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恋愛とセックスのかけ算/28歳 亜弓の場合
今と過去
「パイパーとテタンジュのフルボトルあけるからこっち来いよ」
笠原昇平が、部屋の中から声をかける。にぎやかなホームパーティーが開かれているタワーマンションのクラブフロア。
仕立てのいいスーツに身を包んだ男達と流行のブランドをいち早く取り入れた女達が黄金に輝くグラスをコツンとくっつけながら笑い合っている。
ピンチョスを手に取って新規ビジネスの企画を話し合うグループ。タブレットを見ながら株価の話をするグループ。そしてそんな男達を遠目で見つめる背の高いモデルたちのグループ。
「あああ…疲れた。よく毎週毎週違う顔ぶれが集うものだわ」
亜弓は広いベランダにひとりで立って夜風に当たっていた。ゼブラ柄のラップドレスをまとい、ラビットのストールを肩にはおっている。
スカートの裾からすらりと伸び出る長い足は、黒いストッキングに包まれよりいっそうスレンダーに見える。男達は亜弓に会うと必ず足下に視線を滑り落とす。亜弓の脚には人格があると思えるほど人の眼を意識し、魅力的に動く。
至近距離に見える東京タワーが放つ都会の光を見つめながらフっと息を吐く。絵葉書のような都会の夜景が眼下に広がる。ネオンサインもライトアップされる看板も、人工的でシュールな光線を放つ。
安っぽい宝石と高価な宝石をシェイカーに入れシャカシャカ振る。一気に放り投げるとこんな優等生の夜景になるのだろうか。昇平の呼びかけをスルーして亜弓はじっと夜景を見つめている。昇平がグラスにそそいだシャンパンを持ち、ベランダにやってきた。
「亜弓、なんか考えごとしてんの? 元気ないじゃん」
昇平はスマホアプリを作るITベンチャーの役員だ。29歳にして有り余る年収、高層タワーに住み始めて1年。夜景が自慢の部屋で毎週末はホームパーティーに明け暮れる。
地下駐車場にはポルシェとレクサスを置いている。亜弓が迎えに来てと電話をすれば必ず駆けつける。つまり亜弓にぞっこんだ。
「好きだ」と何度も言われたが亜弓は視線を合わせずに「私はどっちでもない。好きでも嫌いでもない。あなたはハイスペックだけど私の愛情を全部を注ぐのは無理」とそっけなく答えていた。
恭太は亜弓が学生時代から付き合っている彼氏だ。授業もアルバイトもない、とてつもない暇を持て余していた午後に構内をブラブラ歩いていて見つけた「SF同好会」という張り紙。
興味本位で覗いてみると恭太がひとりでSF小説を読んでいた。黒ぶちの眼鏡をかけたサラサラヘア。午後の木漏れ日の中で読書をしている姿になぜか惹かれた。
「あの…」
「SF好き?」
「いえ、別に」
「じゃあ、入会しなよ。好きになるよ。すぐに」
亜弓はその日から恭太のことを大好きになった。バイトがない夜は恭太のワンルームに通う。ふたり寝転がってSF小説を読む。そして読み疲れた頃、重なり合ってキスをする。薄いグレーのカーペットの上で何度ももつれ合う。
「アシモフは絶対読んでおけよ」
「私は日本のSFしか読まない…」
色気のない会話を交わしながらお互いの身体をペロペロ舐め合う。自分の身体が反応するのが不思議なほど嬉しい。初めて見る男の身体が珍しくてたまらない。そんな淡々としたセックスが楽しかった。
就活の頃だった。上場企業で働く先輩の影響で亜弓はいきなり上昇志向にモードが切り替わった。人気ランキング3位内の会社から絶対内定をもらいたい。ステイタスと自由になるお金を手に入れるために猛烈に頑張った。恭太と会う時間が減っていくのは仕方がない。
