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恋愛とセックスのかけ算/27歳 涼花の場合


見た目が勝負の仕事

シートベルト着用サインが消え、機内にくつろぎのムードが漂って来た。ここからが忙しくなる。涼花(すずか)は首のスカーフをきちんと巻き直し、おしぼりとドリンクの準備をする。

シャルドネ2013とピノノワールのボトルをワゴンの上にそっと置く。試飲会で飲んだとき、涼花には少し重すぎると感じたワインだ。涼花にはドイツワインのマドンナがしっくりくる。元々お酒が強いほうではない。空の上でこんなしっかりしたワインを飲むと真っ赤になって倒れてしまうだろう。

そんなことを考えながら機内サービスに向かう。前方シートに座っている熟年夫婦からフルフラットの仕方を教えてくれだの、歯ブラシを先にくれだの過剰オーダーが入る。

「少々お待ちください」と言った瞬間、4期先輩の容子にキリっと睨まれた。ギャレーに戻ると容子が小声で注意をする。

「お待ちください、じゃなくてすぐに参りますでしょ。待たせると思わせる否定的な言い方より、ゲストのもとへすぐに行くという肯定的な言い方をしなくちゃ…それでなくてもビジネスクラスのお客様はサービス慣れしてらっしゃるんだから。他社と比べて少しでも乗り心地いいように…」

眉間に皺を寄せ、とんがった物言いの容子。グダグダと長い小言になるのはわかっているので涼花は聞いているふりに徹した。

『美人CAなのに結婚できないのは、性格が悪いからよ』

涼花は胸の奥で反芻しながら伏せ目がちに「気をつけます」とわざと弱々しく答えた。

ドリンクサービスにつぎ、オードブルやチーズを出し終え、ホッと一息。ふくらはぎがパンパンにはっている。国内線の短いフライトでも脚がむくむ。10時間以上のロングフライトは心してのぞまないと地上に降りてからずっしり身体が重くなる。

涼花はギャレで靴を脱ぎ、ポーチからゴルフボールを出してギュウギュウ踏みつける。血行を促すのだ。機内は乾燥しているので肌もかさつく。エビアンのスプレーをシュッと顔にふきかける。

本当ならマスクをしてキャビンを歩き回りたいくらいだ。だがマスクをしたCAなどどこにもいない。見た目が勝負の職業。

涼花はフーっとため息をついて時計を見た。

9時間後にシカゴに着く。到着時刻は日本の夜だから、タケルとスカイプで話そうと思った。結婚式場の下見の日程を決めなくては。

フライトスタッフが泊まるホテルの部屋に着くと涼花は速攻でバスルームに向かい、熱いシャワーをザーザーと身体中に当てた。華やかな職種と思われがちだが、実際は気を遣う重労働だ。

乾燥した機内で背筋をシャキっと伸ばし、独特の表情を作る。口角を上げる癖がついたが、そのせいか頬の筋肉がこわばり、首筋がこってしょうがない。

時差ボケ克服法は飛び始めて2年後に体得した。とは言え、頭痛だろうが、月経痛だろうが夜間フライトをこなさなければならない。

三十路を過ぎた先輩達は身体が辛いと愚痴をこぼしている。涼花もこった首筋とむくんだ脚をさすりながら「はやく結婚して地上でのんびり過ごしたい。ちゃんと夜は寝る事ができる生活がいいな」と思った。

ベッドに立て膝で座り、ビクトリアシークレットのボディクリームをたっぷりと全身に塗り込む。10時間も機内にいるとミイラのようにひからびて肌の細胞が絶滅してしまうような錯覚に襲われる。

帰ったらワタルと激しいセックスが待っている。つねに肌に潤いを与えておかないと。涼花は帰国すると必ずその日のうちにワタルとすることにしている。

疲労感が限界に達した時にもつれ合うと、普段元気な時にするよりずっとオーガズムを感じる。眠い、身体がだるい、頭がぼーっとしている、その疲れた身体の涼花をワタルは責め立てる。脚を開かせて数回ピストンを繰り返したかと思ったらすぐに四つ這いにさせ、後ろから。

極みにのぼる直前にとベッドから下ろして立ったまま入れようとする。アクロバットのような体位変換で、涼花はさらにくたくたになる。汗びっしょりでワタルの要求に答えていると、地上からふわっと身体が浮き上がり、いつもの空の上にいるようなハイな気持になる。

