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恋愛とセックスのかけ算/28歳 真奈の場合


団地妻

来週入稿のwebマガジンの編集会議を終え、真奈は京王線に飛び乗った。ラッシュ時には満員の電車も平日の昼下がりはゆっくり座る事ができる。真奈はスマホをピンクのバックから取り出して一息つき、のんびり画面をタップした。

出版社の正社員で働いていた頃は終電帰りがほとんど。つり革につかまって寝ている酒臭いサラリーマンにつぶされそうになりながら「ったく、なんで私、こんな遅くまで仕事してるんだろ…」とブツブツ不満を言う日々。

真奈のライフスタイルが一転したのは取引先の広告部の渉(ワタル)と結婚してからだ。編集ができ、IT技術に強い真奈は週の半分は在宅ワークを許可された。そして郊外の団地住まいを選んだのだ。

仕事帰りにたまに遊びに行っていた南麻布や中目黒からは少し遠いけれど「団地の人妻」という肩書きが新鮮だと思った。京王線で都心から30分弱の緑の多い団地地帯。ワタルも気持ちが切り替わっていいと言う。ふたりとも郊外暮らしを気に入っている。

外から聞こえる団地の子供達の遊び声を聞きながらパソコンを立ち上げ、仕事を始める。真奈の仕事はwebマガジンのSNSの担当だ。旬の話題を提供したり、あぶない書き込みをチェックしたりと、狭い部屋にいても広い範囲の人とつながっている。

担当者マナッペという名前でコーナーも持っている。真奈が高校時代からはまっているコミックの話題を中心に、郊外限定のオシャレなお店特集を更新したり、なかなか人気のコーナーだ。

「都心部におしゃれ店が集まっているのは当然ですが、郊外で感じいいお店を見つけたら教えてください」と出すと東京、大阪、福岡など、郊外のレア情報が集まってくる。真奈は時々、そこで知ったカフェに自分が好きなコミックを持ち込んで至福の時を過ごす。

まさに家庭も仕事も充実。真奈はウバ茶をひと口ふくんで、「家庭も仕事も充実、最高にしあわせだわ…」とおだやかに笑った。

ワタルが珍しく早く帰って来た。

「なに? どーしちゃったの? まだ4時だよ」

真奈がパソコン画面から目をあげて大げさに声をかけた。

「いいじゃんか、いつもてっぺんまで会社にいる事が多いんだからさ、たまには直帰ありっしょ」

ワタルが冷蔵庫からコロナを取り出しながら笑う。

真奈はワタルの理知的なところと笑った時のかわいらしい目元に惚れて結婚を決めた。やわらかい業界にいるのに、時に硬派な事を言って人を納得させる。

欲を言えば、カラダの線がもっと細ければいい。真奈はコミックに出てくるようなシュっとした美形が好みだ。ワタルはラグビーをやっていただけあってズングリして筋肉がつきすぎている。

ワタルがコロナを飲み干して真奈が座っている仕事机に近寄って来た。

「なあ、明るいうちからするのもいいかも」

真奈の背中から手を回し、ギンガムのシャツのボタンを外し始めた。

「やだあ、今、仕事中なんだよ。送られて来た情報の信憑性を調べて…あっ…」

ワタルの手のひらがブラジャーの中にすべりこんできた。乳輪に沿って輪を書くように撫でている。

「ほうら、硬くなって来た」

真奈の後ろに立ったまま、ワタルがキスをしかける。ワタルの舌先と唾液が真奈の口に侵入する。

「う…ん…もう、ワタルったら」

真奈は立ち上がり、ワタルの手をひいてリビングのソファに横になった。

真奈のジーンズのジッパーをはずし、スっと脱がせる。真奈はワタルに万歳をさせてシャツをたくしあげる。上げた腕にシャツがひっかかったまま顔が見えない。裸の胸筋だけを見るとゾクゾクする。西陽がレースのカーテンの隙間から差し込んできてワタルの裸を光で包む。

