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【後編】恋愛とセックスのかけ算/25歳 サリナの場合
店外デート
店の外で初めて光弥に会う。サリナは新しいブラウスを着る。真っ白のセーター。そして桜色のおとなしいネイル。
光弥はけばいファッションの女は苦手と言っていた。メイクは控えめに。アイラインは引かない。アイラッシュはボリュームを抑える。
新宿に住んでいる光弥は、近いのにまだ行ったことがないと言って池袋の水族館にサリナを誘った。
「アザラシの芸が見たいんだ。ちっこい頃、親父が連れて行ってくれたの覚えてる。調教師を信頼しきってる目がさ、かわいくてさ」
スーツ姿でない光弥は最高にかっこよかった。本業がホストとは思えない。
シャツの上に薄手のベストを羽織っている。タイトなパンツ。細長い脚。ミュージシャンが履くような分厚い皮のブーツ。
サリナは夢心地だ。光弥の言葉が耳に入らない。
「聞いてる? アザラシパフォーマンス見よう」
「え? うん。うん。アザラシね。ラッコじゃなくてアザラシね」
光弥がクスっと吹き出す。
「緊張してんの? サリナさん」
「うん…光弥くん、イケメンすぎて、一緒にいるのが恥ずかしい…見られてるよね。私達」
「今日は恋人同士ってことで、お互い呼び捨てでいいかな。サリナ」
天使の矢がまたサリナの心臓に刺さる。
「光弥…」
気持ちいいデートだった。都会の真ん中にこんなブルーがきれいな世界があるのだ。魚の説明を声を出して読みながらじゃれ合う。
水族館でひとしきり遊んで二人は立ち飲みバルでベルギービールを飲んだ。
「フーっ」と息を吐くサリナを見て、光弥はその唇に一瞬キスをした。
「え?」
サリナが目をキョロっとさせて立ちすくむ。
「…こんな人前で、そういうこと…」
「じゃあ、人がいないとこに行こう。ブクロはそういうとこがたくさんあるよ」
茶目っ気たっぷりの光弥の目。魅惑的な声。サリナはいきなりの誘いに戸惑う。
「あの…それって、私が光弥にお金渡すってことかな」
光弥が首を振る。
「今日はホストと客じゃなくて、秘密のデートって言っただろ。ホストと寝ると金払うって誰に聞いたの?」
「康江さん」
「そうだね、康江さまは聖矢さんに貢いでるからね。でも、僕はお客さんとベッドに入って金をもらうなんてしないよ。スタイルがあるんだ。僕なりの。ただ、サリナを抱きたくなった。触れたくなった」
サリナは光弥の手をそっと握る。光弥はサリナの桜色の爪にもキスをした。
池袋北口のホテル街。
「行ってみたいホテルあるんだ。真っ黒のクールなデザイナーズホテル」
「光弥と二人きりになれるならどこでもついてく」
サリナの脚の間では、立ち飲みバルにいるときからチューリップがクルクル回っている感触だった。
はじめて重なり合うカラダ…

黒いデザイナーズホテルの部屋はスタイリッシュな造りだった。横に長いソファ。真っ赤なベッドカバー。気が効いた間接照明がサリナの頬を照らす。
光弥はウエルカムドリンクを飲み干すとすぐにサリナを抱き寄せた。ソファは二人で寝そべるのに充分な広さだ。
さっきのキスと違い、舌をサリナの口の中でチロチロ動かすディープキス。
「あっ、あん。うん」
下の動きに合わせ腰が浮く。声が漏れる。光弥の唾液が少し流れこむ、サリナはそれを飲む。幸せだった。
自分が光弥を独り占めしている。セーターがいつの間にか脱がされ、シンプルなブラジャーをずらされる。すでに盛り上がった乳首が指で弾かれる。
