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恋愛とセックスのかけ算/26歳 ニイナの場合
婦人科医に恋をして
会社の健康診断で午後から高輪の病院に行くことになった。おじさま上司たちは「俺さあ、血圧が高かったよ」「油物ひかえないと高脂血症になるって言われちゃったよ」とたぬきのようなおなかを撫でながら談笑している。
「瀬戸さんは、今日の午後から行くんだね。いいなあ、血液サラサラで健康そのものって顔してるよ」
木元がニイナの肩をポンとたたいた。木元は同じ部署の課長職。ニイナより一回り上の年齢。独身。きれのある言動で仕事をこなす姿は頼もしく、狙っている女性社員も少なからずいる。
ニイナはわかっていた。木元は自分に興味がある。やりがいのある仕事ばかり振ってくれる。つまずいて悩んでいるとそれを察して丁寧に教えてくれる。
午後、ニイナは仕事の合間の息抜きになるなと散歩気分で外に出た。病院に近い駅で降りた。東京タワーをこんな間近に見るのは久しぶりだ。胃のレントゲン撮影があるので前夜から水しか口に入れていない。検診が終わったらサンドイッチでも食べようと思った。
お気楽な散歩気分は三週間後に暗転した。検診結果を見て、ニイナは胸が苦しくなるほど驚いた。子宮に異常がある。かなり悪いのでただちに専門の病院に行くようにと直筆の手紙まで付けられていた。
「嘘でしょ、私まだ20代なのに、これから結婚して子供つくりたいのに、子供できない身体になっちゃうの」
ニイナは帰宅するやいなや、目に涙を溜めながら母に不安をぶちまけた。
「まだ、はっきり病気ってわかったわけじゃないでしょ。すぐに大きな病院の婦人科に行きなさい。かあさんのお花の先生、あ、持田先生ね。甥っ子さんが中央病院の産婦人科に勤めていらっしゃるから紹介してもらおうね」
母は心配そうにニイナを見つめた。
翌週、会社の半休を使ってニイナは紹介された病院へ向かった。電車に乗り継ぎ、小一時間かかるが病院は知り合いのつてのほうがいいと母に勧められ、言われるままに病院を決めた。
三年前、海外旅行に行くときにピルをもらって以来、産婦人科に足を運んだことがない。
産婦人科はなんとなく抵抗があった。女医さんの病院を選びたかったが病気が進行していたら怖いのでそんなことは言っていられないという思いが先行した。
大きな三階建ての病院。婦人科の待合室で二十分ほど待つと名前を呼ばれた。ドキドキしながらドアを開けた。
「はい、検診結果を見せてください。」
事務的な言葉をかけた医師は、30代に見える。おしゃれとは言えない黒ぶち眼鏡、ボサっとした油っけのない髪型。眼鏡の奥にとてもやさしそうな目があった。くっきりした二重まぶた、知的なまなざし。
ニイナは動揺した。診察してもらうのがてれくさいと感じたのだ。
「月経周期は不規則なんですね」
問診票を見ながら兵藤医師が淡々と質問を繰り返す。月経痛がひどいこと、ときどき貧血を起こしそうになること、微熱が続くと時々会社を休むこと、母と妹にしか言わないような自分の身体のことをさらけ出す。
真夏の砂浜、裸で寝そべっていると通行人にジロジロ見られている、そんな気分がした。意識しすぎて耳たぶが熱くなってきた。
「では、エコーを見てみます。細胞も採りますので診察台にあがってください。」
産婦人科の病院なのだから、当たり前だと何度も自分に言い聞かせ、ニイナは腹をくくった。
おなかの上におろされたカーテンごしに兵藤の影が見える。心の中で「恥ずかしくない、恥ずかしくない」と何度も唱える。
「緊張しないで力を抜いてください。息を吐いてみて」
あまりに緊張し、身体がこわばっていたのだろう。ナースが「リラックスしてくださいね、手のひら開いてー」と事務的に声をかける。身体の中に器具を入れられる、冷たい。痛みでまた身体がこわばる。2、3分のことだったろうに何時間もさらされている気がした。
「一週間後に結果が出ますので、またいらしてください。この前の団体検診ではわからなかったことも調べてますから」
診察が終わり、ニイナはほっとして診察室を出た。大変な病気かもしれないという不安と、兵藤のやさしげなまなざしが交錯して頭の中で火の玉が飛んでいるような感覚だった。