「ワタル、エロイよ」

「だろ。ぼく、真奈ちゃんのおっぱいが大好きでちゅう」

ふざけながらブラジャーを上にずらして乳房を舐める。

「真奈、色気ないブラだな。スポーツブラ?」

「うん、普段着のときはいつもこれよ。ヒラヒラレースなんて必要ないっしょ」

ワタルがパンティーをずらしながらつまらなそうに言う。

「昔はさ、ウォーってなるくらいエロエロパンツ履いてたくせに。紫とか、赤のスケてるやつ」

「結婚したんだから、勝負下着なんて毎日つけてらんないよ」

そんな会話を続けていたらいきなりワタルが押し込んで来た。

「あうっ」
「あああ、いい。いい気持ち」

スロースロークィッククィック、ワタルの動きはパターンが決まっている。ダンスのようなセックスが自慢だと豪語している。

ワタルのセックス、点数をつけると65点か。気持ちはいいが、いつも真奈が準備できる前に押し込んでくるし、先にイッてしまって真奈の事は放置だ。真奈の波がはじける確立は10回中6回。微妙な確立。いい夫ではあるがそこだけは「ザンネン」と心の中では感じていた。

足りないモノ

ワタルが寝てしまってからパソコン作業をする事がよくある。ワタルを起こさないようにヘッドホンでBGMを耳に流し込みながらのお気に入りの時間。

完全に自分の趣味のBLネタも公式アカウントで書き込むこともある。本来なら自粛しなくてはならないようなギリギリの書き込みもしている。それでも真奈の上司は許してくれる。

「いまどき、他社と差別化するにはこれくらいとがったスタッフがいるのがいい」と。

真奈はほんとうに恵まれている。いつも自分は幸せだと言い聞かせ、悦に入る。

しかし、最近は完全に充実と言い切れない何かが真奈の心に芽生え始めていた。家庭も仕事スタイルも理想通り。時間も昔みたいに拘束されていないし、ゆっくり流れる。

これでいいの? 生温いお湯につかって鼻歌を唄っているだけでいいの? 何が引っかかっているのかわからない、何を求めているのかも漠然としていた。

その日の夜、最近読んだBLの主人公カップルが今後どうなってゆくか予想しながらちょっとエッチな書き込みをしていた。と、その時、チャットサービスに一本のイベント告知が届いた。

『各社SNSご担当者さま 来月交流パーティーを開催します。会社の枠を超えた情報交換を目的とします。ふるってご参加くださいませ』

「へえ、おもしろそう。いろんな会社のSNS管理者が来るなんて」

真奈は参加ボタンをクリックした。

「いつも充実してるけど、なんか刺激的なことがないとやっぱつまんないもんね」

パソコンの電源を落とし、ヘッドホンをはずす。スヤスヤと寝息を立てているワタルの横に滑り込み、ワタルの足の間をまさぐる。それはワタルと一緒に冬ごもりしているようにこじんまりおさまっている。

「うーーん、起こすなよ。眠いんだからさあ」

不機嫌そうにワタルがクルっと背中を向ける。真奈は「チェっ」と言いながら、フワモコ素材のジャージの中に自分の手を入れてパンティーの上から窪みを撫でる。

「ん…」

布一枚隔てているのに窪みの中は、じれったさそうに反応している。ワタルが欲しくなる、ワタルに舐めて欲しいと思うが、それは無理そうだ。

真奈はパンティーゴムの間から人差し指を第二間接まで入れる。するとじれったさが一気に解消され、ジワジワとぬるいねばっこい蜜が滲み出てくる。

人差し指の第二間接ではものたりなくなり、中指も一緒にもぐらせてみる。最近はまっているコミックの主人公ミズトの顔が頭に浮かぶ。ミズトと光はどういうふうに愛し合うのだろう、長い前髪を書き上げながら、とんがった光の顎をクイっと持ち上げながら…。

