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官能小説 Sweet of edge 春と内館編「もどかしさの狭間にて」
進まない関係

内館はどんなに仕事が忙しくても、春との時間を大切にしていた。今日だってそうだ。
内館は地方での営業を終え、東京駅に着くと、そのまま真っ直ぐに春の家にやって来た。勿論、スイーツ好きの春の為にケーキを買うことも忘れない。1LDKの春の部屋に置いてある赤いソファに二人で仲良く腰をかけ、ソファの前にあるローテーブルには飲みかけのルイボスティーが置いてある。食後に二人でまったりと過ごすのが、春たちの夜の過ごし方だった。
「そろそろ、買ってきてくれたケーキ食べる?」
春は内館の方を見て言った。「そうだね」と内館も微笑む。
いつだって穏やかな時間が二人の間には流れていた。時折、意見が食い違うこともある。激しく言い合いになることだって、全くないわけじゃない。けれど、春が内館と付き合ってみてわかったのは、彼がとても穏やかで誠実な人であるということだった。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
春は問いかけながら立ち上がる。
「そうだなぁ……。今日は紅茶がいいな」
キッチンに向かう春の後ろ姿を見ながら、内館は笑顔で答えた。
春は電気ケトルにミネラルウォーターを入れると、電源を入れた。テキパキと紅茶を淹れる準備をしながら、冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出す。ローテーブルにケーキの入った箱を持っていくと、春は止めてあったシールを剥がして箱を開けた。そこにはフルーツの沢山乗ったケーキが二種類入っていた。
「美味しそう!」
春は嬉しそうに内館の顔を見る。
「耕太さん、どっちにする?」
「春が好きな方を選んでいいよ」
「えー、迷うなぁ……。柑橘系はさっぱりしてて美味しそうだし、いろんなフルーツが乗ってるのも贅沢で捨てがたいよね」
「どっちも春が好きそうだなって思って買って来たからね。悩むのも無理はないだろうなぁ」
内館は満足げに悩む春を見つめる。
そうこうしているうちに電気ケトルのお湯が沸き、春はキッチンへと戻っていった。春はお気に入りのアールグレイの茶葉をティーポットに入れると熱湯を注ぐ。ふんわりと紅茶の良い香りがキッチンに漂った。
ティーポットとティーカップ、皿とフォークをトレーに乗せて、春が戻ってくると内館は「ありがとう」と言った。そういった些細な言動に、春はこの人と付き合うことにして良かったと心底思う。内館は皿にケーキを移している春の背後からぎゅっと抱きつく。
不意に抱きしめられたことに春は驚き、思わず手を止めた。

「耕太さん……?」
「春に癒されたくなっちゃった」
内館は照れくさそうにそう言うと、春の頬に自分の頬を近付ける。
「出張大変だった?」
「そこそこね」
「今日はデモンストレーションの講師やってきたんだよね?」
「うん」
「人に教えるってすごいよね」
「そうかな。まぁ、難しくはあるけど」
「でも、甘えたくなるくらいには、疲れたんでしょ?」
「……うん」
“甘える”という言葉に内館は恥ずかしくなったのか、春を抱きしめていた腕を緩めた。
「紅茶、そろそろいいんじゃない?」
「そうだね」
春はティーカップに紅茶を注ぐ。
あのまま、キスをされるのだと思った。けれど、内館は抱きしめるだけで、それ以上のことはしてこない。よくよく考えてみれば、内館が春にキスをした回数は片手で足りる程度の数だ。
付き合いたてのカップルは、普通もっとキスをするものではないのだろうか。セックスだって飽きるほどするものではないのだろうか。しかし、内館は春にハグとキス以上のことをしてこない。
春は悶々としながら、ティーカップになみなみと紅茶を注いだ。
ケーキは美味しかった。出張で疲れているのに、わざわざ自分の為にケーキを買ってきてくれたことは素直に嬉しい。内館は春をとても大切にしてくれているとも思う。けれど、どうしても腑に落ちないことがあった。それは内館のスキンシップの少なさだ。
内館と付き合い始めて、一ヶ月が経つ。それでも、未だにセックスだってない。春の家に来て泊まるのに、キス以上のことをしてくる気配すらない。
私って、女としての魅力がないの……?
