女性のための無料 官能小説・官能漫画サイト
エルシースタイル(LCスタイル)は、登録商標です【商標登録第4993489号】
ラブコスメが提供する情報・画像等を、権利者の許可なく複製、転用、販売などの二次利用をすることを固く禁じます
恋愛とセックスのかけ算/30歳 美知の場合
別れた男と狂気
オフィスの時計を見ると22時56分を回っていた。美知は同じ部署の平林から頼み込まれてプレゼン用の資料を作っていた。一年先輩の平林は、営業トークや人前でのスピーチはうまいが、資料や文書の作成はいまひとつ。
ビジュアルを重視した資料を作るのが得意な美知にいつもまかせている 何度もイタリアンをごちそうしてくれているし、美知がミスをした時はいつもかばってくれる。持ちつ持たれつの間柄だ。
「みっちゃーん、そろそろできたかなあ」人気のないフロアに平林の声がこだまする。
「あと1ページですから、もうちょっと待ってくださいよ。コーヒー飲みたいなあ」
平林は「はいはいはい」と言ってコーヒーメーカーの方に小走りで去って行った。
そのとき、美知のスマホに着信がはいった。画面に目をやる美知の背筋を、冷たいものが走った。
「この番号、私の部屋の固定電話…」
まさに今、先月別れた男、土山明彦が美知の部屋にいるのだ。
「しまった、合鍵を返してもらってなかったからだ」
小さな虫が気味悪い成虫に成長したかのような不快感がこみ上げた。
土山とは1年付き合ったが、あまりに美知の行動を詮索するようになったので、居心地が悪く、美知の方から別れを切り出したのだ。しかも、土山には妻がいた。
しょせん不倫の関係、早くケリをつけなければと思っていた時に、ちょっとしたいざこざが起きて別れを決めた。スマホを握りしめて固まっている美知の背後から平林がオフィスコーヒーを差し出した。
「どうしたんだよ、飲みの誘いでもはいった?」
青ざめた顔で平林を見上げ、美知は押し殺したような声でつぶやいた。
「平林さん、うちまで一緒に来てもらえませんか。怖いことになってるんです
平林は、ただごとではないなという顔をした。
電話
平林に事情を話すあいだ、五月雨式に何度も着信があったが無視をした。フロアの時計は、23時をとおに回っている。しびれをきらしたように留守電が入った。
「なんで帰ってこないんだ。俺は考え直した。美知のことが好きだ。絶対別れないからな。また抱いてやるからすぐ帰って来い」
不気味な声質。付き合っている頃の土山とは別人のような声。
その頃は美知にやさしかった。一緒にいると「みっちゃんと結婚したかった、なんでもっと早く巡り合えなかったんだろう」など乙女チックな言葉も吐いた。
でも美知が「じゃあ、奥さんと別れて私と結婚してくれるの」と問うと「今は無理だよ。まだ結婚2年目だし、うちの奥さんのお父さん、怖いんだよ。ムスメを悲しませたら許さない、なんてよく言われるんだ」と言ってやわらかく断る。
そのずるさも美知には魅力的に映っていた。
隔週しか会えないので、よく電話でセックスをした。エッチな会話をして2人で到達する。美知はすっかりこの自慰行為にはまってしまった。
「美知、もっと脚、開いて、今日は左手の指を1本だけ入れてごらん」
「1本じゃがまんできない」
「じゃあ、2本」
「どこをさわるの?」
「一番感じるところを避けて」
「じれったい」
「人差し指の腹でその部分をこすっていいよ」
こんな会話のやり取りを楽しみながら美知は最後には電話をほおり投げて達していた。スマホセックスの相性は最高だった。実際に美知の部屋で抱き合うときも途中まではわざと電話をかけて、卑猥なやりとりを楽しみながらお互いに自分を触った。
高まってきたときに、電話を切って寄り添い、ひとつになる。美知はこのやり方に満足していた。
