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【後編】恋愛とセックスのかけ算/27歳 椿の場合
晶子の世界
晶子の家は高級住宅街と呼ばれる一角にある。大きな鉄製の門。めずらしい木が生い茂る庭。明治時代に建てられた洋館を思わせる美しい家。
晶子は代々続く資産家の長男の嫁として見合い結婚させられた。夫の啓吾は海外不動産を売買して充分なほど稼いでいる。そして、日本にはほとんどいない。寂しい晶子を慰めてくれるのは義父の貞夫だった。
若い頃から女遊びをしていたせいで妻は出て行ってしまった。今は息子夫婦と使用人2人で豪邸に暮らしている。そんな貞夫が啓吾の留守中に晶子に目をつけるのはしごく普通の流れだった。
結婚当初、晶子は怖かった。啓吾が出張に行く度に貞夫に睨め回すように身体を見つめられることが。ある夜、不安が現実になる。
使用人が寝静まった夜中に貞夫が寝室にやってきた。
「晶子さん、寂しいだろう。啓吾も困ったやつだ。新妻をずっと一人にして」
「おとうさま…」
「いいんだよ。啓吾の代わりにワシが慰めてやるから」
乗馬と空手で鍛えている貞夫は60代とはいえ、筋肉は衰えていない。毎日、精のつく鰻やらスペアリブを食べている。組み伏せられても抵抗はできない。掛け布団と晶子のネグリジェを一気に引き剥がし、乳房に貪りついてきた。
「はうっ…」
晶子は不甲斐にも感じてしまう。怖さで硬直した身体が、ゆるむ。啓吾と何ヶ月もセックスレスだった晶子の身体は男を求めていた。
「ほう、無理やりされるのが好きなんじゃないか」
貞夫はたっぷり蓄えたあご髭をゴリっと晶子の乳首に押し付ける。
「やめてください…おとうさま…」
「ここは、やめないでと言ってるぞ」
パンティをずらし、確かめるように割れ目をぬぐう。貞夫の指にべっとりしたものがつきまとう。貞夫は着ていたガウンの紐で晶子の手首を縛る。
立膝をさせる。膝を割って晶子の隠れていた部分を露わにする。ベッドサイドのスタンドを秘部に近づけてソコを凝視する。
「ほほう、どれどれ。おお、好きものだなあ。晶子さんのここは。桃色でてかっている。啓吾は出張してる場合じゃない。毎晩でもかわいがってやらんと」
義父に秘部を見られている恥ずかしさと背徳感。晶子の身体は意志に反して沸騰している。貞夫が爬虫類のような舌先で真ん中を舐め回す。啓吾にもされたことがない。
伸びる限り舌を伸ばして奥まで舐めようとする。グッチョグッチョという唾液の音が股間から流れる。
「うううん、おとうさま、やめて…やめてください…」
貞夫は晶子のじれる様子を観察しながら、一番欲しがるタイミングをみはからう。熟練の性技。
何百人の女を喜ばせたのか、女の全てを知っているような動き。舐められている時間がゆっくり過ぎる。晶子の快感は途切れることがない。
「我慢できません、変になりそうです」
その言葉と同時に貞夫が黒太いソレをねじり込む。
「きゃああああぁぁぁぁ」
貞夫が3回腰を打ち付けただけで晶子は昇天した。
その日以来、朝から晶子を椅子に縛り付け、足を開かせて舐めるという日課が始まった。床で四つ這いにさせてスカートをまくりあげ、犬のようなセックスをすることもあった。
あたりかまわず、広い屋敷で晶子を弄ぶ。晶子は眉をしかめながらもそれに答える。答えたくなる身体に変化していた。
住み込みの使用人は、見るに耐えかねて辞めていった。晶子は逆らうことができない。晶子の理性を快楽が押しつぶした。啓吾が日本にいないあいだ、朝から晩まで貞夫に舐められ、貞夫をしゃぶり続ける。
晶子の精神が病んだのは1年後だった。啓吾が気づき、貞夫を老人ホームに追いやった。
一月間入院して家に戻った晶子は生活に支障はないがセックスが大好きな色情魔に変貌していた。
啓吾も複数の愛人をかかえているので、晶子を哀れみ、裕福な生活だけは保証してやった。啓吾が自宅で愛人と交わっている時に、晶子は全裸で侵入し、3人で遊んだこともある。