亜弓は誰もがうらやむ大手企業に就職し、恭太は小さな編集プロダクションで働くことになった。もうSF小説など読む時間はない。週末、恭太と会っていると、すれ違う空気が漂うようになった。
亜弓がプロデュースを任されているガールズイベントの話に夢中になっていると恭太が宙を見つめてつまらなそうな顔をした。その時にハっと気づいた。
「恭ちゃん、うちら、世界が離れてるって感じ?」
亜弓はズバズバ物を言う。恭太は黒ぶちメガネをかけ直しながら亜弓を見つめる。
「恭ちゃん、私の方がばりっとした仕事してるし年収も恭ちゃんの倍だから、やきもちやいてる?」
恭太は辛辣な言葉にも怒りを抱かず、ゆっくり首を横に振る。
「恭ちゃん、あのね、普通なら怒るとこでしょ。なんで、そんな気持ちの起伏がないの? 穏やかすぎると今の時代、置いてかれちゃうよ」
語気を荒げて亜弓は迫る。
「亜弓、ちょっと会わずにいよう…。亜弓は今の仕事、合ってると思うよ。アドレナリン全開でぶつかる姿がたくましく感じる。でも僕は自分スタイルで生きたいからさ」
「何よ、それ、自分スタイルって甘えた言葉だよ。成功したいって気持ちが感じられない」
恭太はやっと亜弓から眼をそらした。
「人によって成功したいとか、上り詰めたいって感覚は異なるんだよ。亜弓も気づくよ」
そしてふたりは会わなくなった。
ミントの香り
恭太に会わなくなって2年、それでも亜弓は恭太のことが気になっていた。言い寄ってくる男がいると必ず「元カレを忘れられないから」と断った。そして仕事と人脈の拡大に邁進した。
価値がある人達と付き合えば自分も輝くことができる。それ相応の人と一緒にいると、自分が望むハイスペックの彼氏も現れる。恭太のことを忘れるために。時間とお金に余裕がある人々の交流会に顔を出し始めた。
一度顔を出してSNSでつながると五月雨式にパーティーの案内が来る。最初の頃は必死で顔を出し、名刺を2枚配った。ステイタスを示すための会社の名刺と、個人連絡用の名刺。昇平と会ったのは、ITベンチャーで有名な社長が開催したパーティーだ。
ホテルのレジデンスに住むその社長はスイートルームを借り切って派手な集まりをしていた。まだパーティーに慣れていない亜弓は豪華な雰囲気に圧倒された。談笑する人の輪をキョロキョロ見渡ししながらワイングラスを持って立っている亜弓に昇平は声をかけてきた。
「初めて来たの? ひとりで寂しいでしょ。一緒に飲もうよ。僕の友達ももうすぐ来るから」
昇平がゲームアプリの成功でみるみるのし上がって行ったのはそれからだ。その様子を間近で見ていて、亜弓は「上にあがれる人はすごい」と尊敬の念を抱いた。
昇平のことをさほど好きでもないが、誘われるがままにセックスはする。保険としては最高の男。昇平と一緒にいるとラクだった。お金はすべて払ってくれる。欲しい物があれば「本日のプレゼント」と称していつでも買ってくれる。
泊まりたいホテルがあればすぐに予約してエステまでつけてくれる。いつの間にか、自分はすべてを与えられて当然の女と思うようになっていた。
その日の夕方。新しくできた外資系ホテルのジュニアスイートにふたりはいた。全裸の亜弓を昇平は丹念に両手のひらで撫で回す。枕元に年代物のシャンパンを置き、それを口に含みながら何度もキスをする。
それをお互いの口の中にゆるりと流し込む。酒の香りと唾液が混じり合い、淫靡な感触が舌の上を這いずり回る。好きではない男とこんなことはできないから昇平のことをたぶん好きなのだと、論理的に言い訳をしながら亜弓はすらりと伸びた脚を大きく開く。頭の片隅ではむなしさの種が芽を出していた。

昇平のほかにも、亜弓に言い寄る男は大勢いた。
「亜弓ちゃーん、バリ島行かない? 付き合ってよ。広―いヴイラ予約するよ。」
「亜弓さん、僕と付き合えば西麻布のマンションに住んでいいよ。自由に使っていいんだよ」
