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官能小説 【完結】Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 16話
違和感と知られざる過去
翌日の昼、春と小都音は会社近くのオシャレなカフェで昼食をとっていた。隅の席に通された二人は、サラダを平らげ、メインの季節の彩りパスタを口に運んでいる。さすがに昨日の夏野との出来事を社員食堂では話しづらいと思った春が、小都音をカフェに誘ったのだ。
桃は会社を休んでいていない。カフカに誰よりも行きたがる桃が用事があると言って一緒に来なかったり、仕事中も上の空だったりと、最近様子がおかしい。春は少し気がかりだったが、小都音は特に気にしていないようだった。
「昨日はありがとう」
春は自分の代わりに倉前と食事に行ってくれた小都音に対し、礼を言う。
「いいのよ。私も楽しかったし。倉前くんってイイコね」
「うん。本当にいい人だよ。この会社に入ってからずっと親切にしてくれているもの」
「春が食事を断りづらいのもわかるわ。でもきっと、倉前くんは春のことをまた食事に誘うと思うわよ」
「どうして?」
「どうしてって当たり前じゃない。今回、倉前くんは急用でドタキャンされただけだと思ってるもの」
「そっか……」
「しっかりしてよね。次また誘われたら、今度は軽々しくOKなんてしちゃダメよ」
「うん……」
歯切れ悪く答える春に小都音は呆れ顔で溜め息をつく。
「で、話があるんでしょう?」
わざわざ、外のランチに誘われた小都音は核心に迫ろうとする。
「うん、実は……」
春は昨日の夏野との一件を説明した。
「へぇ、夏野さん、やるじゃない」
驚くかと思いきや、小都音は満足げな表情を浮かべ、春を見る。
「驚かないの?」
「別に。夏野さんなら、そのくらいのことしそうじゃない?」
小都音の言葉に、春は「確かに」と小さく答える。
「これで夏野さんの気持ちもはっきりわかったんだし、あとは次のデートで告白されて、めでたくお付き合い、そのまま朝までお泊りってところね」
小都音の身も蓋もない言い方に春は思わず赤面した。
「何赤くなってるのよ。こんなことで赤くなるような年齢でもないでしょうが」
「そうだけど」
「そうだけど、何よ?」
「本当にこのまま進んじゃっていいのかなって思って」
「この後に及んでまだそんなこと言ってるの? 夏野さんのこと好きなんでしょ?」
「そうなんだけど、何かしっくりこないっていうか……」
「何がしっくりこないのよ」
「それが自分でもわからなくって。夏野さんは私のこと好きじゃない気がするっていうか……」
「あのねぇ、好きじゃない相手に素面でキスすると思う?酔っ払ってたならともかく、素面よ。しかも、会社のエレベーターでよ?好きじゃなかったら、そんなリスキーなことするわけないじゃない」
「でも……」
「もしかして、付き合うことが怖いの?」
「えっ……」
春は小都音の言葉に手を止めた。知られたくない部分に突然踏み込まれたからだ。
「図星みたいね。春と恋愛の話をしてて、いつもどこか釈然としないところがあったのよ。社内恋愛が嫌だとか、昔の恋人の話をしないとか。話したくないなら話さなくていいけど、いつまでも過去を引き摺ってたら、良い出会いも楽しい時間もみすみす逃すことになるわよ。私たちは今を生きてるんだから、過去は過去で終わりにしないと。切り捨てろって意味じゃなくて、乗り越えろって意味でね」
「……うん」
小都音の言っている意味はよくわかる。 過去に縛られていたって、何も良いことはない。過去は過去でしかないし、そこから学ぶことはあっても、そこにしがみつくことは決して良いことではないはずだ。
「でも、まぁ、他に気になる人がいるって言うなら、話は別だけどね」
小都音の言葉に一瞬浮かんだのは、なぜか内館の顔だった。
本当の自分
翌日も桃は会社に来なかった。
心配でメールをしてみたけれど、返信はない。それとなく、同じ部署の社員に聞いてみたものの、「体調が悪いみたいですよ」と当たり障りのない答えが返ってくるだけだった。
春は仕事をこなしながらも、桃のことを心配したり、小都音に言われたことを思い返したりしていて、なかなか仕事に身が入らずにいる。さほど忙しくないのがせめてもの救いだった。
定時になると、春は早々に会社を出て、一人カフカに向かった。 一人になりたかった。けれど、家の中でぽつんと一人、静かに過ごすのは息が詰まりそうでカフカに行くことを選んだのだ。 春がドアを開けるとドアベルが鳴り、稜治がいつものように「いらっしゃい」と出迎えてくれた。
見慣れた稜治の笑顔にほっとする。店内に人はまばらだった。時計に目をやれば、夜と言うには少し早い。
「最近、一人で来ることが増えたね。何かあった?」
