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小説サイト投稿作品59 「その左手は、私だけのもの 中編」
「その左手は、私だけのもの 中編」
〜LC編集部のおすすめポイント〜
久美子が長い間恋人を作らないのには大きな理由があった。
もうすぐ結婚してしまう年上の幼馴染・圭司のことを未だに振り切ることが出来ないから。
そんな時、ひょんなことから圭司の弟・蒼佑と急接近することになり…
普段は意地悪なのにふとした瞬間に優しくされると女性はドキドキしてしまいますよね。
憧れの幼馴染の年上のお兄ちゃんとその弟の狭間で揺れる思いに注目です!
忘れたいのに
「プレゼント……これでいいかな」
月日は流れ、三月下旬。
いよいよあと数週間で圭にぃと円花さんの結婚式の日を迎える。
その日に向けて休日の今日。一人で買い物に来ていた。
二人に渡すプレゼントを選びに――。
「ありがとうございましたー」
二人のために選んだプレゼントを綺麗にラッピングしてもらい、雑貨屋を出る。
だんだんと温かくなってきた今日この頃。日差しが少し強いとさえ感じてしまう。
――……あの日から蒼佑とは口をきいていないし、会ってもいない。
避けてしまっていた。
蒼佑も私と同じように、常に家にいることはなくて、時々会う圭にぃが愚痴をこぼすほど帰って来ないことが多いみたいだった。
圭にぃと私の関係は何一つ変わっていない。そして私の気持ちも――。
頑張って忘れたくて、何度も出会いの場に足を運んだものの、そう簡単にこの気持ちが消えてくれることはなかった。
だめと分かっていても、いつもと同じように優しく接してくれる圭にぃに甘えてしまい、昔と状況は何一つ変わっていない。
あっ、一つだけ変わったことがあった。
同期の綾が、村山課長と付き合い出したっていうこと。
申し訳ないけど、まさか村山課長が綾を好きだったなんて予想できなかった私は、
綾から聞いたとき、本当に驚いてしまった。
しかも村山課長、綾にぞっこんみたしだし…。あんなに綾には興味なさそうにしていたのに、
本当、男心は分からないなってしみじみと感じてしまった。
「…あれ、ここはどこ?」
考え事をして歩いてしまっていた私は、いつの間にか知らない道を歩いてしまっていた。
立ち止まり見るも、全くどこなのか分からない。
「……最悪」
なにやってるんだろ。この歳になって迷子とか、笑えないし。
鞄からスマホを取り出し、GPSで現在地を確認しようとした時、聞こえてきた歓声。
なんだろう…?
不思議に思いながらも、声のした方へと進んでいく。
そこはしばらく先まで沢山の緑で覆われていて、その隙間からは大きな噴水と、そして教会が見えた。
「結婚式場だ…」
知らなかった。こんなところにこんな素敵な結婚式場があったなんて。
偶然の発見に、ちょっと嬉しくなってしまい、どうせなら……と思い、声のした方へと足を進めていく。
すると見えてきた人影。幸せそうな二人と、その二人を祝福するように囲む人達。
「いいな……」
幸せそうなその姿に、自然と、漏れる言葉。
だけど近づくにつれ、見えてきた二人の姿に進む足は止まってしまった。
「……圭にぃ?」
間違いない。その幸せそうな二人は、圭にぃと円花さんだった。
どうして……?結婚式は、まだ先だったよね?リハーサル、とか?
でも……。
二人の幸せそうな姿を目の当たりにして、気付いてしまった。
私……悔しい。
みっともなく円花さんに嫉妬しているって。
それ以上二人の姿を見ていられなくなり、その場から逃げるように走り出す。
バカみたい。
なにが大好きなお姉ちゃんよ。全然そう思っていないじゃない。
円花さんが羨ましくて仕方ない。
憎くて仕方ない。
ずっと小さな頃からそばにいたのは、私なのに――。
なんで今、圭にぃの隣にいるのは円花さんなの?
