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小説サイト投稿作品53 「キスしたくなる唇 前編」
「キスしたくなる唇 前編」
〜LC編集部のおすすめポイント〜
出版社に勤める千秋は仕事のミスの埋め合わせとして「好みの唇」の街頭アンケートを担当することになった。
10種類の唇の写真の中で、千秋が目に留まった写真。
それは、彼女のハトコであり、人気のモデル・怜央の唇で…?
もしも自分のハトコがイケメンで長身の人気モデルだったら…?
想像するだけでドキドキしてしまいます!怜央と主人公の再会シーンに注目♪
千秋Side:編集長命令
「ええっ!わたしが路上アンケートに行くんですか?」
出社した直後、編集長に呼ばれて指示された内容に唖然となる。
「これくらい簡単でしょう?」
指示書を読むとその文字に目が点になり、何かの間違いじゃないかと目をこすってみる。
「こ、こんな内容の街頭アンケートだなんて…」
わたしはがっくりと肩を落とす。
「4月の特集記事に使うのよ。よろしくね」
アラフォーで未婚の編集長は、頬にかかるボブヘアの髪を耳に掛けながらそっけなく言う。
20代から30代に人気のある月刊誌。ファッションもあれば、きわどいえっち特集などもあったり。
入社して3年目のわたしはファッション部門の担当。
今まで特に大きなミスをしたことがなかったのに、数日前、締め切りギリギリの写真が入っているUSBを水たまりに落としてしまったのだ。
もう一度、カメラマンのところへ頭を下げに行き、嫌味を言われながら写真をもらい、徹夜で編集作業をした。よって、編集長のお怒りを買い、普段はアルバイトがやる仕事をペナルティーとして指示されたのだ。
「あ、これはアンケートに必要な道具よ」
大きな黒いトートバッグを渡される。
「必要なものは全部そこに入っているから。期限は4日よ。そのあいだに男女100人ずつのアンケートを取りなさい。行っていいわ」
わたしは編集長に頭を下げ、部屋を出た。自分の机に戻ると、トートバッグの中身をおそるおそる出してみる。
企画が企画だけにどんなものが出てくるのか。特にフリップが気になる。まだ裏返しのままで何が書かれているのか。
「それどうしたの?あ、千秋はカフェオレでよかったよね?」
取材から戻ってきた3年先輩の三井さんが、途中で買ってきたカフェオレをわたしに差出しながら聞いてくる。
「はいっ。ありがとうございます」
近くのコーヒーショップのカフェオレは、やはり缶のものとは全然味が違う。一口飲むと温かさが胃に染みわたりホッとする。三井さんも自分用のブラックコーヒーを一口飲んでから、フリップを持ち上げる。
「なにこれ」
フリップにあるのは10マスに区切られ、それぞれのマスにあるのは唇だった。
その下にシールが貼れる場所がある。フリップは2枚。ひとつは男性の唇。
もうひとつは女性の唇のもの。いろいろな形の唇があるものだと、改めて思う。
千秋Side:彼の唇
「あ、この唇いいね〜食べちゃいたいくらい」
三井さんが指をさしたのは、艶やかで上下ともぷっくりとした唇。ぷっくりしているのはグロスのせいもあるだろう。
「三井さん、これは女性ですよ。食べちゃいたいくらいって……」
「わたしが男だったらこんな唇たまらないってね。そう言えば千秋の唇もそそられるわね」
「そんな目で見ていたんですか?三井さんってもしかしたらレ――」
「冗談よ。どれどれ、男性の唇も見てみようかな」
男性のフリップを持ち上げた三井さんは、真剣な表情でそれぞれの唇を見ている。
「この唇が好みだわ」
「えっと、6番ですね」
パラパラと指示書を見ていたわたしは、フリップの唇が誰のものなのか書かれている箇所に戻る。どの唇も今人気のあるタレント、モデルのものだった。
「6番、6番……」
6番って、怜央っ!?