「ああん。やっ…」
「サリナ、見かけと違うな。すげえ感じてる。SEX好きだろ」
サリナは恥ずかしげに目を閉じる。
「おっぱいもでかい。Cカップなんだ。さあ、ここも調べてみるか」
光弥の手がいきなりパンティの中に侵入する。細長い指がヒュっと窪みに滑り込む。
「やっ…」
「嫌じゃないだろ、なんだ、これ。ずぶ濡れだ。僕といる時いつもこんなになるんだろ。アザラシ見ながらこうなってた?」
「意地悪」
「もう欲しい?」
「…うん」
「じゃあ、ぼくの触って」
光弥が服を脱ぎ、サリナの手を導く。
やわらかいソレを握ると、トクトクっと脈打つ。
「生きてるみたい。動いてる」
「僕、けばい姉さんたちにはあまり燃えないんだけど、サリナみたいなおとなしいタイプに弱いんだ」
「夜の女の人達とたくさんしたの?」
「だから、僕のスタイルは、客とは寝ないんだって」
「じゃあ、誰とこんなことしてるの?」
「ふふふ。秘密」
言葉でじらしながら光弥はソレをサリナの口元に持ってきた。サリナはお客の小さな爪を塗るのと同じ気持ちでソレをていねいに余すところなく舐めた。
光弥は膨らみきったソレをサリナに入れようとしたが、うまくいかない。すぐに硬みがなくなる。
「どうしたの?」
サリナが心配そうに尋ねる。
「悪い。昨日、寝てなくてこっちに元気が出ないみたいだ」
ソファに座り直し、光弥が謝る。
「サリナ、ベッド行こう。舐めていかしてやるよ」
サリナの服を全部脱がせ、光弥は首筋から下に向かって唇を這わせた。サリナの皮膚を光弥の唾液が濡らしてゆく。
皮膚呼吸が止まってると思うほど興奮して息苦しい。サリナは光弥の唾液を肌が全部吸い込んでくれればいいのにと考える。
光弥のすべてを吸い込みたい。それほど光弥に夢中になっていた。
光弥が唇をすぼめて、チュチュチュっとサリナの花芯を吸い上げる。
「うっ…」
恥ずかしげもなくサリナは大きく股を開き、膝をピンと伸ばす。足の指先まで力を込めてまっすぐに。数秒後、ピクピクと痙攣する。おなかの筋肉が波打つ。意識が飛んだ。
気づくと長い髪の毛がうなじにびっしょりと張り付いている。
「一瞬でイッただろ。かわいい」
光弥がガムを噛みながら隣に寝そべって笑っている。スペアミントの香りが漂う。
サリナはその唇に噛み付くようにキスをする。舌で光弥のガムを盗もうとあがく。光弥がガムを盗られないように舌で応戦する。
小さな世界での奪い合い。顎に唾液がしたたる。またサリナの下半身もあたたかい水が溢れてくる。
光弥といっときも唇を離さず、サリナはソレに触れてみる。さっきと同じ、中途半端な硬さ。ゆでたソーセージのような手触り。
「それ以上触るなよ」
光弥が唇を離して告げた。
「どうして?」
「疲れてると、そいつ、動きが鈍るんだよ」
サリナはいたたまれなかった。チューリップのように中に入ってかき乱して欲しい。熱いソレ。カチコチのソレ。たまらなく欲しかった。
光弥がベッドから抜け出てバスルームに向かう。
「そろそろ出勤時間だ。風呂はいるよ」
「一緒にはいっていい?」
「ダメ。風呂は一人でゆっくりつかりたいんだ」
さっきのじゃれ合いとうらはらに光弥が冷たい態度をとる。
サリナは濡れかかった脚の間に手を置いてみる。細いこんもりヘアがべったり湿っている。
「足りない、全然足りない…」
どうしていいかわからず、サリナはペットボトルの水を口に含む。
「どうして光弥ははいってくれないんだろう」
康江からの忠告
