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【前編】恋愛とセックスのかけ算/27歳 椿の場合
椿の天敵
美容院で毛先をカットしてもらう。担当のおかっぱヘアの美容師が椿にあれこれ勧めてくる。
「トリートメントいかがですか。髪、ぱさついてますよ」
「そうですか。自宅でトリートメントしてますけど」
「あ!そしたらヘッドスパいかがです? アロマの香り選べて、ストレス吹き飛びますよ。私もやってもらったんすけど、チョーいい感じ。頭って意外にこってるんですよね」
『うるさい。クーポン割引率がいいので来てみたけど、安さで釣ってあれこれ上乗せする営業方式なんだな…』
椿はムカついてきた。
「あの…私、タウン誌の編集部にいるんです。レディエイトLADY8です。こちら、クーポン広告出稿していただいててありがたいんですけど、あれこれメニュー乗せると高額になりますよね。一人暮らしのOLさん特集には向きませんよね」
おかっぱヘアの美容師の手が止まる。美容師はいきなり無口になり、平穏な時間が過ぎてゆく。ハサミの音だけが耳に入る。これでよし。椿はファッション誌を読みながら安堵する。
女性向けのタウン誌レディエイトの編集部。月曜の朝から上司の日下部悦子に呼び出される。男口調で常に上から目線の上司。
「立野、うちの広告主様にとんでもない口をきいたそうね。気をつけなさい」
「日下部さん、私、客として行ったんですよ。居心地良くサービスを受けたかったから言ったんです」
「なら、うちの媒体名をわざわざ出すな! クレーム来た」
日下部にはこの調子で一日5回はグリグリやられる。入社して4年、椿の天敵だ。
最近は日下部の香水の香りがただようだけで鳥肌が立つ。偉そうな日下部。編集部全員を支配下に置こうとする日下部。椿は想像の中で日下部の藁人形に向かい長い釘を打ち付ける。
「日下部なんか、消えてしまえ。左遷されればいいんだ」
椿は、日下部の事を考えると食欲がなくなり、頭の中がクラクラするようになった。

時計を見ると22時過ぎている。椿は営業先に持っていく書類を修正していた。編集部には残業組の北尾宏明と国枝ミキがスタバの珈琲を片手にパソコンに向かっている。
「あー疲れた。もう限界。北尾くん、ミキちゃん、そろそろ帰ろうよ。スープストック立ち寄りってんのどう?」
ミキが赤いフレームの眼鏡をはずして伸びをする。
「賛成。チャウダー飲みたい。椿さん、残業すると翌朝お肌カサカサになりませんー?乾燥してるんですよね。この部屋」
軽い会話をしながらデスクの上を片付けていると鋭い声で名前を呼ばれた。
「立野!帰る前にちょっと来て、話がある」
またも日下部だ。日下部がまだ別室に残っていたのに気づいていなかった。
「あの、もう遅いから明日ではダメですか」
「3分ですむ」
ゴールドのブレスレットで権威を示すように前髪を掻き上げる。40過ぎているくせにこれからゴーコンでも行くような気合入りのデコネイル。鼻孔をツンと貫く強い香水。
嫌いだ。この女のすべてが嫌いだ。
自分がもしハリネズミなら、こいつに声をかけられると身体中から針を出して防御するんだろうなと、考える。
「立野、あなたのスパ体験企画、おもしろかった。アンカラスパが大きな広告出してくれそう。若手を育てるためにこの企画、国枝に指揮をとってもらうから」
椿は一瞬固まった。怒りが5秒後にこみ上げる。
「はあ?私の企画ですよ。アンカラスパさんはじめ、私が飛び込みで営業したスパさんが対象ですよ。なんで私がチーフじゃないんですか」
「だから言っただろ。国枝が見込みある新人だからこの企画をやらせて、自信をつけさせたい」
「私は4年目ですが、入社したばかりの頃は裏方仕事ばかりしてました。チーフなんかしたことないです」
日下部はじろりと椿を見た。
「だから、時代が変わった。方針も変わった。優秀な若手を育成しろと上から言われた」
返す言葉が出てこない。身体がピクピク震える。さっきまで沸騰していた頭の中に氷が投げ入れられたように感じる。吐き気がする。その場にしゃがみこむ。あとは覚えていない。
日下部の憎らしい顔が浮かんだり消えたりする。
突然襲ってきた無気力
