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官能小説【後編】あなたとひとりエッチ【LCスタイル】
練習しよっか
★作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、「ラブグッズで熱く感じる小説コンテスト」のLC賞作品です。ドキドキの小説をお楽しみください。
―――そうなのだ。
せっかく勇気を出して買ったのに。形状もそれっぽいと思って買ったのに。
いざそれを中に入れて動かしても、あたしはそれほど快感を得ることは出来なかった。
浅い所を擦っても奥に当ててみても、思ったようには感じなくて。
それにがっかりして、あたしは一度使ったきり、洗面台の下の棚にしまいこんでしまったのだ。
「へぇ」
呟いて、ふっ、と笑う諒ちゃんの息が耳を掠める。
それに反応する身体がきゅん、と指を締め付けて。
小さく笑いを含んだ声音は、諒ちゃんのご機嫌がだいぶ上向いたことを教えてくれる。
自分以外のペニス(の形状をしたもの)であたしが気持ちよくなれなかったことに、多少気持ちがおさまったのかもしれない。
そう思えばホッとして。
「だから、諒ちゃん、」
―――お願い。
あたしはもう一度、乞うように諒ちゃんを見つめた。
諒ちゃんの気持ちはおさまっても、おさまりがつかないのはあたしの身体だ。
肌を滑る手に、身体の表面ばかり快感に晒されて、でも高まる熱は身体の内側までドロドロに蕩かせて。
浅い場所をいじられるくらいじゃ焦れったさが増すばかりで、いい加減おかしくなりそうだ。
お尻に当たる諒ちゃんの硬い熱。
それをもうずっと感じてるから、余計に身体が飢える。
あたしが欲しくて欲しくて、代わりを手に入れようとしたモノ。
それを早くちょうだい、ってねだるように諒ちゃんを見つめたあたしに。
けれど、
「買ったのに使わないんじゃもったいないし。練習しよっか、ナナ」
にっこりと、それはもう本当に楽しそうににっこりと笑って、諒ちゃんはちゅっ、とあたしにキスをした。
「え」
「せっかくローションもあるんだし、ちょうどいいよね」
そう言った諒ちゃんは、ピンク色のディルドの先をあたしの胸に押し付ける。
ふにゃん、と形を変える胸。
「なんで…だって、それ」
あたしが使うのが、気に入らなかったんじゃなかったのか。
―――だから不機嫌だったんじゃないの?!
困惑するあたしの胸を、滑らせるディルドの先でいじりながら。
「うん、それなんだけどね。考えたら、俺以外のペニス咥えてるナナってのもちょっと興奮するかも知れないと思って」
とってもとってもいい笑顔で、諒ちゃんは答えた。
「っ、へ、変態…っ!」
「そうだよ、知ってるでしょ?ナナ」
思わず詰って涙目で睨んでも、どこ吹く風の諒ちゃん。
変わらない、イイ笑顔。
―――ああ、一体どの時点でシフトチェンジしたのか。
これはエッチの時、エロエロにあたしを責め立てるのを楽しむ時の諒ちゃんの笑顔だ。
これはマズイ、絶対にヤバイ、と慄いたあたしは、
「…っ、や、やだ…っ!」
頷いたその先を想像して、なんとか抵抗を試みた。
―――そんなの。
だいたい、諒ちゃんがここにいるのに。
あたしが欲しい本物がここにあるのに。
なんで。
「しないよ。それ、気持ちよくなれないって…!」
首を振って拒否を示したあたしに、諒ちゃんが今度は、なだめるようにキスを落としてきた。
「ん、」
同時に、止まっていた右手が窄みに挿し込んだ指先をゆらゆらと揺らめかせて。
ぬぷぷ、と、今いる位置を教えるようにしながら、ゆっくりと内壁を擦っていく。
