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【後編】恋愛とセックスのかけ算/29歳 遼子の場合
将来への漠然とした不安
同僚の女性たちの中で友達は一人もいない。むしろ一段上から見下ろして馬鹿にしている。京香も。容子も。奈美江も。
たまに実家の母親から電話があると
「そろそろ結婚しなさいなんて絶対言わないでよ」と毒づく。
ずっと専業主婦で父親の愚痴をダラダラ言い続けている母に結婚の指図などしてもらいたくはない。
SNSをたまに覗くと楽しげな投稿を見かける。
京香や容子だけでなく、学生時代のクラブ仲間もいる。
“友達”と認定されているが、こいつらが”友達”なら一人のほうがずっといい。なんで”友達”に位置づけられてるんだろう。もっとしっくりくる言い方はないのか。
”友達じゃないけどたまに自慢写真に拍手してあげますよ的存在”。
ああ、今日もピース写真で幸せで良かったねえ。容子ちゃん。って。
SNSを見ながら必ずつぶやく言葉があった。
「リア充自慢すんなよ、バーカ」
急に胸の奥が痛くなった。
気付いた。
遼子は毎日が満ち足りていない。
女子たちのマウンティングを偉そうにシカトするのは自分が山の一番下にいる事を知られたくないからだ。
自分から友達になるのを拒否しているからだ。本当は淋しくてたまらない。30歳になろうとしているのになって、仕事に気持ちがはいらない。
将来の夢など霞がかかってまったく見えない。
このまま、この複合ビルで定年まで事務仕事をする? まさか。結婚しないまま年寄りになったらどうやって生きてゆくの? マンションの家賃払えない。
実家に戻る? その時、両親は85歳? 生きてる? 介護? もやもやする。痛い女は自分の方だ。京香や容子ではない。
失礼な詠美に怒りを覚えたが、その指摘は間違ってなどいないと思えた。
「詠美さん、今日、飲みに行かない? トリノは高いから無理だけど、居酒屋桜吹雪ならおごります」
詠美にラインを入れた。
桜吹雪は女子向け居酒屋で人気の店だ。一人焼肉のメニューもあり、一人酒の女性もたくさん座っている。
海外輸入缶詰試食コーナーもある。イタリア輸入ののオイルサーディンを缶から小皿に取り分遼子は詠美と乾杯した。
「お昼休み、怒っちゃってごめんなさい。詠美さんが言うとおり、私、この数年イライラしてたみたい。でも、この前、二人に触ってもらって癒やされたっていうか…おだやかな自分が見つかりそうな気がしたの」
「あらたまって謝らないで。遼子ちゃんにはストレートに告げるほうがいいって思ったの」
「セックスが満たされていないから、怒りっぽくなってるのかな」
「それだけじゃないよ。でも、遼子ちゃんは人一倍それが大切だから、欠落してると冷静でいられないかもしれない」
「詠美さん、よくわかりましたね」
「あなた、退屈な職場で、人を観察するのが趣味なんでしょ。私もそう。ずーっと見てる。長原課長がエッチした翌朝は顔がテカテカしてるとか、容子さんのうなじにキスマークがついてる日、容子さんはけだるそうとか。容子さんの彼氏は野獣よ。彼女、激しいエッチに疲れ切ってる。他の目立たない社員さんたちも観察してるよ。前の晩セックスしたかどうかは翌日のしぐさでわかるの」
遼子は口をあんぐりあけて話に聞き入る。
「どうして…私が…欲求不満だって感じました?」
「いっつも生理中みたいにとがってるから。顔つきも怖い。色白できれいなのに…だから職場の男たちに誘われないんじゃない?」
撃沈だ。反論できない。
出会いはある日突然に