もはや晶子は、啓吾だけでは足りず、妄想の中で複数の男と交わる夢に浸るようになった。
昼下がり、晶子はアダルト動画を見ながらソファで自慰にふけっていた。その時、女優が椿に似ていると思った。
「かもめクリニックでナンパして、ここに連れて来よう。男じゃなくてもいいわ。きっとあの子となら楽しめる。この動画の女の子みたいにもだえるはずよ」
こうして晶子は椿に興味を持ったのだ。
あたたかな声
2時間後、かもめクリニックを出て、椿は自暴自棄になる。
「病気…。鬱だと思ってたけど、エッチなことばかり考える病気になった…まずい。薬で治るの?」
晶子の異常な言動を思い出す。
「あの、清楚そうに見える晶子さんと同じ病気なのかな…」
椿は何日かマンションに引きこもった。母親から何度か電話があったが、休職と通院のことは隠し続けた。
一人プレジャーは我慢するようにした。尾島の顔を思い浮かべると、つい手が下着の中に入ってしまう。
その手をつねってひっこめるようにした。ネットで電子書籍をたくさん買って、読書で気を紛らわせた。性描写のない旅行記や女性エッセイ。
仕事のことも思い出したくないので、ビジネス書は避けた。
「こんな生活ずっと続けてたらお金に困るようになる。転職でもするか」
少し前向きになれたのか、スマホを持って外に出た。おなかがグーと鳴る。小梅食堂に向かう。夜遅いので客はまばらだ。
「鯖味噌煮定食ともずく」
スマホで転職サイトを見ながら、鯖をつつく。
「通院さぼってますね」
あたたかな声が天から降ってくる。顔を上げると、尾島が目の前にいた。カーキ色のカーディガンを着て、タブレットを抱えている。
「僕も鯖にしよう。ここ、いいかな」
「は、はい、どうぞ」
夢の様な二人の時間。自宅に引きこもっていた事情、晶子が不気味でしかたないことを話す。ただ、尾島のことを性の対象にしていること、いやらしい妄想が浮かんでくることは言わなかった。
尾島は、晶子とは接点を持たないよう忠告してくれた。予約を取れば、その時間帯に晶子が来るかどうか教えると言ってくれた。患者同士のトラブルは起こしたくないのだ。
椿が水のおかわりを注文した時、尾島が自分のコップの水を椿のコップに足してくれた。
「あ、ありがとう」
途端、妄想のスイッチが入った。尾島の水が入る。椿の身体の中に。ジュワ…椿の女の部分がまた湿り始める。おさえていた妄想が暴れだす。
誘惑のチャンス
濡れているのがわからぬよう、これ以上濡れないようテーブルの下で足を何度も組み替える。定食を食べ終え、椿はおそるおそる尾島を誘ってみる。
「尾島先生、あの、うちで珈琲飲みませんか。ここからすぐですし。母が友達からもらったおみやげのコナ・コーヒー送ってきてくれたんです」
「いいですね、コナ。独特の苦味があって好きだな」
患者の誘いなど断られると思ったがすんなりOKしてくれた。椿は変に期待した。
珈琲を入れ、冷凍庫にあったシャーベットを取り出す。
「正直、部屋は荒れてると思ったな。鬱っぽくて引きこもってると、掃除や洗濯する意欲がなくなるものだから。症状がどんな程度か確かめるために来ました」
理由などどうでもよかった。二人きりで同じ時間を共有できることが椿にとっては救いなのだ。
「晶子さんの気持ち、私もわかる気がします」
「え?」
「先生としたくなる…ってことです」
尾島がフフッと照れ笑いする。
「異性の患者は担当医に恋心を抱きがちです」
「医学的なむずかしい話はどうでもいいんです。関係ないんです。率直に、先生に抱かれてみたい」
「それはダメです」
「わかってるけど、抑えられない」
「帰ります、また明日、クリニックに来てください」
椿は尾島に抱きついた。薄手のセーターの下はノーブラだ。グイッと乳房を尾島の背中に押し付ける。
「ネットで調べました。こういう病気があるってこと。したくてたまらない病気…」
「ネット情報より、医師を信じなさい」
