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【前編】恋愛とセックスのかけ算/29歳 遼子の場合


セックスしたくない男ナンバー1

駅の改札を抜け、一目散に会社に向かう人の流れに混じりこんでブリッジを渡る。

駅徒歩1分の好立地にある複合ビル。企業、飲食店、スーパー、ブティックなんでもありの小さな街のようなビル。

遼子はその街の9階から上にある住宅販売会社の本社で働いている。

実際に現場で不動産を営業するのではなく、地価変動を調べたり、入居状況の登録や書類作成という事務仕事だ。

6年も同じようなデスクワークに興味がなくなり、惰性で動く毎日。目に見える昇進はない。新入社員教育マネージャー補佐なる肩書だけもらう。

新人に会社のルールを教えるだけの肩書。新人たちはしばらくすると営業畑に配属され、外を飛び回るようになる。遼子だけが朝から晩までパソコンと向き合って数字と間取り図を眺めている。

「岡部さん、熱でもあるの? トロっとした目してるよ」

振り向くと上司の長原が養毛剤の香りをプンと漂わせてニタリと笑っている。

奥さんに大切にされてない男はすぐわかる。薄汚れたワイシャツ、よれっとした元気がないスーツ。見えないシワやほこりが何年分も蓄積したような服を着ている。

張りがなく、毛穴が目立つ肌。長原と同世代、隣の課の徳田は仕立ての良いスーツを着てシャキッと見える。

二人がコピーを取っている姿勢を後ろから見比べているとよくわかる。長原は猫背で、無駄な動きが多い。徳田は器用なのか、スマートに指を動かして紙をさばきながらサッと動く。

