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【後編】恋愛とセックスのかけ算/29歳 美鶴の場合
身分違いの恋
「ミミ、怒ってる時はトーンダウンして怒りを静めなくちゃ。怒ったまま寝ると明日、お肌の調子最悪になるよ」
美鶴はレモングラスとベルガモットのアロマを小瓶に入れ、ミミの鼻の前で振った。
「ちょーいい香り。確かに落ち着く」
ミミが目をつむる。
しばらくするとミミは自分で持ってきたジャージに着替え、ひざ掛けを布団代わりにしてソファに横になった。
「ここで寝る。今日はカレシ来ないんでしょ?」
「ケンちゃんのこと? もう会うのやめよっかなって思ってるんだ」
ミミはガバっと起きた。
「え? 奥さんにバレた?」
「違うよ。でも、ケンちゃんにとって私は浮気相手なわけだし、その関係も不安そのもの。エッチのためだけに会うのも寂しい。けんちゃんに会うのは一人の寂しさを紛らわすためだけってわかってきたの。最近、気になる人が現れたしね」
「ヒョー! やっぱそうかあ。美鶴っち、そろそろ結婚考えてきたかあ」
美鶴は手のひらをヒラヒラさせて笑う。
「違うって。結婚なんかできないよ。彼、ダンス界の大者だもん。まあ、一ファンって感じ」
「わかった! 黒木航星さん! ミュージカルで一緒に踊るんでしょ」
美鶴はヘヘっと笑う。
レモングラスの香りが部屋に漂い、二人はすっかりくつろいでいる。
「そろそろ寝ようか。明日の稽古にさしつかえるぞ、夜更かしは」
ミミは、目を大きく見開いた。
「眠くなくなったよ。美鶴っちの新しい恋、応援する。航星さん、素敵じゃない。海外でも活躍してるし、憧れだよね」
「だからさ、恋とか無理。女性ファンも多いし。憧れの存在ってことで置いとく」
「いやあ、男と女は何があるかわかんないよ。身分違いの恋ほど萌える。大金持ちと結婚したお手伝いさんの話、テレビで見たよ」
美鶴は、ミミに話したことで恋のサポーターができたような、ふわっとした気持ちになった。

翌日の稽古で、美鶴は航星のソロシーンに見入っていた。瞬きすら忘れる。ずっと見ていたいと思えるダンス。
「熱心に見てるわね」
ルリカが腕組みをして美鶴の横に立っていた。
ルリカはこのミュージカルのためにニューヨークから帰ってきたメインダンサーだ。173センチの長身。肩まであるカーリーヘアを耳の下でまとめ、いかにもニューヨークスタイルという、目元を強調したメイク。立っているだけで目立つ。
「あ、ルリカさん。お疲れさまです…」
シドロモドロで答える。
「航星のこと、好き?」
ダイレクトな質問。
「は、はい…。素晴らしいダンスのファンで」
「あなたもプロとして舞台に立つなら航星のダンスに感心してる場合じゃないでしょ。もっと練習しなさいよ。はっきり言って未熟よ。動きが。基礎は出来ているけど、人に訴える何かがない」
美鶴はルリコの説教に固まった。
頭を垂れ、「はい、練習します。よろしくお願いします」と消え入りそうな声で呟いた。
両手を天井にスクッと伸ばし、ストレッチしながらさってゆくルリカの後ろ姿を見て、届きそうにない美しさを感じ取った。自分にはない誇り、自信がルリカの踊りにはある。
自分の踊りを動画で見ると、優しい印象しか受けない。そしてどことなくオドオドした箇所が見える。まだまだだ。自信のなさが動きに見え隠れする。
ルリカに指摘される前に欠点はわかってはいたのだが、直接言われてショックだった。
自分の番が来るまで練習しよう、美鶴は空いているスタジオに向かった。
鏡の前で背筋を伸ばして立ってみる。どうしてもルリカのような俗世間から離れた存在感が出ない。顎を少し上に上げてみる、目線を平行ではなく20度上にしてみる。肩を後ろに引いいてみる。引きすぎると鳩胸のおばさんのように見える。
だめだ、こうじゃない。航星もルリカも指先まで細心の注意を払っている。美鶴は振付に夢中になって指までは気が回っていない。真ん中の指3本の指をくっつけて、小指だけ離してみる。だめだ人形みたいにぎこちない。ああだこうだとモーションを探る。
怪我
合わせ稽古が始まる。それぞれのパートナーとの動きを合わせながら役作りをしてゆく。