翌日、ベッドから起き上がろうとすると身体に力が入らない。頭の中で「会社なんか行く必要ないよ」と誰かが命令する。
たしかに誰にも会いたくない。日下部にも国枝にも。椿は自分が何の仕事をしていたか思い出す気力もなかった。そのままベッドの中で目を閉じる。誰にも認められない自分が辛い。
一人で部屋にいることが寂しい。いつもなら実家に戻って母の手料理を食べ、妹の恋の悩みを聞いているとまたやる気になるのだが、家族にも会いたくない。一人暮らしの部屋の天井を見つめていると、涙が溢れ出てきた。
その日は会社に連絡もせずカーテンを締め切った部屋にこもっていた。スマホがバッグの中でふるえても気にならない。小さな冷蔵庫にはコンビニのサラダとオレンジゼリーがあったが、食べる気にもならない。ベッドに座ってため息を何度もつく。
眠ったようで眠ってないような夜が明けた。まだベッドから出ることができずボーッとしていた。玄関のチャイムがいきなり頭を打つ。何度も鳴り響いている。
頭が痛い。うるさい。チャイム鳴らさないで。のっそりベッドから這い出る。パジャマのままでドアを開けると国枝ミキと北尾が心配そうに立っていた。
「ミキちゃん、北尾くん…」
「椿さん、何かあったんですか。無断欠勤なんて、みんな心配してます。最近は事件も多いし、なんか事故に遭ったんじゃないかって日下部さんが…」
椿は日下部悦子の意地悪そうな顔を思い出した。
日下部がひいきにしているミキが目の前で眉をハの字にして心配してくれている。
「今日も行けない。悪い。帰って。絶不調なの」
北尾が言葉を返す。
「病院行くならついてきますよ。食べ物とか買ってきましょうか」
「いい。ありがと。眠くてしょうがないから寝る」
椿はドアをバタンと閉めた。頭痛薬を引き出しから取り出し、通常の倍の量をコーラで飲み干す。
そのままベッドになだれこむ。
次の日も、身体が重くて何もする気になれなかった。地震の時のために買い置きしていた焼きそばのカップ麺に湯を注ぐ。一口食べて吐き出す。
「やばいかな…わたし…」
3日ぶりにスマホを手に取る。充電するとメールやLINEがたくさん届いているのがわかる。一通も開かず「メンタルクリニック 世田谷」で検索する。
マンションから遠くに移動するのは無理だと思った。近くのクリニックに行ってみよう、やっと動く気になった。
化粧もせずバスに乗り、ヨロヨロと歩きながらたどりついたクリニック。かもめメンタルクリニック。
「心療内科、精神科」と書いてある。椿は自分がこんな病院に来るなど考えたこともなかった。アクティブで友達も多い。皆がいやがる飛び込み営業も笑顔でこなす。
この前の美容院のように嫌なことははっきり言えるタイプだ。元カレとはちょっとしたけんかが原因で一年前に別れたが、特に寂しいと感じたことはない。
それが、なぜこんな状態になったのだろうか。
自分の番号が呼ばれて診察室に入る。30代後半だろうか、長めの髪、黒縁の眼鏡をかけた恰幅のいいドクターがくるっと振り向いた。
「こんにちは。尾島です」
椅子から立ち上がって右手を差し出す。握手を求めているのか。病院でこんな迎え方をしてくれた医者はいなかったので戸惑う。椿はおどおどしながらそっと右手を差し出す。
尾島が手を握ったとき、フッと身体が軽くなった気がした。尾島の手はとてもふくよかであたたかかった。
尾島と話す時間は診察という感じのものではなかった。数日間、頭にこびりついていたサビが磨かれて少し取れたような気分。
「しばらく仕事は休んでみたらどうですか?朝、起きると身体に力が入らないんでしょう。無理にエンジンかけるのはよくない。エンジンがすり減ってしまっては、仕事に行ってもパフォーマンスはあがらないです。それでまた気持ちが辛くなったら悪循環だから」
声のトーンがやさしい。心地よく椿の耳に入リ込む。なんて、心やすらぐ声なのか。この声をずっと聴いていると眠れるんではないか、と考えていると急に眠気が襲ってきた。
「先生…なんだか眠くなりました…」
「そうですか、じゃあ、ベッドがある部屋があるので、そこで仮眠とってください。今、外に出て倒れると大変だから」
看護師に導かれ、薄暗い部屋のベッドに横たわる。枕に頭を落としたとたんに眠りについた。
夢の中には、周りの人が登場してきた。母親、妹、ミキ、北尾…みんなで食事をしていると、窓から悪魔が侵入して襲いかかる。