「亜弓、デートしてくれたら仕事やるよ。海外出張付きのおいしい仕事!」
亜弓は誘われるたびに落胆してゆく。なんでこんなチャラいのばっかなの? 恭太みたいに落ち着いた人はひとりもいない。小説の展開をふたりで予測したり、作家がなぜこれを書くか背景について語れる相手はどこにもいない。その中では昇平がまだましな方だと思っていた。
昇平の細い腰を形のいい脚で挟み込みながら亜弓は思い切り背中をそらした。恭太とするときより楽しいのかと言われればそうでもない。恭太とする時より気持ちいいかと言われればそうでもない。
「ほかの人より、昇平がちょっとましなだけ…」
昇平が果てて身体を離すと亜弓はいつも一気に冷める。昇平の仕事の手腕は尊敬するけれど、やはりそこまで好きではないことを実感し、亜弓はバスルームに向かった。歯を磨き、スペアミントの香りのうがい薬で口をすすぐ。
頬の裏側に残っていたワインの香りがミントの香りに切り替わる。ベッドの上でもだえていた自分を封印したかった。
「昇平くん、もうセックスするのやめよう。仕事の話ができる関係になろう」
ベッドに転がってタブレットを覗いていた昇平がキョトンとした顔で亜弓を見た。
充実
昇平と別れ話を切り出したあと、亜弓はしばらく仕事のことだけを考えるようにした。週末のパーティー通いは中断。寂しい時は六本木ではなく地元の下北沢で女子トモとゴハン。休日はポールダンスを習い始めた。自分の長い脚がより美しく見えるポールダンスにはまっていた。
朝、目覚めて窓を開けるとどこまでも続く青空が続く。すっきり起きることができる。
「よし。充実」
亜弓は努めて「充実!」と声に出すようになった。希望するプロジェクトチームに抜擢されたり、クライアントに仕事ぶりを褒められたりと充実感が厚みを帯びてゆくのがわかった。
女性向け美容器具の新作発表会の日。亜弓はサブチーフとして忙しく準備に動き回っていた。
「あの、発表会の開始時間は16時じゃなかったですかね?」
振り向くと年の頃は40代の背が高い男が腕時計を見ながら立っていた。
「はい、まだ30分ありますが受付はいたしますのでお名刺を2枚ちょうだいできますでしょうか」
男は知名度がある外資系金融機関の名刺を差し出した。
「織部友之」
「顔立ちも整っているしハイスペックだけどきっと奥さんがいるな」
亜弓は名刺を見つめながらそんなことを考えた。左手の薬指には指輪はしていない。夜の懇親会で、織部が参加者と談笑しているのを見かけ、気になった。
織部が亜弓に気づき、談笑の輪から抜けて近づいてくる。
「えっと…たしか…」
「高木亜弓と言います。第2クリエイト部にいます」
「イベントがハネたら、ここに来ませんか。今夜はうちの部下達と飲んでいるので。男ばっかりで華がないから、よかったら」
スマホでバーの地図を差し出した。亜弓は胸が高鳴った。
「ありがとうございます。うかがいます。片付けてから出るのでちょっと遅くなるかもしれませんけど必ず」
そして心の中で親指を立てて「充実!」と小さく叫んだ。
店の中央にある大きなマーブル模様のテーブルを囲んで3人の男が飲んでいる。ジャズの音楽が心地よく耳に流れ込んでくる。お酒と氷と大人の息が入り交じる匂い。大人になってから初めて知った匂いが亜弓を包み込む。
ゆったりとした夜の時間が流れている。カウンターでは短めの髪の毛をきちっとまとめたバーテンダーが肘を直角に曲げてシェイカーを振っている。織部が席を立って手招きをした。
「亜弓さん、こっちに…」
織部の部下達は亜弓が探していたまさに理想の男達だ。パーティーに集まる男達のようなチャラい感じはなく、経済の流れや国際情勢についてやさしい言葉で話してくれる。織部は今まで行ったことがある国の観光名所や美味しい料理についてうれしそうに教えてくれる。