その浮揚感の中でワタルがガシガシと突いてくる。と、瞬間、雲の上で身体がパキンとまっぷたつに割れたような鋭い痛みを感じる。その疲労感全開の時の痛みが涼花が求めるオーガズムなのだ。

そして、達したあと、涼花は意識を失うほどの眠気に教われシーツにくるまれて昏々と眠る。そしてきっかり8時間後に目覚める。長時間フライト→ワタルとのセックス→8時間熟睡。このサイクルが涼花のゴールデンセックスのサイクルだ。

見せ合いっこ

スカイプでワタルを呼び出す。画面でランニングシャツ姿のワタルが缶コーヒーを持ってほほえんだ。

「涼花ー、いいなあ、シカゴかあ。僕も毎月海外行くような仕事したいよ」

ボサボサの髪の毛、クルクルよく動くおちゃめな目。男にしては長い睫毛。スーツを着ていないと高校生のようにも見える。

「いつも言ってるでしょ。観光なんてする気力ないんだから。あさってにはまたながーいフライトが待ってるの。ホテルの近くのデパートとレストラン行くくらいしかできないんだよ」
「だよな。それより、式場候補5つ、全部はしごして見に行こうな。来週の金曜と土曜で5か所まわるぞ」

涼花は大げさに両手をあげて

「ハードスケジュールねえ。でも、一生に一度だもんね。すてきな場所でしたいよね」

と甘えるように言った。

ワタルが急にシャツを脱ぐ。

「涼花、バスローブ脱いで、見せて」
「え?」
「話してたらしたくなった。涼花の髪の毛濡れてるし、風呂あがりだろ」
「そうだけど、もうカーテン締めて寝ようとしてるんだよ。眠いよ」
「いいじゃん。お互い見せっこしながらいい気持になろうぜ」

涼花は、一人の時は必ずマスターベーションをしてから眠る習慣がある。

こっくり頷いてバスローブを肩から落とした。アメリカのローブはごわごわしてビッグサイズなので着ているだけで疲れる。

形のいいバストがプルっと現れる。タブレットの画面ごしに見るとAV女優のように見えるかな、と思った。

「下も脱げよ。パンツも」
「もう、ワタルったら…」

ピンクのパンティに親指をかけて足首まで降ろす。ベッドの上に全裸で横たわった。

「カメラをあそこが言えるように置いて」

涼花はカメラ部分を股の間に降ろす。しばらく無言の状態が続く。画面越しに見られていると思うと息がはずんでくる。

「涼花、自分の指でそこのひだ、開いて」

涼花は人差し指と中指で自分の扉を左右に開く。

「…すげえ…アメリカと日本とエッチな中継」
「これ、盗み見されないかな。変態のハッカーに」

ワタルが笑う。

「その方が僕は燃えるな。カモン、ハッカー」
「ばかね…」

涼花は無意識にもう片方の手で、開いた扉の中をまさぐり始めていた。ひだに沿ってツイーっと滑らせる。中心の窪んだところから小さな突起物が今、目覚めたかのようにせり出す。

