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恋愛とセックスのかけ算/28歳 アズサの場合
スズラン
冬晴れの気持ちいい朝、庭に出てクレマチスの白い花に水をやっている時だった。
「イタっ…」
奥歯のあたりに針で突っつかれたような痛みを感じた。朝食の頃には、鈍い痛みが続く。アズサはキッチンでサラダを作っている母親に尋ねた。
「かあさん、虫歯みたいなんだけど、大石先生のところ予約してくれない?」
大石歯科は家族のかかりつけ歯科医だ。電車で30分かかる駅にある。母の知人の紹介で、安心できるということでかかっていた。母が電話をしてくれたが、3日間学会で休診という音声が流れた。
「ねえさん、森本パンの隣にきれいな歯医者さんできてるわよ。ホワイトニングもやってるって看板に書いてあるから気になってたの」
妹の美沙が教えてくれた。
「ああ、あるある。すごい痛いから、今日はそこ行くわ。もしイマイチだったら来週、大石先生に診てもらう」
「スズランデンタルクリニック」花の名前がついている。院長がロマンチストなのかなと思いながら受付をした。治療室に入ると大きなマスクをした30代くらいの担当医が対応してくれた。名札に鈴木と書いてある。
マスクで顔を覆っているのでよく見えないが、目元だけは見える。はっきりふた重のきれいな目だった。やせ形で指が長い。上手だったらいいのにと思いながらアズサは椅子に座った。
「はい、失礼します」
長い指がアズサの口の中に入るとき、なぜかドキリとした。人前で大きな口を開けるという行為は恥ずかしいことなのだと思った。決して人前で見せぬ顔を見せるということだから。結局、親知らずがひどく虫歯になっているということだった。上下2本あるので、抜歯することになった。
麻酔をかけられるとき、アズサは怖くて顔をしかめた。電動注射の針が刺さるときも、痛みはないと言われたがアズサは敏感なのでしびれるような痛みを感じた。
「痛いです」
左手をあげながら苦しそうに言う。
そのとき、鈴木の目が少しだけ笑った気がした。
「ごめんなさいね、我慢してくださいね」
やさしそうに声をかけるが、手加減している様子はない。
アズサは逃げられないと思い、目を閉じて耐えた。麻酔が効くのを待った。ジンジンした嫌な感覚が続く中、アズサは目をギュっと閉じ、楽しいことを考えようとした。
すべてが終わり、怖さと鈍い痛みで朦朧とする。鈴木がマスクをはずして、ほほえむ。
「よかったら仮眠室がありますので横になって休んでください。2本も抜いたから頭も身体も驚いているでしょうから」
端正な顔立ち。シャープなあごのライン。きりっとした眉と薄い唇の絶妙なバランス。アズサは自分で面食いだと思っていたが、まさにタイプの顔立ち。衛生士の女性に案内されて仮眠ベッドで横になり、鈴木医師に出会えてよかったと思った。怖い抜歯のことはすでに忘れていた。
抜歯のあとの痛みは麻酔が途切れる頃、最高潮に達した。夕食も食べることができず、「痛い痛い」と頬をおさえてつぶやく。氷の入った袋を頬に当てて痛々しい姿だ。母も美沙も心配して「やっぱり大石先生のとこに行った方がいいね。1度に2本抜くなんてあり得ないよ」と言う。
痛み止めを2錠飲むと夜中にはなんとか痛みがおさまってきた。翌日は、また痛みが復活した。血もうっすらにじんでいる。スズランデンタルクリニックにまた足を向ける。
鈴木医師はマスクをして淡々と処置をする。「消毒したあと化膿止めを出しますので、飲んでください」と事務的に言い放つ。
「失敗じゃないんですか?歯の根っこが残ってるんじゃないですか?異物感があるんですけど」
アズサは恨みをこめるように訴えるが、鈴木は今度は作ったようにほほえみながら答える。
「だいじょぶです。きれいに抜けてます。その感触はよくあることです。僕にまかせてください。信用してください」
「信用って?こんなに痛いのに」
「痛みが続くあいだ、毎日来てください。あと3日経っても痛みが消えなければ磯貝さんの言うことをなんでも聞きます」
