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官能小説 【完結】Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 20話
恋と愛の間
「夏野さん……」
予想外の夏野の登場に春はただ呆然と彼の顔を見つめていた。
「隣いい?」と再度夏野に問われて、春は頷く。
「どうして、ここに……?」
「玖波さんがいるかなって思って」
春は夏野が自分に会いに来たことに驚いていた。あの日――内館と二人でいたあの日から、夏野とはすれ違いもしなければ、同じエレベーターに乗ることもなかった。無論、メールや電話がくることもなかった。少し離れたところにいても、すぐに視線をそらされていたから、避けられていたのは間違いないだろう。
夏野は稜治に「ウィスキーを」と伝えると、春の隣に座った。
ウィスキーが来るまでの間、春と夏野は次に続ける言葉を探していた。沈黙が重くのしかかる。春は今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
やがて、稜治がウィスキーを持ってくると、二人は乾杯し、グラスに口をつけた。
「今日は玖波さんに伝えたいことがあるんだ」
その言葉に春の胸の奥は緊張からきゅっと締めつけられる。
「はい……」
小さく春が答えると、夏野は春を見つめた。
「俺と結婚を前提に付き合ってほしい」
「えっ……」
真っ直ぐな夏野の瞳から春は視線をそらせなくなった。
少し前の春なら手放しで喜んだだろう。
付き合うだけでなく、結婚まで前提なのだ。これほど、待ち望んでいたセリフはない。
「私とですか……?」
「玖波さんが良いんだ。他の男に取られたくない」
「……」
一瞬でさまざまなことが春の頭の中を駆け巡っていく。“他の男”とはやはり内館のことだろうか。
「今すぐ返事をくれなくてもいい。考えてもらえないかな」
「……わかりました」
春は夏野から視線を外し頷いた。すると、ドアベルが鳴り、続いて足音が聞こえてくる。
「いらっしゃい」
「いつものを」
内館の声が聞こえると、「それじゃあ、俺はこれで」と夏野は代金をカウンターに置いて席を立った。
「もう帰るのか?」
入れ違いでカウンターに向かう内館は、グラスにまだほとんど残っているウィスキーを見て夏野に言う。
「ああ、急用でね」
それだけ言い残して、夏野はカフカを後にした。
「もしかして、邪魔しました?」
「いえ……」
「でも、あなたの様子が明らかにおかしい」
「ダメですね。私はわかりやすくて」
「でも、そこが良いところでもあるんじゃないですか?」
「だといいんですけど」
「夏野に告白されたとか?」
「……」
「図星ですか」
「はい」
「返事は?」
「まだしてないです」
「デートもしてたのに?てっきり、あなたは夏野ことを好きだと思ってましたけど」
「自分でもよくわからなくなっていて」
半分は本当で半分は嘘だった。夏野のことが気になるけれど、それ以上に内館の存在が大きくなっている。内館の連絡先も知らないし、会えば話すだけの仲だということはよくわかっていたが、それでも、夏野には感じない居心地の良さが内館にはあった。それは安心感にとても近い。
「そう言えば、仕事のことは決めました?」
内館は気を遣って話題を変えたのだろう。しかし、春にとって、今その話題に触れられるのは夏野の話題を出されるのと同じくらい気落ちするものだった。
「まだ決めていません。でも、デザイナーに戻るなら早い方がいいなとは思っています」
「そこまで考えられているなら、大丈夫です。自分の気持ちに素直になれたら、直に答えは出ますよ」
内館は優しい眼差しを春に向けた。
春の鼓動が一つ大きく高鳴る。
私が本当に好きなのは――。
春はそこまで考えて、グラスに残っていたジントニックを飲み干した。
そのあとも内館とは他愛ない会話を続けた。最近では内館と言い合いになることもない。

今まで内館のことをあまりきちんと見たことはなかったが、睫毛は長く、すっと通った鼻筋に、薄くもなく厚くもない唇はバランスが良かった。天然パーマの髪も手入れが行き届いているようで艶やかだ。夏野のような整った格好良さはなかったが、内館には夏野にはない親しみやすさがある。
「何か?」
「いえ……」
つい見惚れていた春は恥ずかしくなって、グラスに視線を落とした。
