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小説サイト投稿作品25 「Spicy&Sweet」(ペンネーム:来海シスコさん)


「Spicy&Sweet」(ペンネーム:来海シスコさん)

〜LC編集部のおすすめポイント〜

シングルファーザーの彼に恋をして…
年上の大人な男性を好きになったあやめは彼とのデートに甘い香りをさせて臨む。
それは、香りにこだわる彼へのメッセージ。
大人の恋って感じがして素敵です!

紳士な彼から、本当の彼へ…
喜びとドキドキが入り混じった感情の高まりにこちらまでときめいてしまう作品です。
あやめは彼の恋人になれるのか?
続きは本編でお楽しみください♪

恋のはじまり

知り合ったきっかけは、私の勤めるスイミングスクールに彼の娘さんが通い始めたこと。
毎週、母親でなく彼が娘を送り迎えしているのが不思議で、同僚にそれとなく聞いてみたらこんな答えが帰ってきた。

「あの人、シングルファーザーなんですって」
――と。
そうしたら、今まで気にならなかった彼のことが、急に視界に入るようになった。

背が高くて着るものもお洒落。
さらに整った顔立ちの中の、何より切れ長の瞳が自分好みであることに気がついて。
たった一人で、しかも父親が異性である娘を育てるって、 ものすごく大変なんじゃないかとか、他人なのに心配したり。
彼も娘もどちらかというとやせ形だから、料理はどうしているんだろうと、見えない彼らの生活に気を揉んだりした。
そんな私の変化にいち早く気づいたのは、彼でなく、彼の小学四年生の娘、芹香(せりか)ちゃんだった。

「――あやめ先生、最近パパのことばっかり見てるでしょ」
「えっ」

プールサイドで彼女にそう言われたとき、あまりに図星すぎて、しかもこの子に指摘されるとは思ってもみなくて、 私はかなりわかりやすく顔を赤くしたと思う。
芹香ちゃんは嬉しそうに笑みを深めると、私にしゃがみこむよう促し、こう耳打ちした。

「パパね、離婚と大失恋を経験してから、ちょっと恋に臆病になってるの。だからあやめ先生からアプローチした方がいいと思うよ!」
「せ、芹香ちゃん……」

楽しそうに集合場所へ戻っていった彼女に“大人をからかうな”とは言えなかった。
だって、ガラス張りの壁の向こうにあるギャラリーで、優しげに芹香ちゃんを見つめる彼の姿を見るだけで、胸がドキンと跳ねる。
これは恋だって、そろそろ認めなきゃならない時期。
彼女の言うことが本当なら、私からなにか行動を起こさなきゃ、いけないんだ。

スパイシーな彼

それからというもの、いきなり馴れ馴れしくするのはさすがに不審だし、と、芹香ちゃんの話題でそれとなく話しかけてみて、そこから世間話程度には話題が広がるようになった。
けれど与えられた時間はほんの数分。
レッスン前、芹香ちゃんを含めスクールの生徒たちが更衣室で着替えている間だけ、ギャラリーの椅子に座る彼の隣に私はジャージ姿で立つのだ。

彼の名は徳永健吾(とくながけんご)さんといって、私より八つ年上の三十六歳。
この施設からも近いアロマショップとカフェのオーナーをしているらしい。

「アロマショップ……だからいい香りがするんですね、徳永さん」
私ははにかみながらそう言った。
実はいつも気になっていたんだ。
彼が動く度に、スパイシーでセクシーな香りが周りに漂うこと。

「そうですね、仕事柄香りには人一倍興味があります。今つけてるのは香水なんですけどね。あ、もしかしてきついですか?」
「いえっ! むしろ好きです!」
って。ちょっと、力んで言い過ぎたかも……
焦って視線をあちこちに泳がせる私。
好き、って。別に深い意味があったわけでは……
いや、本当はあるんだけど。
急に挙動不審になった私を見て、徳永さんは切れ長の目をさらに細めてクスクスと笑った。

「あやめ先生には、甘い香りが似合いそうだ」
「……え?」
「いや、似合うというより……僕が求めてるだけなのかもしれないけど。 ちょっと苦い経験が多すぎて、虫歯になるくらい甘いものに、何も考えず浸ってみたいんです」

徳永さんは相変わらず微笑んでいたけど、芹香ちゃんから聞いた話のせいもあってか、私には寂しげに見えて仕方なかった。
だから、口を開いたらこう言ってた。
「あの……徳永さん。今度お暇な日ってあったりします?」

スイートな私

徳永さんはとても忙しい人らしく、会う約束ができたのはひと月後のことだった。
でも、私にとってはちょうどよかった。
彼が欲しがっている“甘いもの”になる準備期間に、そのひと月を充てられたからだ。

「――うん、髪型よし」
出掛ける直前、鏡に自分を映して最終チェックをする。
プールの塩素で色が抜け、パサつき気味だった髪は落ち着いたブラウンに染め、長さも肩上で揃えた。
首を横に振れば、ふわふわと揺れる動きがいい感じ。
メイクは、ちょっと年齢のわりに幼めに、チークやアイシャドウにはパステルカラーを選んだ。
唇の潤いも、ばっちり。