「ん、〜〜〜っ」
ぞわり。
腰に溜まる熱に、背中が反る。
「りょう、ちゃ」
ずるい。
こんなの、絶対、身体から言うこと聞かせようとしてる。
入れた時と同じようにゆっくりと引き抜かれた指が、数を増やしてまたゆっくりと挿し込まれる。
くちゅくちゅ。
そうして、根元まで埋めた指先の奥に届いた先で、軽く壁を引っ掻いて。
もどかしい快感にそこを締め付けたあたしに、諒ちゃんは悪魔のように囁いた。
「ね、これで上手に気持ちよくなれたら、俺の入れてあげる」
ぐ、とお尻には熱い諒ちゃんのペニスを押し付けて。
ディルドの先は、グリグリと胸の先をいたぶる。
「ナナ、ここ好きだけど、ナナの指じゃここにも届かないでしょ?」
くちゅくちゅ。ぐちゅぐちゅ。
「ひぅ」
「コレなら、一番好きな奥にも当たるよ?」
ぐちゅぐちゅ。ぐちゅぐちゅ。
卑猥な音と、言葉と、熱い息。
耳から思考を侵される。
奥。
欲しくて欲しくてしょうがないところ。
「俺だって、ナナが欲しい時、いつだってしてあげられるわけじゃないしね。それに」
―――これで気持ちよくなれないわけないよ?だって気持ちよくなるために作られたものだもん。
指先で小さくかき回される度、身体の奥でさざ波のように快感が揺れて。
膣壁がうごめいて、頭の中が「キモチイイ」に支配される。
そうしてゆっくりと、ギリギリまで追い上げられたあたしの身体がその先に達しようとした瞬間、諒ちゃんは呆気なく指を引き抜いた。
「〜〜〜っっ」
「ね、ナナ。一緒に練習する?」
ヒクヒクと引き攣る下腹部の内側が、切なく震えてこぷりと涎を垂らす。
たまらず涙が滲むほどの強い疼き。
ひどいおあずけに飢えた身体は、それに耐えきれなくて。
屈服したあたしは、諒ちゃんの囁きにコクリと小さく頷いた。
「いい?今はもうぐちょぐちょだからいいけど、ディルドもナナのここも、ちゃんと十分に濡らしてから入れること」
“キモチイイ”に支配されて
足の間をピンク色の無機物が動く。
しっかりと固く、でも弾力もあるそれ。
溝に沿って前後するペニスは「一応ね」と言った諒ちゃんにローションをまぶされて、滑らかな表面がいっそうテラテラと光って卑猥だ。
三角形の先端と竿の段差でクリトリスを引っ掻いて、でもつるりと滑るからその刺激はもどかしくて仕方ない。
「わかった?」
「わ、かったからぁ…」
ぎゅうっ、と諒ちゃんの腕を掴む手に力を入れれば、くすりと笑った諒ちゃんが「はいはい」と言ってディルドの先を濡れた穴に押し付けた。
「ナナは焦らされるほど感じやすくなるから、自分でもちゃんといじめること」
ディルドの先っぽを、中に入らないくらいの圧力で押し付けて、グリグリと竿を回す。
そんなことをされたら、今か今かと期待して昂る感情で膣口はひくつくのを止められない。
押し付けたままなかなか入れてくれない、それは確かに諒ちゃんがあたしにペニスを入れる前によくやる仕草で、そうされて興奮するあたしを見抜かれているのが恥ずかしい。
「諒ちゃ、諒ちゃん…っ」
「…腰振っちゃって。ナナが我慢出来なくなってねだる顔、ほんとたまんない」
とろりと微笑んで、諒ちゃんはちゅ、とあたしの唇をついばんだ。
でも。
「いつもは、その顔に免じて入れてあげるけど、今日はダメだよ。ナナ、どうして欲しいかちゃんと言って?」
そう言って、つぅっ、と舌先であたしの唇を舐める。
「〜〜〜っ、意地、悪…っ」
「そうだよ。だって俺がいじめてあげられないぶん、ちゃんと自分で自分をいじめる練習なんだから」
一人でする時は、言えるまで入れちゃダメ。―――ナナは口でおねだりするの、苦手だもんね?