「今日はちょっと一人になりたくて」
「へぇ、小都音ちゃんたちとケンカでもした?」
「いえ。小都音には図星をさされましたけど、それくらいです。桃は昨日から会社を休んでて会ってないし……」
「桃ちゃん、会社休んでるの?」
桃の話になると、途端に稜治の顔が曇った。
「稜治さん、何か知ってます?」
「いや……」
稜治は顔を曇らせたまま、言葉を濁す。
「最近、様子がおかしかった気がして。もっと、気にかけてあげれば良かったなって……。ただの体調不良かもしれませんけど……」
「そっか……。どちらにせよ、それは心配だね」
稜治はそれ以上、桃のことに関して話そうとはしなかった。もしかしたら、桃は稜治に告白をしたのかもしれない。稜治は小都音のことが好きだから、きっと断るだろう。桃はショックのあまり休んでいるのかもしれないと思った。
春は察して、オレンジフィズをオーダーすると、すぐに稜治はカクテル作りに取り掛かった。稜治はオレンジフィズとナッツを差し出すと、春の前で立ち止まった。よく見ると、店内にはほとんど他の客はいない。
「一人になりたいなんて、何かあったの?」
「何かあったって程のことではないんですけど……。あと一歩を踏み出すのが怖いっていうか」
「夏野さんのこと?」
「はい……。好きだとは思うんですけど、何かがしっくりこなくって。このまま、進んでしまっていいのかなって」
「うーん。この間、二人が来た時、途中から耕太と一緒に飲んでたでしょ?正直、あの時、夏野さんって人とより、耕太との方がお似合いだと思ったんだよね」
「えっ?」
「だって、夏野さんと二人きりだと、よそ行きの春ちゃんって感じだったのに、耕太と喋ってる時の春ちゃんはいつもの春ちゃんって感じだったから。好きな人の前で素の自分を出せないっていうのは、最初の頃なら誰でもあることだろうけど、それが続くようなら考えた方がいいかもね。もっと相手を知ってから、付き合うっていうステップに進んでも良いと思うよ」
稜治に言われて、目の前にあった靄が一気に晴れるような気がした。
「私、急ぎすぎてたのかな……」
「うん、きっとね。他の男に取られるのが怖くて、男は焦ったりもするから。その焦りに女の子は流されないことが大切だと思うよ」
「わかりました。もう少しゆっくりいってみます」
「でも、春ちゃんが恋してる姿を見るのはいいね」
「どうしてですか?」
春は疑問を口にする。
「だって、春ちゃんがここに来るようになってから、全然恋をしてるような素振りがなかったからさ。きっと、前の恋で何か手痛い思いをしたんだろうなって、ちょっと心配してたんだよ」
やっぱり、自分はわかりやすいのかもしれない、と春は思った。小都音も稜治も春の過去の恋に薄々勘付いていたのだ。
「耕太も春ちゃんみたいに、新しい恋を見つけてくれればいいんだけどなぁ……」
「内館さん、何かあったんですか?」
春は話の流れで、然して興味もなかったけれど訊いた。
「耕太の前の彼女――美希ちゃんって言うんだけど、交通事故で亡くなってね」
「そうだったんですか……」
内館にそんな過去があったなんて知らなかった。
春は聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がした。
「それがあってから、耕太は恋愛に臆病になってるみたいでさ。あいつ、ああ見えて、すごくモテるんだよ。真面目で誠実で浮気なんかもせずに一途だし、誰に対しても分け隔てなく優しいし。美希ちゃんもあいつのそういうところが好きだって、よく言ってた。そろそろ、前に進んでもいい頃なのに、全然次の恋に進もうとしなくってさ」
確かに内館は良い人だと春も思う。タクシーで送ってくれたあの日、春が家に入るまでしっかりと見届けてくれたし、いつも言い合いにはなるけれど、内館は間違ったことは何一つ言っていない。
夏野にはない人間味を春は内館に感じていた。
⇒【NEXT】「内館さんと飲みたいんです。別の場所で」(Sweet of edge〜恋と愛の間で揺れてみて〜 17話)
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あらすじ
夏野との出来事をさすがに食堂では話しづらいと思った春は、小都音を会社近くのオシャレなカフェに誘った。
春は昨日の出来事を話したら小都音が驚くと思っていたが、予想に反して小都音は満足げな表情を浮かべていた。
小都音は「これで夏野さんの気持ちもはっきりわかったんだし」と夏野と付き合う事を勧めたのだが、春はいまいち納得していない様子だった。
そんな春を見かねた小都音が「もしかして、付き合うことが怖いの?」と春に質問をする。それは春にとって図星であり、知られたくない部分だったのだ。
過去は過去でしかないとわかってはいる春だったが…。