なんだか意味ありげなもの言い。治療室にいた歯科助手がパーテーションの後ろでクスっと笑った気がした。
そして3日後、痛みがぴたりと止まった。久しぶりに庭の花に水をやる気分になった。
「鈴木先生、今日は朝からすっきりです。痛くありません…。ほんとは、かかりつけの歯医者さんに今日行こうと思ってたんですけど…」
鈴木はマスクをはずしていた。治療室に朝の木漏れ日が降り注ぎ、きれいな横顔が一段と輝いて見えた。笑う口元から覗く歯が白くてかわいらしい。
「そうですか、よかった。僕は自信がありましたよ。きっと治るって」
アズサは痛みからの開放感で浮き足立っていた。鈴木といろいろ話したくなった。
「どうしてスズランっていう名前なのですか?院長先生がお花が好きなんですか」
「ああ、うちの父が院長なんですけどね。鈴木歯科だと、ほかにたくさんありそうですから、花の名前をとってスズランにしようと。女性や子供の患者さんが増えるのもうれしいですし」
アズサは、この会話で鈴木に心を許した。
「すてきな発想です。また来たくなります。うちは家族全員でガーデニングが趣味なんです。今度お花持ってきます」
鈴木が嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。でも今日で治療は終了です。これ、以後気をつけることです、読んでください」
そう言いながらレポート用紙をたたんだ紙をそっとアズサに渡した。待合室の長椅子に座って紙を開くと鈴木の連絡先がしるされている。かっちりした文字で。「夜、連絡ください」と。
シンパシー
自分のタイプのハンサムな歯科医、お付き合いに発展したら最高だ。アズサには今、彼氏がいない。アズサは照明関係の会社で働いている。会社では結婚していない30代40代の女性がたくさんいる。
それぞれデザイナーとして独立したいとか、インテリアショップを作りたいという夢を語る。アズサはそこまでキャリアに執着していない。むしろ生活の保障をしてくれる容姿のいい男性がいたら結婚したいと考えている。
親知らずがきっかけで芽生えた恋、ドラマに出てくるような恋愛プロセス。アズサは美沙に自慢した。美沙は3歳年下でどちらかと言えばキャリア志向。IT系の会社に勤めていて、結婚しても仕事を続けて昇進したいと言う。アズサとは正反対の妹だ。
六本木のワインダイニング。ほの暗い照明が足下を照らす。鈴木が少し遅れてやって来た。治療室で見る鈴木とはまったく様子が違う。ストライプのシャツにゆるっとしたダークブラウンのジャケットをはおっている。スキニーを履いているので足の長さが強調される。
アズサは、心躍った。まさに好みのかっこよさ。周りの女性達に羨望のまなざしで見られている快感。
「あのう、治療、下手なんじゃないかと思ってました。ヤブ歯医者って。院長を出せって叫ぼうかと思いました」
と隠さず話す。鈴木はフッフッと笑って聞いている。
「でも、痛みがまったくなくなったし。やさしく説明してくれるし、なんだか逆に惹かれました」
アズサはたたみ込むように鈴木を攻める。なんとか恋に発展させたい。
「クールな男が好き?」
「ええ、どちらかと言えば。おしゃべりで陽気なタイプは苦手です」
「じゃあ、決まり。僕もアズサが気に入った。ベッドで遊ぼう」
アズサは目を見開いて固まった。
「呼び捨て?何様?いきなりベッド?」
「シンパシーを感じた相手にはデートやまどろっこしい会話なんて必要ないよ。触れ合えば一発で愛を伝え合える」
鈴木は悪びれず、当然というように自分の恋愛論を語る。スマートな手つきと顔でワインを流し込む。ワイングラスを持つ指と、自分の口の中に入って来た指が同じ指だと思うとアズサは心が振るえた。
「先生、酔ってます?もっと何度か会わないとわかりあえないんじゃ」
「アズサは僕の顔が好み。クールなところも好み。僕はアズサの口の中の感触が気に入った。これ以上、何か必要?」