電話はセックスアイテムとしてかかせないものだった。
付き合っているうちに土山はだんだん美知の生活や行動について知りたがり、夜遊びはするな、チャラい友達とは付き合うな、と命令口調が多くなってきた。
戸惑い

別れの原因は、親友の佳那子の結婚式の二次会に出るなと言われたことだった。
二次会には新郎の同僚がたくさん押し掛ける。新郎が商社務めと知って「商社マンはみんな遊び人だから、美知が食われてしまう」といらぬ心配をし始めたのだ。
美知は「何、馬鹿なこと言うのよ。佳那子は私の大事な友達。式も二次会も出席してお祝いしてあげたいの。商社マンにも興味あるしね」と突っぱねた。
その言葉に逆上した土山は、美知の髪の毛を引っ張ってベッドに押し倒した。
やさしかった土山の隠れた面が初めて露出した。
「やめてよ」
拒む美知のブラウスを強引にはぎ取り、土山は上気した顔で抱こうとした。美知は土山の手首を力を込めてわしづかみにし、「嫌だ、今日はしたくない」ときっぱり断った。
土山はそれでも美知のうなじに強引にキスをした。ベロベロと舐められた。狼男にでも舐められているかのように気持ちが悪い。土山の異常に興奮する姿に美知は戸惑った。
土山は挿入せず、美知の下腹に白いものを勢いよく放った。美知はひどく嫌悪感を覚えた。今までは普通にセックスを楽しんでいたつもりだった。
下腹部にねっとり垂らされた液体をタオルで拭い取りながら、こんな男だったのかと情けなく思えた。
ベッドに腰掛けている土山に向かって「もう終わりにしよう。あなたとは付き合えない」と美知は震える声で言った。土山はうなだれたまま無言で服を着て美知の部屋から出て行った。
一人、部屋に残され、くしゃくしゃになった髪の毛をブラシで直しながら「土山さんは奥さんのところへ帰ったほうが私達のためだよ」と胸の奥でささやいた。その時、土山に合鍵を渡していることは忘れていた。
反省
そして、2ヵ月のあいだに、佳那子の結婚式があったり、仕事で新しい事業部に配属になったりと日々の生活が刺激的で土山の事は忘れかけていた。
平林が心配そうに美知の顔を覗き込んだ。
「みっちゃん、僕が一緒について行ってあげるけど、一応警察にも届けた方がいいよ。最近、ストーカーの事件よくあるだろ。何されるかわからないからな」
「ありがとう、でもね、その元カレ、既婚者で。だから自分の立場わかってると思うんですよ」
平林は眼をパチクリさせて驚いた。
「まじで?みっちゃん、不倫してたんだ。いったいどこで知り合ったの?会社関係?」
一瞬気まずい空気が流れた。
「ちがう、社内じゃないです。今は反省してるから。しょっちゅう行ってる温泉施設のラウンジで声かけられて、すごく話が盛り上がって。彼、一人でよく風呂入りに来るって言ったから奥さんがいるってわかんなかったんです」
平林は、黙って美知の話を聞いていた。
「電車ないから、タクシーで送ってく。資料手伝ってくれてありがとう。そいつが今、本当にいるかどうか家に電話してみよう。僕が話すから」
美知の部屋の電話を鳴らしたが誰も出なかった。
「家に帰ったんだよ、きっと」
2人はタクシーで美知の部屋に向かった。タクシーの後部座席で不安げに窓の外を見つめる美知に平林がポツンと告げた。
「ショックだよ。僕、みっちゃんのことずっと気になってたから。職場ではいっつもテキパキ仕事こなしてるし、僕が頼みごとしても笑顔で受けてくれるし。それにゴハン一緒に行くとおもしろくて安心できるし。もしかしたら好きかもって自分では思ってた」
美知は平林の横顔を見つめた。深夜の東京の道路は昼間の喧噪とは違い、ちょっと寂しげだ。灯りが消えた雑居ビルの間をタクシーだけがスイスイ走り抜ける。信号待ちをしている人は誰もいない。