居酒屋花吹雪で何時間も詠美と語り合った。
これほど素直に自分の嫌な部分をさらけ出せる相手がいままでいただろうか。
そしてセックスについて、輸入缶詰の味の感想をさらっと述べるように抵抗なく話せる。心地よかった。素直に卑屈な自分を認めることができて。
「遼子ちゃん、この店、いい。安くてオシャレ。桜の壁紙も綺麗。今度竜児と3人で来ようよ」
「だめですよう。ここは女性客が多いの。竜児さん、客全員をナンパしちゃいます」
「アハハハ! たしかに。私達と交わる時間がなくなったら困るわ。たまに貸すぶんはいいけどね」
遼子も大笑いした。そして一皮むけた。詠美と出会えてよかったと実感する。
数日後、朝早く出社してデスク周りを片付けようと思った。マンションのゴミ処理場にゴミを置き、隣にあるコンビニに入った。朝ごはんを買うつもりでスイーツコーナーの前に立つ。
「あった、オールドファッション…」
ドーナツを取ろうとすると、一瞬、ほかの客と手が触れ合う。
「あっ、すみません。どうぞ」
とっさに二人同時に手を引っ込める。顔を見て、胸が高鳴る。
月曜夜のドラマ枠から飛び出たかと思うようなさわやかな顔立ちの男。
少し長めの前髪がおでこに垂れている。背はそれほど高くない。遼子と同じくらいだ。革ジャンをうまく着こなしている。
「残り、ひとつだけですね。人気なんだ。オールドファッション」
照れ笑いで話しかける男に、遼子はこれまでにない笑顔を作って答えた。
「どうぞ、私、バームクーヘンにしますから」
「いやいやいや、自分の主張をそんなすぐ引っ込めちゃだめでしょう」
理屈っぽく男が言う。
「いえ、急にバームクーヘン食べたくなったんで」
「第一次主張は即刻却下して代替案を構築したわけですね」
おもしろい男だった。今までのイライラ遼子だったらここで無視して店を出たはずだ。
「あのう、時間あったら、駅前のドーナツ屋でオールドファッション二個買いませんか? それで一件落着です」
遼子の口から驚くような言葉がサラリと出てきた。
男は一瞬、なんとも言えぬさわやかな笑顔を見せた。
「一件落着。それがいい。沈静化させよう、この事件」
朝のドーナツ屋はそれほど混んでいなかった。早めに家を出ていたので、30分位は時間がある。
「あのう、よかったら、ここでイートインしませんか。セットで珈琲安くなるみたいです」
「いい提案です。あなた、会社は? 僕は11時に打ち合わせだから時間はあるけど」
「30分くらい余裕あります。ドーナツ一個は余裕で食べられます」
「直径何センチかな。8口で食べれるとして48秒で食べ終えることができる」
そんなへんてこな会話が続き、楽しくなった。遼子は柄にもなく、相手を褒めた。
「あの、楽しかったですね。お話もユニークで。私、遼子。岡崎遼子です」
「……恒田です」
「コンビニの近所に住んでるんですか」
「ええ、角曲がったとこの白いマンション」
「じゃあ、ご近所さんです」
ドーナツをかじりながら、地元話をする。いつもせわしい朝が、出来事ひとつで上機嫌の朝になる。
会社に向かう電車の中で遼子は、前と違う自分の行動に少し驚いた。
駅のブリッジ、京香が数メートル先を歩いている。
「京香さん、おはようー。今日の髪型決まってる。バレッタかわいいな」
京香がうれしそうにはにかむ。
昼休み、詠美を一階のパテオに呼び出して、今朝のさわやかイケメンの話をする。
「へえ、いいじゃない。ご近所恋愛、はじめなさいよ。コンビニでまた会う約束したの?」
「ええ。LINE交換もした」
「ほう、抜け目ないわね」