池袋のデート以来、サリナは光弥に独り占めされたいという思いをつのらせた。光弥が喜ぶことは何? 毎日、光弥とのネトっとしたキスを思い出しては頬を赤らめる。
その日、康江がネイル施術にやって来た。
「サリナちゃん、あ・そ・こ、何度か行ったんだって? 聖矢から聞いたわ。やるじゃない。でもね、のめり込んじゃだめよ。相手はプロなんだから」
「わかってます。ネットでも調べたし…。でも…光弥くんに会いたくなるんです」
「そうね。彼らはオンナを中毒にさせてしまうのよ。わかるわあ。私なんか、夫と喧嘩するたびに店に行くの。頭の中が怒りで煮えたぎってても聖矢の横顔見ると、すーっと楽になる。ドラッグみたいなもんね」
サリナは嬉しそうに話す康江をうらやましく思った。康江は資産家でふんだんに資金を使うことができる。ドンペリもリシャールもためらいもなく注文できる。
「光弥さんを独り占めするにはどうしたらいいんでしょう…」
「馬鹿な質問ね。お金よ。店に行ってお金を使ってあげるのが一番。ナンバー3に入ればトップクラスの報酬を得ることができるわけだから。やる気がない下っ端はどんどん辞めてくでしょ。歩合制だからね」
サリナは、全く知らない世界に入り込むには純情すぎた。光弥を忘れるかお金を使うかの選択肢しかないのに、後者を選択することにしたのだ。
康江は念を押す。
「はまらないでね。破産するわよ…連れて行った私にも責任があるから、言っとく。あの日限りのパーティーと思って、もう行っちゃだめ」
サリナのことを太い客とは思っていないのか、光弥からのLINEは週1度しかない。
康江は聖矢から毎日ラブメールが来ると言う。うらやましい。使うお金=ホストからのメールの本数。身体が寒い。
あの日、サリナは光弥を迎え入れたわけではない。舐め合いをしただけなのだ。
そして光弥はサリナで気持ちよくなってはいない。それが悲しい思い出になり、サリナの色欲を余計に掻き立てた。
「したい。したい。光弥とひとつになりたい」
サリナはベッドの下にあるチューリップを、欲しがるソコに押しあてながら、寒い夜を何日も過ごしていった。
「お金、貯める。光弥のために…」
康江の怒鳴り声がベージュでまとめられた上品なリビングに響く。
恵比寿の高級住宅街。窓から罵声が聞こえてくるなど似合わない土地柄。
ジャーマンメイプルの艶っとした床にグラスを投げつける。床にオレンジジュースが飛び散る。ひまわりの花のように丸く流れ散る。
「どこのメス猫を抱いてきたのよ。汚らわしい。香水の匂いつけて帰ってくるんじゃないわよ。吐きそうだわ」
夫の優平がグルメ太りの腹を撫でながらムスっとしている。
「ばーか。たまに帰ってきたら、くだらないことでキーキー騒ぎやがって。風呂入りゃ消えるよ。怒鳴るなよ。奥さん」
「出て行け! うちの親にもらった家よ。あんたが出ていけば私も怒鳴ることなんかないわ」
優平がニタニタしながら康江に近づく。
「お前が勝手に物投げて壁も床も傷付けてるんだろ。俺が親父さんの会社継がなかったら、誰が本多興産を運営するんだ? お前じゃ無理だ。俺の手腕がなければ、財産は底をつくぞ。親父さんの介護も会社経営もお嬢様のお前にできるわけがない。クックック…」
言い返せない。康江の実家の財産を狙って結婚した意地汚い夫、優平。経営手腕はある。人当たりもいい。社長としては力を発揮してきた。金儲けがうまい男を女は放っておかない。
優平に愛人が何人いるかなどもう数える気にもならない。
康江はダスターで床を掃除し始める。しゃがみこんでゆっくり拭く。
