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恋愛とセックスのかけ算/29歳 里奈の場合
お昼時のタイムトリップ
PC画面の右上にあるクロックをちらっと見る。11時45分。里奈のオフィスがある高層ビルの裏手にあるガーデンスペースにランチ宅配のワゴンカーが来る時間。
「里奈さん、ランチ買ってきましょうか。今日は木曜だからアジアンランチですよー」
3年後輩の満里恵がアナスイの新作の長財布をかかえて声をかけてきた。
「ああ、満里恵ちゃん、外の空気吸いたいから一緒に行くわ。今日は朝からずっとエクセルと向かい合ってたから」
「まじですかあ。アメリカ人上司、きっついですよねー。たどたどしい日本語で資料作成とか頼まれると、イヤって言えませんよねー、Oh! No! You do it! とか断ってみたいわあ」
帰国子女の満里恵はカジュアルな英語を会話の端々に入れる。海外生活が長かったからか頭の中もカジュアルだ。よくふたりで六本木のバルに遊びに行く。里奈も満里恵も英語を話すので外国人のスマートなエリート陣からモテモテで、仕事もプライベートも満喫している。
ランチボックスを買うためにエレベーターに乗る。パリっとしたシャツに身を包んだ頭が切れそうなサラリーマン達がタブレットを覗きながら談笑している。頭脳明晰、将来は海外赴任するであろう優秀な男達の集まる巨大なビルディング。世の女性達が望む理想の結婚相手はいくらでもいる。
里奈には、この優秀な男達から選んだ拓郎という立派な彼氏がいる。それなのに今ひとつ結婚に踏み込めない。最高の学歴、3ヵ国語堪能。会社にこのまま残っても必ずや上のステイタスに上がれる、起業しても成功する素質と人脈を持っている最高の男。
ふたりで会っている時に結婚をにおわせる言葉を吐くが、ふたりとも煮え切らないのでいつの間にかうやむやになる。時々、拓郎を本当に好きなのかどうかわからなくなることがある。
里奈はエレベーターの中の男達をチラリと見ながら「拓郎より私に合う人はいないかしら」とちょっといやらしいことを考えてしまった。
オフィスの回転扉を過ぎて外に出ると冬の冷たい空気が心地よかった。長時間PCに向かっていると頭の中が沸騰する。仕事モードの頭を冷やすには外の空気は鎮静剤の役割をしてくれる。
赤いワゴンカーが止まっている。まだランチのピーク時間ではないので数人しか並んでいない。「ベトナム春巻き弁当」、マジックで木曜のメニューを書いた紙が貼ってある。
「ふたつつくださーい」
満里恵が間延びした声で注文する。
「はい。毎度」
低くて聞き覚えがある声。フっと販売員の顔を見上げた。
「将司? 中畑マサシくん?」
大学の同じゼミにいた将司が、弁当を売っていた。
「え?里奈?里奈か?」
キョトンとした顔つきで将司が里奈を見つめる。将司は昔より頬がこけ、シャープになった印象だ。浅黒い顔にヒゲがよく似合う。
「日本にいないって思ってたあ。なんか、大人っぽくなったね。お弁当屋さんやってるの?」
「おう。おととし帰って来たんだよ。大人っぽいってどうゆうことだよ。おっさんになったってことか?」
昔と変わらぬ口調で目元に皺を寄せながら答える。
「里奈さーん、知り合い?イケメンじゃないですかあ。LINE交換すれば?」
満里恵が肩をつっつく。
「そうね、お客さん並んでるからあとで連絡ちょうだい」
数秒の立ち話で、里奈は学生時代にタイムトリップしたような気持ちになった。
就活が始まるまでは、和気あいあいとばか騒ぎをしていた。朝までカラオケボックスにこもって議論したり、ひとり暮らしの子の家に集まって安い酒を飲んだり。その時から将司のことは気になっていた。
お互い恋人がいない状態なのに、いつもふたりでつるんでいた。馬が合うという言葉がぴったりのふたり。上昇志向が高い里奈は得意の語学力を活かして次々に外資系の大企業の内定を勝ち取った。