「詠美さんのおかげ。私も彼氏つくって充実した毎日を送りたいの。まだ恋は始まってないけど、なんだかワクワクしてるし」
充実した日々の到来
遼子と恒田京介のLINEが始まった。
京介はインテリアデザイナーだった。遼子の会社の子会社と取引があると言い、仕事の話も盛り上がった。
待ち合わせは例のコンビニのスイーツコーナー前が定番になる。
たまに地元の人気店で夕飯を一緒に取る。インドカレー、モツ鍋、串揚げ。地元の人気店に一人では行ったことがなかったので遼子は地元を見直した。
遼子が一人でよく行っていたのはチェーンの定食屋だ。そこも京介と二人で行くと意外に洒落て見える。
最初の3か月はまるで高校生のようなデートが続いた。
詠美が廊下で話しかけてきた。
「遼子ちゃん、竜児がバンコクの買い付けからもどってきたから、また来てよ」
「そうか、竜児さん、輸入雑貨の取次やってるんですよね。久しぶりに会うんですか?」
「そうなの。でも二人より3人で会いたいの。この前の続きもとってあることだし」
「京介くんには秘密ですよ」
「もちろんよ。まだしてないんでしょ。その日が来たら彼、びっくりするわよ。遼子ちゃんに飲み込まれて」
「やだぁ」
遼子は明るい性格になっていた。人の性格は変わらないと思いこんでいたのに、これほど変わるとは何事かと自分で頬をつねってみることもしばしばあった。
土曜の午後がやってきた。下北沢に向かう。駅前で買ったドーナツのおみやげを持って。
竜児は暑い国で焼いたのか、赤銅色の身体になっていた。ますますシャープな顔つきに見える。
遼子は期待が膨らんだ。前と同じように詠美と風呂に入る。
ぬるめの湯が、二人の身体をほぐすようにまとわりつく。
詠美はまたバスソープを泡立てて作ったシャボン玉をプーっと吹き飛ばしながら遼子の乳房を何度も撫で回す。
「きれいよ、遼子ちゃん……コリコリしてる」
「あん……。詠美さんのも触っていい?」
「いいよ」
遼子が詠美の乳首を指でくるりと触る。
「いいわ……ここも」
詠美は遼子の右手を自分の股間に誘導する。
詠美のその部分は、湯の温度と同じくらいぬるかった。
「他の人のココ……触るの初めて……」
遼子は不思議な気分で指を這わせた。ほどよい粘度、毎日つける乳液のような指ざわり。
詠美はバスタブに肩までつかり、のけぞって目を閉じている。
「ああ、我慢できなくなってきたわ。泡、流してリビング行こう」
詠美はザバっと立ち上がる。肉付きのいいヒップに湯がしたたる。
背中に余分な贅肉はついていない。濡れた髪の毛が首筋に張り付いている。30代女盛りの香を放つボディ。
「詠美さん、きれい」
詠美が振り向いて、流し目を送る。すでに詠美の中ではセックスが始まっている。
バスタオルを巻いてリビングに戻る。竜児は黒いガウンを着てタバコを吹かしている。
「遼子ちゃん、この前みたいな恰好でその椅子に座って」
竜児が顎で椅子を指す。遼子は自ら足を広げ、肘掛けに膝裏をひっかけた形で座る。
バスタオルは巻いたままなのでまだ恥ずかしくはない。開いただけで、竜児の指の感触が蘇る。ヒヤリとした空気が股間のヒダに当たる。
「ああぁ」
「なんだよ、足開いただけで感じるなよ。スケベな遼子ちゃん」
その時、いきなりタオルを取って裸になった詠美が竜児をソファに倒す。
竜児にまたがり激しいキスをしかける。チュバチュバと音をたてて。
詠美が竜児の唇、頬、髭、顎を味わうように舐める。遼子は椅子に座ったままポルノ映画を観ているような気持ちになる。
詠美が黒いガウンの裾に手を入れて竜児のソレを掴む。愛おしむようにこする。
