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【後編】恋愛とセックスのかけ算/27歳 里衣菜の場合
何をされても、ほとばしる
深大寺デートのときから、里衣菜は永野と柳田のことを時間差で考えるようになった。永野はひと月以内に付き合うかどうか答えをくれと言う。柳田からは長いメールが届いた。大事にするから交際してくださいという内容だ。最高のモテ期到来。
運気が上がったのはいいけれど、恋の相手のことでこんなに悩むことになるとは思わなかった。パッとしない毎日を憂いていた日々がウソのようだ。
水曜でもないのに夜、永野が車で里衣菜のマンションにやって来た。ドアをあけるといきなり押し倒される。
「どうしたの、永野……さ……ん」
「愛してるよ、里衣菜。抱きたくてたまらなくなった……」
床の上で里衣菜のパジャマを手荒に脱がせる。ポロリと現れたふくらみを中心に鎖骨からへそまで広範囲で舐め回す。クルクルと螺旋の線を描いて。ふくらみを味わいながらも右手で太ももの外側と内側を交互に撫でる。
永野の匂いを嗅いだだけで里衣菜の女の部分はジュクリと濡れ始める。動くのがわかるようになっていた。眠っていた動物が目覚めてパックリ口を開けて餌を待つかのごとく。永野の匂いと愛撫により濡れて開きはじめる。
永野が緑とグレーのストライプのネクタイをはずし、里衣菜の手をバンザイにしたまま手首で縛り上げる。ネクタイの端っこをベッドの脚にくくりつける。里衣菜は上半身が固められて動けない。
永野は里衣菜のうなじを肩から耳たぶに向かってベロリと舐めあげる。なめくじが這うような感触。
里衣菜はゾクっとする。永野になら何をされても股間はほとばしる。永野のセックスはすべて受け止めるよう身体が反応するのだ。
脇の下に口付けられた。
「いい匂いがするよ。里衣菜。俺のものになってくれ。里衣菜まるごと……」
「くすぐったい……永野さんったら。ずるいよ。こんなことしながら答え出させるなんて」
「里衣菜の身体は俺なしではやっていけない。持て余すぞ。そこいらの男じゃ、ギブアップする身体になってる」
そこいらの男?柳田さん?柳田さんではセックスの相性が合わない?たしかにそうかもしれない。鍼灸院で迫ってもそっぽを向いた男だ。

手首を固定されたまま、里衣菜の下半身は永野に弄ばれる。つねられ、噛まれ、吸い上げられる。
ここかと思えばあそこ。永野の手と唇は自在に里衣菜の身体を這いずり回る。力が抜け落ちる。重力がない世界で漂い始める。
熱い息を吐きながらゆらゆらただよっているときに不意打ちで、ズブリとトドメをさされる。
「んぐっ……んあああああああ!」
里衣菜の足が痙攣する。足の指が全部つる。ヒクヒクと臀部が床を浮く。
そして秘部は水飴をこぼしたようなとんでもない状態になる。里衣菜の汗と水飴と永野の精の匂いが床から立ち上がる。
毎回、里衣菜の声は薄い壁を通して隣の部屋に筒抜けだ。隣の部屋の一人暮らしのオタク学生は永野が来るたびに、壁に耳をあててパンツに手を突っ込み、息をはずませる。
里衣菜はそれをわかっていて、ますます暴れたくなる。
ひととおり波が去る。永野がネクタイをほどき、額にやさしく口付ける。
「俺と一緒になるか?」
里衣菜はぐったりと力が入らない目で永野を見つめる。
「だめ、こんなことしたあとで、重大な決断はできない。もうすこし答えは待って」
永野はクスっと笑い、バスルームに消えた。
里衣菜はネクタイを折りたたみながら考える。肉食系の絶倫男と、セックスは子供を作るときだけしかしないインテリ草食男。絶倫男はどう考えても浮気しそう。
草食まじめ男は浮気はしないけど、エッチ気分になったとき、答えてくれそうにない。どっちが私に合っているの。
バスルームから腰にタオルを巻いた永野が出てくる。
「おっ、いいねえ、そのまったりした顔。そそられる。イッたあとの里衣菜の顔、けだるそうですごく色っぽいよ」
