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官能小説 【完結】Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 最終話
決意のエレベーター
人事部に向かう為、エレベーターに乗った春を追いかけるように
夏野がエレベーターに乗り込んで来た。
「お疲れ様」
「九階ですよね」
「ああ、ありがとう」
夏野は話題のきっかけを見つけあぐねているようだった。
春は何も喋らなくて良いことにどこかほっとしている。
八階を通り過ぎ、もうすぐ九階に到着するといったところで、春はようやく口を開いた。
「私、わかったんです。夏野さんとは付き合えないって」
春が言い終えると同時に九階へと着いたことを知らせる甲高い音が鳴った。
「そうか」
夏野はそれだけを言い残し、ドアが開くと振り返ることなく九階で降りて行った。
エレベーターのドアが閉まり、再び上昇を始める。
“ごめんなさい”
と言わなかったのは、告白を断ることが悪いことではないと思ったからだった。 微妙な距離感や些細なタイミングのズレはいずれ大きな溝になる。今だって、それらは春と夏野の間に少しずつ積み重なってきている。きっと夏野と付き合ったところでそう長くは続かなかっただろう。
春は人事部に書類を提出すると、その足で小都音たちの待つ食堂へと向かった。
報告
食堂が人でごった返す様子もそろそろ見納めだな、と思いながら春は定食の乗ったトレーを持って、小都音と桃のいる席へと向かった。
「ごめんね。待たせちゃって」
「いいのよ。私たちも今来たところだから」
「あれー?春さんったら、なんだか清々しい顔してません?」
「ふふ、バレた?」
「もしかして……」
小都音ははっと息を飲む。
「夏野さんの告白、断ってきちゃった」
「やっぱり!」
「えっ!?どういうことですか!?話が見えないんですけど!」
桃は大きな目を更に大きく見開いて春を見た。
「桃が休んでる間に色々あったのよ」
「えーっ!小都音さんは知ってたんですか?」
「勿論」
「でも、小都音にも言ってないことがあるのよね」
「何よ」
「会社辞めることにしたの」
「えっ!?」
小都音と桃の声が重なった。
「どうして、辞めちゃうんですか?」
「前々から更新は悩んでいて……。でも、ようやく決心がついたの。デザイナーに戻ろうって」
「デザイナー?」
桃は鸚鵡返しに問う。
「この会社に来る前、服飾デザイナーだったの。Kブランドって聞いたことない?」
「ありますよ。大手じゃないですか」
「そこの専属デザイナーだったんだけど、色々あって辞めちゃって……。でも、やっぱり、デザイナーの仕事は続けたいなって思うようになって。ゆくゆくは自分のブランドも立ち上げたいしね」
「春が決めたんなら、それでいいんじゃない?」
小都音は涼しい顔をして、味噌汁に手を伸ばした。
「でも、夏野さんのことは別に断らなくたって……」
「桃は知らないんだもんね」
「何がです?」
小都音はニヤニヤしながら、桃をからかう。
「ちょっと教えてあげなさいよ」
小都音にこづかれて、春は少し困ったような表情を浮かべてから口を開いた。
「内館さんのことが好きなんだって気が付いたのよ」
「えーっ!?」
「しーっ!桃、声が大きいわよ」
「すみません……」
小都音と桃のやりとりを見ながら、春はおかしくって笑った。
「そういうわけだから、今日は一人でカフカに行ってきます」
春はそう言うと、ドレッシングがたっぷりかかったサラダに箸をつける。
「いってらっしゃい」
「ちゃんと報告してくださいね!」
「うん、どうなるかはわからないけど」
春は言いながら笑って見せた。
伝えたいこと
いつものカフカと違う景色に見えた。
緊張が全てを歪んで見えさせる。
今日言わなければ、二度と言えない。
春はそんな気がしていた。
内館が来る時間まであと数分。次第に春の鼓動は高鳴っていく。
「いらっしゃい」
ドアベルが鳴ると同時に稜治は言った。その声の調子ですぐに入って来たのが内館だとわかる。
「いつものを」
内館は自然と春の隣に座った。春は深呼吸をするとゆっくりと口を開く。
「会社を辞めて、デザイナーに戻ることにしました」
「そうすると思ってました。新しい勤め先は?」
「当分はフリーランスでやっていこうかなって思っています」
「ふふ、あなたには驚かされることばかりですね。出会った時も――」
「もう一つ驚くことを言いましょうか?」
「なんです?」
「内館さんのことが好きです」
「珍しい冗談だなぁ」
「私は本気です。夏野さんの告白も断ってきました」
「それじゃあ、本当に私のことを?」
「はい」
怖くて春は内館の顔を見ることが出来ない。
「驚いたな……」
内館がかぶりを振ったのが、春の視界の端に映る。そのタイミングで稜治は内館の前にウィスキーを持って来た。だが、すぐに他の客に呼ばれて行ってしまった。二人の間に沈黙が落ちる。色好い返事は期待出来ないだろう、と春は思った。 内館には忘れられない美希がいたし、何より自分のことを内館が恋愛対象として見ているとは思えない。 それでも、春は言わずにはいられなかった。大好きだから言いたいのか、言って楽になりたいのかはわからなかったが、そのどちらのような気もしていた。
「実は今日、私もあなたに伝えたいことがあったんです」
「えっ……」
「私の恋人になってくれませんか?」
春の頭の中は真っ白になる。
「まさか、あなたに先を越されるとは思いませんでした。こういうことは、男から言わせないとダメですよ?」
「それじゃあ……」
「付き合ってください。玖波春さん」
そう言って、内館は春の手に自分の手をそっと重ねた。
やさしいキス
内館と春が手を繋いでカフカを出ようとしたその時、ドアが開き、夏野が入って来た。
「夏野さん……」
「やっぱり、こんなことだろうと思ったよ」
「ごめん、夏野」
夏野は二人が繋いでいる手を見て溜め息をついた。
「またお前に持っていかれるとはな。安心しろ。今回は絶交なんて子どもじみた真似はしないから」
「助かるよ」
「それにしても、なんで女はいつもお前を選ぶんだろうな」
それだけ言い残し夏野は店の中へと入って行った。 春と内館は振り返ることもなく、そのまま外へ出る。
「あの……、親友だったのに最近まで連絡取ってなかったのはもしかして……」
「昔、夏野と美希を取り合ったことがあって」
「そうだったんですね……」
「すみません。こんなこと……。でも、気にしないでください。私はあなただから好きになったんです」
内館は春の瞳を真っ直ぐに見て言う。春はその視線を受け止め、静かに頷いた。
「それから、この後なんですけど……」
「はい……」
春はホテルに誘われるのかとドキドキする。それと同時に、そんなことを考えている自分に呆れてもいた。
「まずは敬語をやめませんか?」
「えっ、あっ、はい……!」
「それから――」
春が返事をする前に、内館の唇が春の唇に重なった。 春は一瞬、自分に何が起きているのかわからなくなる。 けれど、夏野にされたそれとは異なり、内館のキスは優しかった。
「それから、お互いのことをもっとたくさん知っていきましょう。良いところも悪いところも全部」
そう言って、内館は初めて春をぎゅっと抱き寄せた。
内館の腕の中には今までに感じたことのない安心感がある。
恋から愛に変わる瞬間をずっと待っていた。
内館となら、その瞬間を知ることが出来るかもしれない。
春は恋と愛の間で揺れながら、内館の背中にそっと腕を回した。
〜END〜