「ぅう…」
そんなとこも見抜かれている。
「ほら」
唸るあたしに、急かすようにして、諒ちゃんがツンツン、と入り口をつつく。と、思ったら、ずるりと竿を溝に滑らせて。
くちゅくちゅ、と小刻みにクリトリスを擦られて、あたしの内腿が震えた。
頭がまた、圧倒的な「キモチイイ」に支配されていく。
「ナナ、言えるまでずっとこうだよ」
一人なら誰も聞いてないんだから。
そう言われても、例えそうでも、口にするのは躊躇う、直接的な言葉。
だけど。
もうずっと焦らされっぱなしで、この“練習”さえ受け入れた身体に、なけなしの理性は結局押し流されて。
「―――りょ、諒ちゃん、もう、中に、…入れて…っ」
羞恥と疼きで涙目になりながら、あたしはやっとそう口にした。
「諒ちゃん、お、お願い」
「…うわ、…これはクるなぁ…」
小さく呟いて、口元を手で押さえた後、諒ちゃんがにまりと笑う。
「ナナ、そんなに欲しいの?」
「…っ、ほ、欲しい、です」
恥ずかしさに頭がくらくらするけど、でも口にするほど身体が昂る。
のぼせたようになったあたしの耳に、
「―――やばい、これやめられなくなりそう」
そんな諒ちゃんの呟きが届いたけど、言葉としてはもううまく認識できなかった。
「諒ちゃぁん…」
もう泣きべそに近い状態で諒ちゃんを見つめて。
もぞもぞと腰を揺らすあたしの目尻を諒ちゃんの唇が拭う。
そうして。
「ナナ、コレも俺のだと思って咥えるんだよ?」
うっすらと微笑みながら、だけどそこだけは笑ってない目で言って、諒ちゃんはあたしの頬をするりと撫でた。
直後、
「っあ…っ」
ビクン、と身体が揺れる。
「ナナ、力抜いて。そんなに締めたら先っぽしか入らない」
「っふ」
そんなことを言われても。
あたしの中は、やっと与えられた形に歓喜して蠢き、勝手にそれにまとわりつく。
諒ちゃんのそれより少し物足りなく感じる太さと感触。
だけど、欲しくて欲しくて仕方なかった身体は、それでも気持ちいいと涎を垂らして喜ぶ。
「あ、あっ、諒ちゃ、」
ぬぷぬぷと緩く抜き差しする動きを繰り返しながら、それがあたしの奥に進んでいく。
そうして、慣らすように一旦すべてを中におさめた後、ゆっくりとディルドを引き抜いて、諒ちゃんはあたしの手をそれに導いた。
「ここ、ちゃんと自分で持って」
ディルドの端、吸盤になっている広がった所を押えるようにして、竿の根っこを握らされる。
その上から、自分の手を重ねて。
「いい?ナナ。意識して、ちゃんと気持ち良いところ覚えるんだよ?」
「ふ、んぅ」
「ほら、こうやっていいところ探るように動かして」
諒ちゃんが力を入れてまたディルドを少しずつあたしの中に埋めていく。
三角の膨らみであちこち壁を擦りながら、「ちゃんとどれくらい中に入ってるか見ないと。ナナが自分でやる練習なんだから」って、囁く声に視線をそこに促されて。
自分の足の間で前後するピンク色のペニス。短くなって、長くなって。
それはものすごく卑猥な光景で、ぞくぞくっ、と背中に震えが走った。
「んんっ」
ドロリと中が蕩ける。
「あ、柔らかくなった。興奮し過ぎて軽くイッちゃった?」
ふ、と笑う諒ちゃんの手の動きがいっそう淫らになる。
こねくり回すようにあちこちの壁をつついて擦ったかと思うと、ぬぷぅ、と深く押し込んで、また引いて。
「は、ぁあ、…あっ!」
「ん、ここ。擦ってあげるとナナが泣いちゃうとこ」
「や、あ、あ」
ぶわりと鳥肌が立つ。ざらりとした快感。下腹部の痙攣が止まらない。
「ナナ、奥いっぱい気持ちよくなりたいからって、焦れて他を通り過ぎちゃダメだよ。ちゃんと他を可愛がって感度を上げとかないと、中だって、奥だけじゃ気持ちよくなれないんだから」
「ひっ、ぁ、」
ぐちぐちとそこを責め立てながら言われても、理解する余裕なんかない。
「あ、あ、あ」
「奥もね、こうやって…」
諒ちゃんが手に力を入れれば、すっかり蕩けたそこは、難なくピンク色のすべてを飲み込んで。
「―――っ」
ぐりぐり、と、奥の壁に軽く先を擦り付けられて、身体が震えた。
「ちゃんと感触に慣らしてから。いきなり強くしたら痛いからね」
「ん〜〜〜」
欲しかったご褒美
腰に蟠る熱が苦しくて、逃れるように背がしなる。
気持ちよくて気持ちよくて目が眩む。
この熱を開放して欲しい。でももっと。
掻き混ぜてぐちゃぐちゃにして、もっと。
「奥も、ちゃんと準備出来てから―――」
ぐっ、と握り込まれた手を引かれた。
感じていた快感がふと消えて、ずるずると圧迫感が引いていく。