ワインのせいではない、アズサは興奮のスイッチをカチリと押された。鈴木の巧みな誘導に、反抗する余地はない。鈴木の長い指がアズサの手の甲に置かれる。ひんやりした感覚。この長い指がこの前は自分の口の中に入り込んでいたのだと思うと、頬がカっとほてってきた。
「キスしたいだろ。俺と」
アズサはコクンと頷く。
「指を口の中に入れられたいだろ。」
鈴木が細い指を前後にヒラヒラ動かして宙に円をえがく。アズサはまたコクンと頷く。
鈴木の部屋は無機質な空間だった。コンクリートで打ちっぱなしされた壁。だだっぴろいフローリングの床。大きなテーブルが部屋の真ん中にひとつ。ダブルベッドがひとつ。読書灯がベッドで小さくともるほか、照明がない。
「ここにひとりで住んでるの?生活感がないのね。ここからクリニックにかよってるの?」
鈴木は振り向いてアズサの口を手のひらでふさぐ。
「質問が多いな。アズサは。この部屋の中では俺の質問に答えるのはアズサのほうだ。俺に話しかけるな」
「え…そんな…」
「テーブルの上に仰向けに寝て」
「ベッドじゃなくて?」
「質問はだめだ」
アズサはおそるおそるテーブルの上に横たわった。しばらく鈴木は横たわるアズサを見下ろしたまま何もしない。
薄暗い空間。冷たいテーブルの質感が背中に伝わる。不気味さを感じてアズサは行った。
「先生、キスして」
「俺に命令しない」
アズサのブラウスのボタンをひとつずつ外し始める。
「ちょ、ちょっと待って。キスもなしで、こんなところで脱がせるの?シャワーはどこ?」
「うるさいよ。アズサは」
鈴木はガーゼのようなやわらかい布をアズサの口に当ててきつく結んだ。
「ウグッ」
「僕が脱がせるあいだ、黙ってて」
アズサは急に怖くなった。何をされるかわからない。ひどいことをされたらどうしよう。
最初の夜にこんな冷たい仕打ちをされるなんて、もしかしてこの人、変態?グルグルと恐怖心が頭の中を回る。ブラウスをはぎ取られ、紫色のブラジャーがさらけ出される。ブラジャーの上から鈴木がこんもりした乳房のやわらかさを確かめるように親指をバウンドさせる。
「ううぅ」
縛っているガーゼの間から声が漏れる。次に何をされるかわからない怖さがあるのに、なぜか肌全体が過敏なほど研ぎすまされているような奇妙な感覚。アズサがテーブルの上に身体を起こして座ろうとすると厳しい声で叱る。
「寝たままで質問に答えてアズサ。男といやらしいことしたのはいつ?この前はいつした?」
鈴木がアズサの口を覆う布をずらした。アズサは顔をしかめて横に振る。きれいにウェーブしていた髪の毛はとおに乱れている。
「そんなわけないだろ。いつ?」
今度は中指がブラジャーの中に忍び込み、突端をまさぐる。
「ほら、ブラジャーの下ではおっぱいが反乱を起こしてるよ。もうこんなに硬くなってじゃないか。その時のことと思い出したんだろう。いつした?」
「半年前…」
蚊の泣くような弱々しい声で答える。
「半年もご無沙汰か。意外にもてないんだな」
アズサは屈辱を感じ、目を伏せる。肌が敏感になりすぎ、鳥肌が立っている。怖さがチクチクと毛穴を刺激する。
「そんな長い間、何もしてないのか検査しよう」
鈴木は、スカートをさっと脱がせて床に投げつける。ストッキングを無造作に引き下ろす。
「やだ、乱暴にしないで」
アズサは咄嗟に叫ぶ。
恐怖と快感の狭間
「命令したらおしおきするぞ」
紫色のレースのパンティの太ももの部分から人差し指を入れこむ。ヘアの隙間にある窪みに指をねじ込む。
「はううう」
アズサが腰を浮かせる。
「半年もしてないから、欲しくてしかたないんだろう。こんなにねばっこくなってる」
ねっとりした液がついた指をアズサの目の前にかざし、アズサの唇にリップグロスのように塗り付けた。アズサは力が抜けて首をイヤイヤと横に振ることしかできない。ブラジャーとパンティの姿のまま、テーブルの上で鈴木のしたいがままにされている。
鈴木が引き出しから何かを取り出した。アズサの目の前に突き出す。最初、暗闇の中、鈴木が何を手にしているかわからなかった。しだいに目が慣れてきて、それを確認するとギョっとした。