コミックの世界に入り込み、自分の感じる部分をさらけ出す。恥ずかしくなどない。コミックの世界だから…。

「ああ、ああ、すてき。ああ」

隣で寝ているワタルの背中が呼吸に会わせて動いている。寝息を聞きながら真奈はこっそり自分で自分をはじいていた。

**

SNS管理者合同パーティーは、裏原宿のわかりにくい店で開催だった。スマホに頼らないとたどり着けそうにない。真奈はちょっと早めに出かけ表参道を歩きながら、きれいな男の子を観察しようと思った。

一年前アメリカから遊びに来た友達を原宿に連れて来たとき、「ジャパンはゲイが多いの?」と尋ねられたことがある。原宿界隈はスリムで、色白で、ファッションと髪型に気を遣うきれいな男の子が多い。どうやら彼らを見てゲイだと思ったのだろう。

真奈はコミックに登場するようなきれいな男の子が好きだ。タイプの男の子達がそぞろ歩く表参道。胸が高鳴る。彼らとセックスをしたいわけではないが見ているだけでコミック世界と連動できる。

身体にピタっと張り付くようなシャツ、モヒカンショートの男の子が歩道の向こうから歩いてくる。ブリキの缶からタンポポが飛び出た派手なイラストがプリントされたシャツがよく似合う。通り過ぎて振り向くと紺のスキニーパンツのお尻はキュっとあがって少年っぽい。

「きれいだな、BLに出てきそうな男の子ばっか。ワタルもイケメンの部類だけどがっしりしすぎて、現実感たっぷりだもんな」

そんなことを考えながら浮かれて歩いた。新しくできたポップコーン屋も、パンケーキ屋も長い行列ができている。真奈は行列の中にもきれいな男の子を探していた。

完璧な男

古びたアパートの外階段を思わせるボロ階段をタンタンと上がる。木製のドアに小さく「Bon Bar」と書いてある。中に入ると、洒落たインテリアの空間が広がっている。

外観と中身のギャップ、この界隈ではよくあるパターンだ。床から天井の鏡に向かって当て込む間接照明。アフリカンなアート。流れている音楽もビートがきいた太鼓音楽。低いソファに座っていた主催者らしい男が手招きした。

「いらっしゃい! 会社名とお名前おねがいしまーす」
「はい、シュードッツの高部真奈です。管理者名はマナッペで」
「ああ、ああマナッペさん、はじめましてー。郊外美味しい店特集、面白いですよねー」

複数の会社のSNS担当者や営業マンたちが続々集まって来て自社の現状や会員さんの困ったチャン自慢をしはじめる。他社のSNSの舞台裏をきく事ができておもしろい。名刺交換をするとだいたい皆が真奈の事を知っていて話がはずむ。

居心地がいい催し物だ。やわらかいソファにずっと座っていて腰がつらくなったので、気分転換をしようと立ち上がった。伸びをして、店の中をうろちょろしてみた。

その時、木のドアがギギっと開いて、男が一人入って来た。真奈は心臓が止まりそうになった。表参道を歩いているようなキレイな男。身体の線が細くて長めの前髪、足が異様に長い。腕は小枝のように華奢。ピタっとボディにはりつくなシャツの胸元に目がいく。余分な筋肉はない。

「ミズトみたい…」

真奈は胸の中でつぶやく。

「遅刻しちゃいました。Qセントラルの阪口です」

管理人チャットではあまり発言しないのでまったく名前は覚えていなかった。真奈はしどろもどろに答えた。

「は、はじめまして。あの、主催者さんはあの方です。」

真奈は主催者席に誘導した。

阪口誠也、IT会社の営業マン。真奈は理想の男が現れてしまったと感じた。そして胸の中の起爆装置を入れた。夫にも仕事にも恵まれて幸せな私。でも、何かが足りないとずっと思っていた。

毎日、95%は幸せなんだけれど残り5%も埋めてみたい。その5%って何? と常に自問自答していた事に今、気づいた。

「足りないのは…刺激」

真奈はカチコチという起爆装置の音をききながら誠也のとなりに座った。パーティーも後半になり、皆の酔いが回って来たのか、プライベートな話やエッチな話も盛り上がる。真奈は鉄板ワードを出した。