男性パートナーの西原が美鶴の腰を支えて抱きあげる振付の時だった。ルリカが至近距離で美鶴の動きを見つめていた。嫌な気分が胸の中で渦巻く。
気になってしょうがない。西原が目で合図をして美鶴の腰をグっと把み、自分の肩の位置まで持ち上げる。美鶴は左ヒザを曲げて両手を広げなければならない。いきなりルリカの声が耳に入る。
「あ、航星!」
注意散漫だった。ダンスのことしか考えてはいけなかった。美鶴はその声に反応し、着地の時にバランスを崩してフロアにドサッと倒れこんだ。西原に当たらないように身を避けたのが悪かったのか、左手首を変な格好で着いてしまった。鋭い痛みが手首から腕を走り上がる。
冷や汗がにじむ。怪我した。一番気をつけなければならない時期に。痛みより、舞台に上がれない不安がよぎる。
座っている美鶴の周りに皆が駆け寄る。航星がよく通る声で言う。
「氷とタオルを持ってきてくれ」
西原が走って取りに行く。
航星が美鶴を抱き上げ、舞台袖の長椅子に運んでくれた。
「他の皆は、第3幕の最初から通してやっててくれ」
ダンサーたちは各々の持ち場に戻る。
航星は氷を美鶴の手首に当て、タオルで縛る。
「このままタクシーで整形外科に行け。湿布して固定すればすぐ良くなる。俺も何度もやってるからわかる」
「航星さんも?」
「ああ、着地失敗で手を着くなんて人の本能だから、しょうがない。大丈夫だ。明後日には普通に踊れる」
美鶴は、その言葉でさっきまでの動揺が空に飛び散った気がした。気がつくと涙で頬がびしょ濡れだった。航星が人差し指で涙を拭う。
「顔洗った後みたいに濡れてるぞ」
美鶴に笑顔が戻った。遠くでルリカが腕組みをして二人を見ていた。
ギブスをするほどではなかった。サポーターで固定し、冷やし続ければよいと言われた。夜、気持ちを落ち着かせるラベンダーの香りを選び、深呼吸した。
ルリカは嫌がらせをしたのか、もしかしたら航星のことを好きなのかと考えながらも、結局はダンスに集中できていなかった自分が悪いと反省を繰り返した。
アロマポットの横においたスマホが震える。知らない番号。ミミがまた充電し忘れて友達に借りたのかと思った。
驚いた。
「黒木です。痛みは?」
美鶴は、言葉が出なかった。
「出演者名簿持ってるから、電話かけてしまった。悪いね」
「あ…いえ、あの、その」
「明日は休んで。下手に見学に来ると焦るから。明後日には痛みもとれるだろうし」
「は、はい。ありがとうございます」
「美鶴、集中力を養え。のめり込め。踊りに」
そう言って電話が切れた。しばらくボーっとしていたが着信番号をしっかり登録した。
「黒木航星さん」
登録画面を見ながら、いつしか美鶴は眠ってしまった。夢の中で、美鶴は航星とペアで踊っている。軽やかなステップ。安心できるリード。
何も怖くない。いくらでも空に向かって飛べる。怖くなどない。空中で舞うことができる。航星がリードしてくれればどんなダンスもできる。
長い腕が美鶴に巻きつく。美鶴を引っ張る。美鶴を支える。美鶴は何も考えなくても踊ることができる。航星に全てを託して。
こんな幸せな夢は初めてだった。薄桃色のコスチュームドレス。頭には大きな花の髪飾り。航星は白いサテンシャツに黒のフレアパンツ。
「ここはどこ? 雲の上? 綺麗な白い光に包まれてる。夢なら醒めないで…」
美鶴は夢の中でつぶやいていた。
スターと恋の始まり
心地よく目覚めた。手首の痛みは消えている。航星が痛めた手をずっと握っていてくれたように感じた。昨夜の夢がいつか現実になればいい。美鶴はふと、思った。
最近「思考は現実化する」という本を読んだばかりだった。冷蔵庫を開けてトマトジュースを探す。その時、LINEが入った。賢吾からだった。
「電話しても出ないのは、稽古中だから? LINEは無視するなよー」
すっかり忘れていた。賢吾から誘いのメールが何度か届いていたのに「ちょっと稽古でいっぱい×2」という返事を一度送ったきりだったのだ。
謝っている子豚のスタンプを送る。そのあと、文字で「じゃあ月曜夜なら会えるよ」と打った。そしてチラっとトマトジュースの入ったコップを見て、喉が渇いていたことを思い出し、一気に飲み干した。