ガウンがはだけて棒状のモノが見える。
遼子は好奇心がザワッと湧いてくる。目を離すことができない。初めて見る光景。
目の前で、男と女が感じ合っている。ハアハアという息遣いがなまめかしい。
二人の熱が足を開いた遼子の方に伝わってくる。
竜児が手を伸ばし、詠美の胸をつねるように揉む。遼子の開いた部分が湿り始める。
竜児が上体を起こして、詠美の乳首にかぶりつく。遼子はあたかも自分の乳首が吸われているように感じる。
「いいわ、竜児」
「私も……竜児さん……」
詠美と遼子が同時に言葉を発する。
杭が打ち込まれたような快感
竜児が詠美をどけて立ち上がり、ソファの横に毛布を敷く。
そして黒いガウンを脱ぐ。肩から胸にかけての隆々とした筋肉。固そうな下腹。黒光りする皮膚。ふさふさとのぞく脇毛。黒い林の中でいきり立つ頑丈そうな棒。遼子は竜児の股間に目を奪われる。
すると詠美が床の毛布の上に仰向けに寝そべる。
竜児が遼子の方をちらっと見て笑う。
「その恰好のままよく見ておけ。自分で慰めるなよ」
竜児が詠美の腹におおいかぶさる。ジュジュルという唾液音をたてながら詠美の下腹部から秘部に向かって舐め回す。
詠美は目を閉じ、膝をたてたまま呻く。自販機コーナーで話をする詠美とは別の詠美が目の前であえいでいる。腰をくねらせ、頭をのけぞらせ、竜児の髪の毛を掻きむしる。
竜児が太腿の間に顔を埋め、ジュルルルと詠美の乳液を吸う。
詠美が「ヒッ」という短い悲鳴をあげて自分の乳房を両手でまさぐりはじめる。
「いいわ……竜児……最高……」
詠美が感じると遼子はじれる。あんなに気持ちいい事をしてもらってる、うらやましい。
遼子は自分で触りたくなるが、手は動かさず唇を噛みしめる。開かれた秘部はすでに溢れんばかりにスタンバイしている。
竜児が詠美の上にかぶさる。詠美の腰を両手でささえ、一気に杭を打ちこむ。
「うわあぁぁぁ」
詠美が歓喜の声をあげる。遼子も疑似体験する。まるで自分の中に竜児の杭が打ち込まれたような快感。
「竜児さん……すごい」
パンパンと音をたてて竜児が打ち続ける。
「ヒッヒッヒ」
リズムに合わせ、詠美が息を吐く。
竜児の動きが迅速になり、詠美が一気に山に登る。
「ングッ」
詠美が絶頂の声を吐き、竜児の腰を両手で掴んで爪を立てる。
竜児がギュッと顔をしかめる。
「ああああ……」
遼子はがまんできなくなり、膝を閉じる。
椅子に座っている遼子は、興奮を通り越していた。
「遼子ちゃんもして欲しいか?」
遼子はコックリうなずく。詠美がヨロっと立ち上がり、バスルームに向かう。竜児が遼子を立たせて毛布の上に連れてゆく。
「後ろからでいいか?」
「もう、どこからでも……」
「四つん這いになれよ」
タオルを巻いたまま毛布の上に手をつく。
タオルをまくり上げ、ヒップを竜児の両手が割る。すぐさま、遼子の中に待ち望んでいたものがズブッと突き立てられる。
「いいぃぃぃい」
「いいだろ。散々待たされたあとのコイツは」
「すごい……すごい」
「ズブズブだぞ。俺らの見てて、こんな具合になったのか」
遼子は頭の中がグシャグシャだ。整然とした会話ができない。
無重力状態で星空を浮いている感覚。身体に力が入らない。
竜児はさっきとは、うってかわってゆっくり確かめるように杭を動かす。
遼子の体内は判断を困っている。内側に異物が侵入しているが、それは敵か、味方かと。
「遼子ちゃん、ビクビク動いてるぞ。新しい彼氏さんはイチコロだろうな」
ふと、京介の顔が浮かぶ。まだキスもしていない彼。こんな姿を見られたらふられるだろう。