「私、団地妻なんですよ。エロイでしょ」

その一言で、一躍喝采を浴びた。

「うわあ、団地妻っすか。たしかにマナッペさん、いきなりエロく見えてきた」
「百科事典かなんか売りに来たセールスマンと日中から秘め事とかあるんですかね」

セクシーな会話が重なる。

「言葉って不思議ですよね。皆さんもないですか。その一言をきいただけでゾクってする言葉。私はBLファンだから、ベーコンレタスバーガーをオーダーするときも、ついうっとりしちゃいます」

真奈は誠也を意識しながら話をすすめる。誠也は前髪を細い指で書き上げて本当に楽しいのかどうかわからないような微笑みを浮かべる。

「完璧だ。本心を隠すキレイな男…」

真奈は理想の男が現れた事を確信する。

「たしかに、意識したことなかったけど団地妻、昭和初期のエロチックな感じがするよね」

誠也が真奈の顔をまっすぐ見ながら答えた。

 

パーティーお開きになったあと、真奈はこそっと誠也に話しかけた。

「あの、強引かもしれませんけど、もう一軒行きませんか」

誠也が驚いたように振り向く。

「え? 皆さんと一緒に二次会じゃなくて?」
「ええ、阪口さんともう少し話したいなって」
「どうしてですか?」

真奈はニヤっと笑った。

「だって理想の男の人なんです」

阪口は恥ずかしそうに下を向いて、「じゃあ、僕らは帰るから駅まで一緒に行くって言いましょう」と小声で言った。

真奈の起爆装置の音と、高鳴る心臓の音が共鳴してふくれあがった。

肉食

メールする女性

その夜は京王線の最終電車に間に合った。電車の窓に映る自分の顔がいつもよりにやけている。

「ワタル、ごめんね。理想のオトコ見つけちゃった。ちょっとだけ遊ばせて」

小悪魔風なセリフを頭の中で唱えてみた。急行停止駅で乗客がたくさん降りたので席に座る事ができた。誠也と交換したラインに投げかける。

『絶対、また会ってくださいね。郊外の素敵な飲み屋、教えますから。』

暗闇に団地の集落がそびえ立つ。真奈の家はD号棟。D号棟の東エレベーターに乗ろうとするとレスが入った。

『今日はまいったな。こんな積極的に誘われたのは人生初です。落ち着いたらまた』

「落ち着いたら」という言葉が体のいい拒み文句というのは社会人なら誰でも知っている。真奈は唇をアヒル口にして3階のボタンを押した。

 

ワタルがベッドで枕にもたれてゲームをしている。真奈はシャワーを浴びたあとバスタオルを一枚撒いた姿でベッドにジャンプして飛び乗った。

「ワタル、しよう」
「なんだよ。いきなり。もう遅いよ。お前、終電だったろ」
「明日休みだからいいじゃない」
「はあ? 答えになってない」

真奈はスマホを取り上げ、いきなりワタルの首に手を回し、唇をこじあけて舌を差し込んだ。バスタオルを自分ではぎ取り、ワタルのパジャパを脱がせる。そっと手をあてて確かめるとワタルの股間はこんもり盛り上がって熱を帯びている。

