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小説サイト投稿作品16 「星空と君の手」(ペンネーム:春風紫音さん)
「星空と君の手」(ペンネーム:春風紫音さん)
〜LC編集部のおすすめポイント〜
彼と初めて手をつないだとき…みなさんは覚えていますか?
学生同士の初々しいストーリーに昔を思い出してキュンとしてしまいました。
付き合っていくうえでの不安や心境がみずみずしく描かれています。
こんな恋愛したい!と思わせてくれる作品です♪
初めて手をつないだ日
私が彼氏の紘と過ごす時間の中で何よりも好きなのは、夜電気を消して一緒に布団に入るときだ。
下宿の1人用のベッドに2人で寝て、手をつないでたわいもない話をする。
付き合って2年。
手をつなぐことはすっかり当たり前になったけど、初めはなかなかつなげなかったんだっけ、と
彼の骨張った指に自分の指を絡ませているとふと思い出す。
「ねぇ、私たちが初めて手をつないだのいつだったか覚えてる?」
「初めて手つないだの? えーっと旅行行ったとき?」
「ううん、違う」
じゃあ、いつ? と聞いてくる彼には内緒と答えて私はつないだ手に力を入れる。
初めて手をつないだときも、こんなふうに暗闇の中だった。
バレンタインデート
それは私たちが大学1年生で、付き合い始めて2ヶ月近く経ったときだった。
「バレンタインさ、プラネタリウム見に行きたいんだけど」
普段は自分から行きたい場所を主張しない彼が珍しくそう言うから、
紘は意外とロマンチックだよねと茶化すように彼に言いながらも、私はとても嬉しかった。
その頃は付き合って2ヶ月というのに彼に好きだとも言ってもらえず、
デートはするのに手もつながないという状態で、私はとても不安を感じていたのだ。
そんなときに珍しく彼からの誘いで、しかもプラネタリウムなんていうロマンチックなデートが嬉しくないわけがなかった。
「プラネタリウム好きなんだよね。最近は行けてないからいつぶりかなぁ」
なんて言う彼の声のトーンに、私は前の女性の影を見つけて少しさみしくなったけど、でもそんなのいい。
思い出は私が塗り替えればいいのだから。
重なる手と手
こうして、やってきたバレンタインデー。
プラネタリウムがある科学館は駅から少し離れているので歩いて向かうけれど、隣を歩く彼の手には触れられない。
どうして手をつないでくれないの、なんて聞けるはずもなくて私は伸ばしかけた手を引っ込めてしまうしかなかった。
少し、ほんの少しだけ落ち込んだ私だったけれど、プラネタリウムの投影はとても綺麗で満天の星空に心まで透き通ったような気持ちになった。
ドームに映された綺麗な星空を見ながらチラリと彼の横顔を覗き見ると、彼は食い入るようにうつしだされた空を見つめていた。
そして私も空に向き直り煌めく星たちを眺める。
ああ、あれはオリオン座であれは何座かな、などと考えていると、椅子の肘掛に置いていた手に、彼が手を重ねてくれたのだ。
そしてその重ねて置いた手をとって握り直してくれる。
私は驚いて彼の方をみてしまったけど、彼は未だ星を見続けていたから。
握られた手にこれでもかってくらい力を込めて、何で今まで手を繋いでくれなかったの、と精一杯の抵抗を表してみても、
目の前の星空が滲んでしまうほどに私は嬉しかった。
きっとこの手を離さない
私が回想しているあいだに、彼は寝てしまったのだろうか、つないでいた彼の手に入っていた力が緩んでしまっていた。
もう一度、私がぎゅっと手を握ってみても反応はない。
「初めて手を繋いだときもこんなかんじだったんだよ」
彼の手の温もりを感じながら、隣で寝息を立てる彼に声をかけた。
昔感じていた前の彼女の影は今はもう何処にもなくて、あんなに頑なに言わなかった好きだという言葉も口にしてくれるようになった。
大学生として一緒に過ごすことができるのは<あと1年ほどしかないけれど、
「これからも、当たり前のように隣にいてね」
きっと私はこの手を離さないでいるから。