鈴木の手にはそそり立った形の電動バイブが握られている。がっちりとした太い物体。
「やめて!それはいやっ」
「俺のこと、好きなんだろう。何をされてもいいって言えよ」
スイッチを入れるとバイブはジジジと小刻みに振動しながら頭の先をけだるそうにグルリと回転し始める。鈴木はそれをおびえているアズサのブラジャーの上から押し当てた。怖い。でも感じる。乳首がコチコチになる。アズサの下半身がその回転に連動するようにうずき始める。怖い、感じる。
「おっぱいとここはつながってるって感じるだろ。女の身体は不思議だ。いろんな部位がここと連動する。うらやましいよ」
ここと言いながら鈴木が指差すのはアズサの股間。鈴木は右手で持ったバイブで胸を攻めながら左手でパンティの股の部分を撫で回す。すでに下着はグッショリ湿ってきている。
はじめての機械的な動きを乳首に受け、アズサは動揺している。身体もどう反応していいかわからないほど戸惑っている。怖いはずなのに身体はずんずん開いてくる。恥ずかしいという気持ちがしだいに後退する。
かわりにもっと大胆に乱れたい気持ちが湧き出る。乳房はトクトクという心臓音をBGMに空に向かって盛り上がる。骨盤あたりにかたつむりが這い回るようなくすぐったい感覚が走る。
そしてアズサの一番深い穴は、泉が湧き出るかのごとく熱い液体を放出し続ける。
「なに、この気持ち。どうにかなりそう。先生、変態でしょ」
「気持ちいいんだろ、アズサ」
「もう…はやくキスして」
「命令するなと言っただろ。おしおきだ」
鈴木は、いきなりアズサのパンティを膝までずりおろし、ウィンウィンと不気味な音をたてる物体を泉めがけて押し込んだ。ベチョベチョに溢れる泉、それを確かめるように押し込まれた太い物体。
骨盤あたりを這い回っていたかたつむりがいっせいに背筋を首に向かって這い上がる感触。アズサの泉はいきなり熱湯を注がれたかのように熱くなる。

「ああああー」
痛みなのか、恥ずかしさなのか、もはやわからない。泉の内側が物体を異分子と認識し、退治するような勢いで締め付ける。物体は定期的に強弱をつけた振動で震えながら、アズサの奥へ奥へと潜り込む。
いったい、自分の泉の奥はどのくらい深いのか、行き止まりはあるのだろうか。物体を飲み込み続ける自分の身体の奥深さにアズサはとまどう。
「先生、やめて…」
「アズサ、いい顔してる。歯の治療の時に見せてくれた顔と同じだ。痛いか?怖いか?感じるか?」
アズサは途切れそうな息をハッハと吐く。物体の振動と共鳴している。アズサは口で呼吸する。
「ハッハッハ…ハッハッハ…」
息の音で鈴木の言葉が聞こえない。物体がアズサの中で機械から生き物に変身したかのようだ。アズサの中のはがゆい部分をていねいに撫で回す。
敏感になった肌の毛穴に細い絹糸を通され、ていねいに縫い合わされるような何とも言えぬ感触。噴出する泉のしずくがテーブルにしたたる。腰のあたりがべっとりする。その時、鈴木の細い指がアズサの息が漏れる唇を上下に割って入る。
上顎をこする。頬の内側をこする。歯の治療の時感じた怯えが蘇る。細長い指、アズサの恐怖心を掻き立てる指。痛みを操る指。そして、未知の快感を伝える指。自分の身体が持つふたつの窪みに今、まさに鈴木が存在している。
怖い、感じる。震える物体をアズサの中に閉じ込めたまま、鈴木はアズサにやっとキスをする。鈴木の舌先が唇の中に入ってくると、アズサは歯を抜く瞬間を思い出し、このまま達したいと思った。
達することによって抜歯の痛みを忘れることができる。そして全身でのたうった。意識がはじけた。暗いはずの部屋が瞬間、ピカリと光を放った。必要のない歯が抜け去り、最も必要としている快楽がアズサの口の中に広がった。
底知れぬ魅力
半年前に交わった男とのセックスなど、この快感に比べると空気みたいなものだ。そんなことを頭に浮かべながらそっと目をあける。鈴木が服を全部脱いでテーブルの脇に立っている。暗闇の中でうっすら表情が見える。