お疲れさまモードの夜の街。美知は平林のことは「いい先輩」くらいにしか考えていなかったが、たしかに平林と一緒にいると落ち着く。気取らずに自然な自分をさらけ出すことができる。こんな事件が起きて初めて気づかされた。
最低
「いつも、サポートしてくれてありがとう。平林さん」
平林が、そっと美知の手の甲の上に自分の右手を重ねた。美知は不安がやわらいだ。
こういうとき、タクシー運転手はわざと気づかないふりをしている。大人なんだなと美知は感じた。
「私も大人にならないと…」
さっきから美知は反省ばかりしていた。
美知の部屋の鍵をあけて、電気をつけ最初に平林が入ってくれた。2LDKの奥の部屋が寝室だ。寝室の電気をつけて平林が急に声を発した。
「ひどいや、こりゃ」
美知は平林の肩越しにおそるおそる覗いた。
ぐしゃぐしゃになったベッドの上に、美知の下着が散乱していた。
「最低!あいつ最低!」
美知は叫んだ。と、同時に涙があふれて来た。
「わたし、なんであんなバカな奴と付き合ってたんだろう。私こそ最低…」
平林が、声を出して泣いている美知の背中に手をあてた。暖かい手のひら。
「明日、そいつに電話してやるよ。今度家に来たり、美知に近づいたら、奥さんと警察両方に伝えるって。携帯教えて」
その日、平林はリビングで寝てくれた。怖がる美知をひとりにしておけないと。美知はあらためて平林の存在を頼もしく感じた。
天使
翌日、平林は美知の携帯から土山に電話をかけた。美知ではなく、男の声だったので、土山は最初何も話さなかった。
「昨夜の件ですが、久保美知さんの部屋の写真撮ってあります。ひどく荒れた様子でした。あなたの勤務先は久保さんから聞いてますので、ご家族と警察と同時に伝えますよ」
「もうしないから、やめてくれ…」
土山は覇気のない声を絞り出した。
「久保さん宅の鍵は取り替えるので、今お持ちの鍵は破棄してください。久保さんはもう接触したくないそうです」
土山は結局弱い男だった。家族も大切にできない、美知へもゆがんだ愛情しか向けることができない。電話を切って、何も言わずに指でOKサインをつくる平林を心からたくましいと思えた。美知はまた涙が出て来た。安堵の気持ちだけではない。
土山のような変な男と付き合ってしまった自分の馬鹿さ加減、近くに自分を守ってくれる平林がいるのに気づかなかった情けなさ、不倫の最中に土山の妻に悪いという感情を持たなかった非道な自分。ほかにも数えきれないくらい様々な自分の欠点があとからあとから湧き上がって来る。
「ばちがあたったみたい」
涙を拭わずに泣きながら美知は言った。
「早く気づいてよかったと思えよ。周りにもダメンズと付き合ってる子、いっぱいいるじゃん。池田とかさ、浦辺とかさ。ギロッポン派に振り回されてる噂、聞いてるよ」
慰めてくれる平林が天使に見えた。
「ダメンズっていうレベルじゃないでしょ。変態ストーカーと付き合ってたなんて馬鹿すぎじゃない」
鼻水をすすりながらやっと笑えた。
「恋の始まりはダメンズでも変態でもかっこよく見えちゃうもんだよ。気づいたときに反省ってことで。みっちゃんもこれでひと皮むけたよ。はい、嫌なことはもう忘れて!」
「平林さん、なんか、平林さんが天使に見えるんですけど。ほんとは天使のコスプレしたダメンズなのかな?」
平林は美知の手を取った。昨夜の不安な美知を安心させてくれた暖かい手。
「嫌な経験をした後には、うれしいことが起こる。世の常。だから、僕は本物の天使です」
2人で笑った。昨日の悪夢の夜とはうってかわって、すがすがしい日だった。
END
あらすじ
主人公の美知は束縛が激しい既婚者の男、土山と付き合っていた過去があり、それ以来ひどい男に引っかからないように気を付けようと決意していた。
しかし、合いかぎを返してもらい忘れたことを理由に、美知の家にその元カレがいて…