すると、「会える」というメールは送ってはいけない、とはっきりわかった。美鶴にとって賢吾は寂しさから逃げたい時しか会わない男だと、この前気付いたばかりではないか。
さっきのメールを消し、打ち直す。
「ごめんね、ケンちゃん。うちらのことよく考えたい。舞台落ち着いたら一度話そう。それまで会えない」
送信アイコンにゆっくりタッチした。
翌日から、手首にサポーターを付けて稽古に戻った。相変わらずルリカは皮肉めいた言葉を投げつけてくるがもう気にならない。航星が自分を守ってくれている様子を感じ取ることができる。
ルリカの皮肉を航星の笑顔が打ち消してくれる。その日から全てがバランスよく進んだ。役作りもうまくいった。踊ると皆に褒められる。パートナーの西原にも「美鶴ちゃん、怪我してからなんか踊り方変わったな」と喜ばれた。
数日後、どうしても覚えきれない振付が出てきたので、スタジオに一人で残って練習をしていた。何度も同じステップを踏む。時間を忘れて踊っていた。スタジオのドアが開く。
「熱心だな。相手してやろうか」
航星がスタジオ脇にあるレッスンバーに右足をスっとのせ、ストレッチを始めた。
そこからは時が止まった。いつか見た夢の中に美鶴はいた。西原のパートを航星が踊る。振りは一緒なのに、なぜこれほど踊りやすいのか。手を握られる瞬間は嬉しい。手が離れると切ない。
「もっと触れていたい。
ずっとあなたに。
抱きしめて。
後ろから私を包み込んで。
飛ぶ。
あなたに支えられて。
あなたの胸にもたれて眠りたい」
美鶴の気持ちをそのままダンスに込めた。
曲が終わり、静止したままの二人の激しい息しか聞こえなくなる。
航星が美鶴を引き寄せた。美鶴の腰に両手を回す。
「あ、あの、こんな振付は…」
「今、考えた」
航星の長い指が美鶴の顎をクイッと上げる。
目が合う。何秒間見つめあっただろう。
航星の唇が美鶴の唇をふさぐ。そしてサポーターを付けている手首をキュッと握り締める。美鶴は恋におちた。
そしてキスの後、二人で、鶴のポーズをとった。
北の空に飛び立つ前の鶴の気持ちになって。
美鶴は自分の名前に感謝した。
ロッカールームからミミに電話をした。
「ミミ、遅いけど、会える? 話したい。どうしてもミミに話したい」
「何〜? なんかいいこと合った? 怪我治った?」
のんきな声がやけに嬉しい。
「とにかく、今どこ? 渋谷のクラブ?」
「なんでわかんの? ここはうるさいから駅前のカフェで待ち合わせしよ。スタジオから近いよね?」
ミミは相変わらずの派手な花柄服で、肩にペパーミントグリーンのリュックサックを背負って深夜のカフェに現れた。
「サイケな格好だねー」
「ダンサーだもん、いいじゃん。で、航星さんとどうよ?」
美鶴は航星とのダンスそしてキス、賢吾との別れを話した。
ミミの目から見るみる涙が溢れてきた。
「マジ、泣ける。よかったね、美鶴っち。ちゃんとした恋が始まって。しかも、大スターと」
美鶴はミミを愛しく思う。本当の妹みたいにかわいい。ミミのマスカラが落ちてパンダ目になってきている。
「ありがと。ミミ、なんでも食べて。おごるから」
ミミは涙とマスカラを紙ナフキンで拭きながら「って言ったって、ここナポリタンとサンドイッチしかないし。こんな夜中に炭水化物食べたら明日、踊れないし」と笑う。美鶴は席を立って、ミミの隣に座り、ミミをぎゅうっと抱きしめた。
夜空の下でダンス
ミュージカルに向けて、美鶴はこれまでにない熱意で練習に打ち込んだ。怪我をした手首をかばう時、航星の優しそうな顔がよぎる。航星が握ってくれた手、そう思うだけで心と身体が重力を失い、フワリと浮き上がる。
演出家からも「いいねえ、軽やかなジャンプステップ。その調子で」と褒められる。航星は言葉に出さないが、目で満足な様子を伝えてくれる。
毎日が満ち足りていた。
ミュージカル初日、全員が素晴らしいパフォーマンスを発揮できたアンコールの拍手、「ブラボー」の叫び声。客席の後尾座席から舞台に向かって大波となった賞賛が押し寄せてくる。
出演者と一列になって手をつなぎ深々とお辞儀をする。舞台の袖にはけると、最後に主演の航星がステージのセンターで素晴らしい笑顔を見せて大きく、お辞儀をする。
美鶴は自分の涙の熱さに驚いた。興奮して頬が熱いのか、涙が沸騰して出てきたのか。カーテンが閉まりきるまで航星に出会えた奇跡に感謝した。
