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小説サイト投稿作品5 「禁欲的大人の甘い言い訳」(ペンネーム:優月れいさん)


「禁欲的大人の甘い言い訳」(ペンネーム:優月れいさん)

〜LC編集部のおすすめポイント〜

大人同士の複雑な恋愛模様を描いた作品です。
フレグランスの魔法にかけられた2人は社内恋愛の壁を壊していきます。

上司の彼の言動は少し乱暴ではあるけれど、その言葉には優しさが含まれていてドキドキしてしまいました♪

素直に彼を愛したい、素直な彼に愛されたいという主人公の想いに胸を打たれました。
器用で不器用な2人のその後が気になってしまうちょっぴりオトナな物語です!

私だけに見せてくれる優しさ

彼はずっと無口だった。仕事のあいだ、必要なこと以外は何も話さない。
それなのに、こんなのって、ずるい…。こんなときだけ、饒舌になるなんて…。

「人が必死で理性を保とうとしているっていうのに…少し、悪戯が過ぎるんじゃないか?」

彼と仕事でパートナーを組まされることになったのは、10ヶ月ほど前だった。
私が短大卒なのに対して、彼は大卒。 優秀でいつも冷静な彼となぜ、私が組めることになったのかは未だに疑問だけど…。

もこみちさんバリのイケメンぶりを鼻にかけることもなく。 淡々と仕事をこなす彼に、私が尊敬以上の気持ちを抱くようになるまで、そんなに時間はかかからなかった。
いつも紳士だった人が初めて見せる顔は危険な香りが漂って、 強い力でベッドに抑えつけられた私は少し怖くさえなる。

仕事で泊ったビジネスホテルのベッドは清潔で簡素というだけで飾りもない。
そんな素っ気ない雰囲気も、あなたがルームライトを消して間接照明だけになれば、 白いシーツがセピアに浮かんで、そのシンプルさが却って夜を大人色に演出する。
柔らかな暖色系の灯りが、紳士から男に変わったあなたの顔を艶っぽく映し出す。

あなたのパートナーとして組んで以来、仕事中、本当は指が触れ合うだけでドキドキしていた。
時折、私だけに見せてくれる優しさや、ふとしたときに感じる視線に、もしかしたらあなたも私を…なんて期待したりした。
でも。

粛々と仕事をこなすあなたは結局、何時でも冷静で。 私と2人きりになっても呼吸1つ、乱れることが無かった。
だから、ずっと私の一方的な想いだと諦めていた。

甘くせつない魔法の香り

“悪いが、急ぎで資料を届けて欲しい…”

出張先のあなたから、別行動で社に居る私に届いた急な連絡。
めずらしい、あなたからのSOS。
既に時間は昼を過ぎ、おそらく今夜は宿泊になると覚悟した。

頼まれた資料をバッグにしまい、急いでロッカー・ルームで着替える私の首筋に、突然、吹きかけられたフレグランス。

「な、何?」

首を押さえて振り返ると、いたずらっぽく笑う親友がいた。

「魔法よ。マ・ホ・ウ。…今夜は一緒なんでしょ?」

ウインクをする彼女。
ほのかに香るのは、甘くて、いつもならつけない香り。
でも、爽やかで嫌味がない…ほんのりと切なくなるのはなぜだろう?

「な、何を言ってるのよ。仕事で行くんだから、一緒って言ったって関係ないわ。ホテルの部屋だって別だし」

赤くなって慌てて否定する私に、親友が優しく言った。

「彼から離れちゃだめよ。…うまくいくといいわね」
「もう…」

あのときは一蹴したけど、今、親友の言葉の意味が分かった。
きっと、この香りのせいだ。
2人を隔てていたのは『心の壁』…この香りは、その壁を取り払ってくれる小さな魔法。

彼の瞳に、私を欲する情熱が妖しくゆらぐ。それなら、私は、全てをゆだねてもいい。
胸が熱い…

不器用な恋人たち

得意先での仕事が片付いて、ホテルに戻ってからも、ついさっきまでは、このあなたの部屋で資料の整理を一緒にしていた。
それは、いつでも冷静なあなたらしくなく。
荒々しいキスもそこそこに強い力でベッドに押し倒された。

「君はパートナーで…部下だから…。なるべく考えないようにしていたんだ」

思いもかけないあなたの言葉。
ベッドの上。私を見下ろすあなたの顔。淡い照明に照らされたのは、端正な顔ににじむ苦悩。

普段、無口なあなたが、今夜はますます無口になっていた。
それどころか、いつも自信にあふれたあなたが、今日に限って目も合わせてくれようとしなかった。
何か気に障ったかと心配になった。

全ての整理が片付いても、あなたからいつもの「ありがとう」の微笑みはなく。
不安を抱えたまま、自分の部屋へ戻ろうと私が立ちあがったとき。
あなたも一緒に立ちあがった。ドアまで送ってくれるのかとあなたを振り仰いだその瞬間。
突然、腕の中へ抱きしめられた。驚く間もなく、気付けば唇が重なっていて…

“私だって…”
心の中で思うけど、言葉がうまく出てこない。形の良い唇からこぼれてくる次の言葉を、ただ、待つだけ。

「でも…。もう限界、らしい。君が好きだ。そして君も…僕を好きだろう?」

あなたの瞳が熱っぽく私を見つめ、いたたまれない気持ちになる。
あなたは、押さえつけていた私の手をそっと離し、私の髪に優しく指を差し入れる。

「…抱いていいか?」

あなたの指が私の髪を滑り、私は震える。

飾り気無いあなたの言葉に、私は目を閉じる。それが、私の答え。
待ちかねたように、首筋に痛いほど感じるあなたの唇…。ふうっと、熱い吐息まじりの言葉が漏れた。

「…いい香りだな…今日、君が来てからというもの、仕事に集中するのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ?…悪い子だ。 本来なら“仕事に集中できなくなる!”って叱りつけなきゃならないとこだけどな…君を抱く言いわけをくれて ありがとう」

言い終わらない内に、再び重なる唇はさっきよりも 深く 甘く。 絡み合う吐息は熱を帯びてゆく…

「…私も。好き…」

とても、単純でストレートな言葉。
でも、大人になると、その言葉は口にするのが難しくて。いろいろ考えすぎてしまうから。

首の後ろへと回されたあなたの指に力がこもり、強く引き寄せられてキスが さらに…深くなってゆく。
反対の手は背中にまわり、私を強く抱きしめてゆく。2人の躯が重なって、衣擦れの音だけが部屋にくぐもる。

きっと、人を好きになるって、もっと本能的なことで。
こんなふうに、何かのきっかけで素直になれるなら、「小さな魔法」にすがることも、きっと、悪いことじゃない。

肌を滑るあなたの指に、私は小さく声をあげる。想いのままに、あなたを感じたいから。
感じすぎて、どうしようもなく、あなたの唇にまた…キスをねだる。素直にあなたを愛したいから。
あなたの求めるまま、少しだけ奔放に振舞ってみる。素直なあなたに愛されたいから。

あなたに私は自分が「女」であることを思い知らされる。嫌というほど。
求められる幸せを、今、全身で感じて…

「小さな魔法は誰のため…?」

それはきっと器用すぎて、不器用な恋愛しかできない、愛らしい2人のため…。

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あらすじ

職場恋愛…大人の恋は複雑。
時折見せる優しさやそのしぐさに、ずっとお互い片思いをしていた不器用な二人は、魔法の香りに魅せられて素直になっていく…。

小説サイトベリーズカフェの投稿作品です。

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