女性のための無料 官能小説・官能漫画サイト
エルシースタイル(LCスタイル)は、登録商標です【商標登録第4993489号】
ラブコスメが提供する情報・画像等を、権利者の許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます
官能小説 【完結】Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 17話
桃の告白
しばらくして、桃がようやく出社した。春はなんて声をかけて良いかわからず、朝の挨拶しか交わしていない。
春がトイレで化粧直しをしていると、桃が入って来た。けれど、いつものように天真爛漫な桃ではない。様子がおかしいのは明白だった。
「ねぇ、桃。何があったの?」
春は隣に来て、ポーチを開いた桃に単刀直入に問う。
「すみません。心配かけちゃって……」そう言って、桃はメールの返信をしなかったことを詫びた。
「実は……稜治さんと寝ちゃったんです」
「えっ……」
春は自分の耳を疑った。まさか、桃からそんな言葉が飛び出すとは、露ほども思っていなかった。
「稜治さんに会いたくて、一人で閉店間際のカフカに行ったことがあって。それでカフカを閉めた後、そのままホテルに行ったんです。でも、稜治さんてば、付き合う気はないって……」
そう言って、桃は涙ぐむ。
「稜治さんは、なんで桃とホテルに行ったの?」
「カフカで二人で飲んでて、飲み過ぎちゃって……。私が帰りたくないって言ったからだと思います」
桃の話を聞き進めていくうちに、少しずつ全貌が見えてきた。
「それで二人でホテルに行ったの?」
春の問いに桃は頷く。
稜治としては、酔った勢いで桃と寝ただけなのだろう。稜治は桃よりもずっと大人だし、一夜限りの遊びくらいなんてことないに違いない。しかし、稜治のことを好きな桃にとって、遊ばれたという現実が受け入れがたいということは安易に想像がついた。
それにそもそも稜治は小都音のことが好きだったのではなかったか。春には稜治の取った行動が理解出来なかった。好きな人がいるのに、他の女と一晩過ごせるものだろうか。しかも、それが自分の好きな相手の仲の良い後輩だというのに。
春はそこまで考えて、思わず眉間に皺を寄せた。
前の恋人は自分の仲の良い後輩と二股をかけていたではないか。女同士が近しい関係だということは、男に取って必ずしも抑止力にはならないのだろう。もしかしたら、そのスリルが刺激になっているのかもしれない。そこまで考えて、春は思考を止めた。これ以上、自分の過去の傷痕をえぐる必要はない。
「ねぇ、桃は好きだってことを伝えたの?」
「はい……。カフカで他のお客さんが帰って、二人きりになった時に」
「それでホテルに行ったんだ……」
春はぽつりとつぶやくように言った。そうなってくると、話は変わってくる。稜治は桃の気持ちを知って、弄んだということだ。納得がいかない。“酔った流れで“なんて言葉で片付けるのはいささか乱暴なように思えた。
「春さん。このことは、小都音さんには内緒にしててください」
「どうして?」
「だって、稜治さんは小都音さんのことが好きだから……。稜治さんと私が関係があったって聞いたら、きっと小都音さんは稜治さんに告白されてもOKしないと思うんです」
「桃の言ってることはわかるよ。でも、小都音はそんな男の告白はOKしないと思う」
「……」
遊ばれたとわかっていても、それでもなお、稜治のことを想う桃がいじらしかった。とてもじゃないが、自分にはそんなことは死んでも出来ない。
春はどう対処すべきか頭を悩ませる。
当分、三人でカフカに行くのはよそう。
そう結論づけることだけで、精一杯だった。
カフカにて
気が付いたら来ていた。
春はカフカのドアの前に立ち、取っ手に手を伸ばしては引っ込める。何度目かのその動作の後、「入らないんですか?」と背後から突然声がして、春は身をすくめた。
「内館さん……」
「入らないなら、どいてもらえます?」
「いえ、入ります」
「あの……、何かありました?」
「え?」
「何か様子がおかしいから」
「あの……」
春は一瞬のうちに思考を巡らせる。
「今日はここじゃなくて、別のところで一緒に飲みませんか?」
「私と?」
「はい、内館さんと飲みたいんです。別の場所で」
内館は真っ暗な空を仰ぎ見て、しばし考えたのち、「いいですよ。行きましょう」と答えた。
春の告白
内館が春を連れて来たのは、静かなスペイン料理の店だった。店内はかなり暗い為、内装はよく見えないが、木目調のテーブルと椅子が不規則に並べられていることは辛うじてわかった。春と内館は無言で店員のあとについて歩く。
店員に案内されたのは一番端の席だった。テーブルの上には小さなキャンドルがキャンドルホルダーの中で今にも消えそうな炎を揺らめかせている。
適当に飲み物と食事を頼み、おしぼりで手を拭きながら春はどこから話そうかと考えていた。
「あなたが私を外に誘い出すってことは、稜治さんに聞かれたくない話があるってことですよね?」