尾島が身体を離そうとする。椿はセーターを脱いだ。豊満な乳房がプルンと顔を出す。先端は固くなっている。そのままパンティを脱ぐ。スカート一枚だけの立ち姿勢。
「ここ…さっき食堂にいる時からびしょ濡れです…」
椿がスカートの裾をそろそろたくしあげる。細いジリっとしたヘアの森が尾島の視界に入る。尾島は唾を飲む。
椿の右の耳に誰かがささやく。
「はやく彼に抱きついてキスしなさい」
左の耳から誰かがささやく。
「何してるの?正気なの?男の人の前で脱ぐなんて淫乱よ。はやく服を着て」
尾島は困ったように立ちすくんでいる。
右の耳からまた聞こえてくる。
「晶子さんに盗られていいの?大好きな尾島先生を」
晶子が尾島の股間に頭をうずめる光景が浮かぶ。嫌だ。盗られるなんていやだ。尾島先生は私のものにしたい。私を救ってくれる大切な人。冷えた心を溶かしてくれる人。
「先生、私のすべてを診察してください」
椿は尾島のシャツのボタンをはずしながらうなじに舌を這わせた。尾島がビクっと動く。
コナ・コーヒーの残り香が狭い部屋を覆い尽くす。スカートしかつけていない椿が妙にエロチックだ。尾島はクラっとする。
「異常性欲の晶子とは違う淋しげな顔。怒りを押さえつけ、心を閉ざしてしまったか弱い患者。なんてことだ。僕に救いを求めてすべてを晒している…。いけない、阻止しなくては。僕はプロなんだから…」
尾島の理性が文字になって頭の中のスクリーンに映る。
「そいつを振り切って。部屋から出ろ!」と。
その時、椿の唇が尾島の唇を塞いだ。なんとも言えぬやわらかな感触。ヌルリと尾島の口の中に入ってくる。男の芯に着火された。椿の手は尾島の太腿から股間に伸びる。円を描いてソレを撫で回す。尾島の理性は吹き飛んだ。
ラグの上に椿を押し倒し、スカートをめくり上げる。豊満な乳房をもてあますようにキスをする。脇の下から乳首に向かってチューチュと吸い上げる。
椿は出したことのない声をあげる。椿の長い髪を引っ張りながらキスをする。胸を揉み上げる。ソレは吹っ切れたかのように準備万端に盛り上がる。
はちきれそうな感覚。痛みすら感じる。椿の両脚の間に腰を落ち着ける。
「いいのか? 僕はこんなことをして」と声に出さずに惑う。
「いいの。先生にこうして欲しいってココが叫んでる。なんでもしてくれていいの」
尾島の心の声が聞こえたかのように椿が囁く。口元が尾島の唾液でテラテラと光っている。
中心部を確かめると、すでに湯でもこぼしたかのようだ。スカートも濡れている。尾島は一気に椿の中に導かれる。
「ううう、ああああん」
二人とも苦しげな顔のあと、うれしそうな顔になる。
たがが外れ…

尾島は2年前に離婚して独り者だった。元妻はセックスレスを理由に出て行ってしまった。
したくなかった、あの頃は、いつも嫌味を言う妻となど。かれこれ3年、女性の身体の中に自分の分身を入れる行為はしていない。
つまらない行為だと思っていた。種の保存のためにだけ意味を持つ行為。遺伝子を繋ぎたい時だけすればいいと。
しかし、今の尾島は違っていた。純粋に椿のスカート一枚の肢体と女が放つ匂いに反応した。くすぶっていた男の躍動が、蓋を取って顔を出したのだ。
椿の中心部からは麻薬のような匂いが立ち上がる。その匂いは珈琲の香りを打ち消して、尾島に野生に戻れと命令する。脳を麻痺させるような匂いに酔いしれる。
尾島は椿の足の間に顔を埋める。何度も何度も息を吸い、匂いを嗅ぐ。
「素晴らしい…椿さんから湧き出る匂い。そしてこの粘質の液体。唾液とは全く違う液体成分」
椿が足を開いたまま言う。
「先生、おかしい。唾液と愛液比べるなんてやっぱり理系ね…」
椿が起き上がり、尾島のソレをギュっと握る。
「今度は私が匂いを嗅いであげる」
いきなりソレを口に含み、喉元まで飲み込む。ゆっくり上下に頭を振る。尾島は背筋がびくっと震えるのを感じる。
「うっ、今、いったばかりなのに…」
またも感じ始める。エネルギーを充電されたかのように。