春は自問して、嫌なことを思い出す。それは元カレのことだ。後輩の女の子と浮気をし、最終的に元カレは春ではなく、その後輩を選んだ。
浮気をするなんて最低だと思う。だけど、自分に女としての魅力がなかったのではないか、と思わないわけでもない。
第一、女としての魅力があれば、いくら誠実で真面目な内館だって、こんな至近距離にいる春に触れずにはいられないだろう。
片思いならまだしも付き合っているにも関わらず、セックスを我慢出来てしまうなんて、自分がその程度の魅力しか持ち合わせていないからなのではないか、と春は思わずにはいられなかった。
「どうかした?」
「え?」
「眉間にシワを寄せて、何か考え事してるみたいだったから」
「ううん、なんでもない」
春は笑って誤魔化した。内館が春の不安に気付いている様子がないことに、春はそっと胸を撫で下ろす。
付き合って一ヶ月はまだ微妙な時期だ。思っていることを軽々と口にすることが出来る関係では決してない。
疑わしきは
いつまでもウジウジと悩んでいても仕方がない。
春は思いたって、以前桃が教えてくれたヌレヌレのブランドが手掛けているボディローション“シャイニングラブエステ”で肌の手入れを始めた。
甘い香りに包まれながら、肌の上に乗せて伸ばすとしっとりと潤っていく。ボディケアは女性にとって魔法のようなものだ。
春はボディケアをすることで、自分の肌の艶やかさに自信を持ったし、自分の体型の崩れにも気が付いて筋トレも始めた。デザイナーの仕事の準備が忙しくて、毎日くたくただったけれど、それでも春は一度もそれらをサボることはしなかった。なのに、だ。
内館は今日も春に触れてこようとはしない。それどころか、当たり前のように風呂に入る準備を始めている。
「ジャケット、こっちに掛けておくね」
春は内心溜め息を吐きながら、ソファの肘掛に無造作に置かれていた内館のジャケットを手に取った。すると、一枚の紙切れがひらりと落ちた。
「なんだろう? これ……。」
春は紙切れを拾い上げる。それは都内にある三ツ星ホテルのフレンチレストランのレシートだった。レシートには“男1 女1”と記載されている。
女の人とレストランで食事をしてたんだ……。春は内館と付き合い始めてから、一度もそんなかしこまった場所で食事をしたことがなかった。せいぜい、二人で行くのは少しオシャレなバー止まりだ。勿論、仕事の関係で食事をしたのかもしれないし、友達と食事をしたのかもしれない。だがそれは、何も聞かされていない春の不安を煽った。
「それじゃあ、風呂入って来るね」
「うん……」
春は上の空のまま、返事をする。
内館は何も不審に思わなかったらしく、すんなりと風呂に入ったことが浴室のドアが開く音でわかった。
ローテーブルには内館のスマホが置いてある。こんな時に彼のスマホが視界に入るなんて意地悪だ、と春は思った。
手を伸ばせば、内館のスマホにはすぐに届く。恋人のスマホを見て良いことなんて、何一つあるわけがない。やましいことがあればショックを受けるし、やましいことがなければ、疑って見てしまったことに罪悪感しか残らない。何より、春は恋人のプライバシーを守ることも出来ない女になんてなりたくなかった。それなのに、内館のスマホから、なかなか視線をそらすことが出来ずにいた。
春が大きく深呼吸をしてソファから立ち上がろうとした瞬間、スマホが振動して着信を知らせた。
不意に春は内館のスマホに目を遣る。そこに表示されていたのは“由紀”という見ず知らずの女性の名前だった。
しばらくスマホが振動したあと、着信はやんだ。由紀って誰なんだろう……?確か内館には妹がいたはずだったが、由紀なんて名前ではなかったはずだ。内館に限って、浮気などしていないと思いたい。