アズサが欲情する姿を見おろす満足げな微笑み。下半身に目をやると屹立している。
「足を大きく開け」
アズサはテーブルの上に全裸で寝かされたままだ。あらがう余地はない。
きっと、今以上の快感を鈴木はもたらせてくれる。アズサは力いっぱい足をひらき、膝を立てた。振動していた物体は今、床の上に転がって息をひそめている。鈴木はテーブル上で開かれたアズサの足下に立っている。
アズサの両膝を両手でさらにグっと押し開き、腰をテーブルの端すれすれまで引っ張った。そして一気に立ったまま入って来た。
「先生、すごい、すごいわ」
物体と違う。暖かみをおび、ふっくらした肌触り。
さっきまで硬い物体に翻弄されていた部分を癒すかのように行ったり来たりする。しかもアズサは寝かされ、鈴木はテーブルの向こうに立っている。いやらしいシチュエーションに胸躍る。
「気持ちいい…先生、いい…」
振動も回転もないシンプルな動きがアズサをさらに上らせる。いとしい細い指は両膝をがっしりロックしている。閉じようと思っても閉じることはできない。指が自分を支配する。
アズサが右手を伸ばし、立ったままの鈴木の唇に人差し指を入れる。鈴木が人差し指をくわえこみ、舌で舐める。アズサは鈴木がしたように頬の内側を引っ掻くように撫でる。いきなり腰の動きが速くなる。アズサの腰がテーブルにこすれて痛みを帯びる。
「痛いって叫べよ」
鈴木が命令する。
「痛い」
「どこが?」
「腰…」
「ここは?」
鈴木がグっと奥まで侵入する。
「あああああ」
アズサはまたフラッシュのような光を感じた。鈴木も同時に性を放つ。
どのくらい時間が経ったのか、アズサが目覚めるとベッドの上に横たわっていた。鈴木は右隣に寝そべってスマホをいじっている。スマホが放つ青白い光が鈴木の顔を暗闇から浮かび上がらせている。楽しいのか、眠いのか、うっとおしいのかわからない無味乾燥の表情を。
「見せて」
画面をのぞくと明らかに女性からのメール。
「先生、ラブ。今度いつお食事誘ってくれる?ミリカ」
アズサは、真顔で尋ねた。
「彼女いるの?」
「いいや、女友達はたくさんいるけど」
「女の子の友達って、お食事するだけ?」
鈴木は答えない。
「私もただの友達?」
「いや、アズサは俺の女。だから俺に従えよ。ほかの男と飯なんか行くなよ」
アズサが今まで付き会ったことのない強気の男。聞いたことのない俺様発言。
アズサの不思議な恋愛が始まった。毎週金曜夜に歯科クリニックに行き、歯の検査をする。クリニックを閉めてからワインを飲みに繰り出し、そのあと、薄暗い部屋で鈴木のおもうがままにされる。
そしていつも大声で叫ぶほど最高に感じる。クリニックにいる歯科衛生士ふたりとも鈴木が患者と会っていることをわかっているようだ。咎めても気にする鈴木でないことを承知の上であきらめている。
嫉妬心もまた刺激になるとアズサは薄々感じていた。スマホには日々、違う名前の女からLINEが入る。悪びれもせずにそれを見せて笑う鈴木。
ある日、初めて遠出することになった。オープンカーを運転する鈴木を横目で見ながらアズサは尋ねた。
「ねえ、なんで私の治療ながびいてるの?もう親知らずは痛くないのよ」
「お前の口の中をいじってるとムラムラするから。セックスの前の大切な儀式だ」
「変態ね」
「なんとでも言え。感じまくってるくせに」
意地悪そうな目つきでニヤリと笑う。どんな偉そうな態度をとってもアズサは鈴木に組み伏せられる。
今までの男達とちがって機嫌ををとろうとしたり、調子いいほめ言葉を使わない鈴木に底知れぬ魅力を感じる。冷たくされるほど夜は燃える。どんどん鈴木にはまってゆく自分が怖いくらいだった。
現実
「おねえちゃん、スズラン先生とうまくいってるの」
美沙がクッキーを持ってアズサの部屋に入って来た。
「うん…。まあ」
「何その煮え切らない言い方」
「私の他にも女性がいっぱいいるからね。女友達って言ってるけど、もてる男と結婚するとどうなるんだろうってちょっと不安なときがあるの」
