目をぱちくりさせた。
「でも、稜治さんは小都音さんのことが好きなんですよ」
「そうかもしれないけど、小都音が一度でも稜治さんのことを好きだって言ったことあった?」
「ないです……」
「稜治さんのしたことは最低って思ってたんだけど、桃も同意の上だったわけだし、身体から始まる関係も悪くないんじゃない?」
「春さん……」
「頑張ってみなよ。自分の気持ちに素直になるのが一番いいと思うよ」
「はい!」
桃はにっこり微笑んで返事をした。
久しぶりに桃の笑顔を見たな、と春は思う。
内館と小都音の受け売りを並べただけの自分に苦笑してしまいそうになったが、桃の笑顔を見ていると、自然と顔がほころんだ。
久々のカフカ
残業が終わらないという小都音と桃より先に春は会社を出ると、一人でカフカにやって来ていた。
さまざまな重荷から解放されて飲みたくなったからなのか、内館を待っているのか、自分でもよくわからない。けれど、今日はカフカで飲みたかった。
春は何杯目かの赤ワインを飲みながら、ハーフボトルで頼めば良かったかな、と今更のように思う。
「春ちゃんが一人で来るのって久しぶりだね」
「今日は小都音も桃も残業らしくって、振られちゃいました」
「でも、もう少ししたら耕太が来ると思うよ」
「そうですね」
「実はさ、この間、春ちゃんと小都音ちゃんが二人で話してるのちらっと聞こえちゃったんだよね」
「何をですか?」
「小都音ちゃんに好きな人が出来た的な?」
「ああ、そのことですか」
「俺も色々あってさ、小都音ちゃんのことは諦めようかなって」
「へぇ……」
春は桃から聞いて全て知っていたが、知らない体で適当な相槌を打つ。
「あ、でも、諦めるは少し違うかな。他に気になる人が出来たって言った方が近いかもしれない」
「いいんじゃないですか?無謀な片思いを続けてて良い年齢でもないでしょう?私たち」
「春ちゃん、今日は言うねぇ」
「結構飲んでますから」
そう言って、春はグラスを目線まで持ち上げて見せる。グラスに残っている赤ワインがゆらゆらと揺れた。
「その子のこと、大事にしてあげてくださいね」
「勿論。愛想を尽かされてなければいいんだけど」
そう言って、稜治は少し照れくさそうに笑った。その笑顔を見て、春はなんだかほっとする。きっと、稜治は桃のことを真剣に考えてくれるだろう。内館の言うように稜治の根は真面目なのだと信じたかった。
「春ちゃんも自分の気持ちには素直にね」
「はい」
春は稜治の目をじっと見据えて答えた。
しばらくすると、ドアベルが鳴り、続けて足音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ」
よそよそしい稜治の態度から、入って来たのが内館ではないことは明らかだった。
春は振り向かず、グラスを傾ける。しかし、足音は春のすぐ近くで止まった。

「隣いいかな?」
春はその声に驚いて顔を上げる。そこには夏野の姿があった。
⇒【NEXT】私が本当に好きなのは――。(Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 20話)
あらすじ
春と小都音と食事をとっていた。
すると突然、小都音は倉前が好きなことを春に打ち明けたのだった。
春はその言葉に驚いたものの、彼女のことを素直に応援した。
小都音は倉前が春のことに思いを
寄せているのを知っていたため、
内心、春がどんなふうに思うかとても不安に感じていたのだった。
春に自分の気持ちを応援されて
ほっとした小都音は今度は春の想い人について話題を変えて…。