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【後編】恋愛とセックスのかけ算/23歳 藤香の場合


怖いような甘美な出来事

怖いような甘美な出来事。

「美乃里ちゃん、今夜、またレディースセット行ける?」

美乃里はメガネをはずしてウインクした。

オムライスの店、藤香はあの夜のことを切り出した。

「私の思い込み半端なかったよね。彼氏なんかつくらないってずっと言ってて。女を閉じ込めちゃいけないって気づかせてくれたのは美乃里ちゃんだと思ってる」

「バルダンツァのこと、触れないほうがいいかなって思ってその話題、スルーしてたんですけど。また行きます?カオルさんが会いたがってましたよ」

藤香は首を横に振る。

「ううん、無理。無理よ。別世界だったもの。今は倉木くんと普通に……ごく普通にお付き合いしていたい」

「そうですか。どんなタイプの彼氏?」

「うーん、やさしくて、時々ギャグを言って笑わせてくれる。声が低くて大人っぽい」

「月並みな感想ですねえ。エッチはすごい?」

藤香はコーンスープを一口すすって顔を赤らめる。

「何言うのよ。そんなのないわよ」

「はい?なんて言いました?いい大人が何ヶ月か付き合って……中学生じゃあるまいし」

「そうか。そういうものかあ。倉木くん、私のこと、やっぱり堅物に見えるのかな?」

美乃里はセックスを要求しない男について、いろいろ理由を並べ立てた。隣の席の客に聞こえぬよう一応声のトーンを落としている。その中で「もともと性欲がない」という理由に藤香はそうかもしれないと感じた。

外で食事をするとお酒を飲もうとも言わず駅に送ってくれる。藤香のアパートまで送ってくれたこともあるが、部屋には入らず帰ってしまった。

倉木は弟と部屋をシェアしているから自分の家には呼ぶことはない。昔風の清く明るい男女交際なのだ。

エッチになる粉

美乃里はミネストローネをおかわりした。

「藤香さんが誘う素振りをすればいいのに。女は隙があるくらいがいいんですよ。イメクラのお客さんも皆そう言ってます。ガチガチに硬そうな女でも、時にだらしない姿勢してたり、弱い素振り見せてくれるとむっちゃ燃えるって」

「お客さんが教えてくれるんだ。美乃里ちゃんも色っぽいものね。パンツスーツとメガネでまじめ風だけど、もてるでしょ。ケントさんだっけ、付き合ってるんでしょ」

「バルダンツァの人たちとはキスは挨拶だから。私が狙ってるのは、あそこにたまに来る外資系金融のおじさま。政治のことも経済位のこともなんでも知ってて教えてくれる。シンガポールに住んでるから月に一度しか姿を見せないの。でも絶対、振り向かせてみせる。一緒にシンガポール行きたいんです。だから、金融や株の勉強してます。日曜は寝てるなんて言ったけれど、本当はずっと勉強」

説得力があった。

贅沢する金が欲しくてイメクラでバイトをしているわけではないのだ。藤香はホーッと長い息をして、心から美乃里を尊敬した。

「その人とうまくいくといいね」

「でもね、お金に明るいだけではだめ。やっぱり、女の粉みたいなもの持ってないと大人は振り向いてくれないですよ。いざというときエッチな気分になる粉をふりかける、忍者みたいに。イメクラは一石二鳥。男の人の好きなこと全部わかるし、自分もエッチな気持ちになれるから」