病院の屋上階にあるカフェラウンジで冷たいジュースを飲みながら落ち着こうとしていた。
『終わったけど、超緊張!診察だけでこんなにおどどするなんて、子供生むとき困るよね』
母にメールを入れると少し落ち着いて来た。一時間ほどのんびり休んでいると、背後から声をかけられた。
「持田の叔母の紹介でいらしたんですよね」
兵藤がフィルターの珈琲カップを持って立っていた。
「先生、あの、お世話になりました。母が持田先生の教室でお花を習っていまして…」
審査室以外の場所で会うとは思っても見なかった。また恥ずかしさがぶり返して来た。
「心配でしょうが、病気は早いうちに見つけて治療すれば治りますから。現代の医療はとても進んでいるんですよ」
診察室での厳しい表情とは違う。珈琲の香りに包まれて微笑んでいる。ニイナの不安を全部吹き飛ばすほどのあたたかな目元。窓から差し込む日差しと溶け合ってやさしい光を放つ。
「じゃあ、休憩室に戻るので失礼」
白衣の後ろ姿をじっと見つめ、ニイナはボーと立っていた。このラウンジで休んでいてよかった。恋に堕ちたかもしれない。今までの不安と恥ずかしさが薄れ、涼しい風が吹き抜けた気がした。
突然の告白

次は翌々週の土曜の午前中に兵藤に会える。検査結果を聞く不安と、兵藤に会える期待が妙な高騰観感を生んだ。
職場でエクセル入力の単純作業をしていると画面に兵藤の笑顔が写る。ヘアスタイルはいけてない。ジェルでセットするとぜったいかっこいい。そんなふうに想像した。兵藤には自分のすべてを見られている。秘密を共有しているような変な気持ちだ。
「おい、瀬戸くん、にやついてるぞー」
背後に木元が立って笑っていた。周りの社員は外出中で誰もいない。
「あっ、木元さん、笑ってなんかいませんよ。ずっと小さい文字見てたから目が疲れてきて」
ニイナはわざと目をぱちぱちさせてごまかした。
「その入力終わったら、メシ行くか。最近がんばってっから、焼き鳥くらいおごるよ」
木元といるといつも楽しい。仕事のやり方や裏話などわかりやすく教えてくれてニイナはいつも感謝していた。
「はい!おねがいします。がんばって終わらせます」
ニイナはまたパソコンに向かってボードを叩き始めた。木元はそんなニイナをいとしく感じていた。
「ここ、俺常連の焼き鳥屋だ」
座敷があり、二組のサラリーマン客がジャケットを脱ぎ、シャツのボタンをはずしてくつろいでいた。天井から提灯が下がっている。壁には『生ビール冷えてます』というグラビアアイドルがジョッキを持つポスターが貼られている。ポスターは煙にくすぶられて茶色っぽくなっている。
「えええ?すごいおじさま系ですね。さすが新橋だー」
ニイナはおもしろがった。洒落たイタリアンやスペインバルより木元らしいと感じた。
「ここのつくねは最高だぞ。おにいさん、ビールとつくね」
艶っとしたプルプルの卵黄が添えられていかにも女性好みのつくね。卵黄に串を刺すと、トロリと黄身が流れ出す。小学校のときに初めて使った黄色い絵の具を思い出す。
卵黄に包まれたつくねを一口含み、ニイナは幸せそうに言った。
「木元さん、最高!このお店のファンになっちゃいました」
木元もうれしそうにニイナを見つめた。
フランクな感じが後押しして、ニイナは健康診断の結果がよくなかったことをポツポツ話し始めた。大きな病気だったらどうしようという話、手術ということになったら会社が休めるのかとう話。木元は心配そうに耳を傾ける。
「瀬戸、いや、ニイナ、あらためて言おうと思ってたんだけど、ニイナが病気になっても俺はずっと助けてゆきたい。付き合ってくれないか」
ニイナは一瞬、箸を止めた。ウーロン茶を一口飲み、じっと木元を見つめた。木元の気持ちは前から気づいていたが即答は迷った。
「冗談でいってるわけじゃないですよね?」
ニイナはまじめに聞いた。
「ごめん、こんなオヤジ系の店で言うつもりじゃなかったんだけど、今の話聞いてたらつい…」
「おしゃれなトラットリアビーチェで聞くより、全然、印象深いですよ」
ニイナは冗談っぽく返した。
「うれしいです」
兵藤の影が頭を過ったが、以前から自分を大事にしてくれた木元に真剣に告白されたことは単純に嬉しかった。