こぼれたジュースを拭く康江を、優平は後ろから羽交い締めの形で抱きしめた。
「何すんのよ! 離して!」
康江が大声を出す。
「何年もお前と遊んでやってないから、たまには遊んでやる。ベッドじゃ無理だ。飽きた。こういう場所なら、できそうだ。おもしろい」
冷たい床の上。力づくでスカートをたくしあげ康江のパンティを剥ぎ取る。
「やめて!」
優平は格闘家のようにでかい。康江は逃げることができない。ネクタイをシャツ襟から抜き、手首を縛りつけ、太い柱に巻きつけた。康江は犬のような姿勢で膝を立て四つ這いになる。
康江の臀部から、茂みとともにいやらしい穴が覗く。
優平はスーツのズボンを脱ぎちらし、康江の腰を両手で動かぬよう抑える。優平は膝で立ち、どす黒くいきり立った物をいきなり後ろからねじり入れる。
「ぎゃああ」
康江が、さっきとは違う質の声をあげる。
「こなれてるじゃないか。誰の物をくわえこんでるんだ。お前のここは」
パンパンと激しく打ち付けながら優平が問う。
「デリヘル坊やか? ホストか? 野菜の宅配野郎か? 答えろ、康江。誰とやってる?」
「あん…あああ…ん」
「やっぱり、亭主のものがいいんだろ。若造のより」
康江は怒りの中に快楽の光を見た。どんより黒い靄の中に差し込む銀色の光。腰から下はどうしようもなく反応している。憎んでいる相手に強引に突っつかれているのに。
例えようのない憎しみはどこから湧き上がるのかがうっすら見えてきた。優平に愛してほしいのかもしれない。優平が無言で打ち付けてくる。感じる。
電流が走るように。蛍光灯がパチパチとフラッシュするように康江の頭が冴える。感覚はすべて子宮に集中する。
「あああ…いい…」
康江がのけぞる。優平が両手で康江の垂れ気味の乳房を鷲掴みにする。次から次に波が来る。聖矢との交わりでは感じたことがないしびれるほどの快感。
「ひゃあああああ」
腰が上下に波打つ。
最高に明るい光がフラッシュする。
「おい、オレンジジュース…俺にもくれ。喉かわいた」
優平が立ちあがりながら命令する。
抑えきれない気持ち
二ヶ月分の給料を袋に入れる。ガーリーデザインの長サイフにはとても入りきらない。営業して、残業して勝ち取った札の束。家賃分だけ残す。
窓を見ると小雨がパラパラと音をたてている。ネイルはシンプルなレッド。白いブラウス。赤いタイトスカート。よしっ! と掛け声を出してサリナは道路に出る。
タクシーが手を振るサリナに気づきキキーッと停まる。
「歌舞伎町」
光弥がいつものやさしい笑顔で胸に手を当ててお辞儀をしてくれる。今夜こそ独り占めできる、かすかな期待がサリナの口元を緩ませた。
「今日は、アスティっていうお酒、入れる」
「え? まじで? ほかの泡ほど高くないけど4万円するよ。だいじょうぶかな」
「うん。光弥のために持ってきた。ピンクの紙袋をバックの口を開いて見せる。光弥の顔がほころぶ。
「サリナ、すてきー」
耳たぶにチュっとキスをしてくれる。
「そういうふうに呼んでくれるとうれしい」
「お店ではなかなか呼び捨ては難しいから、他のやつがいるとサリナさんって呼ぶよ」
かわいらしい天使がボトルのラベルに飛んでいる。昔読んだ少女漫画がまた蘇る。磨かれたフルートグラスが2つ。
光弥にべったりくっついて座り、2つのグラスをコチっと鳴らす。グラスを持った腕をクロスして同時に飲む。腕を組みながら飲む発泡酒。
シュワっとした口当たり。唇が寂しい。店でなければすぐにでも光弥とキスできる。互いの舌をからませながらする大人のキスが。