全てを見透かしたような内館の言葉に春は手を止め、彼を見据えた。
「本当にあなたはわかりやすいですね。それで何があったんです?」
春が口を開こうとしたその時、ドリンクが運ばれて来た。取り敢えず、二人は乾杯する。
「稜治さんのことについて訊きたくて」
「どんなことですか?」
内館は然して驚いた様子もなく、春に問う。
「その……、恋愛について。女癖が悪いとか、手が早いとか……」
「稜治さんは特にそういったことはないと思いますよ。少なくとも、私の知る限りでは。軽口はよく叩きますけど、根は真面目な人ですから」
「そうですか……」
「何かあったんですか?力になれるかどうかわかりませんが、私で良ければ、話を聞きますよ」
内館の言葉に春は夏野の言っていた“どんな些細なことでもつい熱くなっちゃうんだよ。困ってる人も放っておけないしね”という言葉を思い出していた。今の自分が内館には困っているように見えているのだろうと春は思う。
春は桃と稜治のことを話すか悩んでいた。勝手に話していいことではないことのような気がしたけれど、このまま、自分一人では良い解決策を思いつけない可能性が高い。もし、カフカに行き続けるのだとしたら、ちょっとしたきっかけで修羅場になることだってあり得るかもしれない。
「ここだけの話にしてくれますか?」
春は意を決して、内館に事の真相を打ち明けることにした。
融解
春は桃から聞いたことを包み隠さず内館に話した。その間に頼んだ料理は全てテープの上に並べられた。
春からの告白を受けて、内館は渋い顔をしている。真っ直ぐな性格の内館にしてみれば、桃の発した言葉も稜治の取った行動も理解しがたいに違いない。
「こればっかりは仕方ないですね」
「え……」
内館の言葉に春は拍子抜けした。
「男女間の出来事は、特にお酒が入っていたとなれば、第三者がどうこうは言えないと思います」
「でも……」
「わかりますよ。心配なのも、稜治さんが許せないって気持ちも。でも、少なくとも、ホテルに行く時はお互いが同意だったわけですし、第三者が口を挟むのは野暮ですよ」
内館はキッシュを口に運びながら、考え込んでいる春をちらりと見た。明らかに納得していない表情の春を見て、内館は少しバツが悪そうに彼女から視線を外した。
「あの……、これは一般論として聞きたいんですけど」
「なんでしょう?」
「男の人って、恋人や好きな人の身近な人に手を出せるものなんですか?」
「うーん……。それは人によると思いますよ。きちんと清算した後であれば、元恋人の身近な人を好きになって付き合うこともあるんじゃないですか」
「じゃあ、二股は?」
「私は相手が誰であれ二股はあり得ないと思ってますけど、人によってはなんてことない人もいると思います。罪悪感を覚えるどころか、そのスリルが堪らないっていう人もいるでしょうし」
“人による”というのは、その通りだと思った。実際、二股は一人では出来ない。春の恋人と後輩は二股であることを承知の上で付き合っていたのだ。そう考えると、男だから女だからと言った理屈は通用しない。それでも、春にとって、“男は浮気をするものだ”と言われた方が幾分か気持ちは楽だった。性別の所為にして、現実から逃げる方がよほど良い。
「夏野のこと、心配してるんですか?」
「えっ……」
「夏野なら大丈夫ですよ。私が知っている限り、浮気をしたことはありません。仕事に対して一途なように、人に対しても一途な奴だから、心配しなくて大丈夫です」
「別に夏野さんのことを心配してなんか……」
「どうせ、あなたことだから、過去に手痛い失恋でもしたんでしょう?恋人を身近な人に取られるとか」
「……どうしてわかるのよ」
「稜治さんと桃さんの話をしているあなたを見ていればわかりますよ。自分と重ねているように見えましたから」
春は大きな溜め息をつく。「私ってそんなにわかりやすいですか?」と半ば投げやりに言った。
「ええ、とても。でも、そこがいいところだと思いますよ」
「そんなこと初めて言われました」
「短所と長所は表裏一体ですから」
内館は微笑む。その微笑みに春は胸の痞えが解けて消えていくような不思議な思いを抱いた。
⇒【NEXT】「まずい。今のは完全に誤解されたな」(Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 18話)
今、人気・注目のタグ<よく検索されるワード集>(別サイト)
あらすじ
久しぶりに出社した桃は、いつものような天真爛漫な態度ではなく明らかに様子がおかしかった。
春はなんて声をかけて良いかわからず、朝に挨拶しかしていなかったのだが、トイレで偶然はち合わせた為、単刀直入に何があったのか質問してみたのだった。
桃はメールの返事をしなかったことを詫びつつ話しを始めた。
「えっ…」春は桃からそんな言葉が飛び出すとは思っていなかったが最後まで話を聞き、どう対処するべきか頭を悩ませる。
仕事後、春は気付くとカフカの入り口の前に立っていた…。