「木元さんのこと、狙ってる社員や派遣さんがいっぱいいるから、私、遠慮してました。いつも木元さん、仕事教えてくれてとっても感謝してます」
「ただの先輩って感じか?年が離れすぎた先輩?」
ニイナはまたウーロン茶をゴクンと飲んだ。頬が熱い。ポスターのグラビアアイドルが「ニイナがんばれー」と言っているように見える。
「あの、ひとりの男の人として憧れてました。でもお返事はすこし待ってください。病気のこともあるし。突然で驚いてますし」
木元の頬が緩むのがわかった。太い眉毛がアーチ状に丸くなる。木元は根っから愛情深い男なのだ。ニイナはもし子宮の病気と診断されても木元に支えられたらきっと治ると安心感が芽生えた。
「木元さん」
「なんだ?リョウヤって呼んでくれよ。焼き鳥屋では」
木元が笑った。
「リョウヤさん。あの、つくねもうひとつ頼んでいいですか?おいしすぎです」
木元はニイナのおでこを人差し指でパチンとはじいた。
ニイナはその夜、興奮して寝付きが悪かった。夜中にキッチンに水を飲みに行くと母が心配そうに起きてきた。
「体調悪いの?病気の事もあるんだから、夜は遊びに行くのよしなさい」
「かあさん、まだ病気と決まった訳じゃないし、具合が悪いってことないのよ。かあさん寝てたから報告してないけど、会社の先輩に告白されちゃって喜んでるんだよ」
母は眠そうな目をこすっていたが、いきなり目を見開いて言った。
「そうなの?いつもあなたが話してるやさしい先輩さん?」
「ドンピシャ」
「でも、病気のことは知ってるの?」
「うん、話した上で申し込まれた。もし病気でも応援してくれるって」
「よかったわねえ。よかったよかった」
母は一緒に喜んでくれた。
「はやく孫の顔見せてね」
母がこの一言を発したとき、ニイナはまた不安がおそってきた。
「もし、もし子宮取らなくちゃなんてことになったら…」
母は湯のみを戸棚から出しながら「病気かどうか決まった訳じゃないって言ってたじゃない。そうよ。取り越し苦労はやめよう」と告げた。
病院での検査結果を聞くまでは落ち着かない、ニイナはネットで子宮に関する病気を調べてため息をついた。ずっとネットを見ていると窓の外がおぼろげに明るくなってきた。
ベランダに出て空を見つめた。
「兵藤先生、私、病気なのかなあ」
下腹部を手で押さえながらニイナはつぶやいた。
不安の中で
土曜日、ニイナは不安なおももちで病院に向かった。ドアを開けて診察室に入ると兵藤がカルテから目をあげてニイナに会釈した。
「顔色悪いですよ。だいじょうぶ?」
「はい、検査結果聞くのが怖くて電車の中で緊張してました」
か細い声で告げた。
兵藤の眼鏡に自分が写り込む。兵藤と一緒の空間に入りこんだという感覚でフっと力が抜けたようだった。
兵藤は机の上に白いA4の紙を置き、子宮の絵を描き始めた。筋腫がむずかしいところにできているという説明、癌は様子を見る段階ステージなので、いまは心配ないという説明。薬を飲んでしばらく様子を見ようという診断だった。
わかりやすく話してくれる兵藤に引き寄せられた。紙に書かれた文字は子供が書いたような丸文字でかわいらしい。
癌が進行しているわけではないけれど、いつ癌細胞に変化するかわからないギリギリの状態。ニイナはホっとしたような、怖いような複雑な感情に教われた。定期的に通院することになる。兵藤に会えるならそれもまたいいかもしれない。
「あの、日頃の生活で気をつけなければいけないことはありますか?」
「とくにないです。いつもどおり規則正しい生活をしてください。夜更かししないように。性交渉も避妊具を装着すればだいじょうぶです」
心臓がドキドキ波打った。木元と?と一瞬思ったが淡々と説明を続ける兵藤を見ながら「兵藤先生に抱かれたい」とはっきり感じた。
「あの、先生…」
「はい?」
「さきほど病気のこと書いてくださった紙、ください」
「ああ、これですか、下手な絵ですけど」
兵藤は紙を一枚めくり、ニイナに手渡した。
「また来月うかがいます」
「お大事に」
電車の中で「性交渉は…」のフレーズがリフレインした。
「私、バカみたい。病気なのに、エッチな気分になってる」
兵藤にもらった紙に書いてある「子宮」という字を見るともやもやしてきた。
「木元さんのこと、好きだと思ってたけど、兵藤先生に惹かれる。どうしよう」
