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【前編】恋愛とセックスのかけ算/30歳 直哉の場合
モテ男の性生活

霧を吹きをかけたように汗ばんだ背中にいきなり爪が食い込む。
「いてっ! 何すんだよ」
気分良く下半身を動かせていた直哉が叫ぶ。
「直哉、誰のこと考えてんのよ。わかるのよ。私としてる時はほかの女のこと考えないでよ」
未唯が不服そうに直哉の顔を見上げている。さっきまで、俺の腰骨に脚を巻きつけてアンアンよがってたくせに、こいつこそ嘘つき女だ。直哉は急に白ける。
「何、言ってんだよ、未唯のことしか愛してないって」
直哉がズンと腰をしずめる。
「あ…ん…。感じる…」
未唯は甘酸っぱい息を直哉の頬に吹きかける。数分後、パイプ製のシングルベッドの上で脱力している未唯を見下ろして直哉は目を閉じる。
“ああ、またやっちまった。たいして好きでもない女とクロスしちまった…”
グルリと壁を見回す。親の仕送りで都会の大学に通っている女子大生が、卒業してすぐにお水の世界にはいっちまいました的な部屋。
中目黒にできたニトリで揃えたというかわいらしいテーブルセットと赤いチューリップ柄のラグ。
直哉はスマホをチラっと覗いたあと、ゆっくり服を着る。ギルドプライムで入手した雲のデザインのジャケット、インにネイビーのシャツ。あえて太い幅のパンツでゆったり感を出している。
「おい、そろそろ行くわ。打ち合わせ入ってるんだ。来月インディーズバンドのイベントまかされてっから」
未唯は、起き上がろうともせず、ベッドの中でけだるそうにヒラヒラ手を振る。ラグの上にショッキングピンクのパンティがだらしなく放り出されている。
「チッ。色気も何もあったもんじゃないな」
スマホがリンと鳴る。
「ナオヤ、どこ? 今夜、来るって言ったよね」
里穂からだ。夏にどこかのフェスで知り合ったロック好き女。どんなセックスをしたのかまったく覚えていない。未唯のマンションの前でタクシーを拾う。乗ったとたん思い出す。
里穂は車でするときしか燃えない女だ。
直哉は三人兄弟の末っ子。上の二人は姉貴。小さい頃から二姉妹に人形のようにかわいがられた。ヒラヒラのドレスを着せられたり、母親の化粧品をこっそり盗んできてメイクをされたり。
直哉は特段、色白で美しい顔をしていたので母親も三人姉妹のように育てた。
「僕は男だ…」
何度も心の中で叫んだが、4歳上と6歳上の姉貴達の強さにはかなわなかった。そこに母親の妹の叔母が時々参加する、徹底した女系家族。父親も取り込まれて、去勢されたわんちゃんだ。
直哉もしかたなくおとなしくしていた。繊細で、きれいなモノが大好きなおしゃれ青年になったのは言うまでもない。美形でファッショナブル。当然どこにいても女性が寄ってくる。
小学校、中学校、高校…。常に女子からの人気ナンバー1。彼女に不自由しない人生。退屈な毎日だと思っていた大学2年の時、先輩が立ち上げたイベント会社に誘われてそのまま働くようになった。
マイナーなバンドのLIVEからマジックショーまで、いろんなジャンルのイベントを企画し、集客する。会場で沸き立つ観客を後方から見ていると「意外にいい仕事じゃん」と充足感が湧くようになっていた。
アーティスト、提携しているイベント会社のスタッフ、衣装係、メイクスタッフ、はたまた宅配弁当屋の女まで、直哉はもてまくる。自分から誘わなくても、あちらが頬を上気させて近づいてくるのだ。
上目遣いの異性というのを察知するセンサーが直哉に備わったのはこの頃だ。同僚からは 「お前、身体から蜘蛛の糸出しまくってるんじゃねえか」と笑われる。
蝶々は何匹でも糸に絡め取られる。黄色い羽、白い羽、金色の粉を振りまきながらわざと直哉の糸にかかりにくる。時に、かかってくれなくてもいいと思えるへんなのもいる。
中には年齢不詳の大きな蛾もいる。彼女たちはこぞって直哉に高価なものをくれ、お金を出す。
「直哉くん、将来どうしたいの?」
「今の会社から独立して、自分のイベント会社持ちたいんです」
「あら、そう。じゃあ、出資する。はい」
契約書も何もなく、ポンと札束をバッグから出す妙齢の女性がいた。