私の方がずっと昔から圭にぃのこと好きだったのに――。
次第に涙が溢れてきてしまった。
あの笑顔だって、優しい左手のぬくもりだって、円花さんが現れなければ今もずっと私のものだったかもしれない。
円花さんさえ、現れなければ――!!自分の中に渦巻く黒い感情。
さっきから全力で走り続けていた足はもつれてしまい、そのまま身体は地面に叩きつけられてしまった。
「痛っ……」
そして同時に聞こえてきたのは、ガラスが割れる音。
音のした方を見ると、それはさっき私が二人に選んで買った結婚祝いのプレゼントだった。
「嘘……」
行き交う人は、皆私を見てくる。
だけどそんな視線なんて全く視界には入ってこない。ただ見つめるのはプレゼントだけ。
痛む身体を押さえてプレゼントを拾い上げると、ガシャンと音が響いた。
「…割れちゃった」
二人に選んだプレゼント。
それは円花さんが昔から大好きなテディベアの写真立て。
後ろには何枚か写真が入れられるアルバムになっている。
円花さんにぴったりだなって思って選んだのに……。
また涙が溢れてきてしまった。こんな自分自身が嫌で堪らない。
大好きな円花さんに、みっともなく嫉妬してしまう自分が嫌で堪らない。
もうやだ。圭にぃを好きな自分なんて――。どんどん嫌な自分になっていっちゃうから。
早く忘れたいのに、忘れられなくて苦しい。どうしたらいのか分からないよ。
プレゼントをギュッと握りしめたそのとき。
「久美子っ!!」
人混みの中、聞こえてきた声に、思わず顔を上げてしまった。
そしてだんだんと見えてきた人影。
「……蒼、佑?」
それは間違いなく蒼佑だった。
スーツ姿で、首もとにはオシャレなスカーフを巻いた蒼佑だった。
「久美子……」
私を見つけると、一瞬足が止まる蒼佑。だけどすぐに私の元へ駆け寄ってきた。
そして真っ直ぐ私を見つめ、心配そうに顔を歪める。
ぎこちない右手
「……なにやってんだよ、バカ……」
人混みの中だというのに、何の迷いもなく私をそっと抱き寄せる蒼佑。
一瞬、なにが起きたのか分からなかった。初めて直に触れる蒼佑の胸の中は、温かくて、男らしくて。
そんな蒼佑のぬくもりに、一気に現実へと引き戻され、咄嗟に蒼佑の身体を押し退けてしまった。
「なっ、なにするのよっ!」
初めて感じた蒼佑のぬくもりは、私をパニック状態に陥れる。
そんな私を見て、一瞬驚きながらもバツが悪そうにそっぽ向く蒼佑。
「……勘違いすんじゃねぇよ。見えたんだよ。……お前が走り去っていく姿が」
「え……」
「今日は家族だけの写真撮影と、リハーサルだったんだ。 ……なにタイミングよく現れてんだよ。本当にバカすぎ」
さっきから私をバカにする蒼佑に、自然と怒りが募っていく。
「なっ、なによ!そんな言い方しなくたっていいじゃない!……本当、知らなかったし、偶然だったんだから!」
泣いていたことを思い出し、すぐに涙を拭う。
恥ずかしいし、悔しい。よりによってこんな姿を蒼佑に見られるなんて!