藤香は美乃里から尖った人生設計を学んだ。彼氏がエッチな気分になるように自分から仕掛けないと先に進まないことも含め。

倉木と新大久保で焼き肉をつつく。煙で涙が出てきたのでメガネを取る。

「藤香、整った顔立ちできれいだよね。おかあさんに似てるの?」

急に母の話題が出てとまどう。

一人で生きようとしていたのは母のせいだと思い始めていたからだ。

「ううん、そんな似てないよ。それより、倉木くん、新宿まで歩いてみない?路地とかおもしろいお店あるかもしれない」

「そうだね。隠れB級グルメとかありそう!」

二人はスマホに頼りながら新宿に向かって歩き始める。

間口の狭い怪しげな店、客引きの男が立っている店の前を通り過ぎる。藤香はそっと倉木の手を握る。

倉木がゆっくり握り返してくれる。

「はじめて、手、つないだ」

藤香が小さな声でつぶやく。

キスしてアレを撫でる

夜景を前にキスする男女

喧騒から離れ、人通りが途切れた路地。

街灯りがほの暗く足元を照らす。

秋の気配なのか、街灯に寄ってくる虫すらいない。

「あの……藤香……」

倉木が藤香の手を強く握る。

「キスとか……いいかな」

藤香はこっくりうなずく。

倉木が藤香の細い腕を抱き寄せる。

「メガネは、二人共はずしたほうがいいの?」

「そういうのしらけるけどね。はずすか」

はずしたメガネをバッグに入れる。

メガネをはずすと倉木はまるで違う人に見える。

少し怖い。

腹をくくって目を閉じる。

倉木の唇が藤香の唇に合わさる。

バルダンツァの夜がフラッシュする。

カオルに舌を吸い込まれた夜。

「あの……よかったら、今日、泊まっていいんだよ。明日は休みだし。あ、倉木くんは出勤か」

「泊まる?明日は遅めの出勤日だし。もすこし歩けば……その……そういうホテルある場所だし」

しどろもどろしながら倉木が答える。

二人はメガネを掛け直し、そういう場所に向かって歩き始めた。

ホテルのシステムがよくわからずあたふたする倉木を見て、この人も自分と同じ型物人生だったんだとおかしさがこみ上げた。

ベッドの大きさが部屋面積の半分を占めている。

ちょこんと置いてある黒いテーブルの上にカラオケマイクとリモコン。

倉木は照れくささを隠しきれない。

カラオケの曲を選び始めた。

「僕、アジカンとか好きなんだ。あ、アクアタイムスもある。歌わない?」

なかなか気持ちがそっちに向かない。

そのまま立て続けに6曲二人で歌った。

カラオケ体験も悪くない。

藤香ははしゃいでしまった。

気づくと12時を過ぎている。

「ねえ、寝ないと明日、仕事きついよ」

「そうだね。シャワー浴びるよ」

倉木がシャワーを浴びているあいだ、美乃里にLINEを入れる。

「今、彼氏とホテルにいるの。リードにまかせていいんだよね。私から何かすることある?」

答えが届く。

「まず相手の出方を見て。じれったかったら首筋と乳首にキスしてアレを撫でる」

心臓がバクバク動いてきた。

アレを撫でる……なんていやらしい表現なんだ。

セックス恐怖症

シャワーを浴びてはいてもアレって汚い感じがする。

自分のアソコも決してきれいではない。

潤滑油の役割の液が出るというではないか。

鏡で映してみたアソコは醜い形をしていて決してセクシーなものではない。

なぜ男はそんな場所を求めるんだろう。

釈然としないまま藤香はシャワーを浴びる。

丁寧に洗う。

脇も股間も。

ソープをたっぷりつけ、指を肉のくぼみ深くに入れてゴシゴシ洗う。

臭わないだろうか。

倉木に嫌われないだろうか。

バスタオルを巻いただけの姿でシーツの間に入り込む。

照明をしぼって倉木は寝たふりをしている。

倉木もまた不安を抱えているのだ。

過去の経験人数は一人。

しかも不発。

その彼女は泣きながら部屋を出ていってしまった。

自信喪失の苦い過去。

繰り返したくない。

藤香がベッドに来るとのっそりと藤香の上に乗り、バスタオルを取っていきなり乳房を揉む。

ロマンも何もない。

藤香は気持ち良いとも感じない。

目をぎゅっとつむる。

乗り越えなければ……。

右の太ももに倉木のアレが当たる。

ヌルリとしたジェル状のものが肌に付く。

「やだ」

藤香は身体をよじり、倉木から肌を離す。

ヤモリが足に這い上がってきたかのようなざわつく感触。

爬虫類は苦手なのだ。

「いやなの?」

顔がやっと見えるくらいの暗闇で倉木が心配そうな声を出す。

確かに嫌だった。

