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【後編】恋愛とセックスのかけ算/29歳 蘭の場合


経験不足

森田は千葉の湾岸にある大きなホテルに蘭を連れて行ってくれた。テーマパークが近い、レジャー気分満載のホテル。

プレジデントスイートルームは蘭のマンションの部屋が八つは入るのではないかというほど広かった。

「蘭ちゃん、私はね、薬飲まないとうまくできないんだよ。蘭ちゃんを満足させてやれないかもしれないよ。それでもいいかな」

「会長、そんなこと気になさらないで。お薬ってどんな?」

「ちゃんとできるように硬くする薬さ」

蘭はネットで調べていたので、理解していた。

「はい。飲んでみてください、あとは私も努力します」

蘭はハウツーマニュアルの図解ページで読んだように森田のしなだれた突起物をいじくりまわす。ソファに座っている森田の脚の間に膝まづき、ソレを根本から先まで舌でなぞる。

森田は上を向いて「ああ…」と声を漏らしながらじっとしている。長い時間、顎が疲れるまで頬張り、やっと硬みを帯びてくる。

頬の裏側の筋肉が攣りそうだ。蘭はいまだと言わんばかりに座位の姿勢で森田の上にまたがって座り込んだ。

「ううん…」

中に収まる。ソファにもたれた森田の太腿に座り込んだまま首を両手で抱きしめる。すばやく腰を上下に動かす。

森田の腹が邪魔になるが、両足で踏ん張る形で動きを強める。目的は尊敬する男を喜ばせるセックス。自分が感じるという余裕は無い。

湿り気が足りているのかいないのかもわからない。ハウツー本のイラストを頭に浮かべ、森田をいかせるべく締める。

「…ああ。だめだ。悪いね。薬、長い時間は持たないねえ」

情けない声が耳に入ってくる。欄の中でしぼんでゆくソレを感じる。まるで夏祭りのヨーヨーだ。釣り上げて嬉しかったから部屋に飾っておく。

するとだんだんしぼんで、最後には小さなしわくちゃのヨーヨーになる。

蘭は、胸の奥でため息を付きながら、甘える声を振り絞る。

「会長、私が悪いんです。経験少なくて幼稚なんです…」

蘭は迷っていた。

「恋とセックスに自信がない銀座のホステス…それってかっこ悪いな。一流のホステスじゃない」という思い。

「私たちはセックスでお金をもらう仕事じゃない。セックスなんか下手でもおもてなし精神があればいい」
という思い。

錯綜する。堂々めぐりする。マリカもミユキも、若い後輩たちですら食事に連れてゆくと赤裸々なセックス自慢が始まる。

「講義棟の資料室でえ、ゼミの先輩と立ったまましちゃって。スリル満点だったからあ、部屋でするより興奮しましたあ」

「私なんか、講師の先生に言い寄られて、研究室に鍵かけてやっちゃいましたあ。パイプ椅子にもたれかかって。スカート履いたままのバック。パイプ椅子がカタカタ鳴るから、ドキドキもんで」