「うわあ。エッチすぎ…」

ワタルの声もうわずっている。涼花が画面を見ると、ワタルはボクサーパンツに右手を入れてもぞもぞ動かしている。

寝ている女性

「ずるいじゃない。自分は下着脱いでない」
「じゃあ、ちょっと見せてやるよ」

パンツのゴム部分からさきっちょを覗かせる。テラッと濡れ始めている。涼花は胸が高鳴った。むしょうにそれをかわいく感じる。

「涼花に舐めて欲しいな…」
「帰ったらたくさん舐めてあげる」

涼花は今度は指で自分の乳首をつねったり転がしたりした。

「私も、ここんところにキスして欲しい…」
「かぶりついてやるよ」

しばらく二人は挑発しながら高め合った。涼花は両手で自分のバストを包み込むように揉むほぐす。ときに乳首を痛いほどつねる。

ワタルのパンツに突っ込んでいる腕の動きが速まる。目をつむり、うっとりとした表情になる。涼花も合わせて扉の間に指を出し入れし始める。入り口から奥へ。

第一関節、第二関節、第三関節…深く深く入る。

「ああっ、ワタル…欲しい」
「僕も。涼花、はやく帰って来い」
「飛ぶ…」
「飛んで来いよ」

二人は目を閉じてお互いの深部をまさぐる。だんだんと触る力が強くなる。

「ああああ、ワタル」
「俺の方が先に飛びそうだ」

数秒のずれで二人は飛び合った。

アーモンドバニラの甘い香り。さっき塗ったボディクリームの香りが涼花の鼻孔に漂う。カーテンの隙間から夕陽が差し込んでいるのがわかる。涼花は空から舞い戻って来た。

異国の背の高いベッドの上で涼花は興奮を冷ましながら深い眠りに堕ちた。ビクトリアシークレットのボトルがベッドからカタンと床に転げ落ちても目覚めることはなかった。

映画みたいな人生

フラミンゴのミントチョコ、ホワイトソックスのタオルをお土産に買った。涼花はタクシーでワタルのマンションに向かう。

ワタルは映画配給会社で営業の仕事をしている。学生の頃から映画研究会に入り、いつかは自分で映画を撮りたいと語る、夢溢れる男。

同僚のCA、文香(ふみか)に誘われた「芸能関係者との合コン」に興味本位で参加して知り合った。

たしかに芸能関係者ではあるが、有名人と知り合いとか、ビッグマネーを動かすというタイプではない。涼花はその場にいた某有名アーティストをかかえている事務所の専務のほうを狙っていたくらいだ。

ワタルは涼花の横に座り「僕が将来作る映画に出てください。飛行機の中のシーンが多いんです」というホラ話で必死で涼花をくどいてきた。

まばたきを何度もして、熱い声色で映画愛を語るワタルに「この人と結婚したら映画みたいな人生が送れるかもしれない」とインスピレーションを感じた。

結果的に二人を引き合わせたかたちになった文香は「涼花、もうちょっとパーティーや合コン参加してみれば? もっと有名人に近い人が出てくると思うよ」とあまり肯定的な感じではない。

「文香、芸能系の人と結婚って、ゴージャスだけど、現実的にはどうよ。先輩達見てごらんよ。けっこう浮気されてブツブツ言ってるじゃない。堅実な仕事の男の人のほうがよくない? ワタルくんは浮気しないよ。絶対。」

涼花は断言して、以後、パーティーには参加しなくなった。

ワタルは涼花をお姫様のように扱ってくれた。「僕にはもったいない」が口癖になっていた。待ち合わせに遅れることはない。涼花の方が1時間以上遅刻したことも何度かあるがまったく怒らない。

毎月1度はサプライズ体験をくれる。涼花が好きな物、好きな場所を正確に覚え、グッドタイミングで提供してくれる。立ちっぱなしで脚が疲れたと言えば、何時間でもマッサージしてくれる。

つくす男だが、セックスは異様に攻撃的。その切り替えが刺激的だった。

ゼクシィを二人で何度も見てポストイットを貼りまくる。結果残った5つの式場を見学に行くことになった。

滝が堕ちる日本庭園での人前式、天井が高くパイプオルガンがあるチャペルでの式、湘南の海に向かって愛を誓うガラス張りの教会での式…。結婚情報誌は何時間見ていても飽きない。

結婚式は女性のシンデレラ願望をビジュアル化して人生に関わった人々に見てもらうスペシャルショーだ。このスタイルもあのスタイルも全部試したいと願う女性は数多い。涼花も散々悩んだあげく5つに絞った。

式場選びに無関心な彼氏にブーブー文句を言う同僚がいたが、ワタルは「結婚式こそ観客を泣かせるシーンを演出できる最高の場面なんだ。友達にカメラワーク抜群の奴がいるからまかせろ」と映画の蘊蓄を述べながら全力でリサーチをした。こだわりすぎるところがうざいと思ったこともある。

最初に見学に行ったチャペルは天窓が広くとてあり、太陽光がまばゆいほどに降り注いでいた。

「光の量は申し分ないけど、当日曇っていたり雨が降っていた時の挽回策を考えなくちゃな。ああ、だめだ。バージンロードがちょっと短すぎる。バージンロードは長く、ゆっくりゆっくりフィルムを回すんだ。花嫁が父のもとから花婿の元へ旅立つ感動的な道だろ。歩いているあいだに人生を振り返るわけだ。やっぱり長い方がいい。そのあいだに参加者も感極まる…」