「いただけませんよ、こんなもの…」
「起業して、黒字が出たら倍で返して。担保は、あなたよ。直哉くん」
そして女性は直哉にむさぼりつく。直哉の身体に蜂蜜をべっとりと塗り、一晩中舐め回す。
直哉は目を閉じて心を閉ざす。身体だけを女に貸すのだ。直哉はすべての女性に愛され、抱かれる運命を持<つ。
おもしろい新スタッフ
イベント会社社長のノリアキが直哉の肩をポンと叩く。学生時代、直哉を自分の会社にスカウトしてくれた先輩。
「直哉、麻布のはずれに新しいクラブがオープンするんだよ。札幌のクラブオーナーの店。札幌の店とその店を実況でつないだパリピナイトを仕切ってくれってさ。お前にまかせるよ。札幌から沙羅ちゃんっていうスタッフ送り込むってよ」
「おもしろそうすね。DJとか、俺が連れてきていいんすか」
「ああ、コンセプトも人選も頼む。俺、ダイバーシティのイベントの下請けのほうで手一杯だ」
「承知!」
直哉は、外部スタッフのうけがいい。
特に女性スタッフとうまくやれるので、イベントもパーティーも必ず成功させている。
うまくいくとノリアキが報奨金をくれるので、いくばくか貯金もできた。独立して自分のイベント会社を立ち上げるのもそろそろだ。
数日後、事務所にリスみたいな色の髪をしたちっこい女がやってきた。
頭のてっぺんにオブジェのような果物の髪飾りをつけている。洋梨か。幾何学模様の長いスカート、奇抜なセットアップ。
「後藤沙羅でーす。札幌のNORTHから派遣されて来ました! よろしくお願いしまーす。麻布店のイベントまでこっちに泊まりこんで働きます」
直哉はいつもの女性向け笑顔で答えた。どの角度でどういう仕草で笑えば女がときめくか丸わかりだ。
「沙羅ちゃん、遠くからようこそ。俺、チーフの直哉。浦井直哉。ウィークリーマンションに泊まってんの?」
リスみたいな髪の毛の沙羅は目を丸くして首を振る。顔もリスみたいだ。
「いえー。西日暮里に親戚がいるんで短期下宿です」
「しぶい場所だな」
「でも繁華街、すごい賑わってるんです。さすが都会ですね」
「そうか、飲み屋とかキャバとか多いんだよな。たしか」
「はい、イベント好きにはいい街です。でも、白金とか麻布とか住んでみたいです。一生に一度でいいから」
「いいじゃないか、札幌。おしゃれじゃん。てか、そのヘアスタイルは北海道モード? リスに見える…」
沙羅がこげ茶色のメッシュの髪の毛を撫でながら言う。
「リスって可愛いってことですよね。じゃあ、うれしいです。札幌で流行ってるわけではないけど、個性ってやつです。今日、仕事終わったら原宿行って、こっちのおしゃれの勉強してきます」
おもしろいスタッフがやってきた。今まで見なかったタイプだ。
イベントまで4ヶ月、スムーズに仕事ができそうだ。直哉はさっそくパワポにまとめたプラン概要を沙羅に見せて説明をした。
よそのクラブのイベント動画をネットで見ているとスマホがピーヒョロと鳴る。メールではなく電話の着信。
「なんだよ、今、仕事中」
「ねえ、最近、なんで会ってくんないの。里穂寂しい。また、車の中でしたいな…両脚を直哉くんの肩にひっかけてするやつ」
「ばーか。お前、今年中にカレシ作るって言ってただろ。はやく作れよ」
「うん、でもやっぱ直哉くんがいい。直哉くんみたいなイケメンとキスしちゃったから、ほかの男の子ともうできない。キスする男の子、不細工だともう無理。直哉くんみたいなきれいなイケメン、なかなかいないよ」
「切るぞ。忙しい」
LINEを確認すると、8人の女からダダダっと入ってきている。未唯もいる。
「直哉、明日、六本木のKOOLで待ってる」
敬子からは泣き顔のスタンプが10個くらい送られてきている。うざい。麻里子は、「寂しい」と一言。怖い。薫は自撮り写メの連打。馬鹿だ。
セリナのLINEに目が止まる。ストレートのロングヘアがきれいなはっきりした顔立ちの美形。胸は小さかったが締りはよかった。
あまり声を出さないところが直哉のツボにはまった女だ。甲高い声で「イク」を連発する女はしらける。セリナのLINEをたどる。
「直哉さん、最後に会ってからもう3週間だよ。ミュージカル連れてってくれるって言ったから、連絡待ってる。忙しかったら飲むだけでもいいから、連絡ほしいの。直哉さんの家の近くまで行くから」