皆、男との情事を思う存分楽しんでいる。店では年上の客とのシモネタ話にも花を咲かせている。

うらやましかった。自分のセックスに自信がなければ、堂々と話すことができない。

蘭は谷田部とも森田とも満足ゆくセックスができていない。こんなことでは百合沙ママの跡継ぎにはなれない。苛立っていた。

フロアを見渡す。ホステスたちは痩せ型もいれば、肉感的な千絵のようなナイスバディもいる。全員、個性的な美人だ。男たちの目は常に彼女たちを追いかける。

すべてに自信がある女神たちの楽園。皆がセックスの達人のように見える。

しかし、百合咲ママの右腕と昇格した今、弱みは見せることができない。千絵に足元を救われぬよう蘭は胸を張ってフロアを歩く。バストを強調して、客の波をかき分ける。

「新規のお客様です。蘭さん、お願いします」

ホールスタッフが声をかける。

入り口に、細身のスーツをきれいに着こなした客と、前に一度来たことがある出版社の編集、村瀬が立っていた。

ある作家との出会い

「やあ、半年ぶりに来たよ。業界が不景気なもんでさ、なかなかこんなとこで遊ぶことができなくて」

村瀬が久々に姿を見せた言い訳を並べる。

「こちら、作家の時田先生。金融ミステリーの小説が売れて、各地の書店で平積みなんだよ」

細身の男と目が合う。一瞬で人の素性を察してやろうと射抜くようなまなざし。神経質そうに眉毛がピクっと動く。

「時田です。よろしく」

ソファに3人で並んで腰掛ける。時田は驚くほど口数が少ない。蘭は楽しんでもらおうといろいろ話しかける。

「金融ミステリーなんて読んだ事ないです。銀行で事件が起きるとか?」

短絡的な会話が新鮮なのか、時田の表情がゆるんでくるのがわかった。

「本が売れたから、はじめてこんな高級店に連れて来てもらえたんだ。本のネタになるかと思って、取材がてら。接待シーンが書きたくて」

「大きな会社の社長さまや、株長者の方々が登場するシーンですね」

「そう。そんな人達の酒を呑む様子を教えてくれないか。雰囲気だけでいいから」

そこに村瀬が横槍を入れる。

「時田先生、やめてくださいよー。仕事モードは。心から楽しんでください。休息に来たんですよ。最終稿あげてもらったから。」

蘭は次につなげようとにっこり微笑む。

「時田先生、こんど、お一人で飲みにいらしてください。銀座で遊ばれる殿方のファッションとか言葉遣い、教えてさしあげます」

時田の眼が光る。

「いいねえ。ディテールが欲しいときがあるんだ。一文付け足すだけで世界がくっきりわかるような…」

蘭は時田に不思議な魅力を見出した。時田の細長い指がグラスから離れて、テーブルをタップした。この指で虚の世界を紡ぎだす。きれいな指の動きに蘭はみとれた。

売上は少しずつだが伸ばせている。だが心のどこかでコンプレックスがうごめいている。谷田部とも森田とも満足ゆく夜を過ごせていない。

セックスに自信がないまま百合沙ママの跡継ぎができるのか焦燥感がつのる。

大学生のマリカと話していても、かなわないと思う。

「蘭さーん、エッチあんま好きじゃないんでしょ。それって、恋に落ちると変わりますよ。むっちゃ好きな人…んーと、百合沙ママの言い方だと殿方ですけど、殿方に恋い焦がれると身体があつーくなってくるんです」