罪悪感が襲う。それとはうらはらに女の部分は感覚を研ぎ澄ます。
「ああ、感じる。もっと、もっと突いて。竜児さん」
竜児が激しく打ち始める。
遼子の内側の神経が全部、絶頂に向かってゆらめく。
「そう、そう。もっと。もっと……」
竜児のねばりつくような動きがリズミカルになった数秒後、遼子は絶頂を味わい、脱力した。
予想通りの展開

翌週の週末、京介に誘われた。
「遼子さん、うちに来ない? デリバリーピザ食べながらDVD観ようよ」
彼氏の部屋で映画鑑賞。確実にそういう雰囲気になるだろう。
遼子はとまどった。こんなエッチな身体になってることを知られたら引かれてしまう。隠せるだろうか。うぶな女に見せることができるだろうか。
京介の部屋はデザイナーらしく、スタイリッシュなテーブルと足が細い椅子とベッドがあるだけのさっぱりした空間になっていた。
「物が少ないんだね。映画はパソコンで見るの?」
「そう、こまごましたものは全部ロフトにあげてある」
京介はラフなスポーツパンツでくつろいでいた。アクション映画を流しながらピザとコーラでおなかがいっぱいになった頃、京介が無口になってきた。
「眠いの? 京介くん」
「……うん……いや、その」
「どうしたの? 仕事あるなら、帰るけど……。自宅が徒歩5分のとこにあるって便利だね」
遼子はつとめて明るく場をつなぐ。
京介が小声で言う。
「あの、何か月か付き合ってるから。その、そろそろキスとか……」
京介は奥手なのだ。たじろぐ姿がかわいらしい。
「いいよ。もちろん。でもピザの臭いするから歯磨きしようよ」
「……そ、そうだね。ピザ味のキスなんていい思い出にならないもんね」
あまりにうろたえている姿を見て、遼子は察知した。自分がリードしないとかわいそうだ。
「京介くん、もし、いやじゃなかったら泊まってもいいかな。近いんだから帰れよって言われたら帰るけど」
京介があわてた様子で言う。
「どうぞどうぞ。僕のジャージ貸してあげるから」
「じゃあ、歯磨きついでにシャワーあびていい?」
「いい、いいよ。いい。いい。その間、僕、コンビニでドーナツ買ってくる」
声が上ずっている。
「はい? 今からドーナツ? 夜中に食べると太るからいいよ」
「いや……その……買いたいものが……」
遼子は察した。
「そうか。はい。お願いします」
シャワーを浴びながら、遼子は展開を考えた。奥手な男性には、ちょっと大人びた女性のほうがきっと楽にちがいない。
不器用で純粋な人
遼子の後、京介もシャワーを浴びて、部屋に来る。
遼子は部屋を暗くする。AWAでR&B系の曲を流す。京介はベッドに座ったままもはや一言も喋らない。
遼子が京介の胸に手をあてると心臓がバクバクと音をたてている。
「緊張してる?」
「うん。そりゃあ。遼子さんみたいなきれいな人と部屋で二人きりなんて」
「質問があるの」
「なに?」
「エッチな女性と清純な女性、どっちが好み?」
京介は膝をかかえてベッドの下の床を見つめる。歯磨きのスペアミントの香りがする。
「うーん、清純派が嫌いな男はいないと思うけど、僕は……その……過去一人しか経験ないから……こういうの慣れてなくて。だから僕よりエッチな人のほうがいいかなって……」
遼子は聞いてよかったと思った。
そっと京介の背中に手を回し、頬に口付けた。京介も観念したように遼子を抱きしめて、おそるおそる唇を重ねた。
遼子は自分でシャツを脱いでカーペットの上に横たわる。
京介も裸になって遼子の下着を脱がそうとする。あわてているの少しぎこちない。
ブラジャーのホックをはずすのを手伝って、重なり合う。唇へのキスのみ。