饒舌に語るワタルを見つめて、式場選びは涼花の思い通りにはならないことを察し取った。ここまでこだわるのだから、涼花が決めてもダメ出しをくらいそうだ。そのあとも2か所回った。

涼花は飛行機が羽田に着陸する寸前に見える東京の町並みが好きだ。最後に見学した式場は東京タワーとレインボーブリッジが180度ビューで迫ってきた。着陸寸前の角度。きれいに並んだビル群と水色の海。

「ワタル、ここがいいなあ。東京の街が祝福してくれてるみたいで」

ワタルは首を傾げている。

「僕の中にはモチーフが3つあって、空・緑・光なんだよ。ここは緑が欠落してないか?」

涼花はやっぱり自分の意見にはだめ出しかと思い、

「もういいや。まかせる」とあきらめた。

ブスになった夜

その夜はワタルの部屋で求められたが、まったくする気にならなかった。

「なんだよ、この前は遠距離オナでむっちゃくちゃエッチだったくせに、今夜はだめなんて、ひどいじゃんか」

ワタルは股間をふくらませて涼花の腰に押し付けてブツクサ言う。

「まじ、今日はいつもより疲れてるから寝たいんだ。たまには何もしないで寝るだけでもいいじゃない」
「やだやだやだ」

子供のふりをしてワタルが首をブルブル振る。

「坊や、よい子だねんねしな」

涼花はふざけて答える。

ワタルは涼花の手を自分の股間に導き、「じゃあ、これでお願いします。3分で終わりますから」とふざけ顔で言う。しかたなく涼花は右手でそれを握り、動かし始めた。

「ああ、いい気持…涼花…舐めて」

舐めるくらいならした方がラクだと思いながらも涼花は上半身を起こし、ワタルの股間に頭をうずめた。

「涼花、いいよ、涼花、いい」

そっちの世界に一人で浸っているワタルを見上げて少ししらける。口にくわえたまま両手で左右の睾丸を包み込む。

「あああ、そんなことすると出る…」
『はやくイッてよ。眠いんだから』

心でそう言い放った瞬間、涼花の口の中にトロットしたものが流れ込んだ。

涼花は洗面所に立ち、口をすすいで鏡を覗いた。眠そうな目。長時間のフライトでかさついている肌。ワタルにクシャクシャにされた髪の毛。

「ブス。」

寂しい気持に襲われる。愛する彼と結婚式の式場選びに行った日なのに、なぜこんなにむしゃくしゃするんだ。なぜこんなにブスになったんだ。

寝室に戻るとワタルが素っ裸のまま大の字でグーグーいびきをかいている。脚の間で萎えた蚕のようなモノがワタルと一緒に眠っているように見えた。

涼花はため息をついてワタルに毛布をかけた。

日本時間で夕刻発のフライトの勤務がまわってきた。ミラノ便だ。今回もビジネスクラス。酒やワインの銘柄にシビアな乗客がいると面倒だ。

涼花は機内で提供するワイン以外の種類についても事前に勉強し、暗記していた。日本酒はさっぱりわからないが、産地くらいは答えられるようにしている。

機内上映している映画の感想を尋ねてくる乗客もいる。いつもは「観ていないのでなんとも…」と言って立ち去るが、本当はワタルの影響もあってそこそこ新作の感想を言えるようになっていた。

ビジネスの乗客は様々だ。慣れている上品な客もいれば、がんばって乗ったので嬉しくてしょうがないという様相の客もいる。運良くアップグレードで乗り込めてラッキーとはしゃぐ客もいる。

今日は苦手な先輩が同乗していないので気持が楽だ。担当シートの乗客の名前をすべて覚える事ができた。上級ステイタス客に挨拶をしにシートへ向かう。

「川越様、いつも当社をご利用になって頂きありがとうございます。」

B席の客に向かって言葉をかける。

「長いフライトお疲れさま。僕はわがままは言いませんからよろしくお願いします。」

川越が微笑みながら答えた。わがままを言う客がいることを知っている。涼花はふっと、なごんだ。薄い水色のシャツ、黒ぶちの眼鏡。やさしそうな笑顔だが、キリっとしていて賢そうな眼光。PCは涼花にもわかる高品質の機種。薬指には指輪はない。