そんな頃、将司はいきなり、バッグパッカーの旅に出ると行ってベトナムやらバングラディシュなど途上国への旅へ出かけてしまい、消息が途絶えた。この数年感、SNSにも将司は引っかからないので忘れかけていた。
夜、将司からメールが飛んで来た。
「今日はびっくり。俺、今、西荻でエスニック料理屋の店長やってんだ。食いに来いよ」
里奈は「そうきたかー」と小さく叫んで、なんだか嬉しくなった。
気になりながらも会えなくなっていた将司との再会。しかもたくましい男になって目の前に現れた。スマホを握りしめて、胸をときめかせた夜だった。
涙
西荻は都心では見かけることがない渋い食事処がちらばっている。知る人ぞ知るラーメンの名店から、中高年世代に有名な作家が足しげく通う隠れ家店など、食通達の集う街。将司のエスニック料理屋は裏通りの路地に面していた。
「キーチャーン」という店名の意味はよくわからなかったが、赤いネオンサインで彩られた看板がよく目立つ。店に入るとガラムマサラのようなアジアの香辛料の香りが漂っていた。インテリアも全部本場の物を置いている。異国に足を踏み入れたような気がする。
タイ人のスタッフが「サワディカー」と言いながら迎えてくれる。里奈に気づいた将司が「ヨっ!」と手を上げる。
「すごいね、将司。かっこいいお店じゃない。アジアに来たみたい」
「だろ。そこ大事。なんちゃってじゃなくて、マジ感を大事にしてるんだ。なんせ、5年もあっちにいましたからね」
里奈は将司の鍛え上げられた胸板と腕を見て、男ってこんなに変わるものなのだと驚きを隠せない。ふらふらとモラトリアム期を過ごていた頃の将司はもういない。一国一城の主となって、店を切り盛りしている。
チキンのイエローカレーがおすすめというのでそれを食べながら小1時間、将司の働きぶりを見つめた。てきぱきと指示を出し、お客さんが入ってくると心からの笑顔で出迎える。
「将司、かっこいい…」
目を細めながら、つい拓郎との最近を思い浮かべた。
拓郎といる時はいつも仕事でのし上がるにはどうすればいいかの話題ばかり。ロマンチックな気分に浸りたい時も無視される。セックスも拓郎がしたいときに10分で終わるインスタントセックス。
「もっとずっと抱き合っていたい」とねだっても「時間がもったいない。ニューヨークの株価をチェックしたいからさ」だの「マレーシアのクライアントとスカイプするからちょっと黙ってて」だの色気のある返事が返ってきたことは一度もない。
拓郎と一緒にいて、女として満たされる経験がないことにだんだんと気づき始めていた。自分も拓郎の前では変に仕事モードでキャリアをひけらかしたいのかもしれない。拓郎に馬鹿にされたくないと知ったかぶりをすることもある。
拓郎といると見栄を張る。拓郎といると気持ちがやすらいでいない。ふと気づくとアジア音楽が心地よく耳元を這っている。異国の世界で、拓郎との関係のもどかしさがぼんやり浮かび上がって来ていた。
10時を過ぎると食事客より飲み客が増えて来た。アジアの輸入ビールやトロピカルドリンクをカウンターの中で手際よく準備しながら将司は里奈に目配せをした。
「里奈、これとっておきのカクテル。ジャカルタの友達に教えてもらったレシピ。飲んでみ」
グリーンの色が鮮やかなロングカクテル。グラスの端に花が一輪飾られている。
「きれい…」
「里奈の涙、って名前付けたんだ。」
「ええ? いつつけたの?」
「たった今。お前、なんかしょげてるぞ。考えごと多すぎじゃねえ?」
その言葉を聞いた瞬間、里奈はスっと涙をこぼした。こんな所で泣くなど思ってもいなかった。自分の気持ちが知らない間に浮き沈みしていることがわかった。高給待遇の大企業の一線で仕事をして、周りから賞賛を受けている。
彼氏も優秀で何ひとつマイナスポイントはないと思い込んでいた人生。自分はすごい頑張っていると言い聞かせながら奮い立つ日々。本当はやさしい言葉をかけてくれる人が欲しかったのか。
「ほら、やっぱ。里奈の涙」
「将司がそんなロマンチックなこと言うから、びっくりして涙が出たのよ。ビックリ涙ってやつだよ」