「もう一度…」
尾島が懇願する。椿は今度はうつ伏せに寝てヒップだけを突き上げる。おしりの割れ目からヘアがチラリと覗く。いやらしいポーズだった。尾島はすぐに背中に覆いかぶさる。
「臀部からはいるのは初めてだ…」
グンと突き刺す。椿はまたも悲鳴を上げる。
「やあああぁぁ…。これで晶子さんに勝てたのね…」
腰を動かしながら尾島が言う。
「何言ってるんだ、晶子さんとは何もしていない。患者としてのトークしかしていない…彼女は妄想癖と虚言癖がある…」
息をとぎらせ、もだえながら会話をする。
「…ん…先生、個人情報…だめじゃない…言っちゃ…」
「そうだ…忘れてくれ、僕はどうかしてるる…ああ、出る」
「あっああああ…あっ」
その夜は4度交わった。
眠りからの目覚め
なぜかその夜以降、椿はよく眠れるようになった。目覚めがすっきりしている。朝起きた時、おなかがすいているという感覚を取り戻した。
ヨーグルトだけでは足りない。自分でご飯を炊くまでになった。再就職のための転職サイトを真剣に見るようにもなった。
「なんだか、本当の自分が帰ってきてくれた感じ。薬じゃないんだ。恋とセックスが、私を治してくれている」
椿は、母親に久しぶりに電話をかけて、週末会いに帰ると告げた。その後、国枝ミキにLINEを入れる。
「ご心配おかけしました。長いあいだ休んじゃった。日下部さんにはあらためて挨拶するけど、やっぱ会社辞めるね。病気が悪くなったわけじゃなく、生活一新したくて。執着して持っているものを捨てないと新しいものが手に入らないって誰かのブログに書いてあったし」
椿は、尾島が自分を気に入ってくれていると思い込んでいた。晶子より自分を大切に思ってくれているということが嬉しかった。
夜が更けた診察室で尾島は一人で頭を抱えていた。椿の電子カルテを見つめている。
「患者とあんなことになるなんてどうかしていた。まずい…」
腕組みをして診察室を歩きまわる。
「そうだ、荒木のクリニックに転院してもらおう。荒木に顛末を話して引き受けてもらおう」
荒木は学生時代の同級生で、港区のビルの一室で心療内科を開いている。椿も通院しやすいはずだ。
「でも、椿とのセックスはよかった…セックスが気落ちを満たしてくれることに気づけた。よほどお粗末なセックスライフをおくってたわけだ。僕は…」
尾島は、気を取り直すかのようにクリニックの電気を消し、ドアをロックして夜の街に向かう。
平日夜だというのに都会の繁華街は酔った客や呼びこみの店員でごった返している。
『ナイトスワン☆☆ロング80分お値引き中』
キラキラした文字が踊る看板。店内をちらっと覗く。待合室に誰もいなかったのでサッと隠れるように入る。
「ニューアイドル瑠美誕生。メリハリボディの23歳。いい匂い」
尾島の目が瑠美のボードに釘付けになる。
「いい匂い…」
女性の深いところから沸き立つあの臭いを椿とのセックスで初めて知った。元妻はまったく臭わなかった。椿との夜、匂いが本能を刺激してくれた。
「瑠美さんでお願いします」
薄暗い個室に瑠美がやって来た。
「いらっしゃいませ。瑠美です」
尾島は、とまどう。目の前にいる色白で幼い顔立ちの子。遊んでいいのか。こんなきれいな顔立ちで風俗で働くとは…。化粧っけもなく女子大生に見える。
「どうして指名してくださったんですか」
率直に尋ねられる。
「あ、ああ。かわいらしいし、その…いい匂いってボードに書いてあった…」
瑠美は尾島にジリっと擦り寄る。
「髪の毛にダマスクローズのコロンつけてるの。いい香りでしょ」
「うん、うん」
尾島は慣れない会話に冷や汗が出てきた。
「でもね、ほんとのいい匂いって、女子独特の匂いのこと。だから人気者なの私。フェロモンっていうの? このあたりから男の人が喜ぶ匂いがするらしいの。試してみてね」
瑠美が下腹部をぽんとたたく。
心臓がバクバク波打つ。プロの女の子だ。大胆なことを言うのは当然だ。ここで狼狽した様子を見せてはいけない。瑠美はうなじに腕を回してキスをせがむ。