「マリカちゃんは、そういう経験何度もあるの?たとえば、何人の殿方と」

「はい!12人くらいかな。今の彼が一番熱くなるけど、学生でお金ないのがちょっとなあ…」

「12人か」

「恋した相手だと、気持ちよくなってほしいからこっちもがんばるし」

「何を頑張るの?」

「やっだー、蘭さん。マジで?ベッドの上で女子が頑張ることっていろいろあるじゃないですかあ」

蘭はハウツーセックスの本のイラストを思い出す。

「キスしたり、その…舐めてあげたり…」

「そうですよう。好きな人にならなんでもできちゃうの。本気で舐める」

谷田部も森田も、興味本位でそうなった殿方だ。恋い焦がれた相手だから心底気持よくしてあげたいなどいう思いはなかった。

「マリカちゃん、ありがと。エッチに関しては私の師匠と呼ばせてもらうわ」

「ふっふっふ。エッチに年齢は関係ないですからねえ。千絵さんとか、すっごそうじゃないですかあ。ロングヘア振り乱して殿方の上で動きまわりそう」

千絵のセックスシーンを妄想してしまう。

「今度、千絵さんにもご指導してもらうわ」

蘭はマリカにウインクした。

心理作戦

時田清一は、毎週月曜の夜になるとゴールドリリーに現れるようになった。

読書好きの百合沙ママもしばしば席につき、3人で文学話に花が咲く。蘭は二人に負けないように本をむさぼるように読み始めた。

店に出る前の午後のひととき、銀座の大きな交差点にある大型書店で過ごすことが多くなった。

「驚くべき結末、頭脳明晰MBA作家・時田清一の新作」

ポップの下に平積みで並ぶ時田の新刊を見つける。帯に有名な映画監督の名前がある。

「かなり偉い先生なんだ…高卒の田舎娘なんか相手にしてもらえないか…」

時田の本と、三島由紀夫の本を5冊持ってレジに並んだ時、声が後ろから聞こえた。

「蘭さん、読書熱心ですね」

驚いて振り向くと時田が立っている。白いシャツと黒のスリムなジーンズ。黒縁の眼鏡をかけているので別人のようだ。髪も固めていなくて自然に流れている。

夜の装いと違う。ミントの香りが漂うごとくさわやかな登場だった。

「いろんな駅の本屋に立ち寄って、自分の本がほんとに置いてあるか確認したくなるんだ。僕が作家? 嘘だろって感じ。まだ夢を見ているみたいで。不安になる」

「それで、今日は銀座の本屋さんですか? 月曜じゃないのに」

「ハハハ。木曜に、ふいうちに店に顔を出せば君が驚くかと思って。心理作戦」

「なんですか、それ! 私を驚かせるためですか」

「まさか書店で会うとは。しかも、君は僕の本を買おうとしている。かたじけない」

二人は、本屋の隣のビルのカフェに入った。

「三島と僕の本を一緒に買う人、初めて見かけた。読者心理って複雑だ…」

「そんなむずかしい議論はやめてください。私は、時田先生と百合沙ママの知識の多さについてゆきたくて、有名な作家さんの本を読み始めたばかりなんです」

目の前にいる時田は、手が届かないインテリ。言葉を選びながら話す。それを察してか時田は軽い話をどんどん振ってくる。

ばかみたいにはしゃげるネタ。店での遊び慣れていない無口な客とは違う一面。

珈琲カップを持つ細い指のしなやかな動きに蘭の目は釘付けだった。

夜の店での会話。日中のカフェでの会話。同じ時田と話しているのに、まるで気持ちが違う。別人と向き合っている感覚。ソーサーの脇に置いてあるクッキーをつまみ、時田が話しかけた。

「夜の君と昼の君は違う人みたいだね」

蘭は吹き出した。

「私も同じこと考えてました。お店の時田先生は無口で賢い感じ。太陽が高い時間の時田先生はやさしいおにいさんみたい…」

時田が微笑む。二人は、日が陰るまで語り合った。

その日、時田が店に現れたのは閉店前の時間だった。いつものスーツ姿で眼鏡をはずしている。

「蘭さん、よかったら夜食でも食べませんか。本を買ってくれたお礼にごちそうします」

蘭はコックリうなずく。

様子を見ていた百合沙ママが肩越しにつぶやく。

「お客さんに恋すると、辛いことが増えるわよ。でもあなた史上最高の夜を経験できると思うわ。とりあえず、いってらっしゃい」

百合沙ママはアップにまとめた髪の毛を直しながら控室に消える。いかなる時も艶っぽい。

「いい夜をたくさん過ごせばママみたいに大人の色気がにじみ出る女性になれる…」

昼、カフェで語った話の続きを寿司屋のカウンターでする。田舎のこと、高校時代のこと、美容師の友達ケイのこと。蘭は単純に素に戻ることができた。

「今日のお昼、どうして別人に見えたんでしょう」

「僕は、人前では鎧をつけてる。出版社の人の前でも。取材対象者の前でも。君が言う”賢そう”に見えないと見下されると思って不安になるんだ」

「時田先生、普通の服で笑ってるほうが素敵です。充分、賢さがにじみ出てるので何を着ていても尊敬できます」

「君も、店の外にいるほうがいい感じ…。あ、まるで恋人気分の会話になってるな。失敬」

寮の前でタクシーを降りた時、蘭は時田を見上げて告げた。

「時田先生、私が本をたくさん読んで賢くなったら恋人にしてくれますか」

困ったような顔で微笑むと、時田は蘭をそっと抱きしめた。

ママの3人目の推薦

その後、3ヶ月、時田は欠かさず、月曜夜に蘭を指名してくれた。同伴もアフターもないが、きっちり店にお金を落とす上客として。

谷田部は、すっかり顔を出さなくなった。森田は持病が悪化して箱根の別荘で休養していると噂が流れてきた。たまに百合沙ママが二人の話題を出す。

「谷田部さんは長く通ってくれると思ってたけど、悪いおねえさんにからめとられたみたいねえ。この業界に最近はいってきたグラビアモデルあがりのグラマーさん。3丁目の李枝子ママから聞いたわ」