「ほらあ。スタンバイOKじゃない」

パジャマのズボンを足首までずらす。ワタルが足を投げ出して枕に持たれて座った体制になる。ワタルの腿の上にしゃがみこみ、乳房をワタルの胸に押し付けてグイグイ回す。

すでに屹立したワタルのそれを真奈の秘部に導くように動く。

「おい、座ったままかよ」
「そ。おすわりエッチ。深く入るのよ。DLしたコミックで読んだんだ」

全裸でワタルの首に手を撒いたまま下半身を密着させる。入り口にワタルの先っぽが当たる。真奈は吐息を漏らす。

「ホニャっとして気持ちいいね、そこ。猫の肉球みたいな肌触り」
「猫と一緒にすんなよ」

そして腰を垂直にグイっと落とす。ワタルのそれが包み込まれ、上下スライドの刺激を感じる。

「ああ、絞られてる感じだよ」

ワタルがせつなそうに目をトロっとさせてつぶやく。

「搾り取ってあげる」

真奈は激しく上下に動く。荒波の海で船に乗っているような動き。

「ハ、ハッハッ…」

真奈は口をあけて小刻みに息を吐く、吐くたびに下腹部の筋肉がしまり、真奈の秘部が快感をむさぼる。

「うーーーーん」

長い叫び声をあびて真奈はワタルの上に崩れ込んだ。

「おい、先、イクなよ」

ワタルが体制を替えて、真奈の上に寝そべる。真奈の足を大きく開き、ひと突き。

「はうっ」

真奈がよみがえる。ジュワジュワと液体がにじみ出す。ワタルが何度か激しく突き、真奈の中で飛び散らせた。真奈もまた二度目の頂点に達した。

「真奈、なんかすげえな。まじ今夜は肉食だ」

肩で息をしながらワタルが話しかけた。

小悪魔

半月経った頃だった。真奈は八王子まで足を伸ばし、新しくできたベーカリーカフェの取材に行った。天気がよく、風がここちよかったのでそのままテラス席でノマドワークすることにした。

SNS画面をのぞいたり、会員増加キャンペーンを考えているとスマホが振るえた。

『何してますか。団地妻さん。』

誠也からのメールだ。瞬間、真奈に小悪魔が舞い降りた。メールの返信をせず、番号をタップした。

「もしもし、マナッペです」

驚いたように誠也が答える。

「マナッペにはびっくりだ。思いも寄らないリアクションだね」
「メールより、声が聴きたいし。電話より、会って話したいな」

やれやれというように誠也が答える。

「いつデートしますか。奥様」

真奈は親指を立ててニッコリした。

ワタルが同期会で遅くなると言っていた日。真奈は京王線の各停しか止まらない駅を待ち合わせ場所に指定した。オーガニック野菜を鉄板で焼きながら食べる店。つけダレが8種類あり、どれも絶品ということで自社サイトで紹介した店だ。

「郊外の名店、さすがだね。ザワザワしてなくて落ち着く」

焦げ目がついた白ネギに豆板醤ダレをつけ、誠也がおいしそうに口に含む。

「きれいな男が長いネギを食べる姿ってうっとりするわ」

誠也が完全にまいったという顔つきで答える。

「その、きれいな男ってやめてくれよ。ほんと、マナッペ、ユニークだ。周りにいないタイプ」
「これくらい変わってないと、とんがった企画なんてできないでしょ。私、けっこうヒット飛ばしてるのよ」
「知ってるよ。君が仕事ができることは有名だ」
「今日は仕事の話じゃなくて、もっと刺激的な話をしましょう」
「いいよ。団地妻さん」

真奈はベルギービールをクイっと飲み干して誘った。

「団地妻っていう響きがいやらしいでしょ。私もそう思ってるの。だから…」
「だから?」

「一度、自宅できれいな男と抱き合いたいとずっと思ってた」

誠也はまたまいったという顔をした。眉をハの字にして

「そんな間男みたいなことはしたくないよ。抱き合うならホテルだ」
「ほんと? ホテルならいいの? じゃあ、行こう」

ストレートな女だと誠也は降参した。手に負えないかもしれないけれど放っておけない、不思議な魅力。半分不安、半分期待が入り乱れた。

郊外のラブホテルはフェイクの大理石の家具と安物に見えないオブジェで囲まれた粋な空間だ。部屋も相当広い。誠也の2DKのマンションの倍はある。誠也は都心の数万円の高級ホテルより居心地がいいと思った。円形のジャグジーバスに肩までつかり、真奈を呼ぶ。