ニイナは翌日の日曜、一歩も部屋から出ずに葛藤をかかえたまま過ごした。
日曜の夜、木元が心配してメールをくれた。
『結果はどうだったんだ? 悪い病気じゃないことを祈ってる』
ニイナは『ありがとう、すごく悪くはないけれどちょい悪。明日話します』とだけ返した。
木元はニイナにとっては何不足ない彼氏だ。
日曜の夜、木元が心配してメールをくれた。
『結果はどうだったんだ?悪い病気じゃないことを祈ってる』
ニイナは『ありがとう、すごく悪くはないけれどちょい悪。明日話します』とだけ返した。
木元はニイナにとっては何不足ない彼氏だ。
年齢が離れているといって威張ることもなく、むしろ頼りがいがある。このまま付き合えば結婚となることは間違いない。木元の告白にまだ正式に答えは出していないが今度二人で会うと、必ず答えを要求されるだろう。ニイナの中には割り切れない何かが渦巻いている。
産婦人科の先生を好きになるなんて馬鹿げてる、きっと彼女もいるだろうし、患者と付き合うなんてあり得ない。私なんて美人でもないし兵藤先生にふさわしくない、ニイナは兵藤への想いを沈めようと、つねに否定的な方向へ考えてみた。
しかし必ず最後には兵藤の黒ぶちの眼鏡の奥のやさしげなまなざしがニイナをとらえる。説明してくれた手書きの紙をひらき、ニイナはため息をついた。
その夜、ニイナはむしょうに誰かに抱かれたくなった。前の彼と別れてから二年、たまにひとりで身体をいじっていたが、久しぶりにセックスをしたい気持ちが芽生えた。
ショーツの中に左手を這い込ませ、割れた部位を二本の指で開き割る。すかさず右手の指を押し入れる。すると初診の日のことが蘇った。
「息を吐いて力を抜いて…」
見られている、兵藤先生に。入れられている、兵藤先生に。触られている、兵藤先生に。恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。わたしのここが病気なの?
そっと撫でてあげるから病気が治ってくれればいい。そんなことを考えながらニイナは内側の壁をていねいに撫で上げた。床をモップで拭くように、吹き残しがないように。撫でて撫でて。
いつしか、自分の指が兵藤の指に変わる。ニイナの鼻孔に兵藤の髪の毛の香りが届く。クシャっとトップを立てたニイナの想像の髪型。兵藤が目をつむってニイナの膣の内側を撫でている。
「僕がここをこすれば病気なんか吹き飛ぶよ」
そうささやかれた。ニイナはベッドの上でのけぞり身体中ピクンピクンと痙攣した。指から手のひらにかけて水飴のような液体で覆われた。ニイナのその部分は病気のことなど関係ないように思い切り波打っていた。
日曜の夜、木元が心配してメールをくれた。
『結果はどうだったんだ?悪い病気じゃないことを祈ってる』
ニイナは『ありがとう、すごく悪くはないけれどちょい悪。明日話します』とだけ返した。
木元はニイナにとっては何不足ない彼氏だ。
年齢が離れているといって威張ることもなく、むしろ頼りがいがある。このまま付き合えば結婚となることは間違いない。木元の告白にまだ正式に答えは出していないが今度二人で会うと、必ず答えを要求されるだろう。ニイナの中には割り切れない何かが渦巻いている。
産婦人科の先生を好きになるなんて馬鹿げてる、きっと彼女もいるだろうし、患者と付き合うなんてあり得ない。私なんて美人でもないし兵藤先生にふさわしくない、ニイナは兵藤への想いを沈めようと、つねに否定的な方向へ考えてみた。
しかし必ず最後には兵藤の黒ぶちの眼鏡の奥のやさしげなまなざしがニイナをとらえる。説明してくれた手書きの紙をひらき、ニイナはため息をついた。
その夜、ニイナはむしょうに誰かに抱かれたくなった。前の彼と別れてから二年、たまにひとりで身体をいじっていたが、久しぶりにセックスをしたい気持ちが芽生えた。
ショーツの中に左手を這い込ませ、割れた部位を二本の指で開き割る。すかさず右手の指を押し入れる。すると初診の日のことが蘇った。
恥ずかしい診察
「息を吐いて力を抜いて…」
見られている、兵藤先生に。入れられている、兵藤先生に。触られている、兵藤先生に。恥ずかしい。恥ずかしくてたまらない。わたしのここが病気なの?