最後の仕上げにと棚の引き出しから取り出したのは、ピンク色のボトルが可愛い買ったばかりのフレグランス。
これは、子供の頃に誰もが大好きだった、甘いお菓子の香りがするんだ。
プシュ、と手首にひと押し。
それから首筋や、耳の後ろに広げる。
最後にシフォン素材の柔らかいスカートを少しだけめくって、太ももの裏側にも香りを忍ばせた。

――これは、私から彼へのメッセージ。
食べたかったら食べてもいいよっていう、密やかな甘いサイン。
どうか彼のお菓子になれますように。
私はそう願ってから、軽やかな足取りで家を出た。

大きな噴水の前、少し離れた場所で何度も瞬きを繰り返す待ち合わせの相手。
どうやら別人だとでも思っているらしい。
それくらい極端な反応をしてくれると、こっちもお洒落してきた甲斐があるってものだ。
私は笑いを堪えながら、愛しの彼の元へ近づく。

「徳永さん」
「……ああ、やっぱりあやめ先生でしたか。すいません、ジロジロ見たりして」
「いえ。結構外で生徒さんとその保護者さんに会っても気づかれないこと多いので、慣れてますよ」

今日は特別に気合いが入っているとはいえ、それは本当のこと。
やっぱりいつもの水着スタイルじゃないと、皆ピンと来ないものらしいから。

「……それにしても」
自然に二人で並んで歩き出した瞬間、徳永さんがこちらを見て呟く。
「綺麗な方だとはわかってましたけど、予想以上すぎて……やばいな、これは」
最後のは独り言みたいに、視線をずらして言った徳永さん。
そんなこと言われたら、こっちだってやばいです。
その長い前髪をかき上げる姿とか……セクシーすぎて。

同じ職場にいる男性インストラクターが髪を伸ばしてた場合、不潔な印象を持ってしまって嫌なんだけどな。
やっぱり……好きな相手だからなのかな。

徳永さんの横顔を盗み見ていると胸は飽きることなく何度もときめいて、つけてきた香水が何倍にも甘くなっている気がした。

本当のあなたは…

お洒落だけれど気取らないビストロでランチをとって。
女性向けのロマンチックな恋愛映画を一緒に見て少し泣いて。
そして夕暮れ時には、彼のいきつけなのだという隠れ家風のワインバーに入った。

彼の選ぶものはどれも
“女性を喜ばせよう”という気遣いに満ちていて、それはとても嬉しいのだけれど、どこか他人行儀な気がして切なかった。

少しのワインで身体は温まり、太ももにつけた甘い香りはきっと今が食べ頃。
だけど、初めてのデートでそんな場所に香り付けするのは、もしかしたらやりすぎだったのかも……
徐々に酔いがまわってくると、そんな弱気な自分が顔を出してくる。
徳永さんの方も口数が減ってきていて、甘すぎる自分の香りを余計みじめに思い始めたときだった。

「……本当は、さ」
何杯目かのグラスを空にした徳永さんが、静かに呟く。
「こんな、紳士的な男じゃないんだ、僕は」
そしてカウンターに肘を突きながら、瞳に私の姿を映す。

紳士的じゃない――。
それは今日の彼とは真逆の姿だけれど……

「じゃあ、本当の徳永さんは……?」
私はそう聞きながら、カウンターの下で組んでいた脚をさりげなく組み替えた。

「――少なくとも、すぐ近くにこんな甘い香りをさせてる女の子がいるのに、悠長に酒を飲むなんてことはしない」
その発言に、私の心臓は一度大きく波打った。

……徳永さんは、気づいてる。
私から漂う香りも、そして私がどんな思いでそれを纏ってきたのかも。

「……でも、人生において重要な指輪を二度も返されるなんてことを経験してるから、どうも最近女性に対して強く出れなくてね」
「指輪……?」
「そう。一度目は元妻から結婚指輪を。二度目は結婚を考えていた女性から婚約指輪を。 これはもう俺の性格に問題があるとしか思えないでしょう?」
「そんなこと……!」

“ないです”って言いたいのに、私はそう言えるほど徳永さんのことを知らない。
でも、“知らないこと”は別に関係ない。
今日は甘いものに飢えている彼のお菓子になるために来たんだもの。
どうか何も考えずに、私を食べて安らいで欲しい……
私はグラスに残っていた赤ワインを飲み干すと、カウンターチェアから立ち上がって言う。

「徳永さん、もう出ませんか?」
「出て……どこへ行くの?」
私が誘っているのだと理解してない様子の彼は、呑気にピスタチオを口に放り込んでいる。

「――私がもっと、甘くなれる場所です」
そうはっきりと口にすると、
ナッツを噛み砕いていた彼の細い顎の動きが止まった。
彼はまじめな顔になり私をじっと見つめてきたけれど、私も負けじと挑戦的な視線を送って見せた。