直哉は、セリナなら抱いていいと感じた。直哉にとってセックスはスポーツのようなものだ。定期的にしておくと体調がいい。
「ごめんね、セリナ。新しいクラブのオープニングイベントまかされて忙しかった。でも会いたい。今からタク飛ばして会いにいくよ」
数秒で返事が届く。
「うれしい。おなかすいてない? なんか作っとこうか」
直哉はうっとおしそうに眉をひそめる。
「いらない。着いたらすぐにセリナを食べる」
直哉は、周りの女たちを自由に操る魔術師だ。
都会のオンナの抱き心地
代々木の住宅街にあるレンガ作りのマンション。そこそこ稼いでいる都会の女性にお似合いだ。セリナはたしか、新宿高層ビル街にある通販会社に勤務している。オートロックを通り、セリナの部屋のベルを鳴らす。
カチャっとドアをあけたとたん、セリナに左腕を引っ張られる。抱きつかれてキスの嵐をあびる。まだ乾ききっていない長い髪の毛がペトンと直哉の白い頬に張り付く。
「直哉さん、待って待って待ちくたびれた…どうにかなりそう…」
セリナは乱れる女ではないと思っていたのに、この物欲しげな様は何だ? 女は面倒くさい。
「セリナ、シャワー浴びてたのか。髪濡れてる」
「そう。だってすぐに食べたいって言ったでしょ」
狭いリビングの二人がけソファに座らされ、シャツを脱がされる。お気に入りのバンドカラーのシャツ。
「ベッドでしようぜ」
「ここで一回。ベッドで一回。お風呂で一回…」
「そんなできるかよ!」
直哉がふざけてセリナのロングスカートをたくしあげパンティの中に手を入れる。
すごい。シャワーを浴びたばかりというのに、ねっとりしたゼリーで溢れかえっている。見かけによらず、セックス好き…。
ソファに座っている直哉のシャツと下着を剥ぎ取り、セリナは座位でしゃがみこむ。
直哉は天井を見上げて、すぐに目を閉じる。
自分のど真ん中にあるセックスの宇宙。自ら動かずとも、快楽の世界に女たちがいざなう。楽だ。宇宙ステーションに立ちほこる司令塔、どんな電波を発信しているのか、常にここちよい。
今夜もただ座わっっているだけで、司令塔に快感が集まってくる。ジンジンと宇宙の気温が上昇する。最後の最後に発射だ。直哉は発射前に女たちの喘ぎ声がうるさいと萎えてしまう。
セリナはいい。声を出さない。ただ、息を吐くだけ。短い息、細長い息。ヒッと吸い込むような息。耳障りではない。セリナの腰の動きが止まる。
「フッ…」
セリナが宇宙を抜け出した。直哉はゆっくり追いかけるように星空に精を放つ。
ひそかな野望
直哉は独立の準備に本腰を入れた。女たちとチャラついてる場合ではない。30の大台に乗ったのだ。ノリアキの庇護の元、命令どおりに働くのもそろそろ飽きてきている。
ノリアキと知り合ってちょうど10年。学ぶべきことはひととおり学んだ。人脈も星の数ほどゲットした。
ノリアキは直哉とは違うタイプの野性的で奔放な男。好きな女がかぶることもまったくなかった。
ノリアキはイベント会社のほかに飲食系ベンチャーの会社の役員もしている。スタッフはいくらでもいる。直哉が跡継ぎと決まってはいない。
本屋で起業のノウハウ本を5冊揃え、ネットで会計士と社労士のサイトを熟読する。賃料が安くて見栄えのいい事務所さえ見つければすぐにでも社長になれる。
ノリアキの目を気にせず、自分がやりたいイベントに特化する。
起業準備のために柄にもなくまじめに動く自分が少し恥ずかしくなった。木枯らしが吹く大通り、ポケットに手を入れて歩く。
「直哉、やっと見つけた」
斜め前方から、聞き覚えのある声がする。顔をあげるとフェイクファーのコートにホットパンツ姿の未唯が立っている。
「おう、久しぶりだな、未唯」
「メールも電話も無視しないで。また新しい彼女つくったの?」
「はあ? 何? てか、お前、彼女気取りじゃないか。ただのお友達だろ。俺ら」
未唯が、ジリジリ近づいてくる。スラリと伸びた細い脚。透き通るベージュのストッキングをはいている。きれいな脚だ。たしか顔より脚に燃えてこの女と寝た。
あらためて顔を見つめる。クルっと巻き上がった睫毛、細い眉。りゅうちぇるみたいな派手なチーク。