そっと撫でてあげるから病気が治ってくれればいい。そんなことを考えながらニイナは内側の壁をていねいに撫で上げた。床をモップで拭くように、吹き残しがないように。撫でて撫でて。
いつしか、自分の指が兵藤の指に変わる。ニイナの鼻孔に兵藤の髪の毛の香りが届く。クシャっとトップを立てたニイナの想像の髪型。兵藤が目をつむってニイナの膣の内側を撫でている。
「僕がここをこすれば病気なんか吹き飛ぶよ」
そうささやかれた。ニイナはベッドの上でのけぞり身体中ピクンピクンと痙攣した。指から手のひらにかけて水飴のような液体で覆われた。ニイナのその部分は病気のことなど関係ないように思い切り波打っていた。
木元はずっとやさしかった、ニイナの病気を気にかけるような言葉がけ。毎朝毎晩のメール。
食事のときも「仕事無理するな、俺が手伝ってやる。ゆっくり治せ」と必ず言ってくれる。
付き合おうという言葉にはっきり答えなければならないと、ニイナは決めた。ズルズル答えを引き延ばすのは悪い。兵藤と付き合えるわけはない。木元のことだけ考えよう。ニイナは木元の耳元で小さな声でささやいた。
「リョウヤさん、私、リョウヤさんとずっと一緒にいたいです」
木元の耳たぶが心なしか桃色に染まった。
始めての泊まりがけの旅行。都心から車で一時間ほど飛ばせば緑に囲まれた温泉地がある。ネットで見つけたこじんまりした温泉宿。ニイナは車の中からその夜のことを考えていた。
二年も、男の人としていない、ひとりで遊ぶことしかしていない。だいじょうぶだろうか。ちゃんと濡れるだろうか。指なら入るけれど男の人のサイズが入るだろうか。痛くないか。
病気がひどくならないか。考え始めるといつものように不安なことばかり湧き上がる。
「ニイナ、気分悪い?車、苦手か?」
木元がハンドルを握りながら尋ねた。
「ううん、男の人と旅行って久しぶりだからドキドキしちゃって。でもうれしいドキドキだからね」
木元がニコっと笑った。窓の外は緑の山に囲まれ、都会の喧噪を忘れさせてくれる。サービスエリアの駐車場に車を止めてドリンクを飲んだ。
「はやく風呂あがりのビール飲みたいな。運転中はこれで我慢」
木元が缶コーヒーをクイっと飲んだ。喉元を液体が通るとき、喉仏がクっと動く。見つめているとセクシーな気分になった。そして病院のラウンジで珈琲を持って立っている兵藤をまた思い出した。
「兵藤先生も珈琲を飲むとき、喉が上下に動くのかな」
ボーっと木元を見ていると、木元は突然背もたれにニイナを押しつけ、キスをした。
木元の舌がニイナの唇を押し分けて入ったとき、ニイナは太ももがブルっとふるえた。感じていた。思わず木元の首に手を回し、自分の舌先を木元の舌にからめていった。クルリと360度、回転して舌を舐め回し、長い間木元の舌をむさぼるようにキスを続けた。
木元が顔を離し、「おい、隣りに車が停まったから続きは旅館でしよう」と照れくさそうに言った。
バックミラーを覗き組むと、ニイナの口のまわりは唾液でべっとりしていた。
「やだあ、私ったら。はずかしー」
珈琲の味がする木元の唾液をもう一度ゆっくり味わった。ブラジャーの中では小さな突端がコリコリに硬くなっていた。
十畳ほどの広さ、床の間に白い花が生けてあり、掛け軸は墨絵。純和風の部屋は畳の香りがたちこめ、落ち着く部屋だった。お互い大浴場で汗を流し、部屋に戻って来て冷たい水を飲み干した。
「かああっ、風呂上がりの水、最高。メシのときはビール頼もうな」
額に小さな汗をにじませ、木元が言った。ニイナもゆっくりあたたまったせいか、浴衣の襟と背中部分が汗でびっしょり濡れている。
「浴衣いいねえ。色っぽい」
木元がニイナの掛け襟の間にスっと手のひらを差し入れた。
「車の中のキス、ニイナ興奮してたろ。驚いたよ。続きしよう」