亜弓にとってはまさに充実の出会い。ふたりの部下は水沢と矢木と名乗った。亜弓と同世代。営業スマイル。上辺だけの愛想笑い。さしさわりない相づち。やはり少し物足りない。亜弓は織部の落ち着いた雰囲気に魅せられていた。
「亜弓さん、おすすめのカクテルがあるけど」
織部の言葉を追うように水沢が続けた。
「出ましたね! 織部さんの、カクテル攻撃。亜弓さん、気をつけて。これで何人の女性が泣いた事か」
皆が爆笑した。どうやら織部は女性に手が早いらしい。
「織部さん、独身なんですね?」
亜弓が尋ねる。
「ああ、バツイチというやつです」
矢木が口をはさむ。
「ほらあ。バツイチってキラーコンテンツなんすよ。女性達はバツイチに興味があるっていう統計結果があるんですから」
「そっ、僕たち20代未婚男子は草食系とか言われてスルーですよ」
水沢と矢木のおかげで織部の背景がわかってくる。47歳未婚。子供なし。亜弓は背中を伸ばし、自慢の脚を組み直して織部に向かって言った。
3人の男の視線が亜弓の膝に集中する。亜弓は織部に向かってはきりした声で言った。
「あの、今度、デートに誘ってください」
ふたりの部下は「やられたよう」と大げさに頭をかかえる振りをした。すべてが充実の夜だった。
プライド
翌週、矢木からメールが届いた。
「織部さんと飲みに行った? お持ち帰り常習犯だから気をつけてねー。俺とデートする方が絶対楽しいよ」
亜弓は、クスっと笑ってすぐに返信した。
「気をつけろって言われるような男性に女子達は惹かれるのよ。矢木君とはランチがいいな」
織部にアドレスも携帯番号も教えているのにいっこうに誘われない。お持ち帰り常習犯と言われる男に相手にされないのがやけに悔しい。織部に亜弓の方から誘いをかける日が続いた。自分でもおかしいくらい亜弓は積極的に動いた。
「22日の金曜、会えますか」
日時を指定しての誘いメール。今までの亜弓なら気になる男にこっちから言い寄るなんてありえない。亜弓の美貌と形のいい脚に魅せられて寄ってくる男達はごまんといるのだ。
「出張が続くので、落ち着いたら連絡します」という当たり障りない返事が来る。「落ち着いたら」という言葉で逃げるのは今まで亜弓の常套句だ。
さほど気に入らない男には「落ち着いたらゴハンしましょう」で返事して結局仕事が忙しすぎて落ち着かないことにする。今回は織部にそれをやられた。亜弓のプライドが動いた。
「絶対、夢中にさせてやる…」
そうしているうちに仕事も忙しくなり、新規プロジェクトで神戸に出張することになった。神戸の洋菓子組合とレディスファッショメーカーのコラボイベントだ。10日間も神戸に滞在する、仕事はきついが、旅行気分も味わえる。亜弓は胸躍らせて販促資料を作り始めた。
まさに「充実!」の日々。終電間際、デスクのPCでパワーポイントと格闘していると携帯が点滅した。
「ん? 誰?」
耳元で待っていた声がささやいた。
「織部です。やっと落ち着いたんだけど」
「織部さん、そんなに仕事忙しかったんですね。もっと効率的にお仕事こなせる方だと思ったわ」
思い切り嫌みを含んだ言葉で返した。じらされたことへの反抗。矢木や水沢とこの男はまったく違う。
六本木のシャンパンパーティー常達とも一線を画している。普通に誘って落ちる相手ではない、と亜弓の野生の感が働く。
「私は高めの女なんだから、恋が始まるストーリーを自分で作り上げるのよ」と、胸の奥でつぶやく。
しかし織部は一枚上手だ。
「君こそ、何度も誘って来て、軽めの女だと思われても仕方ないんじゃないか」
亜弓はまたカチンときた。