「なに目を白黒させているのよ。6番は誰なの?」
強引に指示書を奪われ、三井さんは文字を目で追う。
「今人気絶頂のモデル、怜央じゃない!さすがわたしの見る目は違うわ」
自分の選んだ唇に満足そうだ。
「そんなに彼の唇がいいですか?」
「男だったら少し薄めの唇が好きなんだけど、怜央の少し厚みがある下唇は官能的じゃない?薄笑いの怜央ってセクシーよね」
「そうでしょうか」
「怜央を気に入らないって、千秋は変わっているわね。10人中7人は彼のことがいいって言うはずよ」
三井さんはありえないでしょうと、うっとり怜央の唇を見ている。
今話題に出ている怜央は現在、都内の芸術大学で油絵を学ぶモデル。
高校在学中に原宿でモデル事務所にスカウトされてから、あっという間に人気のトップモデルになった。
そんな有名人の彼はわたしの実家の隣に住んでいた。厳密に言えば怜央はわたしのハトコ。
従兄弟同士仲が良くて、隣に住んでいたからわたしと怜央は姉弟のように育ってきた。
現在、わたしもそうだけど、怜央は実家を出て都内のマンションに一人暮らし。
少しだけ血の繋がったハトコの怜央、小さい頃から可愛くて、しだいにカッコよく成長した。
雑誌で見かけるたびに彼は極上のイケメンになって…姉のような感情はいつしか恋心を抱くようになっていた。5歳も年下なのに。
怜央がどれだけカッコいいかなんて、三井さんに言われなくてもわかっている。
でも、三井さんの言葉を認めたら…行き場のない、心にとどめておかなくてはならない想いがどうしようもなくなりそうであまのじゃくになっていた。
現在、わたしも一人暮らしをしているから、怜央と会う確率は小指の爪ほどない。それはそれでいいと思う。
これはアイドルに憧れる気持ちと一緒なのだろうか。
5歳も年上のわたしになんか、怜央は相手にするわけがない。怜央にだけは知られたくない想いだ。
「ちーあーきー?物思いに耽っちゃってるよー?」
目の前で手を振られて、わたしはハッと我に返る。
「あ…」
「この仕事、いつまでなの?」
「そうだった!4日しかないんだった!行ってきます!カフェオレ、ごちそうさまでした!」
フリップをトートバッグに戻し、キャメル色のダウンを羽織ると部屋を出た。 向かった先は原宿。行き交う人に声をかける仕事なんてやったことはない。緊張する。 まず原宿駅周辺で20代後半と思われる女性に声をかけると、忙しいからと断られ、意気込んでいた気持ちがシュンとしぼんだ。
怜央Side:逢いたい人
「怜央、お疲れさまっ!」
黒のピーコートに袖を通しているところへ、さっきまで一緒に撮影していたモデルのアンジュが強引に腕を絡ませてきた。同い年でフランス人と日本人のハーフの彼女は、小さな頃からモデルで活躍している。
長いまつ毛に縁どられた大きな瞳の色はカラーコンタクトを使わずしてアンバー色。
こういう瞳に憧れる女の子たちはカラコンでしか手に入らないが、彼女は生まれもった美しさで見る人を魅了してきている。
2年前のモデルになったばかりの頃は挨拶をしても返してこなかった彼女が、最近よく話しかけてくるようになった。ようは駆け出しのモデルなんかは鼻にもかけないが、売れっ子になると愛想がよくなるステータス第一主義の女。
「怜央っ、これから2人だけで食事にいかない?」
絡んだ腕を、コート着用を理由に引き離す。
「すみません。これから用事があるんです。また誘ってください」
用事はなにもないが、スタッフが参加しない食事にはいかないようにしている。特に女性モデルとは。
「えーっ、用事があるんだぁ…」
ローズピンクのグロスが塗られた唇が子供のようにとがる。艶やかな唇はそのせいでたくさんの皺がよる。
彼女の唇を見るたびに、ある人を思い出す。ぽってりとした唇の形は好きな人の唇に似ている気がした。
「ざーんねん。怜央とゆっくりお話したかったな」