汚いものが身体に密着した不快感。

「だよね……。初めてキスした日にエッチもするなんて早急だよね。悪かった……今日は寝よう」

昔の悪夢が蘇る。

なすすべもなくクルリと背を向けてしまった。

藤香も黙り込む。

首筋にキスしてアレを撫でるどころか、触ることすら汚らしく感じる。

どうしてよいかわからず、藤香はまんじりとした想いで夜明けを待つことになった。

月曜、美乃里に顛末を話す。

「セックス恐怖症ですね。怖いとか汚いとか思っちゃだめですよ。好きな人と気持ちよくなる行為なのに……。カオルさんと遊んだときは逃げなかったじゃない?」

「そうだね」

このままだと倉木は去っていく気がしている。

キス以上のこともできるようにしなければ。

「美乃里ちゃん、今夜もう一度、連れてって。バルダンツァ。」

2度目のバルダンツァ。

カオルとケント以外に3人スーツ姿の男が葉巻を吸いながら談笑している。

甘い葉巻の香りが立ち込める。

カオルは満面の笑みで藤香を自分の横に座らせた。

美乃里がカオルの耳元でコソっと何かを伝えている。

怪物にアソコを食べられる

シャンパンを2杯、ワインを2杯。

カオルと話しながら飲んでしまった。

意識が朦朧としてくる。

ついカオルの肩により掛かる。

カオルが口移しで赤ワインを藤香に流し込む。

心地よい。

思い切りリラックスしている。

カオルは、藤香のシャツのボタンをはずし、ブラジャーの下から指を這わせる。

乳房を下から上に揉み上げる。

絶妙な力具合。

その時だ。

ソファの下にケントが膝まずき、藤香の紺のプリーツスカートをめくり、パンティに手をかける。

はしたない格好。

酔いにまかせて、抵抗せずカオルとケントに身を委ねる。

薄目をあけると、周りの客達は意に介さずそれぞれ会話に夢中だ。

こんなことよくあることなのだ。

ここは大人が集う異世界。

スカートの下はあられもない姿。

そして、ケントが両足を開かせていきなりアソコを吸い始める。

「きゃっ」

思わず足を閉じようとする。

驚きのあまりお尻の穴までキュっと締まる。

カオルがささやく。

「怖くないわ。緊張しちゃだめよ。大人になりたいんでしょう」

カオルに寄りかかったまま、力を抜く。

チュプチュプという吸引する音が下半身から聞こえる。

爬虫類どころではない。

怪物にアソコを食べられる……そんな怖さがあった。

だが、何かが内側から湧き出ているのを感じる。

ジュワリと吹きこぼれる。

うっとりするような心地よさ。

内側にたまっていた何かが時を経てやっと外に出てくる。

この日を待ち構えたかのようにジュワリジュワリ、とめどなく。

葉巻の香りに混じって、腰の下から淡く匂い立つ酸っぱい香り。

ケントはヘアをくわえて引っ張ったり、左右の膨らみをチュパチュパ吸ったり、恥ずかしいアソコを弄ぶ。

「藤香、ベットリ濡れてきたよ。おいしいラブジュース、舐めてみるか」

指で藤香の中身をすくい上げる。

「ん……」

湧き上がった液を藤香の唇に塗る。

酸っぱい中に甘ったるい匂い。

これが、潤滑油の役割をするもの……。

朦朧とした頭で考える。

カオルが藤香の硬さを増した乳首を噛むのと、ケントがえんどう豆のように膨れた女の突起を吸うのと同時だった。

藤香は腰を浮かせ、部屋中に響き渡る声をあげた。

「ふわあああぁぁぁぁ」

大人になりたい

倉木とのLINEがそっけないものになって3週間経っていた。

初めての夜のギクシャクした行為が尾を引いている。

デートの約束もない、次に合う日を決められない微妙にこじれた関係。

藤香は、またルーチンから外れた行動を取る。

前の藤香ならしなかった行動。

美乃里だったらどうするだろうと考えた。

美乃里ならきっとこうする。

メガネショップの外で倉木の帰る時間に待ち伏せをした。

20時45分、倉木が裏口から出てくる。

藤香は、深くお辞儀をする。

初めて会った日のように。

「この前はごめんなさい……会いにくくなったのは私のせいだよね」

「あ……いや……僕も……気が利かなくて。その……なんていうか……ああいうこと」

「倉木さんを失いたくない。このメガネ、ずーっとかけていたいの」

倉木は困ったような顔をする。

しゃれた反応ができないのだ。

女性慣れしていないのはよくわかる。

やっと出た言葉は数分後だった。

「あの、よかったら、うち来る?弟、バスケ部の冬合宿で留守なんだ」

倉木のマンションは2DKで、兄弟一部屋ずつ分けて使っている。