そのまま尾島をベッドに横たわらせた。大きな尾島の身体がドスンとベッドに沈み込む。いきなり尾島のソレを引っ張りだし、熱いタオルで拭く。
「ふ、ふ、風呂は?」
「お客さん、イケメンだから即即OK。お風呂でもベッドでもできるから計3回は飛べるわよ」
即即…業界用語はわからないが、気に入られたからサービスしてくれるらしい。瑠美の口技は23歳の娘とは思えぬ絶妙な舌さばきだった。
一度、瑠美の口内で飛び、風呂スペースに向かう。風呂で二人共裸になる。シャワーを浴びようとする瑠美を止めた。
「…匂いを…かがせてくれ」
尾島はえんじ色のマットの上に瑠美を寝かせ、足を開いて鼻を近づける。どうしようもなく興奮した。
椿の匂いに包まれながら極上の快感を得た夜がよみがえる。汗と蜂蜜とビネガーが混じりあった甘酸っぱい匂い。
「お客さん、一歩間違えば変態だけど、ルックスいいから、なんか感じちゃう。瑠美のそこの匂い、どう?」
寝そべったままで瑠美が笑う。
「いいよ。人気があるのもわかる。この匂いだけで飛んでしまいそうだ」
ついさっき発射したばかりなのに尾島の男が復活してきた。マットの上で匂いが立ち上がる壺口に侵入する。モワッとした匂いに頭がかき乱される。
「セックスがこんないいもんだって、つい最近目覚めてしまったんだ」
小刻みに動きながら尾島は瑠美に話しかける。
「よかったね。私も好き。好きなことでお金もらえるって幸せ〜。あん、ああん、感じるう。もっと深いとこまで来て〜」
しらけるような喘ぎ声だが、匂いは最高だった。目をつむり、椿の顔を想像しながら尾島はまた飛んだ。身体を離すと自分の下半身に瑠美の匂いがまとわりついている。尾島は満足気に微笑んだ。
踏みにじられた期待
椿は、尾島とクリニックの外で会いたいと思っていた。自分の部屋で激しく絡みあった事実、尾島が椿に好意を持ったことを裏付ける。
恋人同士のように、手をつなぎながら歩きたい。しかしコンビニや小梅食堂で偶然に会えることはほとんどない。しかたなく、バスでかもめクリニックに向かう。
もう晶子のことは気にならなかった。晶子ではなく自分が選ばれたと勝ち誇った気になっていた。
診察室。尾島が観念した顔で挨拶をする。看護師がいるのでわざとしらっとして話す。
「こんにちは。随分顔色がよくなってますね。食欲は出てきましたか」
何分か問診を受け、帰り際に看護師に気づかれぬようメモをそっと渡した。
「電話ください。いえ、部屋に来てくれてもいいです。この前みたいなことしてください。薬より効きます。あれしてくれると、よく眠れるし、ご飯も食べれます」
メモを渡した時、眼鏡の奥で尾島の顔が曇ったことには気づかない。
その夜電話がかかってきた。心躍らせながら耳にあてる。
「尾島です。この前のことは忘れてください。僕が立場を忘れて大変なことをしてしまった。ごめん、あやまります。それで、荒木院長という僕の友人がやっている心療内科に転院をしてもらいたいんだけどいいでしょうか。事情は荒木院長に伝えてあります。とても面倒見がいいドクターだから、きっとよくなります」
尾島は一気に言いたいことを言って電話を切った。椿は愕然とした。そのあと、自分が何をしたか覚えていない。
水をがぶ飲みしたのか、ロックをガンガン鳴らしたのか、クッションやぬいぐるみを投げ散らかしたのか。
気づくと、部屋が荒れてぐちゃぐちゃになっていた。シャツの胸の部分が水で濡れている。
「馬鹿みたい。私、やっぱり頭おかしいわ…」
翌日、散らかった床の上でウトウトしているとチャイムが鳴った。ドアをトントン叩く音。何度かドアを叩かれた。ぼやっとしたままでドアを開ける。
ミキがコンビニの袋をかかえて立っている。
「ミキちゃん?何?今日、何曜日?会社は?」
ミキが小さな声で話しかける。
「椿さん…どうしたんですか、その顔。ゲッソリしてます。髪の毛もグシャグシャだし、会社辞めるってメール見て心配で来てみたんですけど。今日は土曜ですよ。今、何月かわかりますか? 休職してから3ヶ月経ってますよ」
