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小説サイト投稿作品36 「きみのそばに」


「きみのそばに」

〜LC編集部のおすすめポイント〜

幼なじみの彼と久し振りに顔を合わせ、一緒に帰宅する2人。
そのとき、突然彼の口から出た言葉に、今でも彼に恋心を抱く主人公は…

お互い大人になった、幼なじみならではの距離感がもどかしく感じます。

幼なじみの横顔

星が綺麗な、よく晴れた夜だった。暦の上では春なのに、日が落ちるとまだまだコートを手放せない。

「さぶ…」

つぶやくと、隣を歩く彼が少しだけ私のほうに身を寄せてきたような気がした。ドキリとして顔をあげると、彼が不思議そうに首をかしげる。
気のせい…か。小さく首を横に振ると、彼がコートのポケットに手を突っ込みながら正面を向いた。

「中学卒業して10年経つとか、信じられないよな。ほとんどのやつが、見た目も中身も全然変わってなかったし」
「そうだね」

何かを思い出したようにクスッと笑う彼の横顔を見上げる。ほとんど変わらない。
でも、きみはあの頃よりもずっと背が伸びて、大人の魅力が増してかっこよくなってるよ。
隣を歩く彼。私の幼なじみを見つめながら、心の中でため息をつく。

何年かぶりに開かれた地元の中学の同窓会。そこで私はひさしぶりに、幼なじみの彼と顔を合わせた。
近所に住んでいるから、通勤や帰宅途中にたまに見かける。その度に私は、彼に声をかけるかどうか迷う。
けれど迷っているうちにいつも、声をかけるタイミングを失う。

たまに目が合っても、彼は私に軽く会釈するだけで話しかけてこない。
彼は私と関わり合いたくないのかな。そう思うと怖くて、余計に声をかけられなくなる。

中学生くらいまではよく話してたし、たまに一緒に下校することもあったのに。いつ頃から彼と疎遠になってしまったんだろう。 彼と最後に話したのがいつなのかもよくわからない。
だから、同窓会が終わって彼に話しかけられたときはびっくりして心臓が止まるかと思った。

「一緒に帰ろ」

彼の言葉に、気持ちが舞い上がった。

信号は青

こうして一緒に歩いている今も、隣の彼を全身で意識してしまって、緊張して仕方がない。
気の利いた話のひとつでもできればいいのに、時折口を開く彼に短い相槌を打つことしかできない。せっかく、ひさしぶりに彼の隣を歩いてるのに。
それほど意味のある会話もしないままに、私たちの家の近所の大きな交差点にさしかかる。

夜遅い今の時間帯は車通りが少ないが、昼間はわりと交通量の多い交差点。その横断歩道を、子どもの頃はよく彼と手をつないで渡った。そのことを懐かしく思いながら、横断歩道の信号を見上げる。
信号は青。迷うことなく渡ろうとしたとき、彼が言った。

「俺さ、4月から異動で東京行くことになったんだ」
「え?」

彼の言葉に、横断歩道を渡りかけていた私の足が止まる。
彼がいなくなる――…最近ではまともに話をすることだってできていない、幼なじみとの希薄な関係。
それでも、遠くからたまに彼の姿を見かけるだけで、私の心は満たされていた。だけどもう、それすらもできなくなる。

点滅を始める青信号。渡らなければいけないのに、横断歩道の真ん中で立ち止まったまま動けない。

「走るぞ」

点滅した青信号が赤に変わる寸前。茫然と立ちつくす私の手を彼がつかんだ。温かい、大きな手のひら。それが私の手を包み込み、導くように引っ張る。

きみのそばに

信号が完全に赤になる前に横断歩道を駆け渡ると、彼が私を振り返って眉根を寄せた。

「お前、相変わらずぼんやりしてるな」
「そんなこと…」

反論しようと口を開くと、彼がまだつないだままの手を引っ張るようにして歩き始めた。

「ねぇ、もう横断歩道渡れたよ」

半ば彼に引きずられるようにして歩きながら、つながれたままの手に視線を落とす。

「渡り終わったら離さなきゃダメなのかよ」

私と同じようにつないだ手を見下ろしながら、彼が急に不機嫌な声を出す。

「そう、じゃないけど」

手をつながれるのは嬉しい。でも…私は彼の手を、子どもの頃のように無邪気に握り返せない。
うつむくと、彼がつないだ手の指をひとつずつ私の指に絡め合わせた。離れないように強く手を握りしめられて、心臓がきゅっと縮み上がる。
ねぇ、どういうつもり――…?顔をあげると、彼がうつむきながらつぶやいた。

「いつからだろ。子どもの頃みたいに簡単にお前の手、つなげなくなったの」

自嘲気味に笑う彼の声が切なく震える。

「あのさ。お前、俺と一緒に東京行かない?」

俄かに彼の言葉が信じられず、大きく目を見開く。そんな私を見て彼が笑った。

「何、その意外そうな顔」
「だって、いつの間にか話してくれなくなって。私、ずっと嫌われてると思ってた」
「そんなわけないだろ。だんだん子どもの頃みたいに純粋にお前に触れられなくなって、どうやってそばにいればいいのかわからなかった…」

苦しそうに微笑んだ彼が、空いているほうの手のひらで私の頬を包み込む。

「だけど、やっとつなげた手。このまま離したくない」

彼の言葉に、喉がキュッと締め付けられたみたいに狭くなる。息苦しい切なさに、自然と涙が込み上げた。
答えなんてずっと前から決まっている。幼い頃から恋い焦がれてやまない、私の大切なひと。

「私も、離したくない」

だからどうか、きみのそばにいさせてください――…

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