「そうだ、とは言え、ひとつわがままを。おすすめの映画を教えてください。寝つけなかったら観たいから」

涼花は、ワタルとの話題に出た2作を挙げ、ネタバレしない範囲で伝えた。

川越は嬉しそうに「ありがとう。笹井さん。そこまで言われたら観たくなった。朝食までに2本観ておきます」と言った。

感じが良い乗客。涼花は機内に味方ができたような気になった。わがままやクレームを言う客は涼花には敵だ。敵が多いと憂鬱になる。

セクハラ客はもっと扱いが難しい。敵が多く乗り込んでいるとはやく到着してくれないかと気があせり、サービスがおろそかになる。今回はそんな客がいても川越が守ってくれる、そんな気になれた。

若き青年実業家

機内販売の時、川越が涼花を呼び止めた。「ミラノは気温が低そうですね。このネイビーのマフラーください」
「ありがとうございます。そうですね。首回りが暖かいと風邪をひきにくいですね」
「降りてから買ってもいいんだけど、イタリアって派手な色多いから、自分では合う色がわからないもんなあ」

涼花は川越が気になっていたので、話をどんどんと続けていった。

「イタリア製ですけど、落ち着いたカラーの服を置いてある店がありますよ。ヴェネチア通りのはずれの方です」

「へえ、行ってみようかな。派手じゃないイタリアものって珍しい。笹井さんはどこに泊まってるんですか」

涼花はその場では「社の規定でお答えできかねます」と流し、川越が機を降りるときにこっそりとメモを手渡した。

到着して2時間後、川越からホテルに電話がかかってきた。

「会社の規則を破らせてしまうようで悪いんですが、さきほど教えてくれたお店に連れて行ってもらえませんか。もちろんお礼にごちそうしますから」

副機長が乗務員みんなでイタリアンを食べに行こうと誘って来た。涼花は現地に住んでいる友人に会うとごまかして川越のいるホテルに向かった。

ブルガリホテル。だだっぴろい庭園で有名な落ち着いたホテル。庭園でお茶を飲んだ事はあるが建物の中を見て回ったことはない。

黒い光を放つ御影石に囲まれたラウンジ、ウズベキスタン製のカーペット。そこにいるだけで優雅な気持になる空間。

川越は白いシャツに着替え、幅広い椅子に座ってタブレットの画面を見ていた。涼花を見つけると手招きして座らせた。

涼花の教えた店に行く前に自己紹介をしようと言い、自分のことを話し出す。サラリーマン時代に友人と開発していたアプリが当たり、ITベンチャーの社長になった。

スマホの普及で新サービスも次から次に成功し、ミラノにはピザ屋を見に来た。待ち時間が短いミニピザの店を東京に造りたいと考えていると言う。スマホで予約もできるピザ屋。話を聞いているだけで胸が踊った。

若き青年実業家。ワタルの映画話に少し飽きていたからなのか、川越のビジネス話がとても斬新に聞こえる。

結局、外には出かけることをせずに二人はラウンジで語り続けた。

夜のとばりが降りて来て緑の庭園がライトアップされる。周囲からはイタリア語しか聞こえない。背の高い金髪のウェイターがナッツの皿を持って来た。黒に金の縁取りの大きな皿。ここではナッツの皿まで高価に見える。

「こんな時間だ。おなかがすいたでしょう。部屋でルームサービスを食べませんか。石の暖炉があるんですよ」

ブルガリホテルのスイートルームに入れる。それだけで涼花は興奮して、思い切り首を縦に振った。

すばらしい部屋だった。ホテルというよりセンスがよい家。ソフトレザーのソファは渋い光を放ち、涼花をお姫様のように包み込んだ。最高のディナーを食べながら夢のような時間。

スプマンテをいつもより多めに飲んでしまった。テーブルの上に飾ってある薔薇の花を一輪、川越が手に取り、涼花の顔の横にかかげる。

「君は薔薇の花よりきれいだ…涼花さん。なんてね、日本じゃ言わないよ。でもイタリアなら言わないといけないってこっちの友人に教え込まれた。ハハハ」

 