同じ年齢、同じ職場の男でも、生き方でここまで差が出るのだ。遼子はそんなことを考えながら退屈な時間を何年もやり過ごしていた。

「長原さん、その言葉、捉え方ではセクハラですよ。この前、セクハラ講義受けたでしょう」

遼子は長原を睨んで、そっけなく言い放つ。話かけるなと言うオーラを出してキーボードを打ち始めた。

長原は、チっと言わんばかりに顔をしかめて休憩室に向かった。

職場女子会の会話で「職場でセックスしたくない男ナンバー3」というランキングをしているが毎回、長原は1位だ。

昼休み、女性社員が輪になってお茶を飲む。吉井京香がカルディで見つけたという円形のクッキーを差し出した。

「これね、ホワイトチョコがはさまってて絶妙な味。twでスイーツ女子達がおすすめしてるの、どうぞー」

一番年下の江原奈美江がまっさきに手に取る。

「ありがと。京香さん、カルディファンよね。コンビニスイーツよりカルディ派?」

京香がうなずく。

「そう、高校時代、留学してたでしょ。あっちの味の方が味覚に合うのよね。パッケージもポップでしょ」

奈美江が高い声で続ける。

「京香さん、すごいよね。英語もできるし。アメリカ映画、字幕無しで観てるもんね」

遼子は心の中で意地悪そうに笑う。

『だったら、こんな会社の事務職でブーコラ不満たらさず、外資系でも転職すりゃいいじゃない』

その輪に飯坂容子がはいってきた。

「あらあ、京香さん、たしか短期留学でしょ。短期で英語堪能になるなんってすごいわあ」

奈美江が目を丸くして、さらに高い声で言う。

「あっ、容子さん。この前、ベルギーのおみやげありがとうございましたあ。すごいおいしかったです。日本未入荷のチョコ! おしゃれすぎて部屋に飾ってますう」

京香が不機嫌になり、反撃の言葉を探す。

「容子さん、そろそろ海外支店に配属されてもいい頃なのに、まだここに残るんですか。退屈でしょ。日本の会社は」

聞いていると馬鹿らしくなってくる。遼子はスッと立ち上がり、自販機コーナーに逃げた。

何もかもいやだ。刺激がないルーチンワーク。くだらない女子トーク。進化しない周囲の環境。頑張ってもその先に何があるかまったく見えない職場。

ワンルームマンションとこのビルの9階の往復の日々。缶のスープを飲みながらため息をつく。

奥の丸椅子に座っていた森井詠美が近づいてきた。2年先輩の大柄な女。地味な制服が似合わない派手な顔立ちをしている。

「遼子さんも疲れてるんでしょ。女子たちのあからさまなマウンティングに」

「詠美さん…。わかりました? なんかバカみたい。あの人達。奈美江さんなんて意味もなくすごいすごいって連発してるし」

「こんな職場、結婚退職でもしなきゃ、やってらんないわよね」

「詠美さん、彼氏いるんですか?」

詠美がクビを振って意味深に笑う。

「結婚前提じゃなくてセックス前提の男はいる」

去年までの秘密の関係

「は? セ、セックス??」

遼子は口ごもる。普段口数が少ない詠美が昼から大胆な会話をしかけてきたのだ。

「そう。でね、相談があるのよ。遼子さんに。よかった。二人きりになれて」

詠美が遼子の耳元に口を寄せて小声で話す。

「彼とね、マンネリ化してきてるの。それで、ちょっと冒険してみたくて。彼の好きなタイプはまさに遼子さんなの」

「どういう…こと?」

「色白でストレートのロングヘア。背が高い。友達とつるんでいない一匹狼的ロンリーウーマン。クールだけどセックスは火山級に煮えたぎっている」

「なに、その分析? プロファイル?」

遼子はおかしくなって吹き出した。

「面白いこと言うわね。ね、くわしく話すから今日、一緒に飲みに行こう。イタリアンバルトリノの金券持ってるのよ。一万円分」

遼子はことわろうと思ったが、興味本位で話を聞いてみたい欲望が頭をもたげてきた。

トリノのポルチーニの料理は絶品だ。スプマンテも飲みたい。言い訳が必要だった。詠美の怪しげな誘いにのるには。

「行きます。ポルチーニのリゾットおいしい季節だし」

ブルスケッタだけでもワインがグイグイ進む。トリノの料理は職場付近では最高レベルだ。ただ値段がはるので年に2回が遼子には限界だった。

「遼子さん、付き合ってる人いないでしょ。きれいなのになんで彼氏つくらないの」

プレッツェルをかじりながら詠美が尋ねる。会社では気づかなかったが、薄暗いライトの灯りに浮かび上がった詠美は妖艶な顔立ちをしている。

アクション映画に出てくる女スパイのようだ。ワインで頬が桃色に染まっている。ゆるい巻き毛が肩のあたりでゆらめいている。

「学生の時はいたんだけど、就職で四国に行っちゃったからそれきりです。遠距離とか無理だし」

「で、それから6年も男っけなし…。おかしいわ。不倫とかしてたんじゃない」

ドキリとした。たしかに去年まで兄の友人、岳斗と隠れた関係を続けていた。

実家に帰った時、兄がたまたま連れてきていたのだ。

結婚3年目で奥さんと馴れ合いの関係になっていた岳斗にとって友達の妹は新鮮に映ったのだろう。

「もう終わったけど、してたんです。不倫ってやっかいね。一度すると、真っ当な恋を探すのがめんどくさくなっちゃう。不倫相手ってうるさく寄って来ないから楽だし、たまにしか会わないから…ベッドでも新鮮」

