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官能小説 【完結】Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 5話
弾む心

昼休みの社員食堂はいつも人でごった返している。
スーツ姿の社員もいれば、ラフな格好をしている社員もいた。
部署によって担当している仕事が異なる為、服装に差があるのだが、春と桃のいる第一営業部と小都音のいる第二営業部では、オフィスカジュアルが指定されており、少しかっちりした格好をしている。
その為、三人はジャケットにそれぞれ好みのボトム――けれど、アパレル会社に勤めているだけあって、最近のトレンドを押さえた出で立ちで社員食堂のテーブルについていた。
「ねぇ、どうしちゃったの?」
小都音は怪訝な顔をして、桃に問う。小都音の視線の先には上機嫌な春の姿があった。春がこんなにもウキウキとしているのを隠さず表に出しているのは珍しい。
「朝からあの調子なんですよ。気持ち悪くって」
桃は呆れと怯えを共存させた複雑な表情で春を見ている。
「昨日、夏野さんと何かあったとか……?」
周囲に聞こえないようにトーンを落として、小都音は夏野の名前を出した。
「春さんと同じ方向ですけど、私たち、一次会で帰りましたよ」
「でも、あの浮かれ方は普通じゃないわよね……」
小都音は首を傾げる。そんな二人の視線に気が付いたのか、春は二人を見た。
「あれ?二人ともどうかした?」
食べるのを中断して、春はこそこそと喋っている小都音と桃に問う。
「あのさ、単刀直入に訊くわ」
「何?」
「昨日、夏野さんと何かあった?」
「え……」
小都音の言葉に春は小さく声を漏らし、動きを止めた。
あまりのわかりやすさに小都音も桃も堪えきれずに吹き出した。
「べ、別にそんなことないよ」
明らかに動揺した素振りの春に、小都音はあからさまに溜め息をついて見せた。
「何かあったでしょ?」
「本当に何もないってば」
「春さん、嘘は良くないですよ?」
「桃まで……」
「ていうか、隠し事するなら、もうちょっと上手にしなさいよね」
「幸せウキウキオーラがダダ漏れですよ?」
小都音と桃に言われ、春は「ごめん」と呟くように言った。
初デート
春は夏野に食事に誘われたことを周りに聞こえないように小さな声で説明し終えると、デザートの杏仁豆腐に手を伸ばした。
「それで朝から浮かれてたってわけですね……」
「わかりやすいわね、春も」
「だって、男の人に食事に誘われたの、すっごく久しぶりだったから」
「ていうか、夏野さんのこと、別に好きじゃないって言ってなかった?」
「それは……」
春はバツが悪そうに視線をそらした。
「いいじゃないですか!恋は落ちるものなんです。気が付いた時には、すでに虜になっているものなんですよ」「まぁ、桃の言うこともわからなくもないけど……」
小都音は不服そうにデザートのプリンを口に運ぶ。
「それより、気になる人とのデートってウキウキしますよね。それが初デートなら尚更」
桃は空の食器の乗ったトレイを隣の席に避けて、頬杖をつきながら羨ましげに春を見る。
「でも、デートなんて久々すぎて、どうしていいのかわからなくって」
そういう言葉の端々にすら、春の浮かれ具合は滲み出ていた。
「どうしたらも何も、食事に行くだけでしょ? 普通にご飯食べてくればいいじゃない」
半ば投げやりな口調の小都音に桃は視線を向ける。
「小都音さん、もしかして、羨ましいんじゃ……。てゆーか、やっぱり、夏野さんのこと……」
「そんなことあるわけないでしょ? 前にも言ったけど、ああいうスカした人ってタイプじゃないのよ」
小都音に真っ向から否定され、桃は口を尖らせた。桃の艶やかな唇に春は一瞬目を奪われる。それと同時に、自分の唇はあんなに艶やかではないな、とふと思う。
そこまで考えて、春は夏野とのキスを心のどこかで想像していたことにハッとした。図々しいにもほどがある。
「まっ、平常心でデートに臨むことね。アラサーなのに、たかだかデートくらいで浮かれてると引かれるわよ」
「わかってるわよ……!」
少しムッとしたように春は答えた。
「あの……、アラサーになったら、デートで浮かれたらダメなんですか?」
桃は屈託のない目を小都音に向ける。
「残念ながら、歓迎はされないわね」
その一言に桃は肩を落とした。
現実は甘くない
春はどうしようもないくらい浮かれていた。
エレベーターやトイレの個室などで一人になれば、ついニヤついてしまう。
自宅で一人、スキンケアをしている今など、とてもじゃないけれど、誰にも見せられない。
それくらい、夏野に食事に誘われたことは、春にとって嬉しい出来事だった。
恋人と別れてから、これといった出会いもなかったし、デートに誘われることもなかった。
残酷なほど、月日はあっという間に流れ、年だけを重ね、いつしか、これから先の人生を一人で生きて行くのか、それとも、結婚相談所に登録をして無理やりにでも結婚という選択をするのか、春はその二択から選ばなければいけないと考えるようになっていた。
実際、結婚に関しては、二十五歳を過ぎたあたりから焦りはあったものの、当時は付き合い始めた恋人もいて、三十歳前には結婚が出来るだろうと高をくくっていた。
その考えが甘かった、と気が付いたのは、その恋人と別れることになった時だった。
現実は甘くない。
春は心の底から思った。
けれど、現実は春が考えていたよりも、いくらか優しく出来ているらしい。
白馬の王子様というには少々夏野は年を取り過ぎているが、春にとっては王子様と言っても過言ではないくらい、申し分のない相手だ。
勿論、浮かれすぎている自分を滑稽だな、と思うこともある。
いい年をしてとか、まだ付き合うことになったわけじゃないのにとか、いろんな思いが頭の中をぐるぐると巡る。それでも、浮かれる気持ちがいとも簡単にそれらの考えを打ち消していく。
それほどまでに、新しい恋の到来に春はウキウキしていた。
デートの日程はまだ決まっていない。
夏野は第二営業部のエースだし、忙しいことは同じ会社にいればよくわかる。
春としては、本当はすぐにでもデートの日程を決めてしまいたかった。
決めなければ、夏野からのあの誘いはなかったことになってしまうのではないか、とさえ思えてしまう。
でも、春から日程の連絡を急かすようなことはしなかった。
恋愛の初期で失敗する場合、積極的になりすぎたことが原因だったことが過去に何度かあった。
久しぶりの恋愛だ。失敗するわけにはいかない。
春は自分から連絡するのをぐっと堪えて、デートに備え、自分磨きに力を入れることに決めていた。
恋人がいない期間をダラダラと過ごしたツケがまわってきていることは、春の身体を見れば一目瞭然だった。
春はボディクリームを身体に塗り、マッサージをして、ぷよぷよとした肉をつまんだ。
腹回りはたるみ、無駄な脂肪がついている。十代や二十代の頃とは違い、太り方がえげつない。明らかに下腹部の脂肪が厚みを増していた。
少しでも綺麗になりたい。
こんな風に思ったのはいつ以来だろう。
春はスキンケアを終えると、久々にヨガマットを敷き、その上で腹筋を始めた。
⇒【NEXT】春は最寄り駅からほど近いスーパーの中で偶然、内館と出会う…。(Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 6話)
あらすじ
夏野にデートに誘われた春。
久々のデートに柄にもなく浮かれる春を異様に感じ、
小都音は怪訝な顔をして、桃に春に何かあったのかと問う。
春に夏野の件の事情を聴き納得し春の話に傾聴する二人。
友人が心配するほどあからさまに浮かれる春だったが、同時に久々すぎて不安も感じているという胸の内も明かす。