その喪失感と戸惑いに腰が揺れて。
それをからかうように、またディルドが中を満たしていく。そうして、
「ん、っ、んっ、」
押しては引く一定の動きが、丁寧に熱を撹拌するから。
―――キモチイイ、キモチイイ、キモチイイ。
「そう、上手」
いつの間にか、諒ちゃんの手は主導権を手放して、あたしは夢中でそれを動かしていた。
ジュクジュクと滲み溢れる快楽に、頭の中まで浸されて。
「顔、とろっとろ。気持ちいい?」
「気持ち、い。いい、気持ちイイよぉ…」
「可愛い、ナナ。でもそれは、俺のペニスだよ。そう思って使わないとダメ」
「ん、ん、っ。諒ちゃんの、気持ちい。諒ちゃん、りょうちゃん…!」
ギラギラと熱のこもった目で、でも涼しげに微笑む諒ちゃんを見つめながら、頷き、喘ぐ。
諒ちゃんに見られながら、諒ちゃんのペニスで一人で気持ちよくなるなんて、それは非現実的であり得ないのに興奮する。
快楽にまみれて沸騰しすぎた頭が、もうおかしくなってるのかもしれない。
何度も何度も、さっき教えられた快感のツボを擦る。
いつもは与えられるまま溺れて、曖昧だったそこ。
「あ、あ、」
止まらない抽送が激しくなって、ブルブルと太腿が震える。
快感が膨れ上がって、ぎゅっと爪先が丸まる。
「りょ、ちゃ」
「イって、ナナ」
「―――っ!」
ぐりっ、と。
押し込んだ先っぽで最奥を抉って。
直後、どぷん、と熱い蜜が溢れるのを感じながら、あたしは全身を強張らせた。
「あ、っ」
ぎゅううっ、と中が収縮する。痙攣するように震えて。
そうして解放された熱が、全身を弛めていく。
は、と息をついたあたしのこめかみに、諒ちゃんが小さなキスを落とした。
「上手に出来たね、ナナ」
「ん、」
ぼんやりとした頭で、こくんと頷いたあたしの頭を撫でて。
「余韻に浸らせてあげたいけど、俺もちょっと限界。―――約束のもの、受け取って?」
そう言った諒ちゃんは、ちゅっ、と唇を啄んだ後、押し込んだままのディルドをあたしの手ごと足の間から勢い良く引き抜いた。
それにブルッと震えた身体を持ち上げられて、あっ、と思ったのも束の間。
よろつく上半身を、縋り付くようにしてバスタブの縁に預けた、次の瞬間。
「あぁあっ!」
ずどん!と奥を叩かれて、あたしは悲鳴を上げ、ぎゅん、と背中をきつく反らした。
真っ白に染まる頭。電流に貫かれたように硬直した身体の内側が痙攣する。
呼吸を止めてまた絶頂に達したあたしの身体が弛む間もなく、諒ちゃんのペニスは勢い良く壁を擦りながら抽送を続けた。
「は、トロトロなのに、ぎっちぎち」
バスルームに響く破裂音。後ろからズンズンと突き上げるそれにさっきよりもっと深く強く奥を抉られて、でも感じるのは快感ばかり。
ボロボロと涙が零れる。
痙攣しっぱなしの中は諒ちゃんのそれを締め付けるほど快感を拾って、また追い上げられて、それが苦しいのに身体を弛めることも出来ない。
ガクガクと足が震える。
「やばい、もうイク…ッ」
切羽詰まった声。
それが、あたしの快感で追い詰められた身体に、諒ちゃんもまた追い詰められてるんだってことを教えてくれる。
「ひ、っ」
「ナナ…っ!」
ぎゅうっ、とあたしの身体を強く抱き寄せて奥を穿ち、諒ちゃんの動きが止まる。
堪えていたのをすべて吐き出すようにしてドクドクと中を満たす、熱い迸り。
それを残さず絞りあげるように、あたしの中も蠢いて。
それから、ようやくくたりと、互いに身体を弛めた。
あたしの肩に額を預けた諒ちゃんが、はーっ、と長い息を吐く。
「あ―――…、これ最短じゃない?」
ひとりごちるように呟いて、多分まだ呆けたままの顔をしてるだろうあたしの頭にキスを落とした。
「ナナ、エロ過ぎたし可愛過ぎた」
ふわふわした頭は言葉をぼんやり受け取って、でもぎゅっと力の篭もる腕に、キュンと胸が鳴って。
「ほんとやばいくらい可愛いかった」
呟いた諒ちゃんに優しく抱きしめられながら、クタクタになっていたあたしはその心地よさに、気づけばそのまま溶けるように意識を手放してしまっていた。
ふと温もりが離れる。
もぞもぞと身動きするのが、ベッドのわずかな振動で伝わって。
それでも、心地良いまどろみの中から抜け出せないままだったあたしの身体は、漂ってきたコーヒーの匂いに一気に呼び覚まされた。
嗅覚を刺激された途端、ぐぅ、と、鳴るお腹。
それにちょっとだけ自分でも呆れながら、むくりと身体を起こせば、いつも通り肌に馴染んだパジャマ代わりのロングTシャツ―――の下に心許ない違和感。
「?!」
パ、パパパンツは?!
