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官能小説 聖夜に見る夢(前編)
夜景の輝く部屋
「ぁ…。ほんとだ…。松嶋さんの言ったとおり!すっごくキレイな夜景だよ、千秋くん」
菜々は、ホテルの一室に一緒に入った千秋を振り返ることもなく、夜景の見える窓に駆け寄った。
その足がぎこちなく震えそうになるのを、菜々は必死で抑え込んでいる。高級ホテルの高層階からの眺めは、大学を卒業して2年目の菜々にとっては日常的なものではない。高速道路を走る車の流れさえも、キラキラとウロコを光らせて泳ぐ魚の群れのように見える。
菜々は、その珍しさと美しさだけが、気まずい空気をごまかしてくれるような気がしていた。
「ほら、観覧車。上から見るなんて、私、初めてかも」
ほぼひとりでしゃべり続けた末、そう言いながら、菜々はようやく千秋を振り返る。 千秋は、口元だけは一生懸命に笑いながら、何度も瞬きをした。
「…どうでもいいよね、そんなこと。ど、どうしよっか?」
菜々は自分自身を茶化すように笑う。
「どうでもよくないよ。どうでもよくない…」
同じことを2度続けて呟くと、千秋は菜々に歩み寄った。
「菜々…」
ふたりの距離があと3歩のところまで近づくと、千秋は視線を合わせて菜々の名前を呼ぶ。
さらに2歩近づくと、彼女の肩に手を添えた。
「ちょっと…千秋くん。どうしたの?…この部屋にいるのは…ほら、そういうんじゃない…でしょ?」
高級ホテルの高層階の一室。
美しい夜景とは裏腹のぎこちなさと戸惑いが流れているきっかけは、1カ月前に遡る…。
1カ月前の記憶
『ちょっと、頼みがある!とにかく、OKしてくれ!』
そんなメッセージが千秋から菜々に届いたのは、11月の終わり。
珍しかったのはメッセージの強引さだけではなく、その夜に会おうと言ってきたことだ。ふたりは大学の同級生だが、千秋はそんなに急に菜々を誘ったことなどない。
詳しく内容を話すから、とにかく今夜時間を作ってほしいと頼む千秋に、菜々は迷うことなく時間と場所を確かめた。
「え?彼女のフリ?」
急で強引な千秋の頼みに、大変なことが起きたのではないかと心配していた菜々は、正直、拍子抜けをした。
会って早々、「言い出せなくなる前に結論から」と切り出した千秋の頼みは、クリスマスイヴに恋人のフリをしてほしいというものだった。
「…でも、どうして?」
ため息をこらえて、菜々は穏やかに訊いた。
「会社に松嶋って同僚がいるんだけど…。今日、話の流れで、彼女がいるって言っちゃって…」
バツの悪さも一緒に吐き出すように、千秋は情けない声を出す。
「…それで?」
菜々は、ため息を必死でこらえていた。
「それで…。そしたら、松嶋、クリスマスにダブルデートしようって…」
「そっか…」
「俺、ほかにこんなこと頼める女友達とか、いないし…」
千秋の声は、さらに弱くなる。
大学のサークルで仲良くなった千秋と菜々だが、卒業して2年が経った今でもふたりきりで会う仲間は、お互いにほかにいなかった。
「そりゃ、私も、もしもそんな状況になれば、千秋くん以外に頼める人なんていないけど…」
妙に納得した菜々の声色に、「じゃ、頼める?」と千秋の表情が明るくなる。
「彼女の…フリ、ねぇ。…仕方ないね。わかったよ」
菜々は、できるだけ優しい友情の笑みを返す。
「ありがとう!…よかった」
安堵する千秋を目の前に、菜々はもう1度ため息をこらえた。
(彼女のフリって…)
こんなお願いを聞いてくれたからと食事もお酒もご馳走してくれた千秋と別れて、ひとりで地下鉄のホームに立つ菜々は、思い切り大きなため息をついた。
「好き…」
菜々は、小さく口の中だけで呟いた。 大学時代から、ずっと、伝えられない想い…。
(彼女のフリなんて、平気なわけないじゃない)
そんな本音が心に浮かぶ。けれど、たとえウソでも、そして数時間だけでも。千秋の彼女として過ごしたい…。
それも、紛れもない本音だった。
複雑な心を吹っ切るように「よしっ」と声にすると、菜々は電車に乗り込んだ。
ダブルデート