詠美が興味津々の顔つきで乗り出す。

「やっぱりね。あなた、エッチそうな顔してる。するの好きなはず」

「そんなことない。普通ですよ。普通」

「セックスに普通なんてないのよ。地味で奥手な地方出身の子が、ドスケベなエッチ女に化ける場合もあるしね」

「だれ? そんな人いる? うちの部署に」

「人事の久保田さん」

「まさか。髪の毛くくってすっぴんの久保田さん…銀縁の眼鏡かけてますよね。どうして知ってるの?」

「見たの。夜の公園で育毛剤親父とじゃれあってるとこ。どうなってんのって、こっそりついていったらラブホに入ってったわ」

「長原課長と? あのダサい親父と?」

「信じらんない。抱かれたくない男1位突っ走ってるダサい親父とするなんて…」

「そういうものなんだって。セックスは。だからあなたもきっと開く」

「開くって、何が?」

詠美は酔った勢いで大胆な言葉を重ねる。

「とにかく、一度うちで遊ぼう。うちの彼、紹介する。退屈な仕事を週5日もやってんだから、たまには刺激入れなきゃ」

テーブルの上に置いた遼子の手を詠美がそっと包み込むよう握る。

「ね、テーブルクロスの下、足、開いてみて」

「え?」

詠美が靴を脱いで、ストッキングだけになった足の先を遼子の太腿に押し付ける。

「ちょっと…」

「シっ。静かにして」

詠美の足の親指が遼子のパンティの間にソロリとにじり寄る。

「…ん…」

遼子は驚きながらも、背筋にこそばゆい感覚を覚えた。足の親指はチョロチョロとふくよかな部分をまさぐる。

「…やだ…やめて」

息が熱くなってくる。割れたパーツにクイっと詠美の足の親指が食い込む。布越しの感触。

「ね、私の思ったとおり。すでに遼子ちゃんのココは私の言いなり…土曜に来てね。うちは下北沢だから。待ってる」

人の目があるレストランでこんなはしたないことをしている。そんな自分を冷静な状態に戻すことができなくなっていた。

遼子は化粧室に駆け込み、さっきまでまさぐられていた股間に自分の指をあてがった。すでに内側の肉は液体を噴出し、何かを待っているようだ。

トイレに座り、二本の指で突起物を転がし、遼子は座ったままでのけぞった。

フロアに戻ると詠美がうれしそうにリゾットをすくっている。

「遼子ちゃん、ポルチーニのリゾット、抜群よ」

詠美はすべてわかっているかのように自分の中指をべろりと舐めた。

密かな期待と不安

下北沢。土曜の夕方。しゃれた雑貨屋や古着屋の路地を通り抜けると緑が多い住宅地に出た。詠美は親戚にもらった築35年の中古の戸建てに住んでいるという。

スマホに案内されるまま詠美の家にたどり着く。

「MORII」という表札。垣根に囲まれ、小さな花壇が玄関脇にある。そこに花はなく、スコップが無造作に置かれている。

チャイムを押すとパタパタとスリッパの足音がして詠美が顔を出す。

Tシャツの上に金のダリヤ模様のガウンを羽織っている。メイクはしていない。髪をバレッタで無造作にまとめ、リラックスモードだ。

玄関に入ると、タバコの匂いが鼻をつく。

リビングは思ったより広い。二人がけの食卓とやけに大きなベージュのソファ。

そこには遼子が今まで話したことがないような悪そうな顔立ちの男が座っていた。鋭い目つき。

こけた頬。無精髭。ピアス。厚手の黒いガウンを着ている。たばこに火をつけながら男が言う。

「やあ、遼子ちゃんっていうんだね。はじめまして。俺、竜児。詠美の彼氏」

詠美が瓶ビールを冷蔵庫から持ってくる。

たしかに酒でも飲まないとこの緊張感は抜けない。遼子はグラスにそそがれたビールを飲み干す。これから何が起こるのか遼子にはわかっていた。

あのレストランで起こった変な出来事。あの日から4日間、遼子は家で毎晩一人で慰めていたのだ。岳斗と別れてから一年間、そんな気持ちになどなったことがなかったのに。

一人でする時は岳斗のことを思い浮かべていたが、この4日間は、詠美が指を舐めるシーンがフラッシュした。

「遼子ちゃん、お風呂わかしてあるの、一緒にはいろうよ」

「え?」

「女二人でお風呂、楽しいじゃない。うちのバスタブ、結構広いのよ」

言いなりだった。遼子はあのポルチーニを食べた夜から詠美の人形になってしまったのかもしれない。

バスルームで、詠美が遼子の服をゆっくり脱がせてゆく。薄手のセーター、シャツ、スカート、靴下。レースのブラジャーのホックをはずされると遼子は息を大きく履いた。

「きれいなおっぱいだわ。ほら、ピンと立ってる」

詠美が指で乳首をはじく。

「あああん…」

小さな花柄のタイルがビッシリ敷き詰められたバスルーム。シャボン玉を作りながら二人で洗い合う。

「遼子ちゃん、わかってるのよ。私には。あなたの葛藤が」

遼子の背中を海面で撫でながら詠美がポツポツ話し出す。

背中を人に洗ってもらうなど子供の時以来だ。心地よい。ラベンダーの香りが花畑を連想させる。

「ん?」

「退屈な毎日、冴えない事務仕事、自己顕示欲だらけの社員たち。その世界から抜け出せないもどかしさ…」

「詠美さん…」

「3年前の私と同じ。私もいつも不機嫌だった。自分が腹立たしくって。コンクリートに囲まれた冷たい部屋でパソコンと向かい合って一日が終わる。隙間時間にはバカ女たちの自慢話とヨイショ女の甲高い声」

「会社が嫌いなの?」

「なに、そのくだらない質問…フフ。嫌いを通り越してる。でもね、変わった。竜児に会ってから。仕事、ちゃんとしてれば、竜児と遊ぶ時間が天から振ってくる。天使の贈りもの」