やがて、内館も「明日は早いから」と帰ってしまい、気が付けば、カフカには春しか残っていなかった。稜治は春の前にやって来て、ウィスキーを美味しそうに飲んでいる。
返事
「春ちゃん、夏野さんと耕太、どっちにするか決めた?」
「いえ……」
「好きなのはどっち?」
そう言われて、春は口ごもる。
「即答出来ないってことは、どちらも好きじゃないか、好きだけど口に出してしまうのが怖いかだね」
「稜治さんって、なんでもお見通しなんですね」
「こういう仕事をしてるとね。いろんな人を見てきてるし。何より、春ちゃん、わかりやすいから」
「そうだ、ごめんなさい。内館さんに美希さんのことを稜治さんから聞いたって、口滑らせて言っちゃったんです」
「いいよ、別に」
「え……」
「耕太にもそろそろ新しい恋をしてもらいたいからさ。俺は春ちゃんと耕太が付き合ってくれたらいいのに、って思ってるんだ」
「どうしてですか?」
「だって、お似合いだから」
「美希さんとより?」
「そうだね。同じくらいお似合いだと思うよ。耕太が次に恋をするなら、春ちゃんしかいないと思ってる。それに運命っぽいでしょ?こんなに何度も偶然出会うなんて」
内館と出会ったことが運命だとしたら、どれほど良いだろう。
春はそんなことをぼんやりと考えて、なんだか泣きたくなった。
春の自立
春が会議室に呼ばれたのは、それから数日後のことだった。
「お待たせしました」
春はドアを閉めると言い、磯貝の向かいの席に座る。
会議室には磯貝が新しいネイルを見せつけるようにボールペンを持って待っていた。
「契約更新のことなんですけど、決めましたか?」
春はとうとうこの日が来たか、と思った。
「そのことなんですけど……」
春はそこまで言うと深呼吸をする。
「契約更新はしません。デザイナーに戻ります」
「わかりました。それじゃあ、手続きをさせていただきますね。派遣会社からの新しいお仕事のお知らせはどうしますか?止めます?」
「そうしてください」
「新しい職場は決まったんですか?」
「いえ……。フリーランスのデザイナーとして仕事をしていこうと思ってるんです」
「フリーランス?」
「いずれは、会社を興そうと思って」
「起業なんてすごいじゃないですか。応援してますね」
「ありがとうございます」
磯貝は春に契約解除後の流れを一通り説明すると帰って行った。
春は自分でも不思議だった。
“いずれは会社を興す――”
心のどこかで考えていたことだったが口に出してみると、その実態は不確かでぼんやりとしている。
デザイナーに戻るなら少しでも早い方が良いと思った。けれど、会社を探して就職するというのは、何かが違う。春にもそれが一体なぜなのか明確な理由は見当たらなかったが、彼女は自分の直感を信じることにした。
“自分のブランドを立ち上げたい”
多分、その想いが春を奮い立たせたのだろう。
フリーランスになると磯貝に言ったものの、準備は何一つ出来ていない。我ながら無鉄砲だな、と内心苦笑する。
会社を辞めてからが勝負だ。デザイナー時代の人脈とデザイン技術を武器に、一人で戦っていかなければならない。会社という大きな後ろ盾は春にはないのだ。不安も大きかったが、それはとてもワクワクすることでもあった。
こんな風に自分が決断出来たのは、内館のおかげだと春は思う。
誰にも言えなかったことを春は内館に告げ、そして、彼は春の背中を押してくれた。それは決して、独りよがりで押しつけるような意見ではなく、そっと春の背中を押すだけのものだった。
春は今すぐ内館に会いたいと思った。
⇒【NEXT】「もう一つ驚くことを言いましょうか?」(Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 21話)
あらすじ
突然の夏野の登場に茫然と彼を見のことを見つめる春。
前回のことがあってから、夏野に避けられていると感じていた春は、
まさか夏野が自分に会いに来るなんては予想していなかった。
夏野はウィスキーを注文し、春の隣に座る。
しばらく沈黙がつづき、春は気まずさから
逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。
ウィスキーがやってくると、二人は乾杯して
グラスに口をつける。
そして夏野は春に「伝えたいことがある」と口を切って…。