「おい、マナッペは恥ずかしいなんて言わないだろ。来いよ」

真奈は小悪魔モード全開でふんふんと鼻歌を唄っていた。こんなきれいな男と抱き合えるなんてラッキーだと。

バスタブに真奈がボチャンとしぶきをあげて入ってくる。

「普通、女は初めてのエッチで裸見せるのは恥ずかしがるんだけどな」

豊満な真奈の胸のふくらみをチラチラ見ながら誠也が言う。

「見られたいの。誠也さん、私のおっぱい今、ジロジロ見てるでしょ。大きいと思ってるでしょ。Dカップよ。」

真奈が誠也の手を引っ張って自分の胸に置く。

「大胆だよな」
「振り回されるのはきらい?」
「いや…はじめてのタイプ」

真奈が誠也の耳たぶを噛んだ。ジャグジーの泡が背中に当たり、心地よい。誠也は真奈を抱き寄せてねっとりするキスをしかけた。

真奈の乳首はすでに硬くとんがっている。湯の表面から乳房を上にのぞかせ誠也はほおばった。大きく口を開けないと入りきらないほどの肉感。太ももの付け根をまさぐると真奈が軽く足を開いた。湯の中で指を入れてみる。奥までネメっと濡れている。

「う…ん」
「ここでするか?」

真奈はコクっと頷いた。今宵、このきれいな男と三度以上交わりたいと決めていた。

バスタイム

バスタブの縁に腕をつかせて真奈を後ろから抱きしめる。胸だけでなくヒップも豊満な肉付きだ。ムッチリした手触り。親指押すと跳ね返すほどの弾力。

背中から腕を回しこみ、ふくよかな乳房を下から上に揉み上げる。時に人差し指で乳首を転がす。真奈はしゃがんだまま待ち通しそうな声を出す。

「はやく…はやく…!」

誠也が後ろからズンと突き刺す。風呂の湯と真奈のヌメる液でスムーズに入り込む。真奈の内側におさまったままうなじを噛む。

「ヒッ」

真奈が腕をついたまま腰をゆっくり旋回させる。ボコボコというジャグジーの音が響く。骨盤を両手で支え、誠也が小さく速くピストン運動を繰り返す。真奈の背中が汗と湯の玉に光る。

クリトリスもまだ触っていないのに真奈がのけぞり背中を弓のようにそらしながら「いいっ」と大声をあげてしぶきを飛ばした。誠也は「この女、半端なくいい身体だ」と思った。

その夜は、真奈の思惑通りベッドで2回、正常位で交わった。真奈は達するときに誠也の頬を両手で包み込み、「きれいだわ。最高」と喚起の声をあげた。

シーツにくるまって真奈が嬉しそうに笑う。

「コミックの世界にいるみたいだった。完璧な理想のルックスの人とできてチョーしあわせ」
「あのさ、マナッペの旦那にも僕の彼女にもばれるとやばいんだから、そこんとこ頼むよ」
「わかってるって」
「でも、マナッペのエッチ最高だよ。気持ちいい。何度でもできる。初めてだよ、こんなムラムラするの」
「でしょ。自信あるの。じゃあさ、今度、団地でしようよ。ひとりのときあるから、うちに来てよ」
「だから、そんな怖いことやだよ。鉢合わせなんてまっぴらだ」

真奈はベッドに頬杖をついてウインクした。

ひと月後、真奈からLINEが届いた。

『旦那が再来週、仙台に出張行くの。2泊も。うちで2泊しない? 団地妻より』

「まじかよ…」

誠也は頭を掻きむしった。会うならラブホテルと決めてはいたが、一線を超えてしまうと一気に気持ちがルーズになる。

奔放な真奈と話していると気持ちが開放される。普段言わないような言葉を吐いてしまうし、いつもの自分と違う本音をさらけ出せる。そして彼女とは違う大胆なセックス。彼女にはない豊満な乳房。誠也にはある意味、冒険だった。

「冒険ついでに、団地に冒険の旅をするか…」

指定された木曜の夜、誠也は真奈の家に向かっていた。

真奈がドアを明けると、キッチンからブイヨンのおいしそうな香りがただよう。真奈はポニーテールに髪をまとめ、ボーダーのだぶっとしたロングシャツを着て、おうちモードの人妻だ。