え、ていうか、昨日どんなふうにベッドに入ったっけ?!
狼狽えて、あるかもしれないパンツを探して闇雲に布団の中をまさぐる。
同時に記憶をたぐれば、昨晩のあれやこれやが頭の中にしっかり蘇ってきて、あたしは「うわぁああ」と内心で悲鳴を上げた。
昨日、昨日…っ!
まざまざと蘇る痴態。
一気に顔が熱くなる。
―――恥ずかしい!死ねる!!
そう思いながら枕に顔を埋めて一人悶えていると、
「あ、ナナ起きた?」
爽やかな声で言う諒ちゃんが、1Kのキッチンからひょっこり顔を見せた。
今日はどれにする?
「そろそろ起こそうと思ってたんだ。コーヒー飲むでしょ?」
「う、うん」
にこにこ笑う諒ちゃんの顔はいつも通り。
ちらりと見たベッド横の白いローテーブルの上は片付いていて、昨日あったピンクのあれやこれやは跡形もない。
清々しく爽やかで健全な日曜日の朝。
でも、昨晩のあれやこれやは確かな記憶で、そして今、あたしがパンツを穿いてないのも確かな事実。
ご機嫌でコーヒーカップを運んでくる諒ちゃんに、あたしはおずおずと声を掛けた。

「あの、諒ちゃん。パンツ…」
穿いてないの、おかしいよね??おかしいことだよね??
っていうか、上はちゃんと着せてくれてるのに?!
あたしの言葉に、
「あ〜、ごめん。穿かせてなかったね」
諒ちゃんは湯気の立つコーヒーカップを手渡してくれながら苦笑いした。
「昨日は、ナナの姿思い出したらおさまんなくなっちゃって。ごめんね、寝てる間に太もも借りました」
「っ?!」
「ていうかすごいね、あのローション。ぬるぬるしてるのにその後はさらっとして肌に馴染むの。軽く拭きはしたけど、太もも、ベタついてないでしょ?」
「え、あ?」
「抜いた後さ、すべすべしてる肌、堪能してる間に不覚にも寝ちゃった」
諒ちゃんはにこにこと笑って、あたしの隣に座った。
なんとなく下半身を隠す気持ちで腰に巻きつけた掛布団の隙間から、何気ないふうに差し込まれた手が、するりと足を撫でる。
「ん、っ」
「お風呂じゃなくても使いやすいし、いい買い物しちゃったなぁぁ」
のんびり呟く上機嫌の諒ちゃんに、
「りょ、諒ちゃん、手、零れるから…っ!」
身じろぎするたび揺れるカップの表面に、あたしは焦りながら制止の声を上げた。
「あ、ごめんごめん」
軽く応えて手が離れたのにホッとして、心を落ち着けるようにカップに視線を落とし、口をつける。
…諒ちゃんの手も、なぞられた肌も、濡れてなんかいないのに。
その動きに、昨晩のもどかしく蕩けるようなあの感触が蘇って。
それを引き金に、すごく恥ずかしかくて、だけどおかしくなるくらい気持ち良かった、あの時間がどんどん生々しく頭の中を満たして、じん、と身体の奥が熱を帯びる。
もぞりと足を擦り合わせて、あたしは、にこにこと笑みを崩さない諒ちゃんの横顔を思わず恨みがましく見た。
「…上手に出来たら、ご褒美ね?」
―――昨日の不機嫌が、嘘みたいな顔しちゃって。
胸の中で小さく悪態をつく。
”ディルドに対するヤキモチ”なんて理由じゃ、あたしが受けたあのエッチな意地悪はわりに合わないと思う。
いや、エッチの時の諒ちゃんは、いつもわりと意地悪だけど。
でも、昨日の諒ちゃんは、それに輪を掛けて意地悪だった。
『ナナ、どうして欲しいかちゃんと言って?』
『ほら、こうやっていいところ探るように動かして』
『でもそれは、俺のペニスだよ。そう思って使わないとダメ』
蘇る、淫らな“練習”中の諒ちゃんの言葉に、身体の熱がまた上がる。
同時に、ヤキモチを焼きながら、アレをあくまで自分のペニスとして使わせようとする諒ちゃんには、なんだか可愛いな、という気持ちにもなって。
―――まぁ、ディルドでも、ちゃんと気持ちよくなれる事がわかったし。