そもそも、仕事をしていれば、女性から電話がかかってくることもあるだろう。しかし、春に全く触れてこないことを考えると、春と付き合い始めたものの、気持ちが他の女性に移りつつあることだって考えられる。恋はタイミングだ。
そのタイミングがズレてしまうことは、有り得ないことではない。春はスマホに手を伸ばしはしなかったが、心には大きなもやもやが残った。
春がぼんやりしているとルームウェアに着替えた内館が、風呂上りで濡れている天然パーマの髪を拭きながらリビングへとやってきた。
春は内館に気付かれないように呼吸を整えると、「何か飲む?」とさりげなく訊いた。
「お茶をもらおうかな」
「うん、今淹れるね」
春は冷蔵庫から冷えた緑茶を取り出すと、グラスに注いで内館の前に置いた。
「ありがとう」
春はお礼を言う内館の顔を見ずに「お風呂に入って来るね」と言って、彼に背を向け、バスルームへと向かった。
これ以上、同じ空間にいたら、内館を問い詰めてしまいそうだった。小さな根拠だけで問い詰めるのは浅はかだ。そうは思うものの、春の頭の中では同じことが何度もぐるぐると回り続ける。
由紀って一体、誰なんだろう?レストランで一緒に食事をした女性もその人なの?私に触れないのは女として魅力を感じないから……?
内館に聞きたいことはたくさんあったけれど、結局、春は何も聞けないまま、夜は静かに更けていった。
気配
由紀という名前が気になり始めてから、あっという間に一週間が経ってしまった。
いくらでも内館に問いただす機会はあった。しかし、春はどうしても疑問も不安も口にすることが出来なかった。それは内館から事実を突きつけられることが怖かったからかもしれない。
そんな中、春はカフカで一人時間を持て余していた。今日は仕事帰りの内館と待ち合わせをして、久々にカフカで飲む約束をしていた。いつも春の家でばかり食事というのも悪いと内館も気を遣ったのだろう。
だが、デート相手である内館はやってこない。急な会議が入ったらしい。
春は仕方なく、カウンターで一人、グラスを傾けていた。今日、何度目かのドアベルの甲高い音が、ドアが開く音に少し遅れて春の耳に届く。
「あれ? 春さん?」
背後から聞き慣れた声がして、春は振り返った。
「お久しぶりです」
そこには愛らしく微笑む桃の姿があった。
「久しぶり。元気だった?」
「はい! あ、もしかして、今日は内館さんとデートですか?」
「そのはずだったんだけどね」
「……ドタキャンですか?」
「うん……。仕事らしくて」
「仕事って言われちゃうと、どうしようもないですよね。ワガママ言えないし」
「桃は稜治さんに会いに?」
「えへへ、実は。約束はしてないんですけど、仕事が早く終わったんで来ちゃいました」
桃は嬉しそうにそう言うと、春の隣に座った。桃に気が付いて、稜治がやってくる。二人の交わす視線は、恋人同士だということを暗に物語っていた。
「春ちゃん、次は何飲む?」
「いえ、チェックお願いします」
「春さん、帰っちゃうんですか?」
「やらなきゃいけないことがあって」
「起業準備忙しそうですもんね」
「そうなの」
春は少し困ったような顔をして答えた。
「また今度ゆっくり飲みましょうね」
会計を済ませると、「またね」と春はひらひらと手を振って店を出た。
忙しいのは事実だった。でも、やらなければいけないことがあるから帰るというのは嘘だ。桃と稜治の時間を邪魔はしたくなかったし、作り笑いを続ける自信が今の春にはなかった。
自宅に着き、春はソファに深く身体を沈めた。充電するためにバッグの中からスマホを取り出し、なんとなく画面を見ると、内館からメッセージが届いていた。
“今から行ってもいいかな?”メールの受信時刻は五分前だった。
春はしばらく悩んだのち、“いいよ”と一言だけ返信する。気は進まなかったが、断る理由もない。変に避けて、気まずくなるのは本意ではなかった。
真相