「ボルシチ作ったんだよ。ウォッカ飲もうよ」

緊張感あふれるディナー。人様の愛の巣に、奥さんを借りに参りましたという昭和のドラマのような場面。二人で世間話をしながらボルシチを食べる。ウォッカがだんだん効いてきた。

誠也がリビングのラグの上で横になると、真奈も横になって手をつないで来た。

「あのね、こういうのしたかったの」
「こういうのって?」
「床の上で、服着たままやられちゃうってやつ」
「マナッペ、相当エッチだよな」
「団地妻だもの。畳の上でしたいんだけどさ、最近は畳の部屋ないでしょ。だから床の上でしたいの」

誠也は振り回される事が心地よくなっていた。

真奈の上に覆い被さり、ロングシャツを首までたくりあげてふくよかな乳房をブラジャーの上から撫でる。真奈が目を閉じて息があつくなってきたのでブラジャーの中に指を滑り込ませて乳首をキュっとつかむ。

「あん…」

真奈は完全にコミックの世界に旅立ったようだ。ふたりとも履いていたジーンズを脱ぐ。

「シャツは脱がさないでね」
「着衣水泳? 着衣エッチか…」

二人で笑い合う。真奈が誠也の股間に顔をずらして硬くなりかけたそれを口に含む。硬い床に背骨が当たって新鮮だ。

鎖骨に舌を這わせると真奈の興奮と妄想はより高まっていた。

「奥さんって呼んで…私たちいけないことしてるのよ」

秘密の冒険

「奥さん、見つかったらどうなる?」
「罰せられるのよ。だから、したことがわからないようにしてね」
「どうやったらわからなくなるんだ?」

真奈がとぎれ声で答える。

「したあと、私の中まで舐めてきれいにして。私もそうしてあげるから」

会話に興奮した。完全に真奈に舵を取られている。真奈が吐き出す言葉にいちいちエロさを感じる。

「さすが、コミック読み込んでるよな。想像力豊かだ」

真奈の中で指をそろっと回しながら弾力を楽しむ。真奈は膣でイケル女というのはわかっている。誠也は探究心が湧いて来た。

いきなり真奈の足を割り、膝を立てて押し入れた。

「あん、いきなり、すごい…」

そして指を中心の感じる突起に当てた。

「きゃあーーー」

予想どおりの反応だ。

「一緒に刺激すると最高だろ。マナッペ」

真奈は何も答えない。苦しそうな顔で息を吐く。長い髪が汗でうなじに張り付く。その姿がなんとも言えず色っぽい。誠也は静かに出し入れする。その間、指は突起物をもて遊ぶ。

「どうにかなっちゃう」

真奈が急に声をあげて誠也の腕に爪を立てた。

「いてっ」

すると真奈の中が痙攣しているかのようにひきつきはじめる。下腹部が波打つ。

「引っ掻くなよ。さっき、ばれないように跡を残さないようにって言っただろ」
「ごめん…すごく飛んじゃった」
「じゃあ、次は僕の番」
「…うん。ピル飲んでるからね。思いきり…」

他人の家で、人妻を突くことがこんないいものなのか。彼女とするよりずっと性の衝動を掻き立てられる。誠也は後ろめたさを感じた。そしてわかった。後ろめたさがセックスに緊張感を与える。のめり込んでしまうほど男になれる。

誠也は快楽の世界をさまよった。思う存分、真奈の身体を堪能した。そして真奈のシナリオどおりに真奈の秘部に舌を差し込み、ペロペロと舐め回した。

こんなこと彼女にはしない。普通じゃないと自分でも感じている。しかし、身体は真奈の操り人形のように動いてしまう。真奈のその部分は舐めているあいだ、ずっとヒクついている。足を開いてもだえている真奈を見ているとまたしたくなる。

誠也は復活したそれを何度も何度も押し込み、精を放つ。真奈は底なしでそれを受け止め、益々欲しがってくる。汗に塗れ、いやらしい臭いを放つ真奈と絡み合いながら誠也は話しかけた。

