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小説サイト投稿作品3 「キミの理想」(ペンネーム:結城せつさん)


「キミの理想」(ペンネーム:結城せつさん)

〜LC編集部のおすすめポイント〜

とても穏やかな時間の流れが終始感じられる作品です。
幸せな空間が広がっていて、読んでいると幸せな気分になります。

将来のことをパートナーと話すことは、照れくさかったり、なかなか話しづらかったりしますがまどろみの中で理想を語る彼女がとても印象的。

彼女の言葉のひとつひとつがとても丁寧に紡がれていて、心に残るストーリーとなっています。
こんな素敵な彼女をもつ彼は幸せですね!

まどろみの中で紡ぐ理想

なんで誰が見ても魅力的な彼女が、俺の奥さんになってくれたんだろうと、時々不思議に思い、不安になることさえある。

「あれ可愛いよ、ね……いいな」

さっきまでの熱い情事に疲れたのか、俺の隣でうとうとと微睡んでいたはずの彼女が急に呟いた。
瞼が開いたり、閉じたりと、完全に目が覚めたわけではないらしいけれど、そんな姿が可愛くて堪らない。
そんな彼女をずっと見ていたくて、夢の世界へ旅立とうとするところを観察していたら、「可愛いよね」という、なんの脈絡ない発言が飛び出した。
きっと彼女は寝惚けていて、すでに半分は夢の中なんだろう。

「あれって?」

可愛いなと思いながら、起こさないように彼女の頭をそっと撫で、そして尋ねる。

「あれは、あれ。……手」
「手?」

俺がオウム返しをすると、目はほとんど開いていない彼女はふんわりと微笑みながらうんうんと頷いている。
彼女の頭にはどんな情景が浮かんでうるんだろうか。 俺も共有させて欲しい。

「羨ましい。……あんな風に、なりたいな」

そう呟くと、仰向けにしていた身体を俺の方に向けようと寝返り、そしてぴったりと俺に寄り添ってきた。
急に彼女の体温を直接感じて、俺の心臓は大きく跳ねた。

「手、繋ぐの」

俺の胸に顔を埋めながら、彼女は言葉を続けている。
普段強がってあんまり自分の気持ちを言わないし、少し天邪鬼な面がある彼女。
けれど、今の寝ぼけている彼女なら、心の声を、本心をちゃんと聞かせてくれそうな気がする。
彼女が日ごろ感じていることを知りたい気持ちが強くなり、ぼそぼそと聞き取り辛い小さな声に、耳を傾けた。

この手を離さない

「80歳過ぎてもあんな風に手を繋いで……いいな、羨ましいなって」

病院で作業療法士をしている彼女が、仕事で出会った患者さんの話なんだろう。
たぶん彼女が言いたいのは、80代の患者さん夫婦が手を繋いでいて、それが羨ましい、あんな風になりたいって思ったってことだろう。

「私の手は、今は優のもの。けれどね、子どもが出来たら子どものものになって、孫が出来たら孫のものになるの。 そして孫が大きくなった頃、私の手は寂しくなるの。そしたら、また私の手は優のもので、優の手は私のものにするの。 苦労もするだろうし、歳も重ねるから、あー、なんとなく分かってきた。その時にはカサカサで、しみもたくさんあって、血管なんか浮き出ちゃってさ、そしてしわしわなの。 お互いにそんな手でも、頑張ったねって優と繋いで、笑いあっていたいの。 そこからまた2人の時間をスタートさせるの。そんな人生を送りたいなって、それが叶ったら絶対に幸せだよね」

ベッドの中でもぞもぞと動いたと思うと、俺の手に温かいものが触れた。
もちろん、愛しい彼女の掌。

「……温かいね」

彼女はそう言って、本当に嬉しそうに笑った。
俺だって、その気持ちはちゃんと分かる。 どんなに歳をとっても、どんな姿になってもキミと笑いあっていけたらって思っているから。

けれど、今の彼女に言葉で言っても、きっと伝わらないだろう。
だから、俺もだよって想いを込めて、俺に触れる手をしっかりと捕まえて、そして指と指を絡めるように、離れないように、ぎゅっと固く繋いだ。
……本当に、温かくて、安心する。

「離さない、で、ね」

そう言うと彼女は今度こそ、スースーと静かに寝息をたて始めた。
安心しきった顔で、幸せそうに微笑んだままの表情で眠っている彼女を見ると、俺でいいんだなって安堵する。
そして、俺にも彼女しかいないんだという想いがまた一段と強くなる。

「……離さないからな。おやすみ、亜美」

彼女の耳元でそっと囁いた。聞こえていなくてもいい、俺が伝えたいだけだから。
あー、俺も眠くなってきた。
彼女の存在そのものが俺に安らぎを与えてくれるからかもしれない。
抗えないくらいの睡魔が襲ってくる。 手は繋いだまま、彼女の存在を、幸せを感じたまま、俺も瞼を閉じた。

今夜は、いい夢を見れそうだ。

結城せつさん/著

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