「そういう目をされると……僕は本気になるよ?」
「なってください、思う存分」
「……わかった。出よう」

とけあって、熱く甘く

淡々と会計を済ませ、お店を出たときの彼は“本当の徳永さん”だと思った。
私の手首を掴む力は強く、歩幅も合わせてくれない。
押し込まれるように乗せられたタクシーで連れていかれたのは、いかにもなラブホテル。

ついさっきまでの彼ならシンプルなシティホテルか、あるいは高級ホテルすら選びそうな雰囲気だったけれど、私にはこっちの方が嬉しかった。
安っぽい壁紙に囲まれ、わざとらしいピンクの照明に照らされた部屋に入ると、徳永さんは着ていたジャケットを床に脱ぎ捨てた。
高そうな物なのに、皺ができてしまうことも気にしない様子で。

そして目の上に垂れた前髪をかき上げると、ベッドの脇にぼんやり佇んでいた私を押し倒す。
ぎし、とスプリングが跳ね、すぐに徳永さんの熱い唇が降ってきた。

「ん、ん……っ」
唇の隙間になだれ込んでくる舌と一緒に、彼のスパイシーな香りが私の中に入って胸一杯に広がる。
そのせいで身体は火照り、私の香りも蒸発していく。
ゆっくり唇を移動させ、耳朶を噛んだ彼は吐息混じりにささやいた。

「……綿菓子、みたいだなきみは。甘くて、柔らかくて……」
「ん……そういう香りを選んだから……。徳永さんの、お菓子になりたくて」
かすれた声で答えると、首筋に滑り落ちた唇が、一ヶ所を強く吸い上げた。

「あ……! だめ、明日はスイミング、なのに……」
跡をつけられたら、すぐに周りに気づかれてしまう。
きっと、私たちが一緒にいることを知ってる芹香ちゃんにだって。

「……僕のお菓子をどう味わおうと、僕の勝手だろ?」
――ああ、やっとわかった。
本当の徳永さんって、こんなにも強引なひとなんだ。

「――きゃ!」
「……バーにいるとき気づいたけど、香水、こんな場所にもつけてきたのか」

突然抱え上げられたた太もも。
その裏に形のよい鼻をこすりつけながら、徳永さんが色気たっぷりの眼差しで私を見た。
背筋がぞくりとして、綿菓子の一部が甘く溶け出す感覚がする。

「……いっぱい、食べてください。その為につけてきたんです」
私が言うと、開かされた脚の向こうで徳永さんが妖しく微笑んだ。

「じゃあ……お言葉に甘えて」
「あ、徳永、さ――――」

言葉通りに、彼は私を隅々まで食べ尽くし、甘くしてあげる側であるはずの私の方が、何度もとろけそうな快感に襲われた。
溢れ出した蜜をすくって、その指を口に含み充分に味わってから、服を脱いだ徳永さんが私に覆い被さる。

「――あやめ」
彼は入ってくる瞬間、真剣な声で私の名を呼んだ。
幸せすぎて、思わず瞳から涙がこぼれる。
私、“ただの甘いもの”から、“あなたの大切なひと”に昇格できた――?

「―――んっ」
私の心の声に応じるように、唇を重ねてきた徳永さん。
角度を変えて何度も繰り返される情熱的なキス。
その間中ぶつかり合う腰からは、見えない火花が飛び散る。
そこで熱せられた私の香りと彼の香りが、混じりあって部屋中にたちこめた。

「ん、ぁぁっ……」
熱く熱く激しく甘く切ない快感の連続。
私たちはシーツを蹴飛ばしながら、お互いの香りを、汗ばむ肌に深く刻み込んだ。

恋人の証

二人の息づかいが落ち着いてきた頃、彼の腕の中で幸福な気だるさに浸りながら、私は尋ねた。

「今日って、芹香ちゃんは……?」
「ああ、うちの店の従業員に預かってもらってる」
アロマショップの従業員?
……それって、きっと。

「女性……ですよね?」
たっぷり甘い時間を過ごしておきながら、それでも小さな嫉妬はすぐに芽を出すから困る。
こんなに素敵な男性がオーナーだなんて、お店で働く人みんなが羨ましい。

「妬いてるの?」
わざと意地悪い口調で、徳永さんが言う。
けれど絶えず優しい手つきで私の前髪を梳いていて、そこにはちゃんと愛情が感じられた。

「大丈夫だよ。今、きみに贈る指輪について考えてたところなんだ。まだ知り合ったばかりだけど、“恋人の証”として贈らせてくれないかな。 今度は返されないように、きみを大切にする、必ず」
「徳永さん……」

私は滲んだ涙を隠すように、彼の裸の胸に顔を押し付けた。
そこには、だいぶ薄れてしまったけれど、混じりあった二人分の香りが残っていた。
スパイシーな彼と、スイートな私。
これからもずっと、熱くて甘い二人でいられますように。
そう願いながら、彼のぬくもりの中でそっと瞳を閉じる。

――それにしても、首筋につけられた跡はどうしよう。
おませな彼の娘に明日、それを指摘されるのかと思うと、私は恥ずかしさで顔から火が出そうになるのだった。

来海シスコさん/著

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