永野のヘソ周りを見ると、タオルの下でまたも膨らみかけている。
「ねえ……それ……」
永野がまた里衣菜に覆いかぶさってきた。
「嘘でしょ」
「それだけお前は魅力的なんだよ。何度でもできるよ」
さっきの熱い名残がまだ残る女の内袋に、またも永野はゴソっと侵入して来た。永野の背中をつねりながら里衣菜は目を閉じ小さくささやく。
「悪くない……」
天井まで上り立つ
遊びと考えていた永野がマジに付き合おうと言う。柳田はどうだ。愛する人を大切に扱おうとする男心は嬉しい。男女関係になるのは結婚を決めてからとはっきり言う。
だが里衣菜の肉体は、陽が沈むとウズウズとどよめき始める。ほとばしるエロスの欲に柳田は答えてくれるのだろうか。
「やっぱりしてみなくちゃ。付き合うかどうか決める前に。もう一度チャレンジしてみよう」
里衣菜は決心した。大事な選択の時期。将来ずっと一緒にいるパートナーを決める時期。永野に開いてもらったカラダで、柳田と結婚できるか確かめてから決めようとした。
柳田との次のデートは新宿の高層タワーにあるステーキ屋だった。里衣菜が「お肉が食べたい」と提案したのだ。
景色を最大限に見せるためにつけられた窓。色とりどりの夜景に向かって鉄板の上にのった肉をつつく。ジュっと音をたてて焼けるこおばしいステーキの香り。ガーリックの香りがあとをおうように天井まで上り立つ。
一噛みすれば口の中にしたたる肉汁。なんとも言えぬエロチックな気分。里衣菜は狙っていた。柳田も肉を食べれば、そんないやらしい気分になるのでは。
二人は赤ワインを3杯飲み干す。
「おいしいね。ステーキ。お肉食べると、エッチな気持ちにならない?」
直球の質問。
「うん、嗅覚も刺激されるしね。お灸の匂いを毎日かいでいるとお坊さんみたいな気持ちになるから」
柳田が目を細めて笑う。頬が桃色に色づいている。酔っている。
理性のストッパーがゆるんでいるにちがいない。
「ねえ、アイス食べたらあのホテル行かない? 行ってみたいな。新宿のホテル」
窓の向こうにそそり立つ重厚な造りのホテル。里衣菜がまっすぐ指を指す。柳田は、仕方ないなという表情を見せながら里衣菜の肩を抱いてホテルに向かった。ストッパーはやはり緩んでいた。
里衣菜の部屋の4倍の広さ。壁は全部窓。スタイリッシュなモノトーンのソファ。
その部屋にいるだけでゴージャスな気持ちになる。里衣菜ははしゃぐ。
「シャワー浴びるね」
「あの、やっぱり、今日はここで寝るだけにしよう……」
ここまで来て柳田が、とんでもないことを言い出す。
「何言ってるのよう。一緒にシャワー浴びよう」
「里衣菜さん、僕とちゃんと付き合うかどうか決めたの? 結婚を前提とする年齢だし、中途半端なままでこんなことしちゃいけないって、伝えたはずだ」
もじもじとする柳田に里衣菜は少し怒りを覚える。情けない。
「じゃあ、なんでここまで来たの? そういう関係になったから責任とってとか言わないから。私は。ただ、柳田さんに抱っこされたいだけ。腰痛も柳田さんのおかげで楽になってるし。もっと里衣菜の身体に触って欲しい」
「結婚を前提に……付き合うってことなんだね」
埒が明かない。まじめすぎる。里衣菜は無言でレースのワンピースをさっと脱いでキングサイズベッドの横に立っている柳田の首に手を回す。
「柳田さんがキスしてくれないなら私からする」
さっきまでやわらかい肉をほおばっていた唇に里衣菜の唇を押し付ける。
「あ……里衣菜さん、歯磨きしなくちゃ……」
柳田がたじろぎながら身体を離して逃げようとする。里衣菜は聞く耳を持たない。そのまま柳田をベッドに倒すようにしてかぶさる。
下着姿の女にここまでされて逃げる男だったら付き合うのはやめよう。そんな判定基準を考えながら里衣菜は柳田のシャツのボタンをまさぐるように外す。
濃厚なキスで毒を流し込まれたかのように柳田がおとなしくなる。抵抗せず、じっと目を閉じて仰向けになっている。最後のブリーフに手をかけると柳田がボソっと言う。