「団地妻は蟻地獄だよ。僕、もう、抜け出せない」

真奈はそんな言葉は聞こえないかのように、両手で誠也の頬を包んで「きれいな男、理想の男、最高」とあっち側の世界で秘密の冒険を楽しんでいた。

翌日も誠也は仕事が終わってから団地にやってきた。「旦那は2泊の出張だから」と嬉しそうに言う真奈を見ていると、したくてたまらなくなる。

芸能人の間男スキャンダルが頭に散らついた。もし夫が出張から早く帰って来たら最悪だ。誠也はいろいろ考えた。

団地の敷地内に空き地がある。フェンスで囲まれていて昼は子供達がかくれんぼできるほど物置や掃除道具入れが置かれている。葉が茂った木があり、夜だと人目につかない。誠也は昨日D号棟に来るときにその場所を見つけていた。

ベルを押すと真奈がドアをあけて「今日も来てくれたんだね」と抱きつく。

「マナッペ、ちょっと外に行こう、上着はおって」
「外って?」
「いいとこ見つけた」

怪しまれないように誠也が少し先を歩き、空き地に連れてゆく。物置と木立で周りから見えない場所に着くと、真奈をフェンスに押し付けてキスをした。

「う…ん。どうしてこんな場所知ってるの?」
「マナッペの家でするのは怖いよ。芸能界でも間男事件あっただろ」

真奈がフフっと笑う。

「そうね、修羅場になるのいやよね。でも裏切ってる感じって燃えない?」

誠也は何も答えず、真奈のスカートの下に手を入れた。

「まじで、ここでするの?」
「早く、これ脱いで」

パンティーをくるぶしまでおろし、誠也はすでに硬くなっているものを真奈の下側から上に向かって挿入した。

「あん、何、これ、燃えるー」

真奈はまたスイッチして飛ぶ。フェンスに真奈を貼付けたような姿勢で立ったまま愛し合う。

「いいわ。すごくいい。」
「声を出すな、静かに」
「…」

何度か押し込み、真奈の耳たぶを噛んだとき、真奈が押し殺したような声を喉の奥から出す。

「あああ、幸せ。誠也さん、きれい。あああ、いっちゃう」

二人とも立ったままで最後まで達した。

* *

真奈は駅まで誠也を送って行った。少しだけ距離を置いて後ろから歩いた。

「誠也さん、ありがとね。私の生活に刺激をくれて」

誠也が振り向く。

「なんだよ。急に。もう会わないってことか」
「だって、お付き合いはできないじゃない。最初に言ったでしょ。抱き合いたいだけって。」
「また抱き合えばいいじゃないか。秘密で」

真奈は首を横に振った。

「もう充分。理想の男の人とエッチできてよかったあ。幸せなままその思いを胸に抱いてると、また頑張れる。続けてるとさ、悲しい別れとか修羅場が絶対やってくるもん」

誠也は立ち止まって、何も言わない。

「マナッペ、俺とやりたいだけだった?」

真奈はマジ顔で答える。

「言い方は悪いけど、そうなのかな。だって理想の男の人だよ。エッチよかったね。まだばれないうちにやめとこうね。深入りしないうちに」

真奈は駅を背にして団地の方に歩き始めた。

後ろ姿を見ていると誠也の胸を寂しさが襲った。だが誠也はすぐに開き直った。

「まあ、いいか。団地妻との短い情事ってのもネタになるしな」

真奈はシャワーを浴びながらまた鼻歌を唄い始めた。

「ワタルはやく帰ってこないかな。ワタルともしたいな。刺激的な体験できたし、完璧に幸せだあ!」


END

あらすじ

主人公・真奈は旦那がいるが、いい夫ではあるものの、エッチが微妙だと思っていた。
そんな時、会社のSNS管理者合同パーティーに招待され、そして、真奈はいつも間にかきれいな男の子を探し始めていた…

公開中のエピソード 全67話公開中
三松真由美
三松真由美

恋人・夫婦仲相談所 所長 (すずね所長)・執筆家…

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