舞台は連日続くので、体調管理のため、皆が早々に引き上げる。美鶴も電車で家に向かう。マンションの近所の弁当屋が3割引の看板を出していた。
「コロッケ弁当と、コールスローサラダひとつくださーい」
その瞬間、背後から「鯖の塩焼き弁当も」と声がした。心臓が口から飛び出るかと思った。航星の低い声。
「嘘? まじで?」
おそるおそる振り向く。美鶴が毎日、頭の中で描いている航星の笑顔。
「ど、ど、どうして?」
「今日の舞台、振付一箇所間違えていただろ。プロとして情けない。教えに来た」
美鶴は、全身の力が抜けた。
狭いマンションの一部屋。コロッケ弁当と鯖弁当をテーブルに置いて向き合った時、美鶴は吹き出した。
「どうした?」
「全然、イメージ違います。スターダンサー航星さんが、3割引の鯖の塩焼き弁当…」
「俺だって、美鶴と同じ人間だ。宇宙人じゃない。コロッケも食べたい」
「ええ? 航星さんは宇宙人です。それでなきゃ、あんなきれいで正確な動きはできません」
美鶴は、航星を益々好きになる。航星が眩しそうな目で美鶴を見つめた。
寡黙な航星に美鶴が一方的に話しかける。航星が自分から発した言葉は「いい香りがする。アロマか?」だけだ。
「私、夢見たんです。航星さんとのペアダンス。夢の中で航星さんと踊ったステップ、一生忘れません。あんな幸せな夢、見たことなかったな」
「現実に一緒に踊ってるじゃないか」
「皆さんと一緒にね。でも夢は二人きりでした。お花畑なのか雲の上なのかよくわからないんですけど、とってもロマンチックな場所で踊ってたんです」
床に座っていた航星がスっと立った。美鶴に向かって「どうぞこちらへ」とでも言うように手を差し伸べる。
指先までピンと伸ばし、まるでダンスのワンシーンだ。美鶴もダンスをしているように立ち上がった。草木が朝の光で目覚めて空に伸びをするように。
狭い空間で、航星は美鶴をお姫様のように抱きかかえる。美鶴の右耳が航星の胸板にあたる。暖かい。くすぐったい。嬉しい。
量販店で買ったシングルベッド。クリーム色のベッドカバーの上に航星は美鶴をおろす。
信じられなかった。憧れの航星が自分の部屋にいること。ベッドで一緒に横になろうとしていること。舞台のアンコールの時のように頬が熱くなる。
部屋にはシダーウッドの香りが漂う。航星が美鶴の右側に横たわり、頬にキスをする。
「人一倍頑張っている美鶴が可愛くてしょうがない。ほっておけない」
「…」
美鶴は緊張で声が出ない。ただ恥ずかしそうに航星を見つめた。
「最終日までしっかり踊りこんだら、付き合おう」
美鶴は目を見開く。
「…」
「今夜はそれを伝えに来た」
やっと美鶴が声を出した。
「そしたら、今日はまだ付き合ってないんですね」
航星の切れ長の目がもっと細くなる。
「そうだ。告白の答えをすぐ出すものじゃないだろう。よく考えてから答えていい」
「すぐ、OKしたら、まずいのかな。簡単な女って思いますか」
「いや」
「じゃあ、もちろんOKです。そんなこと知ってるくせに」
航星は少し間を置いた。
「俺もドキドキしたい。断られるかもしれないっていう不安な気持ちを感じたい。それをダンスに取り入れたい」
美鶴は唇をツンととんがらせ怒ったふりをして航星の額を指で弾く。
「私は航星さんのダンスの表現力をつけるための道具ですかあ…」
航星は美鶴に覆いかぶさり、長い長いキスをする。怪我をした手首に航星の細く長い指が巻きつく。美鶴はこれからもずっと航星と踊っていたいと思った。
窓から月の光が差し込んだ。冷たいけれど暖かい。航星のような月の光。
「あっ…思い出しました」
「何を?」
「夢の中で踊っていた場所」
「俺たちはどこで踊っていたんだ?」
「…夜空。まんまるな月ときらめく星がたくさんの」
美鶴は、夢の中でしたように航星の頬を両手で包んだ。
「夜空と朝の光が交代してもずっと一緒にいてください」
シダーウッドの香りの中で航星は、目をつむってうなづいた。
END
あらすじ
主人公・美鶴は、妻子持ちの男・香坂賢吾と付き合っている。
「奥さんにも舐められているんだろうな」そんなジェラシーを持ちつつの関係だ。
そして、嫉妬することでセックスを攻撃的に変えていて…