ミキは部屋に入って瞬きを何度もした。整理整頓好きの椿の部屋とは思えない。ペットボトルや雑誌があちこちに散らばっている。コナ・コーヒーの袋がやぶれ、珈琲の粉末がラグが真っ黒になっている。
椿はミキの目を見ることなく力なく笑う。
「治ってたのよ。一瞬。鬱っぽい気分がなくなってたの。食欲も出てきたし。だから転職サイト見てたりしたの。でも…昨日、また元に戻った…」
「椿さん、実家で静養したほうがいいです。ご両親のそばで…」
「父はいない。10年前に離婚したから。母が一人でがんばってるのに心配かけれないの。妹も家計助けるために大学あきらめて働いてる。長女がメンタルやばいってまずいでしょう…」
しばらく、ミキと話を続けたいるうちにぼんやりと会社の事を思い出してきた。かもめクリニックと会社は全くの別世界という認識も出てきた。
会社で辛いことが続いたから、かもめクリニックに逃げていたのか。かもめクリニックの尾島と付き合っていたのかどうか、確認するように3ヶ月のプロセスを思い出す。ミキは何も言わずに聞いてくれている。
またチャイムが鳴る。ドアを開けて驚いた。
日下部悦子、天敵の上司。
不思議な時間の訪れ
「立野。その顔…寝てないのか?大丈夫か…」
棘が抜けたようなやさしげな表情。心配そうなか細い声。
日下部が洋菓子の大きな箱を差し出す。
「立野、甘いもの好きだろ。クローバーのケーキが好きだって編集部で言ってたの知ってる。しっかり食べろ。8個もケーキ買ったぞ」
「日下部さん…」
「はやくよくなって戻ってスパ企画しろ。国枝は立野がいないとできないって泣きべそかいてる。まったく。弱っちい若手だ。立野が国枝のトレーナーになって育ててやれ」
はじめてかもめクリニックに行ったとき、尾島の握手で心が溶けた気がしたことを思い出浮かべる。3ヶ月も前のことだ。今は、天敵の上司、日下部の言葉に心が溶けた。
涙がとめどなく流れ、肩を揺らして嗚咽した。泣きながら、尾島と恋愛などしていないことをはっきり意識する。
日下部が背中をずっと撫でてくれる。ミキが椿の手を握って一緒に泣いている。不思議な時間がゆるりと流れてゆく。
「LINE見てみろ…」
日下部がポツンと言う。
画面には北尾や編集部のみんなのメッセージが流れている。
「はやく復帰してくださいねー」
「椿さんいないと、マジ困りますー」
「来年の新春スーパー企画、そろそろ作ってくださいね」
椿は上を向いた。
「ありがとうございます。これから新しい病院行ってきます。前の病院、やぶ医者だったから病気、長引きました」
「よし、タクシーでおくってってやる」
「はい」
「病院行ったあと、美容院も行け。あのクレーム言ってきた店。南青山の。うちのクーポン使って、頭さっぱりしろ。気分も変わるぞ」
椿は微笑む。
「はい。次回営業もしてきます。大型1ページ広告取れたらなんかごちそうしてください」
日下部が頷く。
「よし。ただし、うちのクーポンが使える店限定だ」
散らかった椿の部屋にカーテンの合間から日差しが差し込んだ。みきがカーテンを開ける。
椿はかもめクリニックの診察券をゴミ箱に投げ入れた。コトン。
「妄想恋愛はもうしない。私は病気を治すんだ」
日下部が持ってきたケーキは赤、オレンジ色、グリーン。大きくカットされたフルーツとぷるっとしたゼリーが色鮮やかに部屋を明るくしてくれた。
END
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あらすじ
椿は、タウン誌の編集部で働いている。
上司の日下部とはソリが合わず、天敵だと思っている。ある日、自分が進めていた仕事を後輩に割り振られて、「優秀な若手を育てたいという方針からだ」と告げられ働く意欲を失う。
そして次の日、無断欠勤してしまう。そして、安定剤を求めてメンタルクリニックへと向かう。