「光弥…この前、最後までできなかったでしょ。だから、続きがしたいの…」
「サリナ、大胆だね。言っただろ。僕は主張しないおとなしめの女の子が好きなんだよ」
「あっ、そうだった。いつもはこんなじゃないのに、池袋で会ったときからずっと苦しくて苦しくて」
他の客に見えないように、光弥の太腿にそっと手を置く。真っ赤な爪先が店のライトに反射して不気味に光る。
その日から3日間、ワンダーラビットに通い続けた。高い酒は入れられないが、メニューの下の方にある手頃な酒を3種類入れた。
光弥はそのたびに喜んでくれた。ただ、40分もするとほかの上客に呼ばれて席を立ってしまう。光弥を独り占め、自分を独り占めしてもらう時間を作るにはもっと高い酒を注文しなければならないのだ。
簡単な理屈はわかっていた。ただ池袋で特別にデートしてくれたという事実がサリナはほかの客と違うという優越感を植え付けていた。
3日間で札束がなくなる。そしてまた二ヶ月必死で働いた。同僚の雪穂が心配するくらい痩せてきた。
「サリナさん、何でそんな働いてんの? もしかして康江さんに連れて行ってもらった店に行ってるとかじゃない?」
誰にも隠しているが、雪穂は気づいた。
「あそこは、うちらが遊ぶとこじゃないわ。一回ポッキリの夢の世界だったのよ。うちらと康江さんは住む世界が違うんだから」
「そう言えば、康江さん、最近いらっしゃらないね。聖矢さんのとこかよってるのかな」
雪穂は腕を組んでたしなめる。
「あの店の話はやめよう。そうそう、お店のみんなでカラオケ行こう。レディースデイだよ。今日は半額!」
ホストクラブで遊ぶ額と一桁違う。サリナはカラオケ代を払う時、悲しい気持ちになった。帰り道、雪穂達と別れて歩いているとドラッグストアの前にあるマガジンラックが目に入った。
『脱がない・舐めない・触られない エステレディ募集 日給42000円確実』
なんとなくマガジンを手に取る。そのままコンビニのイートインコーナーに座ってパラパラとめくる。
「ソープじゃなければいいかも。エステってネイルの施術とつながる仕事だし。癒やし系ビジネス」
翌日、仕事が終わってから体験入店に行った。昔のロック歌手のようなロン毛の50代位の店長が喜んで面接してくれた。
「オッケーオッケー、サリナちゃん、よく来てくれたねー。ネイルサロン勤めてるんだってね。おしゃれだねー。オッケー。でもね、うちの方が4倍は稼げるよー」
光弥のために…
アジアン風の落ち着いた内装。白い花がたくさん廊下に飾られている。アロマの香りがただよう女性好みの空間。客が男性だけなんて信じられないようなおしゃれな店だった。
「あのう、脱いだり、触られたりはないんですよね」
「うん、そう。いろんなコースがあってね。オッケー、説明するよ、じっくり聞いて。サリナちゃあん」
結局、風営法届出店なので、コースによっては「あり」だと言う。
ただし「あり」の場合は給与が跳ね上がり日払い制。完全秘密主義で、今働いているネイル店にも絶対に知らせないと言う。アリバイ作りまでしてくれる。
サリナはネイル店が休みの水曜と日曜しか出勤できない。はやく仕事を覚えて日給をもらいたい。2日勤務で10万になれば、光弥のために使える。
エステの講習を3日間受けた。ドン引きするような施術スタイル。そんなところまでマッサージするのかと思うほどきわどいラインを教えてもらう。
「まじで?」と何度もつぶやく。
しかし光弥のためにここに来たのだ。すべて自分で決めたこと。サリナは潔く働き始めた。極小ビキニコース。エステのため、爪は切らなくてはならない。そこは割り切った。