声も震えていた。人の前で涙を流すなど何年ぶりなのだろうか。気を張って生きていたのか、里奈は戸惑った。
将司がカウンター越しに人差し指で頬の涙を拭ってくれた。
「今日は店離れられないからさ、再来週休みのとき、会おう。隔週火曜は定休なんだ。涙のわけを聞こうじゃないの」
里奈は涙をためた目で将司をまっすぐ見つめてこっくり頷いた。
終わりと始まり

拓郎が夜遅く里奈の部屋にやって来た。
「止まってた案件が動いたんだ。契約まで持ち込めればボーナスは倍額。興奮したら会いたくなってさ」
拓郎の話は常に仕事の話題から始まる。
頭の中はピアノの鍵盤みたいになっていて、旋律はいつも白い鍵盤で弾くけれどたまに音を揺らせたくて黒鍵に指を伸ばす。里奈との恋は半音の切ない飾り音なのかもしれない。休日にジャズピアノを習っている里奈は、自分の恋をピアノにたとえてみた。
「拓郎、私のこと好き?」
拓郎がタブレットから目をそらさずに頭を上下に3度せわしく動かす。
「私のほう見て」
「ちょっと待てよ。FXのいい情報のっかてるサイト教えてもらったんだよ。里奈も買うか?」
里奈は言葉をなくした。
15分ほど経って、拓郎が里奈の座っているソファに近づいて里奈を抱き寄せた。里奈は腕組みしたまま、ブスっとしている。
「怒ってんの? ソーリーソーリー。アイラブユー」
ふざけた調子で里奈の首筋に噛み付く。
「やめて」
「なんでだよ。しようよ。久々じゃないか」
拓郎の右手が里奈の乳房をギュっと握る。
「いや」
里奈は腕を組んだまま、拓郎を睨みつけて声を振り絞った。きっとこれを言えば拓郎が怒ることがわかっていたけれど。
「タブレットと寝れば? あなたをよろこばせるものは仕事でしょ。仕事がうまくいきそうだから抱きたいなんて最低」
拓郎は目を見開いて怒りをあらわにした。テーブルの上にあったペットボトルの炭酸水を一気に飲み干し、息を吐いた。
「帰る」
里奈には何も言わず、ジャケットを手に持ったまま扉の方にドスドスと歩いた。玄関から声が聞こえた。
「調子のってんじゃないよ。俺みたいな有能な男と付き合えるなんて幸せだと思えよ。俺、4人の女に狙われてんだぞ」
終わった、と里奈は思った。どうして拓郎の本質を見落としていたのか。賢そうな立ち居振る舞いとさわやかな笑顔で、魔法にかけられていたのかもしれない。電子ピアノの電源を入れて、黒い鍵盤に指をそっと置いた。もの悲しい音がひとりの部屋にワオーンとこだました。
拓郎と言い合いをした週は、気持ちがどことなくブルーになっていた。底抜けに明るい満里恵のジョークにも笑えない。
「里奈さん、どうしちゃったんですかあ。拓郎先輩と喧嘩ですかあ?」
「まあ、そんなとこ…」
「ほかあたればいいじゃないですかあ。企画戦略室のマイケルとかかっこいいし、あ、この前、ホテルのバーで会った2世のケントもお嫁さん募集って言ってましたよう。リッツのレジデンス住んでるしい、資金力ありますよう」
「満里恵ちゃん、いいね。明るくて。私は日本の男性が好きだから」
「ふーん、じゃあ、木曜のお弁当屋さんは? すっごいかっこよかったあ。里奈さんのほうが養うことになるかもしんないけど、アリでしょう」
「そんなこと言っちゃだめよ。彼はお店持って頑張ってるんだから」
「おう! レアリー? じゃあ、乗り換えましょうよう」
満里恵とこれ以上話していると自分の結婚観をボコボコに殴打されそうな気がして里奈はその場をごまかして立ち去った。
そして、将司と会う火曜日がやってきた。拓郎とはまったく連絡をとっていない。拓郎は何も言わず別れるつもりなのかもしれないと薄々感じていた。将司に全部打ち明けたい、今の混乱している自分の気持ちと、意地をはって生きている辛さを。
将司が選んだ店は個室のある和食屋だった。竹やぶに覆われた石畳が続く入り口で、鳥の声のBGMが流れている。
「外で食べるときくらい、静かな店にしたいんだ」
いつもの目元に皺を寄せる笑顔を見て、一気に固まっていた心が緩められた。