涼花の心はトロンと溶けかかっていた。ワタルの愛くるしい瞳はどこかかなたへ飛んで行ってしまっている。

涼花の横に川越が移動してくる。あとはもう大人の世界だ。涼花は思った。

「ここはイタリアなんだから、恋の冒険はして当然よ」

しびれた頭で考えていると、いきなり唇がふさがれる。川越もスプマンテをかなり飲んでいた。ほてった身体の熱が涼花の肌に伝わる。

「唇も身体も熱い…川越さん」
「君だって、熱くなってるよ。ホカホカしてる」

川越の手のひらが涼花の胸をブラウスの上から覆う。

「あの…直接さわってください」

大胆になっている。涼花は一瞬まずい、と思ったが、身体の芯が火を付けてくれとねだっているのがわかる。

目隠し

そこからは一気に事が進んだ。横長のソファの上で涼花はブラジャーをはずされ、ピンクの乳首をさらし出す。川越はそれを一心に舐め回す。小さく唇をとがらせて舌先でつつくように舐める。

「はああん…」

涼花の下着が湿ってくる。川越の指がそれに気づく。そしてゆっくり下着を脱がせる。あらわになった涼花の秘部に川越は薔薇の花を乗せる。

「きれいだ。涼花さん。」
「いやです。恥ずかしい…」
「恥ずかしがらず、そこにキスさせて」

涼花は目を閉じて頷く。ソファに涼花を座らせて川越は薔薇の花を口にくわえてずらす。涼花のその部分に舌先をそっと入れる。

「あんっ」
「フライトお疲れさま。いたわってあげる」

川越の舌先が静かに内部に侵入してくる。

「ああああ」

涼花はもだえ始める。何分そこにキスされていたのだろうか。涼花は舌先の遊びだけで何度も達してしまった。

「ベッドに行こう」

川越が裸の涼花を抱き上げてキングサイズのベッドに横たえる。川越も服を脱ぎ、機内で買ったネイビーのスカーフを涼花の目に巻き付けて目隠しをする。

「ああ、何するの…」
「見えない方が五感を研ぎすまされるんだよ。」

暗闇の中、涼花の濡れそぼる秘部が何者かによっていっぱいにされた。

「涼花さん、きつくていい。いいよ。締まってる」
「そんなこと、言われた事ない」
「締め付けてくる、ホラ、ホラ」

川越がどんな顔でそれを入れているのかわからない。ミステリアスでじれったい。

自分の性の部分を具体的に褒められたことは初めてだった。

「奥まで吸い込まれそうだ…」
「そんなに締め付けないでくれ」
「すごい美人膣だ」

川越は褒め言葉を重ねながらリズミカルに腰を動かす。

何も見えない中、褒めてくれる言葉だけが耳に心地よく入り込む。褒められるたびに涼花のその部分は喜ぶようにピクンピクンと跳ねる。そこが動いていることがはっきりわかる。今までになかった感触。

「涼花さんの中は女神の部屋だ。僕をとりこにする…あああ」

褒め言葉をつぶやきながら川越が達する。涼花もその言葉を追いかけるようにまた達してしまった。

目隠しを外すと、枕の横に薔薇の花が置かれている。ロマンチストな男とのスイートルームセックス。結婚前の思い出作りには最高だ。涼花は薔薇の花にキスをして少しだけワタルのことを思い出した。

帰国してからも川越とは週1回のペースで会った。ハイエンドな店、ジャガーでのドライブ。年代物のワイン。大人の会話。そして褒めちぎられる目隠しセックス。

ワタルとは週2回のペースで会う。川越とセックスをしたからと言ってワタルを拒む事はできない。ばれるのは困る。週三度のセックス。疲れてはいるがそんな時のセックスの方が涼花は燃えるのだから、いくらでも受け入れることができる。そして8時間熟睡するとまた元気になる。

二人の男との週3度のセックスを何週間か続けているうちに涼花は結婚前の思い出作りの範囲を超えていることに罪悪感を抱き始めてきた。

国際線のフライトが入ると、川越は自分の時間があけば涼花の便に乗り込む。数々の女性がいたが全員と別れたと言う。涼花に夢中だと。ワンオブの女でなくなった時、初めて涼花は不安になってきた。婚約者がいることをこれ以上隠してはおけない。