「シャワーだけは浴びよう」
ガラス扉のシャワーブースで柳田の裸を見た。ほどよく筋肉がついた胸。小さなヒップ。均整が取れた手足の長さ。男らしいふくらはぎ。意外なほど黒々と茂った股間。
美しい。どこかの美術館で見た彫刻のようだ。永野の裸体はあまり記憶にない。狭い部屋で電気を消して貪り合う場面しか浮かんでこない。
あらためて男の裸体を見たのだ。
「柳田さん、きれい。ヌードモデルになれるね」
レインシャワーをあびている柳田の背中に頬を寄せる。あたたかい湯が二人を濡らす。柳田のソレはまだ落ち着いていた。
猫のポーズで甘える
ふかふかの大判タオルに身を包み、ベッドに戻る。柳田は観念したかのように里衣菜を抱き寄せる。
「びっくりだな。女性からホテルに誘われるなんて思わなかった。カルチャーショックというかなんというか……」
「この前、鍼灸院で私が誘っても答えてくれなかったから、寂しかったんだ。私、魅力ないのかなって」
「いや、里衣菜さんはきれいだし、いつも明るいし、素敵な人だ。だから付き合って欲しいと思ってる。でも身体の関係からは始めたくない……」
里衣菜は小悪魔が乗り移ったようにベッドの上で四つ這いになり猫のポーズを取る。手をグーにして招き猫の真似をする。
「もうわかったでしょ。わたし、そこそこエッチが好きなの。こんなこと言うとドン引きされるかもしんないけど。エッチしてくれない男の人とはうまくいかない気がするから、勝負に出たのよ」
柳田はグーに握った里衣菜の手を握り返す。
「僕は古風なタイプだから。正式に付き合ってる人でないとそういうことはしたくない」
「でも……身体の相性って大事でしょ。してみたい。柳田さんと」
「してみて、気持ちよくなかったら付き合わないってこと?」
里衣菜は答えに困る。しかし、そういうことなのだ。
「……うん」
柳田は眉をしかめた。薄暗い照明の中で瞑想しているかのような顔。
「セックスの技術をためされるのは嫌だから、今日は里衣菜さんに僕の身体を預ける。僕はじっとしてるから里衣菜さんが動いてみて」
実は里衣菜は、したくてたまらない。ステーキを一口頬張った時から、太ももの間のパーツにも何か食べさせたいという欲情が湧いていたのだ。
柳田の腰のバスタオルを剥ぎ取り、里衣菜は落ち着いているソレを両手で包み込む。ほぐすようにタッチする。徐々に硬さを増してきたとき、唇を寄せて突端にキスをする。
「あっ」
柳田が、小さな叫びをあげる。永野に徹底的に教え込まれた口術を使う。表面の皮膚をほどよくずらしながらヴァキュームする。突端から根本に向かってあらゆる角度に動かしながら隅々まで。余すところなく刺激を与える。ソレは喜んでいるかのようにプルルと震え始める。
「ステーキよりおいしい……」
里衣菜はジュバジュバと音をたてて大きくなったソレを突端から喉の奥まで飲み込み、力いっぱい吸い上げる。
「ああ……がまんできない……」
柳田が顔をしかめる。
里衣菜が口の中を真空にするくらい吸い込んだ時。
「わああ」
柳田が太ももを大きくバウンドさせ口の中に放った。
「ごめん、がまんできなくて」
里衣菜は肉汁を思い出しながらごっくんと飲み込む。
「いいのよ。イッてくれてうれしい」
「時間をくれれば復活するから」
そうは言ったものの、数分するとワインが今頃きいてきたのか柳田は仰向けのままウトウトし始めた。
「まじで?」
里衣菜は眠ってしまった柳田にシーツをかける。
柳田は寝息をたてている。
「え? どゆこと?」
里衣菜は腑に落ちない。
3分舐めたらイッてしまう早漏クンということはわかった。お返しに舐めてくれるわけでもなく寝入ってしまうなんて。
「淡白なんだ……」
しかし、里衣菜はステーキ屋で発火した身体の奥のほてりを鎮めなければ眠れそうにない。
眠り込んだ柳田の指を手に持ち、自分の秘部にそっと入れた。柳田は目を覚まさない。指をバイブのように使って自分の奥を掻き回す。