障子を閉めて、畳の上に足を伸ばすと、ずっと2人でこの部屋に住んでいるような気持ちになる。
「落ち着くね」
「ニッポン人は畳だろう。家建てる時は畳の部屋しか作らないぞ」
「もう家建てるくらい貯まったの?」
「まだまだ。実は借金の方が多いから、家建てるのは10年後かなあ。でも、日本に建てるかはわかんないぞ。バンコクとかマニラとか」
「アジアに日本家屋?」
「そうだよ。渋いだろ」
話が尽きなかった。
ししゃもを指でつまんでかじりながら豪快に日本酒を飲む将司。海外で苦労した話、困っている人を助けた話、すべてが将司だ。大学時代の将司も苦労して大人になった将司もどちらも里奈の好きな将司だ。
里奈は、現実の自分の話もすべて吐き出した。将司は聞いているうちにまじめな顔つきになり、ポツンと言った。
「里奈の涙の理由、よくわかったよ。そいつとは別れろよ」
アジアな夜
将司の店に週2度、通うようになった。将司は店の経営と木曜の弁当事業で休む時間がない。将司のカウンターで手が空いているときに会話を楽しむ。
そんな穏やかな時間を重ねているうちに里奈はずいぶん心が落ち着いて、とげとげしさが取れて来た。仕事で見栄をはることも少なくなった。拓郎とは完全に自然消滅。社内でときおりすれ違っても軽く会釈をする程度だ。
将司から変な時間にメールが届いた。17時半。いつもなら店の仕込みでてんやわんやの時刻。
「熱出して動けない。悪いけどトマトジュース買って来てくれないか。会社終わってからでいいから」
里奈はあわてて、ドラッグストアで風邪薬とカイロ、スーパーでジュースとレトルトのおかゆを買い、タクシーで将司のアパートに向かった。将司のアパートは古い木造の作りでそれほど広くはないが、昔の日本家屋を思い出すような懐かしい部屋だった。
奥の畳の部屋に布団を敷いて将司が震えていた。
「寒気するんだよ。店は今日は臨時休業にしたから」
熱を測るとかなりある。将司は食事は店で食べるので部屋には小さな鍋とやかんくらいしか置いていない。
レトルトのおかゆを食べさせて薬を飲ませると将司はスっと眠りについた。気持ちよさそうな寝息を聞いていると里奈も緊張の糸が途切れて、眠くなって来た。将司の布団の上にもたれてウトウトしはじめた。
何時間眠ってしまったのか、気づくと将司の手のひらが里奈の頬を撫でている。
「あ、寝ちゃったみたいで…」
「里奈、わざわざありがとな」
「熱下がったの?」
「うん、あの薬、速攻効いたみたいだよ。もう寒気しないからだいじょぶ」
「よかった」
「里奈こそ、風邪ひくぞ。うたた寝なんかしたら…こっち来いよ、布団はいれよ」
将司が里奈の腕を遠慮がちに引っ張る。里奈はそっと掛け布団の中に滑り込む。将司の汗の匂いがいとおしい。
「やばい、風邪うつすかな、俺」
「いい。わたしも明日、会社休みたい」
将司は笑いながら里奈にキスをした。将司とたくさんの時間を過ごしたのにキスは初めて。将司の体温を全身に感じ、里奈はときめいた。
「ドキドキしてる」
「おまえ、そんなうぶじゃないだろ」
「意地悪…」
「脱がせていいか?」
里奈の返事を待たず、将司は里奈のセーターとスカートを手早く脱がせて畳の上に放り投げた。
「下着、今日ね、へんな下着着てる…」
里奈はこうなると予想だにしていなかったので、飾りも何もないマニッシュな下着を付けていた。
「下着なんか見ねえよ。里奈の裸が見たいんだ」
将司が頬にキスしながらつぶやく。単純に恥ずかしかった。将司にされるがままに裸になり、将司の背中に両腕を回した。将司の股間は熱を帯び、硬く盛り上がっている。パジャマの上からそっと触れ、「ここ、熱あるよ」と言う。
「じゃあ、お前が冷ましてくれよ」
将司は粋な答え方をする。里奈はパジャマとボクサーパンツをていねいに引きずりおろし、手のひらでコロコロと遊ばせた。
「ばっか、よけい熱出るぞ」
将司が笑う。そして里奈の胸の突端にかぶりつく。
「ハウっ…」
ざらつく舌の表面が突端に当たると得も言えぬ言えぬ心地よさが腰の骨に走る。
