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小説サイト投稿作品39 「Blue On Pink」
「Blue On Pink」
〜LC編集部のおすすめポイント〜
不倫関係を解消し、幸せになりたいと強く願う主人公の梨香。
そんなときに偶然、3つ年下で幼なじみの祥に出会い、傘に入れてほしいと声を掛けられ…
彼とまさかの展開に…!まるでドキドキして甘ずっぱい初恋のよう♪
会話の中で彼に訊いた地元で就職した理由に梨香の胸は高鳴り…こんな運命的な恋愛をしてみたいです!
幸せになりたい
飲みかけだったアイスコーヒーのグラスが、カランと頼りない音を立てた。
裏路地にある人目に付きにくいレトロな喫茶店。幸司に呼び出された私は、そこで別れ話を切り出された。
私より5歳年上で30歳になる幸司には、今から2年前、同じ社内で出会ったときには既に、奥さんと子どもがいて。
私が社会人になって初めての恋愛は、望んでもない「不倫」という形で始まった。
けれどそこには、学生時代に味わうことのなかった愛しさや切なさが溢れていて…。「悪いこと」だと分かっていても、まるで麻薬の様に私の心を虜にした。
先にひとり会計を済ませ、出て行く幸司の後ろ姿を見送る私の瞳に涙はなく…。
ここにいても仕方ないと思いながら、すぐ席を立つ気にもなれなくて、空っぽな胸と脱力する体をただ持て余していた。
カウンターでコーヒーを飲んでいた初老の男性が店を出て行き、気付けば客は私ひとり。
その光景に、世界からたったひとり取り残された気がして、言いようのない寂しさが一気に込み上げた。
「綺麗だ」と言われたくて、いろいろなことに気を遣ってきた自分が、滑稽にさえ思えてくる。
「幸せになりたい」と、いつだってそう願いながら、結局は幸せになれない恋愛を選んで、私はいったい何のために、必死で自分磨きをしていたのだろう…?
「バッカみたい…」
小声でポツリ呟いて、自嘲気味に笑った。
春の雨
自宅最寄駅の改札を抜けると、春の雨がアスファルトを静かに濡らしていた。
見上げた空は紺色を強くして、街にも灯がともり始めている。
突然の雨で足止めをくらう人達を横目に、私はバッグから折り畳み傘を広げると、そのままゆっくり歩き出した。
背後からパシュンと跳ねをあげる靴音がして、いきなり並んだ人影に、驚いた私の肩がビクンと揺れる。
傘越しに顔を上げると、見慣れないスーツ姿の祥がいた。祥は私の家の隣に住む3歳下の所謂、幼馴染み。
この春に東京の大学を卒業し就職を機に戻って来たと、母伝いには聞いていたけれど、そんな祥と顔を合わせたのは、今日が初めてだった。
私の記憶の中の祥は、<まだ高校の制服を着たままだったから、いつの間にか大人びた横顔に、変な緊張が背中を走る。
「傘ないから、入れて?」
昔と変わらないクールな表情で言われ、断るわけもいかず、咄嗟に頷いた。
「あっ、うん…」
祥の身長に合わせて、私は傘を持つ腕を高くあげながら、祥と話したのなんて、何年ぶりだろう…?と、しみじみ思う。
思春期の頃から、お互いときどき顔を合わすことはあっても、話なんて一切しなかったから、かれこれ10年ぶりくらい!?
沈黙の中、傘をたたく雨音が、やけに大きく耳に響く。
充満しつつある気まずさに堪え兼ねて、私は会話を探しながら、それを急いで言葉にした。
「土曜日も仕事なの?」
「ちょっと仕事が立て込んでて休日出勤」
「そうなんだ」
そしてまたすぐ訪れる沈黙。祥の口から「仕事」なんてセリフを聞くと、何かとても妙な感じだ。
まるで初めて会った人といるみたいなぎこちなさは、そうじゃないからもっとたちが悪い。
幼かった2人の日々が思い出され、あどけない分だけ、恥ずかしさも一緒に込み上げる。
Blue On Pink
少し呆け気味だった私に、祥が言った。
「もっとちゃんと持てよ。濡れるだろ」
傘を持つ私の手を、不意に祥の両手がギュッと包み込んで…。すり抜けようと思っても、祥によって捕まえられた私の手は、そこから少しも動けない。何気なく盗み見た祥の横顔は、昔ながらのポーカーフェイスで。
ひとり動揺している私は、それを悟られたくなくて、必死に装う平常心。何か話さなければ…何か…。
「東京の大学に行ったら、そのまま東京で就職する人多いのに、何で祥はしなかったの?」
ちょっぴりおどけて言った私に、一瞬の間を空けて祥が答えた。
「…梨香がいるから」
「えっ?」
思いもよらない答えに、うわずった声で、思わず訊き返してしまう。
「俺が中学に行けば、梨香は高校生で。俺が高校に行けば、梨香は大学生。どんなに追いかけてもさ、梨香に全然追いつけなくて。ずっとそれがもどかしかった…」
祥の思いがけない言葉を先読みして、心拍数がどんどん上がっていく。
祥は私から右手で傘を奪うと、左手でそっと私の右手を繋いだ。その傘は私が濡れないようにと、私寄りに差しかけられている。優しく包まれた右手を、私は振りほどくなんてできなかった。
幼馴染みだから…3歳も年下だから…。いろいろな理由や柵で自分を縛ってきたけれど…。
ずっと私はどこかで、こんな日が来るのを待っていたのかもしれない。そのことにたった今、嫌というほど気付かされた私がいた。
さっきまでブルーだったはずの心をピンク色したときめきが覆い尽くしていく。
不意に足を止めた祥が、見たこともない優しい眼差しを私へと向け、その横を何台かの車が、静かに跳ねを上げて通り過ぎた。
「これからは、幼馴染みとしてじゃなく、俺とずっと一緒にいて?」
小さな笑みをこぼして、それに頷いた私の手を、祥はしっかりと恋人繋ぎに握り直し、私達はまたゆっくりと歩き出す。
「梨香の手って、こんな柔らかかったっけ?」
「それどういう意味?」
ムクれた私に、祥が悪戯に笑って言った。
「褒めてんだって」
「嘘だぁ」
「ホント」
ふざけ合う2人の肩を優しい雨が濡らしていく。
今日までの日々に、無駄なことなんて、きっと何1つなかったんだ。
それはすべて祥と繋がるための大切なプロセス。私が心から、幸せになるために――。