ニイナはされるがままに横たわった。
座布団の上に頭を乗せ、二人は重なって唇を合わせた。二人だけの空間。気兼ねなく求め合うことができる。ブラジャーはつけていないので、襟をはだかれるとニイナの小ぶりの乳房があらわになった。木元は唇から鎖骨を通って乳房を舐め始める。
「汗かいてるから」
「ニイナの汗ならいくらでも舐めてやる」
ニイナの身体中の毛穴が開き、木元を求めている。木元の汗とニイナの汗が混じり合い、べっとり、ねとつく。乳首をジュっと吸われると、ニイナは大きな声を出した。
「あああ、あああ、」
背中の汗が乳房に一気に集まって、乳房が膨張するかのような感触。木元は口だけでなく両手でニイナの胸をグイグイ揉みあげた。
「あああ、だめ、だめええええ」
「おまえ、すごい感じやすいな」
木元はニイナの胸に顔を置き、上目遣いにニイナを見上げた。
「ここはどうなってんだ」
木元の手がショーツに伸びる。もはや汗なのかニイナの液体なのかわからないほどグッショリしている。
先生を想いながら
「濡れてるから脱げよ」
木元が膝までショーツを降ろす。ニイナは自分の脚を上手に使って足首からショーツを抜いた。
あまりの心地よさに久しぶりのセックスに対する不安が吹き飛んでいた。木元の身体を正面で受け止めようと立て膝をして足を開いた瞬間、また、思い出してしまった。診察の日のことを。
兵藤のやさしいまなざしが浮かび上がる。木元が濡れ具合を確かめるように茂みの生え際から中心部に向かってゆっくり指を進めてくる。4本の指で櫛をつくり、茂みをとかすように何度も往復させる。
櫛の歯がくずれ、1本の指が細い筒にもぐりこんだ時、木元と兵藤がスイッチして入れ替わった。頭の中でニイナは兵藤にしがみついていた。
声に出さずつぶやいた。
「先生、先生、もっと奥まで来て。先生、私の病気を治して。先生、好きです」
木元の手首を握りクイっと自分の奥深くに指が届くように導いた。診察のときに入れられた深さ。フーーーと深い息をしてニイナは膣に力を入れてすぼめた。木元の指が締め付けられる。
「ニイナ、おまえ、積極的だな」
木元がうれしそうにささやくが、その声はニイナには届かない。兵藤と抱き合っている自分がうれしくてしょうがない。
木元が指を抜き、自分の硬くなったそれをニイナに沈み込ませた。
「あああ、あああ」
ニイナは悦びに振える。木元の先端が深い部分に届いた時、また膣を締め付けた。
「あんまり締めるなよ。すぐいくだろ…」
木元が顔をしかめる。ニイナは診察台の上で兵藤とたわむれる夢の中にいる。
木元はすぐに果ててしまった。それなのにニイナは目を閉じて頭の中でつぶやいた。
「先生、兵藤先生、もっとさわって…」
ニイナは足を思い切り開き、「もっと奥へ」と何度もつぶやく。
その様子を見た木元は、「まいったな…」としょげたようにつぶやいた。
畳の上の激しい交わりのあと、二人で夕食を食べに食事処に向かった。部屋についているシャワーを浴びたものの、吹き出る汗とニイナから湧き出たおびただしい液体の香りが浴衣にしみついているようだった。浴衣をはおっただけでムっとする感覚だった。
木元ははやくイってしまったことが体裁悪いのかいささか無口になってしまった。ニイナも交わりの瞬間、兵藤への想いが断ち切れていないことを確信し、どうしていいかわからなくなっていた。
言葉少ない夕食を終え、庭に出たふたりは池のそばにある丸い石の上に並んで腰掛けた。木元が切り出した。
「悪かったな。その…先に終わっちゃって。寝るときがんばるからさ」
池の鯉に視線を向け、必死で作り笑いをしている。
「リョウヤさん、あの、私、言わなきゃいけないことがある」
「なに?あ、わかった。ニイナがすっごいエッチってことだろ」
