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小説サイト投稿作品45 「桜、舞い散る中で」


「桜、舞い散る中で」

〜LC編集部のおすすめポイント〜

幼馴染でひとつ年上の颯太と同棲中の舞衣。社会人の彼は毎日仕事で忙しく、あまり一緒に過ごす時間がない。
今日もせっかくの休日なのに、彼はまだ眠っている。
舞衣はひとり、お弁当を持って満開の桜が見ごろの公園へお花見に出かけるけれど…。

憧れの同棲だけど、実際にはすれ違いばかり…。そんな経験がある方もいるのではないでしょうか。
二人がこの壁をどのように乗り越えていくのか必見です。特にラストの展開にはドキドキしました…!

休みの日

颯太と同棲を始めて、半年が過ぎた。
季節は春。近くの公園では、お花見をする人たちを毎日のように見かける。
颯太は相変わらず仕事が忙しいみたいで殆ど、0時をまわって帰ってくる。早くても、22時を過ぎる。なのに、朝は私より早く起きて出社している。
最初は、彼が帰ってくるまで起きて待っていたけれど「先に寝てていいよ」という彼の優しい言葉に甘えて最近では、先に寝ていたりする。
休みの日には、その疲れが出るのか彼が起きるのは昼すぎ。

2人でどこかに出かけたい、とか、一緒にいたいとか、もちろんあるけれど日頃の彼を見ていると、身体の心配の方が上で少しでも休んで欲しいって思う。
そうすると、必然的に彼と話をする時間もなくてすれ違いの生活が続いている。
一緒にいる時間が欲しくて、同棲始めたのにこれじゃ変わらない。
だけど、仕事を頑張って泣き言を言わない彼の姿を見ているから私も寂しいって、泣いてばかりじゃいけない。

今日は、彼の休みの日。いつもと変わらず、彼は陽が高く上った今でもベッドの中ですやすやと眠っている。
掃除も終わって、マンションの広い窓からは心地よい風が吹き込んでくる。

「ん〜、天気もいいし公園に行ってお花見でもしようかな」

ベランダに出て、背伸びをしながら深呼吸を1つ。近くの公園に咲く桜の花びらが、風に乗ってひらひらと舞い込んできた。
こんないい日に、部屋に引きこもっているのは勿体無い。本当は、颯太と一緒に出かけたいけど…寝室に目を向け颯太の様子をうかがう。
けれど、深い眠りについているのか微動だにしない。まだ暫くは起きないかな。

私は、キッチンで颯太が起きたときにすぐに食べれるようにちょっとしたブランチを用意して、その残りを、お弁当箱に詰めて出かける用意をした。

ふたりでお花見

『おはよう。ゆっくり眠れた?近くの公園で、お花見してきます。ご飯食べて、ゆっくりしてね。舞衣』

テーブルに、メモを置いてマンションをでる。天気がいいから、ちょっと回り道をしよっかな。
そう思って、公園の途中にある河川敷を通ることにした。そこでは、元気のいい子供たちの声が聞こえ野球をしている姿があった。

「へぇ〜、こんなところで野球してるんだ。知らなかった」

小学生かな。一所懸命、泥だらけになってボールを追いかけている。可愛い。

そういえば、幼い頃颯太も草野球してたな。
小さい頃の颯太は一番体が小さくて、グローブもぶかぶかでなかなかボールが上手く取れなかった。それで、早く背を伸ばしたくて毎日欠かさず牛乳を飲んでたっけ。
あるとき見たバスケの試合で、選手のみんなが背が高くてバスケをすれば背が高くなる、そう思い込んで中学から始めたバスケ。
それが功を奏したのか、それとも成長期だっただけなのか、彼の身長はぐんぐん伸びて…みんなの注目の的になっていったんだよね。
なんだか、懐かしいな…

「みぃ〜つっけた」

そう後ろから声が聞こえたかと思うとふわっと抱きつかれた。よく知ってる、暖かな温もりと重み。

「起きたら、舞衣が居なくて探したよ。お花見に行くんじゃなかったの?」
「うん。そのつもりだったんだけど、アレみて懐かしくなって」
「あぁ…野球?」
「うん」
「そういえば、小さい頃ちょっとだけやってたなぁ」

そう言いながら、私の隣に腰掛ける颯太。暫く心地よい風に吹かれながら、2人で少年野球を見ていた。
そうしているうちに、キュルルっと隣からお腹の鳴る音が聞こえてきた。

「あれ、颯太。ご飯食べて来なかったの?」
「ん。だって一人で食べても、つまんないんだもん」
「じゃ、コレ、一緒に食べる?」

持ってきていた、お弁当を出して彼に見せる。すると、ワンコのように目をキラキラさせて「うん」と首を縦に振った。
今一瞬、尻尾をふりふりしているのが見えた気がした。
私ひとり分しか、お弁当に詰めて来なかったから足りるかな?なんて思いつつ、嬉しそうな颯太をみて、ついクスクス笑ってしまった。

