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小説サイト投稿作品50 「個人的事情につき“お触り”厳禁」


「個人的事情につき“お触り”厳禁」

〜LC編集部のおすすめポイント〜

遠藤課長が髪の毛をキレイだと褒めてくれたことがきっかけで、手入れを欠かさずにするようになった主人公。
ある日、同僚の中村君に髪を触られているところを、課長に目撃されてしまい…

課長の束縛具合に胸キュン!
年上の「大人気ない行動」のギャップがポイントのお話です。

キレイだ

それはまだ。彼と私が今のような関係になる前。

「藍川って、髪キレイだな」

仕事中は仕事以外の話は一切しない彼…遠藤課長が私にくれた誉め言葉は、仕事とは全く関係のないものだった。
…が、しかし。単純な私は誉められたことが嬉しくて、以後、髪の手入れだけは怠っていない。たとえ仕事を忘れても、だ。

「とりあえず…これでよし、かな?」

“自分達が使ったら自分達で掃除する。ものを出したら片付ける、と同じだ”と課長が言ったのが始まり。
清掃スタッフがビル内をまわっているにも関わらず、ウチの課だけは自分達がいるフロアー、使った会議室、来客スペースなど 自分達で使う場所は当番制で掃除をしている。

しかも、この当番には課長自らも含まれているから誰も文句は言えない。
掃除後にチェックに来る課長をやり過ごすためだけに必死で掃除をしているだけなのだ。

そんなわけで、本日の掃除当番は私。さっきまで打ち合わせで使っていた会議室を掃除している。
窓ガラスはもちろん、桟も拭いた。使ったボードの裏も磨いた。入口のドアは二度拭きした。
課長のチェックは厳しくて、昔の鬼姑のようなことをやってくれる。
指先でツツッと埃チェックしてフッと吹く、みたいな。それで何度やり直しをさせられたことか。

…なんて。思い出し笑いをしそうになったとき。会議室に誰かが入ってきた。

「あれ、終わっちゃった?」

入ってきたのは同じ課の中村くん。彼もまた課長の姑根性に泣かされているひとりだ。

「うん、終わったよ」
「会議室広いから手伝おうと思ったんだけど、俺、用なし?」
「アハハ、ありがとー」
「…あ、ちょっと待って」

中村くんはおどけたように笑いながらも。何かに気付いたようにこっちに手を伸ばした。
その手はゆっくりと私の髪に触れ、中村くんは小さく指先で摘まんだ。

「髪、キレイなのに埃なんか付けてたらもったいねぇよ?」

そう言って指先で摘まんだ埃を払った中村くん。キレイ、なんて。前に課長に言われた単語。
だけど、その言葉は中村くん的に深い意味がある、というよりはただ見たまんま、そのまんまの感想を言っているだけみたい。
だからこそ時間をかけた手入れの努力を、認めてもらえた気がしたんだ。

誰のものだ

「…ありがとう」
「いやい…っ!?」

突然、中村くんの顔から血の気が引く。さらに目を見開くと、パクパクと口を開いた。

「中村くん?どうし…」
「藍川、掃除は終わったのか」

ドアに背を向けていた私の声を遮るように聞こえたのは。振り向くのが怖い…。不機嫌MAXな課長の声だった。

「か、課長…?」
「掃除は終わったのかと聞いている」
「お…終わりました!」

口調だけでも十分な威圧感を感じながら、私は課長の言葉に答えた。

「…中村」
「は、はいっ!」
「今朝話した企画の資料、今日中に仕上げてくれ」
「えっ、今日中ですか!?」
「…できるよな?」
「…っ、失礼しますっ!」

早くこの場から離れるのが賢明と。
威圧感たっぷりの課長の脇をすり抜けて、中村くんは足早に会議室から出ていった。

「…さて」
「…っ!」

会議室に入ってくる課長の不機嫌オーラが半端ない。中村くんがいたときと全然違う。
一歩、一歩と縮まる課長との距離に。一歩、一歩と後退りしたくなる。…いや、実際に後退りしていた。

「逃げるな」
「に…逃げてませんっ」

言葉で追い詰められ、体で追い詰められ。気付いたときには、さっき自分で磨いた窓ガラスに背をつけていた。
課長は私が背をつけているガラスと私とを挟み込むように。トンッと顔の横に腕をつき、顔を近づけてきた。

「…なぜ逃げる?」
「か…課長が近づいてくる、から…です…」
「近寄られて困ることでもあるのか?」
「いえ、それは…」

困るんじゃなくて、怖いんです。とりあえず、その禍々しいオーラをしまってはいただけないですか…?
(怖くて)言葉に出せない気持ちを、心の中で訴えていると。ふいに課長が私の髪を一束、手にした。

「…勝手に触らせるな」
「え…?」
「俺の許可なく触らせるな。…まぁ、許可なんて出すつもりもねぇけどな」

そう言うと、手にした髪に唇を落とし、その手を私の後頭部に差し込んだ。
そして、髪を指で梳きながらため息混じりに囁いた。
…それはもう。「好きだ」なんて言葉より、ある意味破壊的で。腰が落ちそうになった。

「髪の毛1本だって他の野郎になんか触らせてやるかよ。…お前はまるごと俺のもんだ」

腰が抜けそうな囁きの後も、課長は髪を梳き続ける。
後頭部辺りを撫でたり、毛先を弄ぶように指先にクルクル巻きつけてみたり。それはまるでテレ隠しのようで。私の方が恥ずかしくなってくる。

「…お前の髪、キレイだな」

優しく触れながら、いつかと同じように課長は誉めてくれた。
…あぁ、やっぱり。中村くんに言われた“キレイ”と、課長に言われる“キレイ”は根本的に違う。
課長に言われると“もっと言われたい”って。“もっとキレイになりたい”って思うんだ。

…もう、課長以外に触らせませんから。
だから。たまにでいいんで、こうして髪を撫でてくださいね…?

…大人気ないですね

彼女の髪の触り心地はたまらない。ツヤツヤで、サラサラで、柔らかくていつまで撫でていても飽きない。
そんな彼女の髪に中村は俺になんの断りもなく触れた。ふざけんな。彼女に触れていいのは俺だけだ。
だから今週中にあげればいい仕事を、今日中にやれと言ってやった。完全に嫌がらせだ。

「…課長」
「なんだよ」
「中村くん、髪についた埃をとってくれただけなんですよ…?」
「知るか。触ったことには変わりねぇだろ」
「…大人気ないですね」
「…うるせぇ」

チッ、と軽く舌打ちをした後。俺は彼女からプイッ、と顔を背けた。
そして彼女にも聞こえないくらい。小さく、小さく呟いた。

「触らせたくねぇもんは触らせたくねぇんだから仕方ねぇだろ」

そうしたら彼女は、小さく小さく囁いた。

「私が触って欲しいのは課長だけです…」
「…こんなとこで煽るな」

俺だって触りたいのはお前だけだ。そんな口に出せない気持ちを込めて。俺はまた彼女の髪に指を通した。

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