まともに蒼佑の顔が見られなくなってしまった。
するとなぜか蒼佑も私と同じように地面に座り込み、首に纏っていたスカーフを外すと、そっと私に差し出してきた。
「ん」
「え……」
差し出しているくせに、こっちを見ようとしない蒼佑。
「……使えよ。ブスが余計にブスに見えて、見てらんねぇんだよ」
「なっ!悪かったわね!!ブスで!!」
奪うように蒼佑からスカーフを奪い、思いっきり鼻をかむ。
そんなの、私が一番よく分かってるわよ。
綾みたいに魅力的な唇があるわけでもないし、円花さんみたいに綺麗で優しいわけでもないってことくらい。
だけどいざ口に出して言われると、腹が立ってしまう。
「……あのさ、いい加減俺を頼れよ」
「は?なに言ってー……」
言葉が続かなかった。
だって蒼佑が私の頭を撫でるものだからーー。
圭にぃとは違い、右利きの蒼佑は、ぎこちなく私の頭を右手でそっと撫でる。
こっちを見ることなく、迷いながら――。今まで指を立てて痛いくらい乱暴に撫でてたくせに…。
「……お前さ、知ってる?」
「なっ、なにがよっ!」
蒼佑なんかに頭を撫でられているからって、こんなにもドキドキしている自分に気付かれたくなくて、ついいつものように喧嘩腰で言ってしまった。
「人って、自分以外の人間に弱音を吐かないと、いつまで経っても前になんて進めねぇんだってこと」
蒼佑……。
蒼佑の意外な言葉に驚いてしまった。
私の頭を撫でたまま、言葉を続ける蒼佑。
「別にいいんだよ、無理に兄貴のこと忘れなくたって。……好きなら好きでいいじゃん。 久美子が兄貴を好きだって、俺達はなにも変わらねぇんだから。 ……無理に忘れようとして、自爆してんじゃねぇよ。本当、……バカ久美子」
その言葉に、また涙が溢れてきてしまった。
「…なに、蒼佑のくせにっ」
私のこと、分かったようなこと言わないでほしい。
「俺だから言えんだよ。……お前がいつまでもそんなバカのままだったら、兄貴達、悲しむだろ?あいつら二人の脳味噌は全部お花畑かってくらい、のほほんとしてんだから」
「ぶっ!あっはは!なによそれ!圭にぃと円花さんに失礼じゃない!」
口ではそんなこと言ってるくせに、つい笑ってしまった。
「……バーカ。笑えんじゃん」
そう言うとさっきとは違い、いつものように指を立てて私の頭を撫でる蒼佑。
「痛っ!!」
いつもの痛みに、顔を歪めながら蒼佑を睨むと、蒼佑はそんな私を見て満足そうに笑った。
「久美子のその笑顔が、一番のプレゼントなんじゃねぇの?」
そう言って笑顔を見せる蒼佑に、一瞬にして視線を奪われてしまった。
不覚にも、かっこいいと思ってしまった。蒼佑を――。
「……それ、兄貴達へのプレゼントなんだろ?」
「あっ、うん」
割れてしまったプレゼントを指差す蒼佑。
「なんで俺に声かけねぇで、勝手に買いに行ってんだよ」
「だっ、だって…!」
私達、喧嘩みたいなことしていたし、気まずかったし。
文句を言いながら立ち上がる蒼佑に続いて、私も立ち上がった。
「痛っ」
だけどその瞬間、足が痛んでしまった。
痛む膝を見ると、両膝から出血していた。こりゃ痛むはずだ。
知らなかったぬくもり
「げっ。汚ね」
「ちょっとっ!?」
だけど口ではそんなこと言っているくせに、しゃがみ込み私の膝を見る蒼佑。
「スカーフ貸せ」
“貸せ”なんて言っておきながら、返事など聞かず、奪うように私の手から取る蒼佑。
すると、なんの迷いもなくスカーフを破くと、私の膝に巻き付け始めた。
「ちょっと蒼佑!?」
ギョッとする私。
「動くなバカ。うまく巻けねぇだろ?」
そんなこと言われたって……。さっきから感じる沢山の視線。
恥ずかしくなり下を向くと、見えたのは蒼佑の後頭部。大人になった蒼佑の頭を見るの、初めてかも……。
背の高い蒼佑に、いつも乱暴に撫でられる私の頭。そんな蒼佑の頭がこんなにも無防備な状態で目の前にある。
走ってきてくれたせいで、せっかくセットされた髪が乱れている。