彼女のフリをしてほしいと頼まれてから当日まで1カ月弱。
菜々は、忙しさの中で、時間を見つけて美容院に行ったり服を買いに出かけたりせずにはいられなかった。
クリスマスイヴの当日は、忙しい毎日の中であっという間にやってきた。 馴れ初めから今までを細かく打ち合わせて当日を迎えたものの、4人で食事をしながら菜々は緊張していた。
「菜々ちゃん、照れ屋さんなの?それとも、俺たちに遠慮してる?」
千秋の同僚である松嶋は、核心を突く質問をする。
「いつものように仲良くしていいよ」と付け加えられた言葉に、菜々は思わずドキッとして千秋と目を合わせた。
「からかうなよ、松嶋」
そう笑う千秋に、彼女のフリという立場を忘れて、思わず見とれてしまう。
(あっ…バレちゃう…)
大学時代からのクセで、千秋に想いが伝わってしまうのではないかと思うと、すぐに冷静になろうとしてしまう。
(でも、今日はいいんだ…、今日だけは…)
思う存分甘い目で千秋を見つめても、演技が上手だったという冗談で済ませることができる。そう思うと、彼女という嘘も嬉しくなってきた。
同時に湧き上がる切なさも確かにある。
けれど、それは後から考えようと思考に蓋をしてしまうほど、幸せな思いが膨らんだ。
4人は、食事を終えて店をバーに替えた。
この地域では有名なホテルの最上階にあるバーは、さすがに今夜はカップルが多い。
「改めて、メリークリスマス!」
すっかり打ち解けた4人の空気に、菜々は、千秋が松嶋と仲良くなるのがよく分かると感じた。
楽しさに任せて時々千秋に寄りかかってみるたび、菜々の中では、幸福感が膨らみ、切なさがかき消されていった。
「なぁ、これ」
松嶋が、不意に2枚のカードをテーブルに出した。 彼の恋人である美幸も、菜々も千秋も、揃って不思議顔を見せる。
「今日、俺たちここに泊まるんだよ。で、こっちが俺たちの部屋。こっちがお前たちの」
1枚のカードキーを、松嶋は満足そうに千秋に差し出した。
「え?俺たちは、帰るって…」
千秋が本当に混乱したときは、手がバタバタと動く。そんな千秋を久しぶりに見て、菜々はクスリと笑ってしまった。
「何、笑ってるんだよ、菜々」
さらに混乱する千秋に、松嶋はいたって落ち着いている。
「フロントでチェックインしたときに訊いたら、夜景のキレイな部屋、キャンセルが出たんだって。俺たちの部屋の隣なんだよ」
そう言って千秋の手にカードキーを握らせると、松嶋は3人を促して席を立った。
「じゃ、また会社で。菜々ちゃん、今日はありがとう!またみんなでデートしようね」
部屋の前でそう言って立ち止まられると、菜々と千秋は、中に入るしかなかった…。
夜景の輝く部屋…再び
「…ちょっと…千秋くん…だから、この部屋にいるのは…」
菜々は、出会ってから今までの6年間で一番近づいている千秋の顔を目の前にしながら、部屋に入る直前までの1カ月を思い出した。
たとえウソでも彼女になれるという幸福感…。
でも、その奥にある切なさ…。
でもでも、やっぱり嬉しくて、楽しくて…。
それでもそのたびに、切なさがチクリと心を刺して…。
「いや…!」
菜々は、千秋の肩を押し返し、はっきりとした声で視線を結んだ。
「菜々…ご、ごめん…」
緊張していた千秋の表情が、一瞬で泣きそうに崩れていく。
「いやだよ…。彼女のフリで、こんなの…」
「そうだよね…。もう、ふたりきりだし、彼女のフリとか、しなくていいもんね…」
千秋の表情がさらに崩れると、菜々の中では、蓋をしていた切なさがあふれ出す。
「そういうんじゃないよ…。私は、私は…。フリなんかじゃなくて、本物の彼女になりたいの」
千秋の肩を押し返した菜々の手が、震えている。うつむく目元から、涙がひと粒まっすぐに落ちた。
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あらすじ
クリスマスの日、菜々は学生時代から好きだった千秋とデートした後、ホテルの一室にいた。本来なら喜ぶべきシチュエーションなのに菜々は複雑な気持ちでいた。
実は今回のデートにはただのデートではなく…!?