かろうじて乳首と陰部を隠すビキニをつけてみる。Cカップの胸はほどよく色っぽい。しかし痩せているのでスレンダー好みの客しか相手にできないだろう。店長が額に思いっきり横シワを寄せてニッタリする。
「オーケーオーケー。すっごくセクシーだよう。サリナちゃあん。オッケー。お客様も喜ぶよ、でももすこし食べたほうがいいね。だいじょうぶ、うちは控室でなんでもケータリングしていいからねー。お肉とか食べてくれよー」水曜と日曜、サリナはツグミという名前に替え、人形のように心を閉ざし、エステに精を出した。
まさに黙々と実務をこなす。ネイルを施術しているときのような充実感はないが、そこは割り切った。愛想が悪いと言われたこともある。
だが「クールなツグミちゃんに燃える」という客もついた。
札束が貯まった。光弥からのLINEはあいかわらず一週間に一度。ルーチンなのだ。
太い客でないサリナは週一回と決められている。
わかってはいるが、池袋でデートしたのだ。きっと光弥はサリナを特別視している。サリナはその思いを胸にピンクの紙袋に札を入れ、また歌舞伎町に向かう。
光弥はいつもの笑顔で癒やしてくれる。
「ちょっと痩せた? ダイエットしてるの?」
「そう。ダイエット…」
光弥と話せるだけで雲の上にいるようにフワフワと心が浮く。
「ドンペリ入りました!」
その時、ホスト全員が起立して隣の席に集まる。「ヘイヘイヘイ、お姫様」というコールが始まる。
見ると、どこかで見たような若い女性。きついメイクをしているがどこかで会っている。サリナはじっと考える。
そうだ、いつか閉店時に店にはいって来てクーポンを使ったネイル客。山本泉。冴えないOL。
驚きすぎて、グラスを倒しそうになる。光弥もコールに参加して、泉を讃えている。
「なんで? そんなお金持ってなかったはず…」
ひとしきり、シャンパンコールの波が収まった頃、サリナは隣の席の泉に話しかけずにいられなかった。
「あのう…恵比寿のanjyuにいらしたかたですよね。覚えておられますか」
泉は一瞬いぶかしそうに眉をひそめる。
「あ、あああ! あの時、爪塗ってくれた店員さん。きれいなネイルをサービスしてくれた…」
「はい。ありがとうございます。びっくりです。なんでここに?」
泉が嬉しそうに手招きする。
「こっち座って。シャンパンどうぞ。へへへ。私、おしゃれもできないボンビー生活がいやで、ソープで働き始めたの。親には隠してるけど、周りには堂々と宣言してるの。そしたら世界が変わったの」
現実との対峙
そこから泉の身の上話が延々と続く。今は売れっ子ソープ嬢になり、歌舞伎町で遊び始めたと言う。
お気に入りは竜星。彼をNo.1にのしあげてやりたいとあどけない顔で派手な言葉を口に出す。竜星が席にやってきた。
「光弥さんのお姫様ですね。光弥さんがもう少しでこちらに戻りますよ」
サリナは不思議な気持ちに包まれながら自分の席に戻る。泉は馬鹿な女なのか。それとも自分が馬鹿なのか。
よく考えると泉はまさに自分の姿ではないか。
自分は光弥のためにメンズエステでバイトをし始めた。好きな人のために普通のことをしていると思っていたが、泉の生き様を見ると、説教したくなっている。
風俗を否定するわけではない。だが、結婚などできない男にこんなに熱をあげていいものなのか。
何十万も何百万も使っていいのか。テーブルの上のグラスの中では細かい泡が立ち上っている。この泡は誰のために上に向かって上っている?