桜のしたで

「じゃ、公園に行こっか」
「荷物、持つよ」

そう言って、お弁当が入った袋を持ってくれる颯太。そして空いた手には、颯太の温かくて大きな手が握られる。
公園に付くと、すでに日曜の昼間だけに家族連れの人達や、お花見をしに来た人たちで賑わっていた。
私達も、芝生の広間にある木陰に腰を下ろしてお弁当を広げる。
目の前には、広間の中心に大きく枝を広げる枝垂れ桜が満開になって咲いている。
それが時折吹いてくる風に揺られて、ピンク色の花ビラがひらひらと舞い落ちていく。

「綺麗だね」
「そうだね…ね、早く食べようよ」
「ふふっ。颯太は花より団子かぁ」

お弁当箱を取り出すと、颯太に渡した。待ってましたと言わんばかりに、お箸を取り出しお弁当のふたを開ける。

「あれ、舞衣は食べないの?」
「元々1人分しか持ってきてなかったし、颯太全部食べていいよ」
「でも…じゃ、はい」

そういって、お箸に摘まんで私の口元に差し出された卵焼き。これは、まさかこのまま食べろってことかな?

「あ〜ん」
「…」
「ほら、早く食べないと落としちゃうよ」
「…あ〜ん」

恥ずかしい…でも、なんだか嬉しい。赤くなる顔を抑えながら、もぐもぐ食べていると隣で、ウィンナーを頬張る颯太が見えた。

「はい、おにぎりも」
「いいよ、颯太食べなよ。お腹空いてるんでしょ?」
「いいの?」
「うん」

これ以上、あ〜ん攻撃は恥ずかしすぎて受けきれない。
それに、美味しそうに食べてくれる颯太の顔を見ていると嬉しくて、それだけでお腹いっぱいになりそうだ。
そうこうしているうちに、あっという間にお弁当箱は空になり、“ん〜”という声と共に伸びをして私の方に体を傾けてくる颯太。
そして、彼の頭がポフッと私の太腿に重みと共に乗っかった。

「甘えんぼさん」
「舞衣にだけ、だよ」
「そう?」
「うん…あぁ、気持ちいいね。こんなの久しぶりだ」

そうだね。いつも仕事仕事って、寝る間も惜しんで頑張っているもんね。
風に揺られ、サラサラと揺れる髪の毛を撫でると気持ち良さそうに、そっと目を閉じて思い切り息を吸い込んだ。

永遠の誓い

「あ…」
「どうしたの、舞衣」
「ううん。何でもない」

目の前の芝生に、おぼつかない足取りででも、しっかりと両足を踏ん張って立っている小さな男の子。
その男の子の周りにニコニコ笑っているお母さんと、お父さんらしき夫婦がいた。
いつか、あんなふうに颯太とその子供とこの公園で遊べる日が、来るといいなぁ。
なんて思いながら見つめているとふと、彼の髪を撫でていた手にそっと大きな手が重なってきた。

「ねぇ。舞衣も、欲しい?」
「え?」
「子ども」

驚いて、彼の方を見てみると眠っていると思っていた颯太が、私の方を見上げながら私の手を握り返していた。

「それは…いつかは、ね」

欲しい。欲しいに、決まってるじゃない。大好きな人の子供を産んで、家族になっていつまでも仲良く生きていきたいもの。

「じゃぁさ、つくろっか」
「え?」
「…俺達の、こ・ど・も」

むくっと起き上がって、耳元でささやかれる言葉。耳にかかる息がくすぐったくて、首をすくめてしまう。なのに、左手は握られたまま。

「いや?」
「そんなわけ…」
「じゃ、受け取ってくれる?」

そう言って、さっきまで握っていた私の手に小さな箱を乗せた。

これって、これって…もしかして――――――――――

「舞衣。俺と結婚して下さい」

パカッと開かれた小箱から出てきたのは、小さいけれどキラキラと光る透明な石が入ったプラチナリング。

目の前が霞んでいく。次から次へと、目から溢れてくる涙。何とか嗚咽が漏れないように、右手で口元を覆うけれどその手も涙で濡れていく。

「舞衣。俺、舞衣のこの手を一生離したくないんだ」
「…うん」
「寂しい思いさせちゃうかもしれないけど」
「…ん…」
「俺、頑張るから。だから、受け取ってくれる?」
「うん」

そっと小箱から取り出されるリングは私の左手の薬指へ。大きさも図ったようにピッタリ。

「泣かないで。可愛い顔が台無しだよ?」
「だって…」

涙が止まらない私の頬に両手を添えて、親指で拭ってくれる。そして、甘い言葉を囁いた。

「舞衣。大好きだよ」
「私も」
「…愛してる」

桜舞い散る中で、私たちはキスをした。永遠の誓いと共に――。

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