アズサはクッキーをかじりながら部屋の壁を見つめる。
「プロポーズされたの?」
「ううん、そんなタイプじゃないのよ。俺様系で。するなら私からよ。仕事もルックスもばっちり私好みだし、家系も抜群よ、親戚みんな歯医者さん。あと…エッチも」
「そりゃいいわ。なかなかいないよ。全部そろう男性って」
「でもさ、女友達の多さはどうなのって感じ」
「浮気を覚悟で結婚するかって、重い選択よねえ」
「割り切ればいいかなって思うんだけど」
「そうよ、おねえちゃんも浮気しちゃえばバランス取れるんじゃない」
シビアな女性同士の会話。アズサは不思議な付き合いの合間に真剣に結婚を考えるようになった。
ある日、フェイスブックで大学時代のサークル仲間での飲み会に誘われた。懐かしかったので何気なく「参加する」をクリックし、アズサは会場に向かった。
学生のとき彼氏未満友達以上と位置づけていた壮介と久しぶりに再会した。会った瞬間、ホっと安心できるそんな感じを受ける。
「壮ちゃん、2次会抜けてふたりで話そうよ」
壮介とふたりきりで夜が明けるまでアズサは思い出話にふけった。そのあいだ、着信が何度も入る。アズサは、チラっと画面を見て「たまにはいいじゃない。あなただって、とっかえひっかえ遊んでるんだから」と独り言を言い、スルーした。
金曜の夜、クリニックに行くと、鈴木の顔はあきらかに不機嫌だった。夜、いつものダイニングには行かず、部屋に連れて行かれた。バタンとドアをしめるや「他の男と会うなって言っただろう」とガラスのような冷たい声で言い放つ。
「同窓会よ。サークル仲間と飲んでただけ」
「嘘だ。男とふたりだ。電話を無視したのは男といたからだ
「先生だって、女友達と六本木や西麻布行ってるじゃない。たまには私も…」
ワンピースの背中のファスナーをいきなりチャーっと下ろされる。後ろから肩先を噛まれる。
「痛いっ…」
いきなり鈴木はアズサに入ろうとしてきた。身体の準備すらできていない。
「いやよ、もっと私のこと大事に扱ってくれなくちゃ」
「言ってることがちがうぞ。クールな扱いが好きなくせに」
「先生だって、毎晩ハーレムなんでしょ。私なんてそのうちのひとりなんじゃないの?」
初めて強く反論した。
「今日はえらく逆らうなあ」
「ほんとに私のこと好きなの?」
鈴木は何ひとつ答えず、テーブルにアズサを押し付けて寝かせた。いつものようにキスはない。魂がこもらぬうつろな目つきでアズサの中で上下する。
アズサはいつものように自分の身体が反応しないことがはっきりわかる。泉は枯れているのだ。鈴木が果ててもアズサは喜びを感じていなかった。
「もうおしおきはいいわ。私のこと、本気になってくれないならもう来ない…好きなら、私のことだけ愛して」
鈴木が引き止めるのを期待した。鈴木は腰にシーツを巻いたままペットボトルの水を飲み干し、スマホを手に取って画面を覗きながらニヤっと笑う。その姿を見て、アズサは気持ちを切り替えた。
床にくしゃくしゃになって置かれたワンピースを拾い上げ、身に付けると自分でファスナーをあげた。そして薄暗い部屋をあとにした。
久しぶりに庭に出てみると新しい季節の花たちが芽を出す準備をしているのに気づいた。花達に語りかけながらていねいに水をやっているうちに、ざわついていた気持ちが落ち着く。
リビングのソファに深く座って背伸びをする。鈴木と別れたあと沈んでいたアズサに美沙が教えてくれた「未来花婿選びサイト」からメールが届いている。
「磯貝梓さまにお会いしたい会員さまがおられます。内科の開業医の先生です。ご年齢は…」
最後まで読み終えてアズサは庭の方に視線をやった。日差しの中で花達が「ガンバレ」と言っている気がした。
「ご紹介ありがとうございます。そのかたとお会いします。よろしくお願いします。」
アズサは送信ボタンにタッチした。
END
あらすじ
主人公・アズサは親知らずがひどく虫歯になってしまい、歯科医の鈴木医師に処置してもらった。
言葉巧みな鈴木に心を許したアズサは、連絡先を渡された鈴木と六本木へ行き…