「ここも」
里奈が将司の左手を自分の茂みに引き寄せる。
「ここも、どうして欲しい?」
「おっぱいみたいに、舐めて欲しい」
将司が布団の中に頭を潜り込ませて里奈の下腹部に降りてゆく。脇腹、おへその周り、舌先が、里奈を味わって喜んでいるのがわかる。細く長く線を描き、レロレロとタッピングするように里奈の身体の上で遊ぶ。
里奈は天井を見上げて息をハアーっと吐く。里奈の茂みの中に舌先が侵入する。恥ずかしさと気持ちよさが入り乱れ、里奈は脚をキュウっと閉じる。
「そんな閉じたら、舐めてやらないぞ」
里奈はそっと太ももの力を緩める。緩めたすきを見計らってまた舌先が入ってくる。茂みを掻き分け、泉があふれる部分に到達する。その部分を舐めながら将司は指をスっと入れ込んだ。
「あうううっ」
里奈は今までにない快感を感じる。将司の舌と指が里奈の深部を責め立てる。
「もうだめ、将司、先に達しちゃうよ…」
「何度でも気持ちよくさせてやるよ」
将司の指が里奈の一番女の部分をクっとひと撫でする。瞬間、里奈はアジアの街角に自分が飛んで行ったような錯覚を覚えた。
スパイシーな香辛料の香り、熟れた果実を売る少女、どこまでも続く熱帯の青空。ブルルっと震えて将司にしがみつく。しがみつく男は将司でなくてはいけない。将司が必要だと強く感じる。
数分後、今度は指ではなく、将司の熱い塊が待ち構えたように茂みに突入してくる。
「あああ、また、またアジアに飛ぶ」
「飛んで行けよ、遠くに…」
将司の動きが里奈を魅了する。
将司の太い腕が里奈の小さな腰骨をかかえ、揺さぶる。
「力が抜ける…」
「里奈、おまえ、最高だ」
将司の動きがピタリと止まる。そしてふたりはまた死んだような眠りについた。
情熱的な夜の後は
将司と一夜を過ごしてから、里奈は自分も心もセックスもこんなに満たしてくれる男がいたことを純粋に喜んだ。拓郎は仕事に重きを置いて、里奈を置き去りにする。セックスでもそうだ、いつも里奈は置いてけぼり。
里奈の女の部分を舐められたことなどない。時間をかけて味わってくれたことなどない。でも、将司の良さをわかるためにも、自分が男を見る目を養うためにも拓郎との付き合いは無駄ではなかったと思えるようにもなった。
仕事で上に上がるのだけが理想の男ではない。稼ぎ出す男が完璧というわけではない。今までの里奈は理想像を間違えていた。里奈は反省していた。
昼休み、赤いカーディガンを肩にかけてエレベーターに乗ると、拓郎が後ろから乗って来た。
「あの…さ、里奈。」
「なあに。」
「俺が悪かったよ」
「こんなところであやまるの?」
「仕事終わったら、部屋、行っていいか?ちゃんとあやまる」
「もう、いい。あなたにとって私がどういう存在だったか理解できた気がする」
「誤解だから」
「誤解だからっていう言い訳には気をつけろって恋愛本に書いてあった」
里奈はクスっと笑う。
「なんだ。それ?」
拓郎のこわばった顔も少しだけゆるむ。4階でエレベーターが止まり、人が乗ってくる。ふたりは黙る。1階でエレベータが開く。
「外出?」
拓郎が里奈を追いかける。
「お弁当買いに行くだけよ。今日は木曜だからアジア弁当なの。スパイシーで病み付きになったんだ」
「一緒に喰おうよ」
里奈は立ち止まって拓郎の目を見ながらきっぱり言った。
「もう、あなたとは食事しない。職場のいい同僚っていう関係にしておきたいの。待ってる女性が4人いるんでしょ。彼女達と一緒にいてあげたらいいわ」
拓郎が息を飲んで立ちすくんだ。
里奈は小走りでワゴンに向かった。
「お弁当ひとつお願いします!」
「お客さん、すみません、売り切れちゃったんで、今日、うちの店来てくださいよ。西荻ですから。あ、割引しますんで」
将司が首にかけたタオルで額の汗を拭きながらニコっと笑った。
END
あらすじ
主人公・里奈には拓郎という立派な彼氏がいるが、今ひとつ結婚に踏み込めず、本当に好きなのかどうかわからなくなることがある。
そんなある日、学生時代の友人・将司と再会し…?