「はい。もう気にしてませんので。上品でマナーがいいお客様を増やしましょう」

「そうね。時田先生はいいじゃない」

「はい。私、読書がこんなに奥深いものって初めて知りました。子供の頃、もっと読んでおけばよかったな。伝記とか昔話とか」

「そろそろご一緒しなさいよ。朝まで。シャイな殿方はご自分からは誘いにくいものよ」

百合沙ママの3人目の推薦。

「百合沙ママにおされなくても、私、時田先生のこと好きになりました。でもお客様と恋愛関係はご法度。お仕事として距離を置きます」

百合沙ママが微笑む。

「そうね。気持ちはそうしておいて、一度肌を重ねてみるといいわ。人生どう動くかわからないものだから」

蘭は時田の本と時田に進められた本の感想を長文メールで送った。そして最後に付け加えた。

「先生が締め切りに追われてない頃、本の上手な読み方を伝授してください。難しい文脈だと、読むのがいやになってしまうんです。それで読みかけになった本が10冊以上あります」

真夜中に返事が来る。夜を徹して執筆しているのだろう。

「よし。では、来週後半。ホテルにこもって読書セミナーを開こう。推薦本を持って行くよ」

蘭は姿見の前に立って、身体のラインが崩れていないか確認した。余分な贅肉はないか、乳房は張っているか。そして骨盤の中は…。

ハウツー本を読み上げながら…

時田が選んだホテルは、昔の文人が原稿を書くのに使ったという都心の古いホテルだった。丘の上のレトロな建物。ロビーもこじんまりしていて、スタッフの顔がよく見える。

近代的な外資系ホテルとは違う、実家に戻ったような安心感。蘭はロビーの壁にかけてあるホテルの謂れを読みながら気持ちを整えた。

二人は早めの夕食を終え、部屋で読書セミナーを始める。時田がビジネス書、歴史小説、現代小説、自己啓発本をベッドの上に並べて、付箋をつける。

「君が読み解きたい本は持ってきた?」

蘭は大きめの手提げバッグから一冊取り出してベッドに置く。

『ハウツーセックス』。

時田はいつかの困った表情を一瞬見せる。そしてすぐに笑う。

「まいったな。僕がこのジャンル苦手なの知ってるだろ」

「…私もなんです。店の後輩スタッフにもばかにされるくらい奥手なんです。だから、一緒に分析しませんか」

時田は返事をせず、窓のカーテンを閉めて、蘭をベッドの上に横たわらせる。蘭が枕元に置いた本の1章をめくる。

「服を脱がせるところから始まります。脱がせるという行為をおろそかにしてはいけません…」

棒読みで読み上げる。

「そっと。ゆっくり。相手に期待をもたせるように」

ブラウスのボタンをひとつずつはずす。スカートのファスナーをおろす。蘭はブラジャーとパンティだけになる。

「今度は私が脱がせます。横になって」

時田のワイシャツは緊張のせいか汗ばんでいる。ベルトをはずすと、心なしか時田の頬が赤くなる。

股間はすでにコチコチだ。ボクサーパンツの上から確かめるように手のひらを置く。

「ここ、熱っぽいです」

「蘭のそこはどうなってる?」

時田は蘭のパンティの上から窪みにそって中指を這わせる。

「あん…」

こぼれ落ちる一粒の汗

「すぐに下着を脱がさないよう、下着をつけたままでじらすことも必要です」

二人はハウツー本を開いたまま下着姿でお互いを触り合う。耳たぶやうなじに軽いキスをしながら手のひらで相手の体温を感じ合う。

蘭は骨盤の中がこそばゆいような感覚を覚える。

「足の間から下腹のほうが、へんな感じなんです。おなかの中が熱くなって野菜がグツグツ煮えてるみたいな…」

「いい表現だね。煮えきったかどうか確かめよう」

時田が蘭のパンティをゆっくり膝まで下ろす。時田は蘭が鏡で観察した謎の部分に唇を寄せる。

「ああぁぁ、息がかかって気持ちいい。どうにかなりそうです」

時田がいきなり舌先で隆起した部分をつつく。

「はうううぅぅ」

蘭は海老反りになり、息を荒げる。

「次は私が…」

蘭が時田のパンツを脱がせる。谷田部と森田とは違う若々しい形と色。

「きれいな形」

「マニュアルになんて書いてある?」

「最初はソフトランディング、そしてスネークタン」

時田も本を覗く。

「動かし方はローリングとバキューム?」

「難しい名称は無視です。時田先生の大切な部分を舐めたい…」