レインボーブリッジ全体がきれいに見えるダイニングで川越と食事をしていた。

「川越さん、あのね、黙っていた事があるの。」
「なんだい?」
「私、結婚を約束した彼がいるの。来年くらいには結婚を…」

川越は黒めがねを指でちょっとあげてニヤっと笑って答えた。

「かまわないよ。結婚しても会ってくれれば」

吹き上がる邪念

「え? この関係を続けるってこと?」
「僕は結婚とか入籍とかこだわらない。もし涼花さんが僕と籍を入れたいならそうする。その場合は今の婚約者とは別れてくれないと困るけど」
「それって…プロポーズ?」
「そうなるかなあ。君がすべてを決めればいいってことだな。全権を君に委託する」

涼花は遠くに横たわるブリッジを見つめてつぶやく。

「それ、ずるい。どうせプロポーズしてくれるなら、そいつとは別れて僕と結婚してって言われたいなあ」
「そう言うと、すぐに婚約者と別れる? そんな覚悟ある? 悩むだろ。すっごく。だったら君が決めた方がいいじゃない」

確かにワタルとは相性はいい、一緒にいると楽しい。映画への夢を語るワタルは頼もしい。別れるなど考えてもみなかった。ワタルと会えなくなることを想像すると、喪失感が湧き上がってくる。

「ほらね、困り始めた。だから僕は無茶言わない、君が決めればいいんだ。来年の結婚式予定日までじゅうぶん時間はあるさ」

川越とはまだ会って間もない。今はやさしく接してくれるが、結婚してもこのやさしさは続くのだろうか。リッチな生活は魅力的なのは間違いない。

ワタルと結婚したら涼花が仕事を続けない限り、贅沢な暮らしはできない。ブルガリホテルのスイートルームなど行けるはずがない。子供ができたらワタルの収入だけで暮らすことになる。涼花の中の天秤が揺れに揺れる。次々と邪念が吹き上がる。それを見かねて川越が耳元でささやいた。

「悩んでないで、抱き合おう。今夜はテラスジャグジー付きの部屋を予約してある」

ブリッジの色が変わる。青白い色からオレンジ色に。外の空気を吸いながら目隠しのないセックス。テラスにあるバスタブの中でお尻を突き出し、川越が涼花の腰骨を両手で支え、ゆっくりした動きで突いている。

「涼花さんの好きなブリッジだから、目隠ししないほうが燃えるだろ。」

ボコボコというジャグジーの音にまぎれて川越の声が聞こえる。涼花は子宮に神経を集中させて快感のまっただ中にいた。ブリッジの夜景はきれいだが、そんなことはどうでもいいほど感じている。背中に夜風が当たって心地よい。

「後ろからはいるのも最高にいい感触。涼花さん、僕の女神。こんな気持いいセックスができる相手はほかにいない。僕の相棒がいつも涼花さんにはいりたがってる」
「相棒って、そのかわいく突き出てる彼?」

いつもの褒め言葉が涼花を益々感じさせる。言葉を聞くたびに子宮がキュウっと縮む。すてきな風景を見ながら褒め言葉を浴びせられるセックス。ワタルにはないセックス。

ワタルとは築9年の狭いマンションでしかしない。ワタルが発する言葉は「気持いい」「イクよ」だけ。体位を何度も替えてくれるスタイルもそろそろ飽きている。

結婚式の式場は結局ワタルが決めた。涼花の意見はスルー。

なまぬるいお湯が涼花の太ももにまとわりつく。同じあたたかさの液体が涼花の中からほとばしる。

「ああああ、感じる。もうどうしていいかわからない。あああ、どうにかなりそう」

涼花の理性脳と性感脳がせめぎ合う。

ブリッジが一瞬視界から消える。お湯と涼花の液体が混じり合う。

我に返る。

「来週、もう一度ワタルとしてみて結論を出す…」

涼花の冷めた脳がブリッジに向かってささやいた。ブリッジは直後に照明が消え、暗くなった。


END

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あらすじ

主人公・涼花には、結婚を控えている彼氏・ワタルと、週一であってセックスをする大人の川越二人の関係者がいる。
ワタルとのセックスは普通だが、川越とのセックスはとても相性が良くて…

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