「光弥、今日、このお金全部光弥にあげるから、もう一度だけしよう」
ピンクの紙袋を光弥のスーツの内ポケットに突っ込んだ。光弥が指でokサインを出す。
光弥はその日も丁寧に舐めてくれた。開いた膝を両手で包み込むように抱いて、サリナから溢れ出る液を音をたててすすりながら。
それでもこの前と同じで、光弥のソレは硬くならない。
「光弥、私の身体じゃ反応しないの? その気にならない?」
「…いやあ…そういうわけじゃないけど。サリナ、痩せすぎ。この前も裸見て痩せてるって思ったけど、もっと痩せたよ。実はね僕はおとなしい人プラスふくよかな人が好きなんだよ。胸に顔を埋めたくなるほどポヨっとした身体が…」
サリナはうなだれる。
「そうか。じゃあ仕方ないね。光弥は特別に私とデートしてくれたから、仕事としてじゃなく付き合てくれると思ってた」
「サリナ…ごめんね。僕は、職業がホストだからNo.1にしてくれる客を大切にする習性があるんだ。でもサリナと秘密でデートしたのは興味があったからだよ。歌舞伎町に来る女らしくないひたむきなとことか。お固い仕事してるとことか」
「少なくとも、あの日は独り占めしたいと思ってくれた?」
光弥は頷く。
「ああ。思った。でもまじでエッチすると、僕に夢中になって身をくずすだろうなって気配を感じたんだ。だからエッチはしない。舐めていかせるとこでストップ。硬くなるもならないも僕は調節できるんだ」
「プロだね…」
「そう、僕はプロのホストだよ」
サリナの瞳から涙が溢れ出る。光弥は人差し指で拭い、頬に軽く口づけをした。
「サリナは歌舞伎町に来ちゃダメな人だ…」
終わりと始まり
メンズエステのバイトを辞め、もとの生活に戻った。
新しいネイルのデザイン集を買い、練習する。和装ネイルも描けるようになった。
牡丹や菖蒲など凛とした花と格子模様と合わせたり、竹をイメージしたグリーンネイルを考え出したり。かわいらしい金魚も練習した。
結婚式のドレスを紹介するサイトにとりあげられてからは客が一層増えた。ある日、社長の未知がサリナを呼び出した。
「サリナさん、いい話よ。来年ね、大手着物の会社、平菱さんが和風ファッションショーを開くの。東京と京都と福岡。そこでうちのネイルとコラボレーションしたいそうなの。サリナさんが和装ネイル始めてくれたから来た話よ。あなたがチーフで取りしきってくれない? それとスタッフに和装ネイルの技術を教える講習会も開いてほしいの」
気持ちを切り替えると、こんなにいい話が舞い込むのだ。サリナは嬉しかった。
光弥を忘れること、歌舞伎町には近づかないことを決心してから禁断症状のように苦しい日々が続いていた。やっと、突き抜けた。
初心を思い出す。未知のような起業家になりたい。
遅めの昼休み、外に出ると雲がひとつだけ浮いている青空でひばりが一声鳴いた。
「カラスじゃなくてひばり? こんな街中で?」
サリナは大きな伸びをした。
猿田彦珈琲に行くため交差点で信号を待つ。
道路の向こう側に康江が立っていた。初老の格闘家のような男と腕を組み、テイクアウトの珈琲を持っている。
「康江さん!」
久しぶりだったので駆け寄って思わず声をかける。
「あら、サリナちゃん。ごめんね、ネイル行けなくて。夫の会社、手伝い始めたの。あなた、こちらネイルサロンanjyuのサリナちゃん」
格闘家のような男が大人の笑みを見せる。
「妻は慣れない仕事をし始めたのでおしゃれする時間がなくなったようです。それじゃ僕は困るから、今度、ネイルきれいにしてやってください。淡いピンクの爪が好きだなあ」
「はい、いつでもいらしてください」
サリナは幸せそうな康江を見て、心が軽くなった。
「ひばり、ネイルにひばりを描いてみよう、下地はマットなブルー…」
サリナは道の向こうの珈琲屋に静かにはいっていった。
END
あらすじ
主人公・サリナは裏恵比寿にあるネイルサロンanjyuで働いている。最近は、彼氏・奏汰とも別れた。奏汰のことを思いながら一人エッチをすることもある。
そんなある日、好奇心から歌舞伎町のホストクラブへ行くことになった。