「お疲れ様でした」
アンジュから少し離れると、頭を軽く下げる。ドアへ向かいながらスタッフに挨拶をしながら部屋を出た。
黒縁のメガネをかけ、背中を軽く曲げ、俯き加減で足早に駅に向かう。そうすればモデルの怜央だとほとんど気づかれない。
千秋Side:偶然の出会い
「お時間は取らせません。アンケートよろしくお願いします」
この言葉を何十回言っただろう。ようやく35人。
「あと165人か…気が遠くなりそう」
「千秋さん、こんなところでなにやってるの?」
ぼそり呟いたところへ、少し低めの落ち着いた声に、わたしは飛び上がりそうになった。誰なのか、見なくてもわかる。
アンケート用紙に顔を落としていたわたしは小さく深呼吸し平静を装うと、顔を上げた。
「怜央、偶然だね」
顔を上げると、目の前に黒縁のメガネをかけた怜央が立っていた。
フリップにある怜央の唇を何度も見てしまったせいか、わたしの視線は生身のそこへ行ってしまう。
軽く笑っている唇に、三井さんの官能的、セクシーの言葉を思い出してしまう。
たしかにちょっと大きめの唇で…ぱくりと食べられて――
そこでわたしは我に返る。なんてことを考えちゃってるのっ!ありえないっつーの。
妄想を働かせてしまったわたしは怜央の目が見られなくなる。
「千秋さん、どうしたの?なんか変じゃない?」
「そ、そんなことないよ。怜央こそ、大丈夫なの?こんなに目立つところにいて」
「それよりなにしてるのって聞いたんだけど?」
怜央はわたしが小脇に抱えていたフリップを持ち上げた。
「あっ!怜央っ!」
すでに遅し。怜央は涼しげな瞳で男性の唇フリップを見ている。
「仕事のアンケートなの。どんな唇が好きかって言う」
「ふ〜ん。俺も答えようか?」
「怜央も20代か。うん。お願い」
女性のフリップを出して見せる。怜央は一通り目を通している。女性が羨ましくなるほど長いまつ毛。
「8番がいいな。千秋さんの唇に似ているね」
「そうかな」
平静を装うものの、わたしの唇に似た唇が怜央の好み?寒空の下、凍るように冷たかった頬が火照ってくる。
『あれ、モデルの怜央じゃない?』
そこへわたしたちの耳にそんな声が聞こえてきた。
「まずい。バレた。千秋さん、走ろう」
「えっ!?ちょ、ちょっと!」
怜央はフリップを小脇に抱え、わたしの手を取ると走り出した。そうなると走るしかなく――
「はぁ…はぁ…っは…、ど、うし…て…」
全速力で走れたのはジーンズとスニーカーのおかげだけど、運動不足のわたしは全力で息切れ中。
「大丈夫?」
怜央の息が上がっていないのが憎たらしい。
「どうし…っは…て…わたしま…逃げなきゃならないのよ」
「あ…なり行きで」
あっけらかんと笑う怜央。
「腹減ったんだけど、どこか入ろうよ」
たしかに19時を回っており、わたしのお腹も不満を言いそう。でも、口から出た言葉は「いやよ」だった。
「千秋さん、時間ないの?」
ちょっとがっかりした怜央に胸がきゅんと締め付けられる。
「そうじゃなくて、お店に入っても周りが気になって落ち着かないでしょう?」
「まあね…じゃあ、どこかでテイクアウトしてうちで食べよう」
「怜央のうち?近くの公園とか…」
一瞬、身構えたのがわかったのか怜央は苦笑いになる。
「千秋さん、公園じゃ寒すぎて風邪をひいちゃうよ。俺の家だったら落ち着いて食事ができるから」
「だって、怜央のうちってここから遠いんじゃ…?」
「ファンに見つかって引っ越ししたんだ。この近くにね」
「そうだったんだ…」
「千秋さん?久しぶりに会ったんだから、ゆっくり話でもしようよ」
怜央の家に行ってみたい。その願望はある。おおいにある。
「うん。そうだね。久しぶりにあったんだからそれもいいよね」
「おっけ。じゃあ、なんか買ってくるよ」
「怜央はいいから!わたしが買ってくるよ」
また追い掛け回されたら、明日は確実に筋肉痛。
後編へつづく…