また木元が冗談っぽく返す。
「違う。たしかに自分でもびっくりするくらいエッチだなって思ったけど。あの…」
「何?」
石灯籠の灯りが池の鯉を照らし、鯉は昼間のように元気に泳いでいる。朱色の鯉がピシャっと跳ねた。しぶきが草履を履いた素足にかかる。
「わたし、あきらめようとしているけどあきらめられない人が…いる」
木元は驚いて立ち上がった。四匹の鯉がさささーっと池の端っこに向かって泳ぎ始めた。水の輪が二重三重に広がってゆく。
「リョウヤさんのこと、好きだよ。病気のこともすごい心配してくれるし、大切に思ってくれる。リョウヤさんにはなんの問題もない。私が馬鹿でふんぎりつけられないだけ。ごめん、ごめんね」
木元は立ちすくんだまま問い返した。
「誰?会社のやつ?」
「ううん、それは言いたくない」
「俺と付き合うって決めたんじゃないのか」
「決めた。決めてた…。でもさっき、抱きしめられたとき、頭の中がその人のほうに飛んで行ったみたいで、どうしていいかわかんない。でもその人とは結ばれない、こっちが勝手に思ってるだけ。告白なんてしない」
木元はしばらく池を見つめていたが、もう一度ニイナのとなりに座った。
「なんでそいつにいかないんだ?」
「遠い存在だから。住んでる世界違うし」
「気持ちを伝えることはしないんだな」
ニイナはしばらく返事に詰まったが、こっくり頷いた。
「じゃあ、忘れるまで俺は待つさ。大人だから。ニイナより十一歳年上なんだからな。にしては、あっちのほうは情けないけど」
木元は草をちぎって池に投げた。鯉が餌と間違えて一直線に寄って来た。
「リョウヤさん、鯉の餌、宿の人にもらってこようよ。だめだよ。草投げちゃ」
ニイナは木元の額を人差し指でこづいた。焼き鳥屋でやられたように。夕方の汗はすっかりひいて乾いた額だった。
畳の上の激しい交わりのあと、二人で夕食を食べに食事処に向かった。部屋についているシャワーを浴びたものの、吹き出る汗とニイナから湧き出たおびただしい液体の香りが浴衣にしみついているようだった。浴衣をはおっただけでムっとする感覚だった。
木元ははやくイってしまったことが体裁悪いのかいささか無口になってしまった。ニイナも交わりの瞬間、兵藤への想いが断ち切れていないことを確信し、どうしていいかわからなくなっていた。
言葉少ない夕食を終え、庭に出たふたりは池のそばにある丸い石の上に並んで腰掛けた。木元が切り出した。
「悪かったな。その…先に終わっちゃって。寝るときがんばるからさ」
池の鯉に視線を向け、必死で作り笑いをしている。
「リョウヤさん、あの、私、言わなきゃいけないことがある」
「なに?あ、わかった。ニイナがすっごいエッチってことだろ」
また木元が冗談っぽく返す。
「違う。たしかに自分でもびっくりするくらいエッチだなって思ったけど。あの…」
「何?」
決心
石灯籠の灯りが池の鯉を照らし、鯉は昼間のように元気に泳いでいる。朱色の鯉がピシャっと跳ねた。しぶきが草履を履いた素足にかかる。
「わたし、あきらめようとしているけどあきらめられない人が…いる」
木元は驚いて立ち上がった。四匹の鯉がさささーっと池の端っこに向かって泳ぎ始めた。水の輪が二重三重に広がってゆく。
「リョウヤさんのこと、好きだよ。病気のこともすごい心配してくれるし、大切に思ってくれる。リョウヤさんにはなんの問題もない。私が馬鹿でふんぎりつけられないだけ。ごめん、ごめんね」
木元は立ちすくんだまま問い返した。
「誰?会社のやつ?」
「ううん、それは言いたくない」
「俺と付き合うって決めたんじゃないのか」
「決めた。決めてた…。でもさっき、抱きしめられたとき、頭の中がその人のほうに飛んで行ったみたいで、どうしていいかわかんない。でもその人とは結ばれない、こっちが勝手に思ってるだけ。告白なんてしない」