「んんん、いい気持ち……」
膨らんできたそら豆の周りをグルグル押し撫でる。
「ああ、柳田さん……」
とどめにそら豆の先端を柳田の指の腹でチョコンと押す。
「イッちゃう」
里衣菜は柳田の指をおもちゃにして、いつまでも一人遊びをした。
めくるめくラグジュアリーセックス
通勤電車の中、考えすぎて一駅乗り過ごしてしまった。
永野にするか。柳田にするか。この悩みは田舎の母親にも相談できない。エッチが合うかどうかで結婚を決める娘に愛想をつかすだろう。
会社のロッカールームでジュンカを見つける。
「今日のランチ、おごるから話し聞いて」
ジュンカが察して、ウインクする。
昼休み、グリーンが見えるテラス席でリブロースランチを囲む。おいしそうな肉汁の匂いが昼間というのに性の欲情を誘い出す。
「ねえ、ジュンカさん、どっちがいいと思う? さすがにもう決めなくちゃ。両方逃がすのはいやだし。肉食系と草食系、さあどっちだ。」
「そうねえ、むずかしい選択だわ。不動産屋はぜったいに浮気する。でもりいちゃんの魅力次第では浮気は封印できるかもしんない。毎週めくるめくラグジュアリーセックスで満足できる」
「そうね。そうなればいいな」
「対して院長は、まじめくんで仕事はコツコツする。暮らしに不自由はない。でもエッチ回数は少なく、しかも満足させてくんない。子供生まれたらセックスレスっていうパターンじゃない?」
「おっしゃるとおり。そんな気配まんまん」
「りいちゃん、風水とか方位学で運気アップしたんでしょ。モテ期到来。そしたらさ、またそっちで決めてみれば?引っ越すとか、いい方位の神社行くとか。神様のお告げがあるかもよ」
ジュンカが付け合せのフライドポテトをほおばって提案する。
「えええ!そんなことで決めるの……人生の一大事を」
「感覚としてはどうなのよ。院長とは結局できなかったんでしょ。美女とホテルに行って自分だけイッて寝てしまうってどうよ」
「まあ、あれはお酒飲んでたから……仕方ないかな」
「あ。そう。贔屓目にみれるなら院長にすれば。早漏は治そうと思えば治るし。でも、もともと性欲がない男って厳しいけど、我慢できる?私の彼氏は仕事てんぱると、まったく性欲なくなるのよ。だから課長に補って貰ってるんだよ」
気を失うほどのエッチ
「そこがむずかしいから悩んでるのよう」
「昼間っからリブロース頼むくらい、私たちは肉食女子なのよ。まあ、りいちゃんをそういう身体にした不動産屋に責任取ってもらうのもいいわね」
参考になったようなならないような、ジュンカの提案をかみしめながら部屋でスマホニュースを見ていた。
柳田の針のおかげで腰痛はずいぶん改善してきている。永野からめずらしく長いメールが届く。
「来月の里衣菜のバースデー、最高のお祝いをする。付き合うかどうかはっきり答えをくれよな。付き合うってことは結婚を意識するってこと。心配してるかもしんないけど、俺はもう里衣菜さん以外の女には振り向かない。さんざん遊んだんだ。卒業だよ。だいじょうぶ俺のこと恨んでる女はいないから。安心してイエスの返事を聞かせて欲しい。もちろんお祝いの中には今までしたことがないような気を失うほどのエッチも含まれてるから。楽しみにして」
「気を失うほどのエッチ……」
そのフレーズにまた里衣菜は身体を揺らす。どうしようもなく欲深いカラダになってしまっている。
こうしたのはジュンカの言うとおり永野だ。永野にしか里衣菜の泉のように湧き上がる欲には対処できない。
浮気さえしなければ、いいヤツだ。仕事もてきぱきこなすし、独立も視野に入れてしっかり貯蓄もしているようだ。
里衣菜の口でイッて寝てしまった柳田と、もう一度トライしたい気がするが、永野ほど答えてくれるはずはない。
「気を失うほどのエッチ」
想像すらできない。それなのに、したくてたまらない。
結婚で刺激を求めないこと
バースデー前に最後の確認をしなくては。