いかつい鬼のような顔の竜児と”天使”という言葉が結びつかなかった。

「私には会社が嫌いかどうかよくわからない。でも転職しても今の給料は保証してくれるのかとか、この年でどこに転職できるかって思うとあきらめちゃう」

「駅直結の一等地にある会社。残業代もちゃんと出る。目を閉じ、耳を閉ざして仕事さえしてれば、最高の会社よ。ほかで満たされればどうってことない」

詠美のふたつの手のひらが遼子の盛り上がった乳房を包みこむ。

「ああっ」

「だからね、呼んだの。3年前の私と一緒の不機嫌な遼子ちゃんを。ほかのことで満たしてあげようと思って」

セックス経歴の塗り替え

窓辺にたたずむ女性

ぬるめの湯に浸かる。二人重るように入ると湯が溢れ出る。詠美に抱っこされている形で胸まで浸かる。

「気持ちいい。二人でお風呂に浸かるなんて考えたことなかった」

「昔の男とはどんなエッチしてたのよ」

思い出せなかった。キスして触られてすぐインサート。そして爆睡。その繰り返し。

口ごもる遼子の髪の毛を撫でて詠美は想像しているような目つきをする。

「あなたのセックス経歴を塗り替えてあげる。竜児と私で」

大きめのバスタオルで身体をくるみ、リビングに戻ると、竜児が待ち構えていた。

「この椅子に座って」

肘掛けがある木製の椅子に赤いクッションが敷いてある。遼子は言われるままに座る。

ミニペットの水を渡される。一口飲む。

何が起こるかわかっていてここ来たのだ。怖くなどない。詠美はキッチンでレモンを切っている。

竜児が低い声で命令する。

「足開いて、椅子の横に引っ掛けて。肘掛けのとこに」

遼子はバスタオルがはだけて胸が見えないようキュっと握りながら言われたとおりに動く。

なぜ言いなりになる? こんなヤニ臭い男の。

頭の中の疑問が一瞬で崩れる。足を開き、秘部に外気があたった瞬間、感じてしまった。

バスタオルで隠れているので竜児には見えていない。

足を大きく開くだけでこんな感じてしまうという事実がショックだった。ひとりでする時は少し罪悪感を感じながら足を閉じたままコソコソしていた。

詠美が声をかける。

「遼子ちゃん、あなたの開いたことがない部分を全部開いてあげるから」

「まず耳」

竜児が耳たぶと耳のてっぺんを上下に大きく引っ張る。

「痛い…」

痛いとはいえ、マッサージを受けているような心地よさ。引っ張りながら竜児が耳の穴に熱い息を吹きかける。

フー。

そして舌先をネロリと侵入させる。

「んあっ…」

初めての感触。ネチョネチョという音が脳の芯まで伝わる。うなじが汗ばむ。胸元にキリのような汗が浮き出る。開いた秘部には空気があたる。

「次はくちびる」

竜児はくちびるを両手の指でつまんで上下に開く。そこにいきなり舌を突っ込む。タバコの匂いなど気にならない。

舌が力強く遼子の口内を探りまわる。遼子の舌先が竜児の舌の裏側に触れる。やわらかい。つるりとしている。

唾液が口元を伝う。汚い行為。下品な行為。初めて会う悪そうな男。なぜにうっとりしてしまう。