「やっぱり、…ない…」
未唯に聞こえるように言葉を吐く。
「私の事、愛してるって言ったよね」
「いや、お前の脚だ。脚がきれいで、うっとりする…」
「なにそれ」
未唯は、肩にかけていたプチポーチで直哉を殴った。
「何すんだよ。殺すぞ」
直哉が右頬をおさえて睨みつける。
「殺すならベッドで殺して」
未唯も負けずに直哉の目を見据える。
ニシロク地帯にできたメゾネットタイプのホテル。二人はクイーンサイズのベッドで一言も口をきかず重なる。
未唯はバスローブの腰紐で直哉の腕を縛り、泣きじゃくりながら直哉の股間で頭を動かしている。
直哉は目を閉じ、未唯の顔ではなく、脚のラインを思い浮かべることに意識を研ぎ澄ませる。丸い膝頭。細すぎない太腿の肉付き。付け根に拡がる産毛で覆われた三角地帯。そのど真ん中にスッと陣取る割れ目。
未唯は完璧なパーツを持つ女だ。下半身だけは。未唯の舌先が裏筋を登り、尻を這う。未唯との対戦準備が整う。
「…おい。乗れよ。紐、ほどいてくれ」
ブラジャーだけつけた未唯が嗚咽をあげながら、直哉のシンボルを包むように座り込む。
「はううぅぅ」
未唯は声とも息ともつかない吐息を喉の奥から絞り出す。
気持ちがいい。ただ、それだけだ。こんなこと、一人でしても気持ちがいいわけだ。
セリナとしても、里穂としても、那美としても、麻里子としても敬子としても。もしかすると会社の沙羅としても気持ちがいいかもしれない。
泣きながら腰をスライドさせる面倒くさい女とはこれで最後だ。
マスカラが涙に溶けてとんでもない顔になっている。ピュアプワゾンの香りがうるさいくらい鼻孔を突く。つけすぎだ。配慮がない女。
未唯の顔を見てはいけない。脚だ。脚を見るんだ。直哉は自分の上でM字型に開かれた脚を撫でる。正確に円を描いているかわいらしい膝を両手で包む。いい肌触り。
未唯はわけがわからない言葉と感じる声を交互に吐いている。
「もっと、激しく動けよ」
直哉が命令する。そして自分で腰をグッと浮かせる。
「あうううううううぅぅぅ」
未唯の動きが一瞬止まる。先にイッた未唯に唾を吐きかけたい気分だ。直哉はそのまま自分で5回バウンドして勝手に飛んだ。
オンナの好きなラブストーリー
ニシロクエリア、いい感じのファッションに身を包んだ人たちが行き交う。未唯を連れて歩きたくない。
「未唯、愛してるから、俺が起業するまで見守ってくれ。そっとしておいてくれることが最高の愛だ。頭の中が仕事のことでいっぱいなんだ」
久しぶりに対戦できてホッとしたのか、未唯は気分良さそうに笑って頷く。
「しばらくLINEすんなよ。今が勝負時だからな」
「直哉」
「なんだ?」
「殴ってごめん、これからはいい子にしてる」
タクシーが近づいてくる。未唯を無視して手を上げる。
「俺、先に行かせてくれ。これから起業仲間と約束してるから」
タクシーが止まる。未唯に手を振る。
アイラインを完璧に引き直した未唯がバイバイと返す。
女はすぐ立ち直る、あんだけ泣きわめいてたくせに、化粧を直す余裕があるのだ。直哉は肩をすくめる。
姉貴2人もたしかそうだった。一人は高校の時、男にふられたとべそかいてたくせに、2ヶ月後にはほかの男に手作りクッキーとか焼いていた。
もう一人は落ち込むと数日間、無口になる。家族に心配してもらいたいという思いが見え見えだった。
親父が駅前のフルーツアイランドに連れて行って、でかいプリンパフェを食べさせるといきなり家族と喋りだしていた。
女はみんなちゃっかりしてるんだ。未唯だってこのまま半年、スルーすればきっと新しい男と腕を組んで歩き出す。
あんなきれいな脚をした女、六本木の男たちが放って置くはずがない。未唯はきっと次の男に言うだろう。
「あたしから別れたの。あんな冷たい男、こっちからバイバイよ。愛してるって言われたけど、もう私は愛してないの」
相手には好かれたまま、自分から別れた、そういうプロセスを好む女は多い。よほどM女でないかぎり、きれいなラブストーリーを好む。
直哉は、いかした服が並んでいるユーズドショップの前でタクシーを降りた。
立ち込める暗雲
沙羅とスタッフ3人とパリピナイトの打ち合わせをしているときだった。ノリアキにいきなり呼び出された。