短髪な蒼佑の髪……。無償の撫でてみたい衝動にかられる。
いまだに私の膝の応急処置をしてくれている蒼佑。我慢できず、両手で思いっきり蒼佑の頭をくしゃくしゃと撫でた。
私の突然の行為に予想以上に蒼佑は驚き、その勢いのまま尻餅をついてしまった。
「ごめん……」
まさかそんなに驚くとは思わなくて、つい謝ってしまったけど、さっきの蒼佑の驚いた顔を思い出すと、笑わずにはいられなかった。
「ッんだよ!急になにすんだよ!!」
ハッと我に返ったように、慌てて立ち上がる蒼佑。
そんな蒼佑を見て、さらに笑わずにはいられなくなる。
「あはは!あの蒼佑が尻餅とかっ!」
鮮明に思い出されるさっきの蒼佑の表情に笑いが止まらない。
蒼佑は笑う私に、顔が赤くなっていく一方。
それがまた笑いを誘っているって、蒼佑は分からないのかな。
「バカ久美子っ!いい加減にしろよなっ」
そう言うと反撃と言わんばかりに、両手で指を立てて、私の頭をいつものように乱暴に撫でる蒼佑。
「痛い痛い!!」
「バーカ。久美子のくせに、俺を笑うからだよ」
やっと手を離してくれたと思ったら、今度はさっきとは違い優しくポンポンと頭を撫でる蒼佑に、 どうしたらいいのか分からなくなってしまった。本当、困る。こんな優しい手、知らないから――。
「さて、帰るぞ」
「え…わぁっ!?」
急に変わる視界。全身を包み込む温かいぬくもり。そして目の前には至近距離に蒼佑の顔。
「色気のねぇ声」
フッと笑う蒼佑に、カッと熱くなる顔。
「信じられない!下ろしてよ!!」
「バカ!暴れんなよっ」
暴れるに決まってるじゃない!
だって今私は、蒼佑にお姫様抱っこされているんだから!!
「お前なぁ、その足でまともに歩いて帰れんのか!?」
グッと私に顔を近付けて言ってきた蒼佑に、それ以上何も言えなくなってしまった。
「……おんぶも痛いだろ?俺の足に膝が当たって」
溜息を漏らし、そして私の身体を持ち直して歩き出す蒼佑。
すれ違う人、みんな私達を見ては振り返っていく。
だけどそんな視線なんて全く気にすることなく、歩き続ける蒼佑。
「……二人へのプレゼント、俺も一緒に選ぶから」
「え?」
そんな時、聞こえてきた声に必要以上に高鳴る胸。
蒼佑は前を向いたまま言葉を続けた。
「俺も一緒に選んだ方が、久美子も気持ちよく渡せんじゃねぇの?」
「蒼佑……」
調子が狂う。いつもの蒼佑なのに、いつもの蒼佑じゃないから。
矛盾する考えに自分でもおかしいって思う。
それから何も話すことなく、
蒼佑に抱き抱えられたまま、ゆっくりと家に向かっていった。
「……どうもありがとう」
「あぁ、明日は筋肉痛だろうから湿布買って来いよな」
本当に家の前まで連れてきてくれた蒼佑。
下ろされ、素直に気持ちを伝えたというのに、やっぱりいつもの蒼佑に一瞬イラッとしてしまった。
「つーか、前みたいにちゃんと家に来いよ。……さっきも言ったけどお前がいつも通りじゃなかったら、あの二人は悲しむんだから」
「蒼佑…」
だからさっきみたいなこと、言ってくれたの?
信じられなくて蒼佑を見つめていると、照れたようにほんのり頬を赤く染めて豪快に私の頭を撫でる。
「分かったか!?バカ久美子」
「分かったわよ!」
そう言うと離してくれて、蒼佑はそのまま身体の向きを変える。
「…約束だかんな」
一言そう言うと、蒼佑は足早に家の中に入っていてしまった。
だけど私は、蒼佑がいなくなった今もこうしてこの場から動けずにいた。
さっき蒼佑に撫でられた頭が熱い……。そっと手を持っていき、自分の頭に触れる。
「知らなかった……」
蒼佑の手が、あんなにも温かいなんて知らなかったよ……。
しばらくの間、さっき蒼佑がくれた沢山のぬくもりと、そして言葉を思い出してはその場から動けずにいた。
そして蒼佑の言葉や、優しさに、あんなに自分でも嫌になるほど渦巻いていた黒い感情は、いつの間にかなくなっていたから――。
その左手は、私だけのもの 後編へつづく…