竜児の舌は鼻の穴まで舐め回す。嫌なはずなのに嫌ではない。

遼子は戸惑う。見知らぬ自分が大股を開いて椅子に座っているのだ。

詠美が寄ってきて、右手でバスタオルの上から乳房を強く揉む。

左手にはレモンスライス入りの酎ハイを持っている。

「あああ…」

感じている遼子に口移しで酎ハイを流し込む。首筋に酎ハイが溢れ伝う。それを竜児が口ですくう。

「もっと…」

「遼子ちゃん、なんて言った?」

竜児がいやらしく笑いながら尋ねる。

「もっと、下まで舐めてください」

竜児がバスタオルを剥ぎ取り、固くなった乳首を口に含む。

「きゃああああぁぁぁ」

「おいおい、おっぱいしゃぶったくらいで騒ぐなよ」

竜児が驚いて下卑た笑い声を出す。

どれくらい乳首を弄ばれただろう。感じる度に腰を浮かす。

足はいつのまにかスカーフで肘掛けに固定されている。

「遼子ちゃん、思った通り。あなたは、スケベ女。私と一緒。やらしいこといっぱいすればするほど感じる身体になるの」

「詠美さん…あの…もう…はやく…」

じらされるほど…

胸だけはだけた恰好で椅子に座っている。下半身はバスタオルに隠れている。竜児も詠美も下半身は無視して胸だけをなぶっていた。

「どうしてほしいって?」

竜児が問う。

「触って…ください」

「どこを?」

「…お腹の下…」

「かわいいねえ。遼子ちゃん」

竜児がタオルを抜き取る。下半身があらわになる。遼子は恥ずかしさで目をギュっと閉じる。

「おお、いいねえ。いい感じにジュクジュクきてるよ」

竜児が顔を近づけて匂いを嗅ぐ。また熱い息を吹きかける。

「んああああぁぁ」

尻を5センチくらい浮かせる。

「パックリが欲しそうに俺を見てるぜ」

下品な言葉が矢継ぎ早に遼子をいたぶる。

「開いてください。そこも…開いて」

「いやだね。詠美、コーラくれ。喉かわいた」

二人はソファに並んで座ってニタニタしながらコーラを飲んでいる。遼子はじらされながら感覚を研ぎ澄ませる。

恥ずかしいはずなのに、侮辱されているはずなのに、自分の秘部は熱く煮えたぎっている。

誰かに触れて欲しい、舐めてほしいと訴えている。そうしているとどんどん液体が湧き上がってきた。クッションが濡れるほどに。

「おい、スケベな遼子ちゃんのパックリくんがよだれ垂らしてるぞ」

「お願い、はやく…開いてください」

竜児が椅子の前に座り込む。足の間に竜児の顔がある位置に。

「はいはい。こうして欲しいんですかね」

またも指で左右のひだをつまんで開く。すかさず中指の腹で中心の突起を押す。

「んわああああ」

不甲斐なく遼子は達してしまった。たったそれだけで。

予想を裏切られたカラダ

2時間ほどソファの上でウトウトしていた。目覚めると裸の身体に毛布がかけられている。部屋には誰もいない。テーブルの上にメモが置いてある。

“おなかすいたから外で食べてくる。鍵あけたままでいいから帰っていいよ”