蘭が、綿で包むようにやさしくソレを舐める。時田が眉をハの字にして陶酔する。

「蘭…もうマニュアルはいらないね、僕達だけのやり方でいこう」

時田はブラジャーをたくしあげ、空を向いたアーモンドのような乳首を口に含む。蘭の骨盤がガクガクと小刻みに揺れ始める。

「何か、欲しがってる。ここが。欠けた場所に何かを埋めて欲しいって」

骨盤を指さし、蘭はねだる。

時田はいきり立つソレを、ここでいいのかと確かめるように侵入させる。

「あううう」

蘭の理性は吹き飛び、誰にも聞かせたことがない大きな声が漏れる。

クチュ、ニチャ…。自分の下からねっとりした音が聞こえ、よけいに蘭を乱れさせる。

「こんな気持ちいいのは初めてだよ」

時田の額の汗が蘭の頬に一粒落ちる。

心の霧が晴れるとき

微笑む女性

あたたかい時間が流れた。蘭は理性を取り戻し、考え始める。男など抱き合っているうちはいいけれど、すぐに他の女の元へ行くという冷めた思いが蘭の中にはあった。

銀座で遊ぶ男は特に。妻がいても女をくどく。一度落とせば次の女を追いかける。恋などするものじゃない。百合沙ママのように、仕事と割りきってお付き合いするのがスマートだと。

時田もいつか、よその店に行くのだろうか。蘭は横で寝息をたてるインテリ風の男の横顔を見つめた。細長い顔立ち、顎がクイッと前に出ている。その顎にキスをする。

時田が目覚める。蘭の肩を抱き寄せる。

「腕枕してると、腕がしびれて痛くなりますよ」

「じゃあ、蘭とくっついているにはどうすればいい?」

「うーん、ギュッて抱きしめていてください」

抱きしめられて目を閉じる。百合沙ママの顔、千絵の顔、マリカの顔が浮かんでくる。

百合咲ママが説教する。「蘭ちゃん、一人前のセックスができたかしら。殿方におぼれてはだめよ。ホホホ」

千絵が笑う。「蘭、遅咲きね。身体の相性がよくても擬似恋愛でいることが一流のホステスよ。私は過去に失敗したからね。マジで恋して」

マリカがジエルネイルを蘭に見せびらかしながら言う。

「蘭さーん、蘭さんに勝てるのはエッチした男の人の数だけですう。この差は一生追いつかれないよう人数更新中!」

蘭の周りは魅力的で狡猾な女ばかりだ。フフっと笑いが漏れる。

時田が、蘭の顔を覗き込む。

「どうして笑ってるんだ?」

「時田先生とこういう関係になれて、私の頭脳がいきなり賢くなるんじゃないかなって。先生の知識を全部吸収できるような気がして」

「おもしろいな。そういうSF小説書いてみればどうだ。何も知らなかった無知な女性が様々な知識階級の男と交わって、IQが上がり、最強の権力者になる」

「そうですね。ってことは、時田先生以外のインテリさんともこんなことして取材しなくちゃ」

時田がまじめな顔でまた蘭を抱きしめる。

「だめだ。蘭。こういうことは僕だけしかしちゃだめ。店に出ていない時は僕だけの蘭でいて欲しい」

蘭も時田の背中に回した手に力を込めた。

したたかにしなやかに生きてゆこう。時田におぼれることなく。

谷田部がクワトロでまた出かけようと言えばもちろん乗る。森田が見舞いに来てくれと言えば行く。

百合沙ママの意志を継ぐ強い女になるために、時田から知識をもらう。

ふと、ベッドの下を見ると、ハウツーマニュアルの表紙の金髪美女が蘭にウインクしているように見えた。ウインクをし返すと蘭のコンプレックスは霧が晴れるように消えていた。


END

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あらすじ

主人公・蘭は銀座のクラブで働いて半年、三幸貿易の社長・谷田部と江ノ島にフレンチトーストを食べに行くだけのデートをしている。セックスはなし。

そんなある日、尊敬するクラブのママから会社の専務になって欲しいと言われる。

そして、セックスをする相手までも決めさせて欲しいと告げられた。

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三松真由美
三松真由美

恋人・夫婦仲相談所 所長 (すずね所長)・執筆家…

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