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小説サイト投稿作品8 「テノヒラ」(ペンネーム:春風紫音さん)
「テノヒラ」(ペンネーム:春風紫音さん)
〜LC編集部のおすすめポイント〜
なかなかうまくいかない就活生の彩をその掌でそっと包み込む先輩のお話です。
こちらまで自然と笑顔になれる作品です!
自分を見てくれる人がいる…
それだけで救われることもありますよね。
彩の気持ちにとても共感できました。
読み終わったあとも、その続きが気になってしまいました…!
私を選んでくれる人の存在
『このたびは当社へのご応募ありがとうございました。 慎重かつ厳正に審査いたしました結果、大変残念ですが、ご希望に添いかねる結果となりましたので、お知らせ申し上げます。 今回はご縁がありませんでしたが、当社にエントリーしていただきましたことに対し厚く御礼を申し上げるとともに、佐藤彩さんの今後のご活躍を心よりお祈り申し上げます』
また、ダメだった。
人ごみで立ち止まった私は、先ほど届いたメールを見て深くため息をつく。
もうメールを見るたびに落ち込むことをやめてしまった。
ため息を一つついて吐き出した分を、深呼吸で吸い込んで気持ちを切り替える。
予定のびっしり詰まった手帳を見ながら私は次の予定を確認する。
『14:00遥先輩とランチ』
「よっし、先輩に愚痴聞いてもらおう」
私は待ち合わせ場所に向かった。
「おー本当に就活生だな」
黒いスーツに身を包んだ私を見て先輩はそう言って笑った。
「就活生ですよー、全然うまく言ってないですけど」
声のトーンが思ったより低くなってしまった私を気遣うように
「その辺の話は聞いてあげるよ、お昼食べに行こうか」
先輩は大きな手を私の頭にポンとのせて、にっこりと笑ってくれた。
「おごってくださいね」
先輩のその行動に、ドキドキしてしまった私が照れ隠しでそういうと
「厚かましいなあ」
先輩はそう言いながら私の頭にのせていた手で髪の毛をぐちゃぐちゃにしようとする。
「ちょっと先輩、髪の毛乱れちゃいます!この後まだ面接あるのに」
「ごめんごめん、なんか髪の毛いい匂いしたから。よし、行こう」
先輩がそう言って乱れた髪をなおして、私の手を握ってくれるから、私はその手を握り返す。
そうして私は安心する、今ここに私を選んでくれる人がいることに。
自信が持てずに…
先輩が連れてきてくれたお店は、小ぢんまりしたオシャレな雰囲気の場所で、黒づくめの就活生な私は入るとき少し気おくれしていたけれど、 席に着いてメニューを見ているうちにそんな気持ちもなくなった。
「で、またダメだったってわけですか」
日替わりランチとハンバーグランチを注文した後メニューを閉じながら、先輩が話を振ってくれる。
「そういうわけです。結局私どの企業にも必要とされてないんですよ、何のとりえもないしそりゃあ私が人事でも私のことなんて採りたくないです」
だから私は、遠慮なく愚痴をこぼす。
どんなに引き摺らないようにと思っていてもやっぱりこう何度も不採用通知が来ると気持ちが落ち込む。
「うーん、彩はネガティブすぎるんだよ。この商品全然ダメだって思ってる人に、売りつけられたって買おうと思わないでしょ? それと同じで彩が自分のことダメだって思ってたら全然魅力が伝わらないよ」
だから、先輩の言うことが本当にその通りだとわかっていても私は
「そんなこと、わかってますよ。私だって自分に自信持ちたいんですけど、どうしたらいいかわからなくて。卑屈な性格は簡単に直せないんです」
どうしたらいいのか分からない、どうしたらいいか分からないんだ。
私のすべてを包み込んでくれる掌
うつむいてしまった私を気遣ってか、
「ところで彩今日は、ヘアコロンでもつけてるの」
先輩は話を変えてくれる。
「今日先輩と久しぶりのデートなのにスーツだからせめて髪だけでもと思って最近買ったもの使ってみたんですけど、きつかったですか」
「ううん、すごくいい匂いだよ。彩はいつも俺のために努力してくれるなって思って」
先輩のために努力しているわけではなくって私はただ、
「先輩に釣り合う女になりたいんです」
かっこよくて優しくて異性にも同性にも人気者の先輩に、釣り合う彼女になりたいから。
「釣り合うも何も、彩は俺の彼女だよ。でも彩は努力しようとする。俺はそこが彩のよさだと思うんだ。現状に満足せずもっと上を目指すところ。 あと必要なのは、本当に心の底から行きたいと思える会社に出会うことなんじゃない?」
「心の底から行きたいと思える会社、ですか」
「そう、それが見つかれば彩は絶対に努力できるから、自分に自信を持てるし、その気持ちは伝わるよ」
俺が彩のまっすぐな気持ちに魅かれたみたいにね、と少し照れくさそうに付け足す先輩の言葉に私も少し照れてしまうけれど、
「先輩、ありがとうございます」
こんな風に私を見てくれる人が、いる。
「よし。笑顔な、笑顔。彩は愛嬌があるから笑顔でいれば大丈夫、ほら笑って」
先輩がそう言ってまた私を元気づけるように頭を撫でてくれる。
その手の心地よい重みに私は自然と笑顔になれた。
大きくて、すべてを包み込んでくれるその掌が私を安心させてくれるから。