日下部悦子の口が裂けて、椿の喉元を喰おうとする。
「やめて!」
目が覚めた。目の前に尾島の顔が見える。冷たい水が入ったコップを椿に手渡す。
「二時間も寝ていましたよ。タクシー呼びましょう。一人で帰宅するのは危ない」
椿はハンカチで額の汗を拭いた。
「ありがとうございます。睡眠不足だったんですね」
「ええ。今夜も眠れないかもしれないから軽い安定剤を処方しておきます」
椿は尾島が、自分を救ってくれる天使に見えた。
尾島の言うとおり、会社を休職することにした。スパ企画も営業も何もしたくない。日下部の顔もミキの顔も見たくない。絶望感と焦燥感が交互にやってくる。
時々、頭痛を交えながら…。母にも友人にも連絡せず、一人の部屋で悶々と耐えた。心配をかけたくない。負け犬と呼ばれたくない。三日目に薬がなくなった。薬がない不安で心臓がドキドキし始める。
「やっぱ、まずい。安定剤ないと無理…」
椿はまたかもめメンタルクリニックに向かうバスに這うように乗り込んだ。
クリニックの色情魔
昼下がりのクリニック、やわらかな木漏れ日が差し込み、ホッとする。どこよりも守られた空間に思えてくる。待合室には主婦らしき女性が2人ソファでパラパラと雑誌をめくっている。
どうしてメンタルクリニックに来ているか無性に尋ねてみたい衝動を覚える。こういう病院に足を運ぶ人はどういう人達?人間関係に疲れた?幻想が見える?自分のように何もしたくなくなった?
聞くに聞けず、椿はいろいろと想像をした。隣に座っている水色の薄手のセーターを着た女性と目が合う。
濃い茶色に染めた髪をポニーテールにし、耳たぶに品がいいシルバーのピアスをつけている。
「こんにちは、ごきげんいかがですか」
むこうから話しかけられ、ドキッとする。
「はあ…ずっと不安感があって眠れないのでここに通っています。鬱かなって思って」
椿の方から状況を告げた。
「そうですか。鬱っぽいかたが多くなりましたね。世の中、忙しすぎるんですね」
「…あの、あなたは…?」
女性は開いていた雑誌を膝の上でパタンと閉じ、椿の耳元に顔を寄せて小声でつぶやく。
「衝動がおさえきれないの。したくてしたくてたまらない。今もうずいていて、雑誌でも読んでないと変になりそう。ここのドクターとしてみたいから来たの。恰幅のいい男でしょ。きっとアレも大きくておいしいわ…」
椿はとっさに身をよけた。座っている位置を20センチ離した。
こんな清純そうな、どこかいいとこの奥様の口から想像を絶する言葉が出てくる。どういうこと?というような眼で女性を見つめる。
「15番のかた、診察室にどうぞ」
もう一人の患者が診察室に入ってゆく。二人きりになった待合室でその女性が話し出す。
「あなたの診察終わるまで待っているから、お茶でもしましょうよ。患者同士で、楽しいじゃない。」
無視して、化粧室に向かう。胸がドキドキする。
「そういう人たちが来る病院なんだから、しょうがない…」
そう思い込む。
「ここのドクターとしたい…きっとアレ…おいしいわ」
思わず尾島の服を脱いだ身体を想像してしまう。ダメダメ。私は鬱っぽくてここに来た。色情魔じゃない。化粧室の洗面台で顔を洗った。頬がヒヤリとして我に返った。
ギョっとする申し出
番号を呼ばれて診察室に入る。尾島が眼鏡をはずしてカルテを見ている。背もたれの大きな椅子に寄りかかっているが、体格がよすぎて窮屈そうだ。
「ああ、立野椿さん。たてのさんって読むんでしたね。いかがですか。薬を飲んでいますか」
「はい。そろそろなくなるのでいただきたくて。あと診断書をお願いします。休職のために会社に提出します」
「職場から離れるんだと思っただけで気分がよくなる人もいますが、椿さんはまだ薬がないと眠れなさそうですか」
さっきのおかしな女性の言葉が頭を横切る。尾島があの女性と裸で絡み合っている絵柄。尾島のガッチリした下半身にあの女性が顔をうずめてフンフン息を漏らしている絵柄。
水で冷やしたはずの頬に熱が戻ってくる。
「あの、今日は薬と診断書だけで。もう帰ります」
待合室に戻ろうとすると、尾島が腕を掴んだ。
「待ってください。診察しないと薬の処方はできませんよ。少し話を聞かせて」