ぐったりした身体に衣服をかぶせる。駅までゆらゆらと歩く。想像を絶する午後だった。

ある程度予想はしていたものの、ことごとく裏切られた。竜児と詠美のセックスに参加するだけだと思っていた。よもや自分の身体で遊ばれるとは。

しかも、セックスはしていない。ただ足を開いて触られただけだ。エッチな言葉をささやかれながら。そのことで見たことがない自分が現れた。

最高に高いところまで放り投げられた。気持ちいいを通り越した感覚。言葉にならない歓喜。じらされじらされ、はじける直前で無視される。

あるきながら股関節の痛みを感じる。あんなに長い時間、足を開いていたのだ。あられもない恰好を思い出すと身体の内側がジクジク呻き出す。

「あっ…」

また触られたくなる。さわって欲しい処を数ミリずらして待たせる竜児の巧みな動き。

ほどよい肉厚の指。温度も湿度も高い息。低音の声。あの声で言葉をかけられると、下腹部がうねる。

外見は悪そうに見えるが、詠美がはまるのが理解できる。

足早に自宅に戻り、冷蔵庫にある冷たい紅茶をがぶ飲みした。

そしてベッドに横たわる。パンティを脱いで大きく足を開き、膝を立てる。

ついさっきまで遊ばれていた箇所をたしかめるように撫でる。恥ずかしいほどに濡れ始めている。

竜児は何も入れていない。ただ指を這わせただけだ。遼子の身体の奥には何も飲み込んでいない。

「入ってきてほしかった…」

遼子は最後まで入れてもらえなかった寂しさを殴り捨てるように自分の指を思い切り奥まで突っ込んだ。そしていつまでもかき回していた。

苛立ち始めた心

遼子は顔が熱くなってうつ向く。

「私と竜児にはオープンになっていいのよ。私達にはあなたが必要な存在なんだから」

「え?」

「この前言ったでしょ。マンネリ解消の重要な人なの」

遼子は3人でプレイすると思っていたので問いかけた。

「どうして、3人でしなかったんですか? この前、そうなると思ってたんですけど」

詠美がニヤっと笑う。

「あなたが、じらされ好きってわかったから、まずはあなたの身体を熟成させてからたっぷり楽しむつもり。あせらず、ゆっくり熟成させて味わいたいの。ワインみたいに」

「私は、してもらっていいんですよ。むしろ…早くしたいです」

「わかってる。したいのは。あなた不倫してたのに、全然まともなセックスしてもらってなかったのね。あなたの身体は普通の男じゃ手に負えない。竜児みたいな強者じゃなきゃ、飲み込まれちゃう」

「どういうことですか? 私がエッチすぎるってことですか」

「そ。相当すごい。よく彼氏無しで耐えてきたわね。だからイラついて周りの人達に腹が立つのよ。重度の欲求不満」

「…失礼なこと言わないでください」

遼子は、腹が立って立ち去った。

複合ビルの1階までエスカレーターで一気に降りる。円形パテオのベンチに座り、足を組む。コンクリートの塀の中でもここだけは日差しが差し込む。

詠美の言葉を一つずつ思い返す。欲求不満でイラついている?

そう言えば、上司たちの言動にはいちいちむかついている。すぐにセクハラ、パワハラに当てはめようと画策している。口臭や整髪剤の匂いにも苛立っている。今朝も京香に意地悪な言葉を投げかけた。

⇒【NEXT】タオルをまくり上げ、ヒップを竜児の両手が割る。すぐさま、遼子の中に待ち望んでいたものがズブッと突き立てられる。(【後編】恋愛とセックスのかけ算/29歳 遼子の場合)

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あらすじ

主人公・遼子は、6年も同じようなデスクワークに興味がなくなり、惰性で動く毎日を過ごしている。

さらに、女子たちのあからさまなマウンティングに疲れる日々。

そんなある日、友人・詠美から「うちの彼氏が遼子さんみたいな人をタイプだから、一度うちで遊ぼう。」と大人の誘いを受ける。

公開中のエピソード 全67話公開中
三松真由美
三松真由美

恋人・夫婦仲相談所 所長 (すずね所長)・執筆家…

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