倉木の部屋にはマットレスが敷いてある。

細長いテーブルとカラーボックスしかないシンプルな部屋。

「きれいに片付いてるのね」

「ごちゃごちゃしたものはロフトにつっこんであるから」

キッチンにあったクラッカーを二人でかじった。

ペットボトルのお茶を飲みながら藤香は、逃げて悪かったことをあやまる。

倉木は藤香の目を見ることなくうなずく。

「無理しなくていいさ。もっと慣れたらで」

「ううん、試して欲しい。もう一度。このままだと女として不完全みたいで、私も嫌なの。大人になりたい」

倉木は、藤香の肩をそっと抱き寄せる。

「風呂、狭いけど、入るか?」

まず倉木が先に入り、髪の毛をタオルできながら出て来る。

次に藤香が入る。

メンズシャンプーしか置いてない。

とりあえずシャンプーで身体中ていねいに洗いながら、バルダンツァでの気持ちいい体験を思い出す。

「できる。怖くない。汚くない。あんなすてきな気分になったんだから。」

メンソール成分が入っているのか、シャンプーがぴりっと藤香のアソコを刺激する。

怖くて酸っぱい世界にある甘い粒

真っ白なTシャツを来た倉木が、マットレスに座ってスマホ画面を見ていた。

倉木は不安を隠しきれない。

逃げられたらどうしよう。

ちゃんとできるのかと。

倉木に借りたワイシャツを羽織り、藤香は倉木の横に膝をたてて座る。

倉木は髪、頬、耳と3秒師のリズムでキスをする。

マットレスの上に倒れ込む。

肌寒いので毛布を上にかける。

深夜映画で見た光景。

倉木はシャツをたくしあげ、丸く盛り上がった乳房に頬ずりする。

一番長い指を……藤香のアソコに割り入れる。

美乃里の言うことを思い出す。

倉木の首筋にキスをして……アレを撫でる。

カチコチに膨れ上がり、こんなものが入るのかと思うほど大きかった。

ジェルが滲み出ているがもう逃げたりはしない。

「怖い?」

「怖くない」

「入れてみていい?」

藤香はうなずく。

ケントに吸引されて、意識が飛ぶほど気持ちよかったはずだ。

だいじょうぶ。

言い聞かせる。

倉木はおそるおそるねじ込む。

「あっ……」

「痛い?無理?」

「ちょっと待って」

藤香は息を大きく吐く。

ケントとカオルにされたことを必死で思い出す。

だいじょうぶだ。

痛くなんかない。

気持ちいいものなのだ。

「はい、もっと奥まで……大丈夫」

倉木がグイっと腰を沈めこむ。

痛みを気にしてか、収めたままじっとしている。

「倉木くん、だいじょぶだから、動かしてみて」

倉木がゆっくり、腰をバウンドさせる。

そして短いキスをする。

緊張していた筋肉が解き放たれたかのようにゆるむ。

瞬間、スルリと深部まで倉木を包み込むことができた。

「ん……んんああぁぁ」

バルダンツァの時ほどではないが、たしかに下半身が喜ぶ感じがした。

大好きな男と毛布の下で絡み合う。深夜映画のヒロインになれた。

倉木も慣れているわけではない。

あっという間に、果て、藤香から身体を離した。反射的に藤香は倉木に抱きつく。

「よかったね……ちゃんとできた」

倉木は藤香の髪の毛を撫でて安心したように息を吐く。

そんな顔を見ながら、倉木も藤香と同じようにセックスと向き合うことから逃げていたことに気づいた。

堅物のまじめ女子だった藤香、メガネを替えたら世界が変わった。美乃里の生き方を認めたことで、大人の世界に足を踏み入れることもできた。

テーブルの上に並んだふたつのメガネを交互にメガネ拭きで拭く。

「どうしてメガネ拭いてるの?もう寝る時間なのに」

「うん、起きた時に、曇りのない朝を迎えたいから」

眠そうに目をこする倉木の肩にそっと口付けて藤香は電気を消した。

明日は違う朝が来るはずだ。倉木と似ている気がする。

どうして逃げていたのかちゃんと話そう。倉木の話も聞いてあげよう。

背伸びしたら届いた大人の世界。

怖くて酸っぱい世界にある甘い粒を、藤香はやっと見つけた。


END

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あらすじ

真面目に23歳まで生きてきた藤香はひょんなことから会員制のバーに招待される。
そこで豊満な肉体を持つカオルと、バーの大家であるケントと出会い…

公開中のエピソード 全67話公開中
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