遼子は京介の手を股間に導いてみる。京介は割れた部分に指を差し入れる。今度は京介の股間を探る。大丈夫だ。先端も少しだけ湿っている。
コンビニで買ったものなど付けているうちに萎えてしまいそうだ。
愛撫もなにもないまま、遼子は京介のソレを導き入れる。無言の時間が続く。
いきなり京介が身体を離し「ウッ」と絞り出すような声を出す。おなかの上にトロっとした感触。
「気持ちよかった?」
「うん。ごめん。僕だけ先走って」
「だいじょうぶよ。だんだん上手になってくれれば」
二人はそのまま何も言わず手を握り合って眠りについた。遼子は、先週のエロチックすぎる体験と真逆の行為に新鮮さを感じる。
京介はスースー寝息をたてている。
「私が、おしえてあげるよ」
寝顔に向かって小声でささやいた。
開かれていく心と身体
いつものように会社でデスクワークをしていると部長の柳田から呼ばれた。
その日はまさに遼子がチャンスを掴んだ日になった。
多摩地区に新しくできる住宅販売センターのチーフにならないかと言われたのだ。
長年デスクワークに励んだ姿勢が認められた。申込みをしたエンドユーザーと直接触れ合い、自社住宅の強みを説明する。
多摩地区に展開する新築マンションを実際に見せる。展示物件のインテリアやデコレーションも任せてくれると言う。
同僚の愚痴や自慢話、社内の不倫問題にイラついていた自分、環境が変わればすべてが上手くいく気がした。
詠美と密になったことで、だんだん自分が開放されている気はするが、職場変更は追い風だ。
詠美をまた一階のパテオに呼び出す。
「よかったね。遼子ちゃん。最近、彼氏もできて明るくなってたからね。人当たりもいいし。お客様に仕事ができるって認められたのね。周りは見てくれてるんだよ」
「人当たり? よくなった?」
詠美は親指を立てる。
「言ったでしょ。欲求不満の女は、やさしくないんだって。いくら美形でも男受けよくないの。遼子ちゃんは身体も開いたけど、心も開いた。皆が一緒にいたいと思える女になったの。だから彼氏さんもできたの」
詠美が人生の師に見えた。
「なんか、心に響く言葉ですね。エッチな詠美さんから出てくる言葉とは思えない」
「言うわねえ。職場変わっても、たまには会おうね。彼氏さんの調教の仕方おしえてあげる」
遼子は詠美がくれる言葉のひとつひとつが嬉しかった。
「もう、詠美さんたちのマンネリは解消したじゃないですか。私がいなくても楽しめるでしょ。うちの彼は私がゆっくりエッチな男に仕上げていきます」
詠美も笑う。あの、いやらしい詠美が太陽の下ではこんなにさわやかにたたずむのだ。女は二面性どころか多様な顔を持っていると感じた。
「そうそう、竜児とね、結婚することにしたの。遼子ちゃんと遊んだ後、プロポーズされたの。そういう意味では遼子ちゃんに感謝……かな」
遼子は詠美の手を取った。
「おめでとう。私も仕事と恋をバランスよく取り組みます」
京香と容子が小走りに近づいてきた。
「金曜夜、女子会決まってるんですよー。花吹雪で。楽しい噂話いっぱいしましょうよ。お二人とも参加でいいですよねえ」
遼子はにっこり微笑んだ。
「もちろん参加するわ!」
パテオに植えてある観葉植物が風に揺れた。
END
あらすじ
主人公・遼子は、6年も同じようなデスクワークに興味がなくなり、惰性で動く毎日を過ごしている。
さらに、女子たちのあからさまなマウンティングに疲れる日々。
そんなある日、友人・詠美から「うちの彼氏が遼子さんみたいな人をタイプだから、一度うちで遊ぼう。」と大人の誘いを受ける。