里衣菜は鍼灸院が終わる時間に柳田を待ち伏せした。柳田がこの前のことを照れくさそうに詫びる。
「柳田さん、わたし、来月お誕生日なんです。それまでに柳田さんとお付き合いするかどうか決めたいんです。まだ迷っているんです。私にとって……その……エッチの相性って大事な気がして……」
柳田は真剣に話を聞いている。
「わかった。女性側からそういうことを言わせてしまう僕も大人げない。そこに目をそむけて結婚してもそれが原因で喧嘩になるのは避けたいからね。これから僕の部屋に来る? 車で10分ほどだから」
柳田の部屋はお香の香りが立ち込め、月見障子もあり、和のテイストで統一されていた。
「思った通りの部屋だわ」
「おじさんくさい?」
「ううん。旅館みたいですてき」
柳田はあたたかい酵素茶を淹れてくれた。
一息ついてから風呂に誘われる。森林の香りの入浴剤をバスタブに入れ、二人でつかる。柳田に抱っこされた形。柳田の胸の鼓動が里衣菜の背中に伝わる。
やすらぐことができる。この人と結婚すれば落ち着いた日を過ごせそうだ。
セックスなんかなくてもこうやって毎晩一緒にお風呂に入って今日あったことを話すだけでも幸せなんじゃないか。母が言っていた。
「結婚で刺激を求めないことだよ。安心して子供を育てることができるのが一番ラクだよ。平和。毎日同じことの繰り返しでのんびり暮らすのが平和な結婚よ」
そんなことを考えていると柳田が後ろから里衣菜の胸を探り始めた。
ビクリ。
身体はすぐに反応する。
平和より性の刺激
「そろそろあがろうか」
寝室にはすのこのベッドが置いてある。
この前とは違い、柳田が里衣菜の身体を探るように撫で回す。鍼灸師だからか、ツボを探すような指の動きだ。治療を受けているような気分。
長い指が鼠径部を超えて秘部に近づいた時、里衣菜は
「あんっ」と声を出した。
柳田の手が止まる。
「ああ、続けて。もっと、続けて……」
緊張している。とまどうように里衣菜の入り口にタッチする。
「そこっ……感じる」
柳田の動きがまた止まる。タイミングが悪い。リズムがつかめないのか、こわがっているのか。
里衣菜は辛抱できない。思わず柳田の下腹部をまさぐり、ソレを握りしめる。力なく下を向いたそれは一向に形を表さない。
こすってみる。硬くならない。舐めるのはやめておく。ホテルの夜のようにすぐに終わってしまってはどうしようもない。
「ごめん……里衣菜さん……あの日のことが気になってその気にならない……」
「え?」
「……その……里衣菜さんの口の中ですぐ出てしまったこと……情けない。また、ああなるんじゃないかと。二度もあんなことになったらかっこ悪い……」
「気にしないで。あれは初めてだったし」
里衣菜は、あの手この手で柳田をその気にさせようとしたが無駄だった。やるせない。
母の言葉は「平和な結婚をしなさい」だが、こんな殺伐とした気持ちになるということは平和な結婚はできない。
里衣菜は衣服を身にまとう。
柳田は一言も言葉を発せず里衣菜を見ている。
「タクシーで帰る」
柳田がゆっくりうなづく。引き止めはしない。
大通りまで出てタクシーに手を上げる。
「ここで追いかけてきてくれれば、考え直すのにな」
後ろを振り向いても、若いカップルと学生風の男が歩いているだけ。
里衣菜はタクシーに乗り、スマホを取り出す。
「永野さん、バースデー楽しみにしてるね。気を失うほどの、すっごいこと、私も永野さんにしてあげる?」
自分が求める結婚の理想形は……平和より性の刺激……自分なりに納得して窓から流れ行く夜の街を見た。
END
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あらすじ
初恋のカレにそっくりな男性・永野と出会った主人公。デートを経て初めてのセックスを捧げてから、セフレとしての関係を続ける。
そんな中、新たに出会った男性・柳田を結婚相手として意識するが…