木元はしばらく池を見つめていたが、もう一度ニイナのとなりに座った。
「なんでそいつにいかないんだ?」
「遠い存在だから。住んでる世界違うし」
「気持ちを伝えることはしないんだな」
ニイナはしばらく返事に詰まったが、こっくり頷いた。
「じゃあ、忘れるまで俺は待つさ。大人だから。ニイナより十一歳年上なんだからな。にしては、あっちのほうは情けないけど」
木元は草をちぎって池に投げた。鯉が餌と間違えて一直線に寄って来た。
「リョウヤさん、鯉の餌、宿の人にもらってこようよ。だめだよ。草投げちゃ」
ニイナは木元の額を人差し指でこづいた。焼き鳥屋でやられたように。夕方の汗はすっかりひいて乾いた額だった。
東京に戻ってからニイナは兵藤のことを忘れようと自分を制した。木元のほうに気持ちが向くよう、木元のいいところをいろいろ並べてみた。木元はいいところだらけだ。病気がよくなる頃、結婚しようと言ってくれた。
旅行以来、セックスはお預けにしているが、デートを重ねていくと木元のやさしさは身にしみるほどわかる。母親にはまだ会わせていないが、母は木元と付き合った方がいいと推す。
ニイナは子供っぽいから年が近い男性だとぶつかる。木元とは年が離れているから喧嘩にならないし、落ち着いた結婚生活を送ることができると…。昔から母の言うことはいつも正しい。
診察の回数も少なくなり、薬も効いてきていると診断された。少ししか会えないのなら日常の忙しさにまぎれて忘れられるだろうと思ってみたが、よけいに兵藤への想いが募る。
隔月に一度、診察室でたった二十分だけの会話。その間、雲の上にいるようにフワフワした自分を感じる。兵藤先生に抱きしめられたい。兵藤先生が珈琲を飲み込む喉元が見たい。そんなことを考えてしまう。
帰りの電車の中ではいつも「子宮の病気が治れば兵藤先生に会えなくなる。うれしいのか悲しいのかわかんないな」などと憂えてしまう。
そして、病院へ行った日の夜はお決まりのように、ひとりで自分の身体を撫で回す。立て膝をして大きく足を開いて、息を大きく吐く。そして兵藤の暖かさを夢の中で感じながら何度も達する。達した後も乳房を両手で揉みあげながら「先生、先生」と甘えた声で唱える。
ニイナは、兵藤への想いを吹っ切らない限り、木元に抱かれてはいけないと強く思う。夢の中で兵藤とたわむれたあと、いきなり電話のコールが鳴った。木元だった。
すぐに取らずに、電話を見つめた。心の中にはさっきまで抱いてくれていた兵藤がいた。ゆっくりと電話を手に取った。
「リョウヤさん、ごめんなさい。やぱり、わたし、憧れの人に気持ちを告げることにした」
木元は電話の向こうで、何もしゃべらない。電話を切ろうともしない。二人とも無言で息の音だけが流れた。しばらくして木元のほうが先に発した。
「わかった。俺は怒ったりしない。結果が惨敗なら戻ってこい」
そして電話を切った。
枕の上に電話を置くと、ニイナは涙が溢れ出た。
「ゴメン。でも、先生にこの気持ちは伝えないと頭がどうにかなっちゃいそう。先生のことが好きでたまらないの」
ニイナは、次の診察の時、手紙を渡そうと思った。無視されたらそれまでだ。きっぱりあきらめる。木元に戻ることもない。それが自分なりのけじめ。
ニイナは二度目の診察のときに兵藤が書いてくれた絵の紙を引き出しから取り出し、かわいい文字にキスをした。
END
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あらすじ
主人公のニイナは会社の健康診断で、子宮に異常があると診断された。
そして、産婦人科へ行くことに。
そこでの産婦人科医の兵藤に、ニイナは次第に惹かれていく。
そんなある日、会社の上司・木元から告白され…