内館はコンビニスイーツをいくつか買って春の家にやって来た。春は内館の気遣いに礼を言うと、それらを冷蔵庫に入れる。背後に内館の気配を感じながら、春はどんな会話をしようか頭を悩ませていた。
「今日はごめん。久しぶりにカフカに一緒に行けるはずだったのに……」
「ううん、気にしないで。仕事だもん。仕方ないよ」
春は至って、平静を装って言った。しかし、脳裏に過ぎるのはあのレシートと由紀という名前の着信だ。
「……怒ってる?」
内館は春の様子を伺うように言いながら、鞄を床に置いた。内館を振り向かずにいたのは、心の中を見透かされるのが怖かったからだ。それを内館は怒っていると受け取ったのだろう。
「ううん、怒ってないよ」
春は作り笑いを浮かべて振り返り、内館を見据える。
「でも、この間からずっと春の様子がおかしい気がするんだ」
「……」
普通に振る舞っているつもりだったものの、内館は春の異変に気が付いていたらしい。内館が気が付かない振りをしていただけだということに、春はこの時ようやく気が付いた。
「私が何かしたなら教えてほしい」
いつになく、内館は真剣な表情で言った。
「この間……」
春はしばし考えてから、重い口を開いた。偶然レシートを見つけてしまったこと、由紀という女性から電話がかかってきたのを見てしまったこと、触れてくれないのは他に好きな女性がいるからではないかと思っていること。春はずっと思い悩んでいた全てを話した。すると、内館は優しく微笑んだ。てっきり、険しい顔をされるものだとばかり思っていた春は拍子抜けする。そして、内館の微笑みの理由がわからず困惑した。
「ごめん。不安にさせて。でも、どれも春が心配するようなことじゃないよ」
そうは言われても、納得がいかない。
不服そうな春を見て、内館は静かに話し出した。
「まず、レストランのことだけど、あれは上京してきた妹と食事に行ったんだ。行ってみたいってずっと言われていたレストランでね、誕生日プレゼントとしてご馳走したんだよ。次に由紀って人からの電話だけど、フルネームは由紀正和と言って、会社の同期。由紀と番号を交換したのは随分前なんだけど、急いでて苗字だけ登録してそのままになってたんだ。由紀は同期の中で一番気の合う奴でさ。今度、春にも紹介するよ」次々に内館は春の不安を払拭していく。
表面的な事実だけを並べて不安になっていたけれど、内館から詳しく理由を聞くと不安になるようなことではないことは明らかだった。
でも――。内館は春に触れない理由だけ、口にしない。
沈黙が重くのしかかり、春はどんな問いを内館に投げかけるべきか考えながら、視線を床へと落とした。丁子色の床の木目をぼんやりと眺める春の耳に内館の声が聞こえてくる。
「それから」
内館の言葉に春は顔を上げる。
「私が春に触れないのは、春のことを大切に思っているからだよ」
「……」
「それが反対にあなたのことを不安にさせていたなんて……。ごめん」
内館はそう言って、春を優しく抱き寄せた。
「本当に……?」
「本当だよ。簡単に触れないことが大切にすることだと思ってた。だけど、それが春を傷つけていただけだったなんて……。ごめん」
春はほっとして涙ぐみ、内館の腕の中で静かに涙をこぼした。

「本当はずっと春に触れたかった」
内館のその一言に春は彼の背中に腕を回し、ぎゅっと力を込めた。内館は春をそのままソファに押し倒すと、優しく彼女の素肌に触れた。
END
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あらすじ
内館と付き合い始めた春。
忙しくても二人の時間を大事にする内館に愛を感じながらも、彼が春に触れてこないことに対して不安を募らせる。
そんなとき、春は内館の上着のポケットから「“男1 女1”」と記載されたレシートを発見してしまい・・・