顔を赤らめながら尾島の問いに答える。まともに目を合わせられない。白衣の下に隠れる胸板、脇の下には汗をかいているのだろうか。汗はどんな匂いだろう。男を感じさせる脇毛、胸毛そして…下腹部の…。
思わず両手で顔を覆った。
「どうしました?」
尾島が不思議そうに問いかける。
「あ、気分が悪いので帰りたいんです」
逃げるように診察室を出た。尾島は追って来ない。会計をすませ外に出ると、あの女性が立っていた。
「そこにカフェがあるわ。アイスティー飲みましょう。私は波賀晶子といいます。クフフ」
見つめられてなぜか逃げることができない。洒落たカフェのテーブルに晶子と向い合って座ってしまった。診察室であらぬ妄想を繰り広げ、アイスティーが飲みたかったからかもしれない。
クラッシュドアイスがたっぷりはいったアイスティーを一気に飲む。晶子はしとやかに唇を細めて少しずつ飲んでいる。見た目はいいところの奥さん。真の姿はエッチな変態女。アイスティーをおかわりする。
「椿さん…って言ったわね。どうしてそんな喉乾いてるの。今日はそんなに暑くもないのに」
椿は答えることができない。
「クフフ。私達、患者の会作りましょう。かもめクリニックの尾島先生を愛している患者の会」
ギョっとする。
「ええと、あ、あ、晶子さん…私は鬱っぽくてかもめクリニックに通い始めたの。あなたとは症状が違います」
晶子がクルッと周りを見渡してまたクフフッと笑う。
「私、わかるの。同類の女。いつもここが濡れている、やられるのが好きな女…」
テーブルの下で足を開き、人差し指で指す。
「ちょっ、やめてください。へんな恰好するの」
来るのではなかったと思った。2杯めのアイスティーをまた一気に飲んで席を立つ。バス停に向かって小走りで歩く。晶子が走って付いてくる。
「やめてください。クリニックに伝えますよ」
「あなたが私のこと気になるのは同類だからよ。あなたも、今、グチュグチュのはず」
晶子がいきなり椿の両胸を後ろから掴む。椿は立ち止まる。雷が首筋から骨盤まで射抜いたような感触。
感じていた…
妄想と現実の交錯
マンションに戻ると、一気に気が抜けた。
気持ちを癒すために病院へ行ったのに、よけい乱されてしまった。会社に行かなくなり、シャワーも面倒くさくなっていたが、今日は熱い湯を浴びたかった。
下着を脱ぐ。湯を出しながら下半身に触る。薄い茂みに包まれた秘部は、晶子が言うようにぐっしょり湿っていた。
「何、これ…私、どうしちゃったの」
前の彼と別れて以来、セックスも一人プレジャーもしたことがない。そんな気分になったことはないのだ。
中指がズブズブと音を立てて体の奥に沈み込む。膣壁が小さな怪獣のように指に絡みつく。
「ああ、あああ、気持ちいい…」
シャワーの熱い湯を背中に浴びながら椿の意識は空を飛んだ。眼鏡をはずした尾島の顔が浮かぶ。尾島の太い腕がセクシーだ。晶子の「ここ、グジュグジュよ」という言葉が耳の奥でリフレインする。
その夜は薬を飲んでなんとか眠ることができた。
国枝ミキが毎日LINEを入れてくる。
「椿さん、買い物できてますか。何か買ってきてほしいものあったら調達しますよ」
「スパ企画、引き継ぎ頑張ってます。また相談させてくださいね」
無視してやる。胸くそ悪い。日下部もミキも編集部の全員が自分を馬鹿にしているに違いない。会社から逃げた奴だと。もう会社に来なくていいと思ってるのだ。
「あんたひとりいなくても、編集部は何も困りゃしないわ」
日下部の意地悪そうな声が天井から雨だれのように降り注ぐ。
椿の一日は、職場への怒りと、この先どうしたらいいんだという不安が錯綜し、ますます外に出たくなくなっている。コンビニにも行かないので食べるものが底をついた。
鏡を見ると目の下にクマを作って、眼光がないみすぼらしい自分が映る。
「まずい。ほんと、このままだとこの部屋で孤独死しちゃう…」
肌寒い季節になっている。椿は上着をひっかけ長財布だけ持ってコンビニに向かう。おにぎり、カップ麺、チルド食品、やきそば弁当、バスケットにめいっぱい詰める。コンビニの店員が無表情に会計をする。
「椿さん…立野椿さん」
聞き覚えのある声、振り向くと尾島が背後に立っていた。
「尾島先生ですか? どうしてここに?」
「この近所に住んでるから…椿さんの住所見たときご近所さんだと気づいてたけど。