「おっしゃるわね。軽いかどうかご自分でよおく確かめたらいいじゃない」
「ああ、そうしよう。確かめさせてもらうよいつ? どこで?」
亜弓はデスクの上に置いてあったエナジードリンクのボトルに口をつけてひと口流し込んだ。甘いのか無味なのかわからない舌触り。
額に汗がにじんでいる。亜弓のプライドが不安げな音を立てる。思い切りつくった偉そうな声を絞り出す。
「5日後、20時。神戸オリエンタルホテル」
ためらう様子もなく織部はささやく。
「いいね。神戸牛のステーキをたらふく喰って赤ワインを浴びたくなってきた。行こうじゃないか。」
電話を切って、亜弓は窓の方へ歩いた。夜中というのに夜景は消える事なく都会の存在を示している。
あのビルでも、こっちのビルでもみんな残業している。あのマンションでもこっちのマンションでも無数の人々が夜を過ごしている。
こんなにたくさんの人がいるのに、なぜ20も年上の織部を選んだのか、亜弓は自分に問いかける。恭太ではなく、昇平でもない。今の亜弓に織部が必要な理由が、夜の都会を見渡しても答えが見つからない。
熟した心
建物の灯りが海に映り込む。ユラユラ揺れる海面が色とりどりの光を反射する。観覧車の水色の輪がゆっくり回る。たまに赤い点滅を見せる。オリエンタルホテルの部屋から見える夜景は極上だ。
「観覧車に乗ってみたいな」
織部の左肩に小さな顎を乗せ亜弓が小声でつぶやく。
「お嬢さん、観覧車は乗るものじゃなくて対面から見るものだよ。正確な円がゆったり回る。気持ちが落ち着く」
亜弓が頷く。
「それでね、元気がないときには、観覧車の下に自分を置いて、上を見上げるんだ。迫力あるぞ。あの速度で上に行こうとする力を感じる。ゆっくりでもいいじゃないか、必ず上にたどり着く。てっぺんに行ければブラボーな気持ちになれる」
亜弓は今、織部と一緒にいる自分を喜んでいる。直感で選んだ恋の相手。年齢が離れているがゆえに、自分の刺を引っ込めることができる。たしなめられる。納得させられる。これまでの亜弓は対する相手に刺をチクチク突き刺して来たようなものだ。
亜弓の顎を人差し指でクイっと上に向かせ、織部が唇をていねいに味わう。キスではない。自分のパーツを味わってもらっているという感覚。
「亜弓の唇は甘酸っぱい。弾力があって美味しいよ」
褒められると素直に嬉しい。織部と会うまでは強がった言葉を吐いていたくせに、ふたりきりになった瞬間、風船の空気を抜かれてしまったような感じを覚えた。
「神戸に来てくれてありがと…」
「なんだ。しおらしいじゃないか。つまらない。もっと女王様みたいな態度を続けるかと思った」
亜弓は笑った。
「おじさま、おじさまの年でどのくらい私の身体を喜ばせてくれるのか見物だわ。若い男よりよっぽどお上手なんでしょうね」
「はっはっは。言うね。当たり前だ。体力も負けない」
ひるむことなく、織部は亜弓の下着を剥ぎ取る。こんもりした胸の膨らみが織部の前にさらけ出される。
「お持ち帰り常習犯と聞いてるわ。何人の女性とこんなことしたのかしら」
「76人」
織部は答えてすぐ乳首を口に含んだ。と同時に手が下着の上からヒップを撫でる。
「あっ…」
2ヵ所、ふいに責められて亜弓は理性の糸を切られる。
確かめるように織部の指が窪みに入れられる。
「そんな…もうさわるの…?」
「初めて会った日から、濡らしてたんだろう」
「馬鹿な事言わないで。うぬぼれないで」
「偉そうな言葉を吐くくせに、ここは待ちくたびれたって本音を言ってる…」
今までの男とは違う。ああ言えばこう言う。つねに亜弓が劣勢になる。勝ち気な亜弓が初めて負けた相手、織部。織部に身体の隅々をいじられながら亜弓はすべてに降参してゆく。
「そんなところ今まで触られたことない…」