―――諒ちゃんに教えられたようにやれば、次は一人でも気持ちよくなれるかな。
なんてあっさり思って、仕方ない許してやろう、とか思ってしまうあたしは、ほんと諒ちゃんに弱い。
そう。なんだかんだ言っても、そもそもあたし自身、諒ちゃんの意地悪なエッチが嫌いじゃないのだ。
甘くてやさしい声と手にいじめられるのを、ほんとは期待して、喜んでいるんだって―――それも、きっともう見抜かれている。
「ナナ、もういい?」
「え?!」
物思いに耽っていたあたしの顔をふいに覗き込んだ諒ちゃんに、思わず声が跳ねる。パシャリとカップの中身が波打って。
頬に熱がさし、動揺するあたしに、諒ちゃんがとろりと笑った。
「先に何か腹ごしらえさせてあげようかと思ったんだけどね」
手の中のコップをするりと抜き取って。
―――でも、ナナが涎垂らしてるのは、こっちみたいだから。
囁くように言って、さっき離れた手のひらが太ももを這う。
「っ」
あっけなく簡単に、そこに潜り込んだ指先がぬるりと滑って、羞恥にかぁっ、と顔を赤らめたあたしに、諒ちゃんはちゅっ、とキスをした。
「昨日の、思い出して濡れちゃった?」
「んん、」
膣口をくすぐる指がくちゅくちゅと立てる音にも昂るあたしに、もう一度キスして。
「ナナ、昨日の練習、、、めちゃくちゃ感じてたね?」
やわらかい表情と口調なのに、見つめてくる諒ちゃんの眼差しは熱く鋭い。
ぞくんと身体の奥が震えて、ガラリと変わった雰囲気に圧倒される。
「りょう…」
とさ、と背中がベッドに落ちる。
ギシッ、とスプリングを鳴らして、覆いかぶさってきた諒ちゃんがにこりと笑った。
「ね。今日はどれで、ひとりエッチの練習しようか?」
その言葉に、頭に過るのは―――白いローテーブルに並べられた、ピンク、ピンク、ピンク。
「せっかく買ったんだから使って欲しいし。…練習、手伝ってあげるから、安心して?」
「〜〜〜っ」
わざとらしいくらい満面の笑顔は、意地悪なエロエロモードのそれで。
”練習”にすっかり味をしめたらしい諒ちゃんの様子に、あたしはうっすらとした慄きを感じながら、ごくりと喉を鳴らした。
ずくん、とお腹の奥が疼く。
―――ほんと、憎らしい。
残念ながら、味をしめてしまったのはやっぱり諒ちゃんだけじゃなくて―――それももう、諒ちゃんには見抜かれているらしい。
「ナーナ」
頬を撫でる手のひらの感触に、期待に昂る身体はピクリと震えて。
だけどそれがなんとなく悔しくて、あたしは伸ばされた諒ちゃんの腕を両手でぎゅっと掴んだ。
「…上手に出来たら、ご褒美ね?」
練習というくらいなんだから、ご褒美はあって然るべきだろう。
限定品が出るたび売り切れ必至の某カップアイスとか、そこまでいかなくても、あたしの大好きなあのチョコレートビスケットとか。
むぅ、と睨むあたしに、諒ちゃんはぷ、と笑った。
「―――オレはほんと時々、ナナが天然なのか計算なのか、わからなくなるよ」
「?」
「ご褒美ね。…了解。飽きない程度で、お腹いっぱいにしてあげる」
そう約束した諒ちゃんの笑顔に、あれ?と思った時には既に遅し。
結局その日あたしは、自力でベッドを出られなくなるくらい練習させられた後、お腹いっぱいにされて。
それがどんなご褒美のせいだったのかは―――とりあえず、なけなしの羞恥心で内緒にしておく。
END
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あらすじ
ディルドを使い、胸の先、そしてナカを執拗に責めてくる彼。
ジュクジュクと滲み溢れる快楽に溺れ、自ら“キモチイイところ”を擦るようにそれを動かして…。
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