いつもノリアキが遊んでいるカラオケのVIPルーム。ゴールド仕様のゴテっとした豪華っぽい内装。音を流していないひっそりした部屋でノリアキが青白い顔で座っている。
ストライプのシャツのボタンは首元まできっちりとめている。いつもはラフに着ているのに。
「社長、どうしたんすか」
ノリアキにはいつもの覇気がない。
「悪い。ほんとうにお前はよくやってくれてる。悪い。勘違いで資金繰りがチョコっと厳しいのよー。まじ、悪い。750万ほど貸してくれないかな。すぐ払わないと会社やばい。いちおうお前役員だし。お前しか頼る奴いない」
直哉は喉から内臓が飛び出すかと思った。いつも落ち着いている自分が、かなり動揺している。
下手に豪華なVIPルームで聞くにはヘビーないきさつだった。経理をまかせていた会計士が入ってくると考えていた入金がない。その会社は飛んでしまった、関連会社3つとともに。おかげであちこちに支払う金がまったくないと。
「社長、自己資金、ガチで貯めてるんじゃないんすか。年収、むっちゃあるじゃないすか」
ノリアキは照れたように笑う。
「いやー、経費で落ちそうにないものまで欲しくなっちゃってさ、ついポルポルとか3台買っちゃって。それに、ほら、女もいろいろいてさあ、遣いこんだわけよ」
ピョコンと小指を立てる。
憎めない先輩。10年も一緒にいた。今のイベント会社を大きくした先輩。さすがにプライベートの金の使い方まではつっこんで聞いてなかった。
ノリアキは、いきなり床にすわりこんで頭を下げた。何度もこのVIPルームで遊んでいたが初めて気付いた。床のカーペットの模様は黒のペイズリー。
「ほんとうにお前には悪いと思ってる。大学途中で辞めてついてきてくれて。今を乗り切れば、また元通りだ。会計士はもっとキレるやつにチェンジする。俺も詰めが甘かった。改めるよ」
「やめてください。立ってください、わかりました。明日、銀行、行きますから」
地獄のはじまり
翌日、銀行でほぼ全財産の750万をノリアキの個人口座に振り込んだ。ここから直哉の地獄が始まった。
沙羅との打ち合わせ時間、事務所に行くと、パソコンやデスクが運び出されていて、書類が散らばっていた。外注スタッフで回していたので、沙羅以外誰もいない。
沙羅がポカンとして、小さな木製の椅子に座っていた。その光景を見た瞬間、直哉は気付いた。
「やられた…」
ノリアキに電話をかけるが「現在使われておりません」というアナウンス。次に、読みが甘いという会計事務所に電話した。
「あ、フェスタ株式会社さんですか? おかしいですね。うちとの契約は半年前に終了しておりまして、今はおたくの経理は担当しておりませんが…」
ガチャンと電話を切る。幸い、事務所電話はまだ通じている。
「沙羅、ここにいてくれ。どっかから電話がかかるかもしれない。俺は社長の自宅に行ってみる」
まさにニシロクエリアのしょう洒な低層マンション。
「いてくれ、ノリアキ。いてくれ」という思いはむなしく、すでに引っ越したあとだった。
品がいい初老の管理人が怪訝そうに直哉を見つめる。
「お友達の方ですか? 驚きましたよ。昨日ね、夜10時位に、引越し業者が来て。住人がたから苦情いただきましてね」
「夜逃げ…」
少し頭髪が薄い管理人はおだやかな顔つきだが見かけによらずズケズケと聞いてくる。
「夜逃げというものですか? 初めて経験しました。会社、うまくいってなかったんですかねえ。最近、サングラスしたお客さんがやけに多いなって思ってました」
「あの、どこへ越したかは、わかりませんよね」
管理人は、首を横に振る。直哉は拳でレンガの壁をドンと叩いた。
⇒【NEXT】「そう、1ミリも離れていない。すごく一緒」やはり千宵子は女神だ。直哉の抱えている地獄も寂しさも吹き飛ばす。(【後編】恋愛とセックスのかけ算/30歳 直哉の場合)
あらすじ
主人公・直哉は大学2年の時、先輩が立ち上げたイベント会社に誘われてそのまま働くようになった。
彼女に不自由しない人生を送っている。
仕事で忙しい毎日だが、LINEを確認すると8人の女からダダダっと入ってきている。
その中の一人・セリナなら抱いていいと感じたため、忙しい最中タクシーを飛ばしてセリナの家まで赴いた。