ところで、顔色悪いし、寝てないように見える。薬を変えたほうがいいかな」
椿は暗闇の世界に尾島が助けに来てくれたような気になった。
「部屋から出たくなくて、通院もさぼってました」
「わかりますよ、その買い物の様子を見たら。でも、簡単なものばかり食べてちゃだめだ。バランスいいものを食べないと。よければ、そこの定食屋でご馳走します」
小梅食毒。椿もよく知っている定食屋だ。たしかに小梅食堂に行けば、野菜もたっぷり、納豆鉢もほうれんそうのおひたしもある。かわいらしい女子大生がバイトにはいっている。
日はサラリーマン客がビールを注文している雰囲気がいい定食屋。
「ありがとうございます。一人で外食する気になれなくて。先生と一緒なら食べれそうです」
鳥カツ親子煮定食と肉野菜炒め定食が並ぶ。わかめと葱の味噌汁もおいしそうだ。
湯気が出ている食事は何日ぶりだろうか。椿はご飯を少しずつ箸で口に中に入れた。
「明日にでもクリニックにいらっしゃい。食事中に診察はできないから」
尾島がやさしい眼差しを椿に向ける。単純に救われた気がする。
「あの…患者さんで晶子さんっているでしょう。苗字、忘れましたが。おとなしそうなきれいな人」
「ああ、ほかの患者さんの話は個人情報だから話せないなあ」
「そうですよね。私はメンタル病んでるって職場にはばれちゃいましたけど」
「大丈夫。最近は、偏見は少ないでしょう。ストレス社会だし。元気になってから、治りましたーって笑って出勤すれば誰も何も言わないですよ」
ハラリと涙が溢れ出た。職場の人のことを憎んで、怒って、勝手に落ち込んでいたことを客観的に見ることができた。
尾島の一言が、乾いてひび割れた心にジョロで水を与えてくれた。「好き」という気持ちが同時に芽生えた。
淫らな妄想
翌日、かもめクリニックの玄関の前に立つと、胸騒ぎがした。するとドアをあけて晶子が出てきた。白いブラウス、紺のスカート。
「あら、椿さん。会いたかったわ。クフフ。尾島先生とのマグワイ、今日も最高だったわ。アレもビンビンに震えてたからしゃぶってあげたわ」
トロリとした目つきで晶子は椿を見る。こういう病気でクリニックに来ている人だから相手にしないでおこう、椿は会釈して中に入った。
尾島と診察室で話をしていると、椿は自分の中に巣食うドロっとしたものを吐き出せる。職場の人間関係も、昇進したい野望も、どうでもいいものに見えてくる。尾島が話す時の唇の動きに見入る。
薄桃色のきれいな輪郭。チラリと覗く白い前歯。息が椿にかかる。尾島の中で生まれた息。男の香り。と、晶子の言葉が蘇る。「アレも大きくておいしいわ…」尾島の股間に目が行ってしまう。
「だめ、だめ、何ばかな事考えてんだ、私は」
風呂場で指を入れた感触を思い出す。下半身がこそばゆい。
「ドクターにアレつっこんでもらいなさいよ」
淫乱な晶子の声が響いてくる。座ったまま思わず足を開く。中からぬるい液体が湧き出すのを感じる。鼓動が速まる。
「どうかしましたか?」
冷静な尾島の声にビクっとする。
「あ、あの、また眠くなってきて。この前みたいに横にならせてくれませんか」
診察を終え、隣の部屋のベッドで目をつぶる。薄暗い部屋、隣の診察室には尾島がいる。右手が下着の中に吸い込まれるように入る。花びらを割って内側に指をあててみる。ぬるい液体は外に溢れる寸前だ。廊下から尾島の声が聞こえてくる。
「君達、そろそろ休憩していいよ」
事務員に声をかけている。あたたかな火の玉を転がすようなやさしい声。椿を救ってくれる天の声。
「あああ、先生、入れて、ここに入れてちょうだい」
花びらの中にある突起を指でグイグイ弄ぶ。
尾島の声がまた聞こえる。
「患者さんが寝てるから、僕は休憩室でパンでも食べる。買ってきてくれ」
「ううう、先生、いいわ。どういかなりそう。気持ちいいわ…」
椿はクリニックのベッドで背中をそらして悶えた。
あらすじ
椿は、タウン誌の編集部で働いている。
上司の日下部とはソリが合わず、天敵だと思っている。
ある日、自分が進めていた仕事を後輩に割り振られて、「優秀な若手を育てたいという方針からだ」と告げられ働く意欲を失う。
ショックを受け次の日、無断欠勤してしまう。
そして、安定剤を求めてメンタルクリニックへと向かう。