何度もこの言葉を吐く。織部の指は触るべき部分を習得していた。恭太も昇平も気づかなかった秘密の部分をまさぐるように探し当て、何とも言えぬ強さで撫でた。
「あああっ。どうして」
「何がどうしてなんだ?」
「どうして、そんな気持ちいい部分がわかるの」
「年の功…」
織部が亜弓の小指をしゃぶりながら答える。
「たくさんの女を抱いて研究したからでしょ」
「馬鹿。女の身体は研究してもわからないものだよ。人によって違うんだから。それに気持ちに寄って日々変化する」
「私も、今日と明日では違う身体になる?」
「ああ、初めて会った日と、今日では全然違ってたさ。あの日でも俺が誘えばこうなっただろうけど、今日ほどよくはなかったはずだ。」
「今日のために待たせたの?」
「待たせたんじゃない。熟成させた」
言いながらテーブルの上にあった赤ワインを亜弓のへそに少し流し込んだ。そして舌でへその周りから茂みに向かってワインを誘導した。
「んんっ。何するの」
「赤ワインと亜弓のジュースのマリアージュ」
舌先が亜弓の窪みに入り込む。一番感じる部分に赤ワインがついたのか、熱を帯びる。
「いいっ…」
誕生
そのあとは、何が起こっているかわからないほど亜弓の頭の中は乱れた。毒も刺も蒸発して消え去る。強がっていた自分が追い出され、織部に快感の道筋を付けられている従順な自分が現れた。
「引っ張って行って」
「どこへ…?」
「一番気持ちがいい場所へ」
「観覧車のてっぺん?」
「そう。ブラボーって叫べる場所」
「亜弓ひとりじゃ行けないのか」
「あなたが誘導してくれないと行けない」
うつろな眼でうったえる亜弓のスラリと伸びた脚をVの字に割り、織部は力強く侵入した。亜弓の快感への道筋を確かめるように、秒速1センチ。織部はすべて知っている、角度も早さも、どうすれば高みに昇れるかも。
「昔の男と比べろよ」
「え?」
「比べてみて今のよさを知るんだ。昔の男とのセックスは今のセックスが一番になるための助走にすぎない」
「ひどいこと…言うね」
「比べればもっと感じることができる」
いきなり腰を深く突き上げられた。
「はうううっ」
亜弓は眉をしかめる。痛みと重圧が快感と背中合わせにいることがはっきりわかる。
「異物感があるか?」
「…ある。大きいものが私の中に入ってる」
「追い出したいか」
「よくわからない。追い出せばむなしいかもしれない」
「それでいい。その気持ちが最高の交わりを生む」
織部が動き始めた。全身を使い、亜弓の五感を開かせてくれる。唇を吸い、乳首を転がし、膣壁を撫で、うなじを舐め、耳たぶを噛む。恭太と昇平のときのことを思い出す。比べる。いい。全然いい。今のセックスは今までの中で一番。そして観覧車のてっぺんにたどり着く。
織部が亜弓の胸の上に頬を乗せる。
「鼓動が聞こえるよ、亜弓の」
「トクトク…って?」
「ブラボーって言ってる」
織部の頭に抱きついて亜弓は何度もキスをした。
恭太にも昇平にも感謝した。はじめてそのふたりをいとおしく感じた。自分に関わったすべての男の人にあやまりたくなった。
「私、上から目線で嫌な事言ってたね。ごめんね」と。
織部がグラスにワインを注いで亜弓に差し出した。
「今宵、ひとりの最高の女が誕生した。ハッピーバースデー」
亜弓はワイングラスごしに観覧車の光を見つめて女神のようにやさしく微笑んだ。
END
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あらすじ
スマホアプリを作るITベンチャーの役員・昇平と付き合う主人公・亜弓。
2年前、学生時代に付き合っていた恭太のことが忘れられないまま、価値がある人達と付き合えば自分も輝くことができるという思いを持っていて…