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官能小説 コスメの魔法をもう一度〜潤の場合〜
第一章
(数年、仕事に命を捧げてきた。とは言い過ぎかもしれないけれど、私の人生はそれに近い。いやになるほど肌はこわばってしまっているし、足もむくんでいる気がする。いくつお気に入りのブランドの靴とさよならをしてきたのか)
不動産営業ともなれば、それはやりがいはある。
もともとサバサバ系なので、不動産営業は男が多い職場でも、むしろそれが私の仕事熱に火を点けた。
ただし恋愛は……
***
雨が降ってきて、私は軒下に立ち、雨上がりを待っていたが、目の前の看板を見つけてしまった。
「透明感の秘密はカロリーゼロ」
思わず肩を落として呟いた。
「恋愛経験、ゼロ」
本当は、素敵な色…色気をつけて憧れる素敵な恋愛をしてみたい。
しかし一歩踏み出す勇気が出ないし、仕事が忙しくて楽しい。
言い訳かも知れないけれど。
「雨、止まないな」
外回りの営業は天気に左右される。
ランチもまだだったことを思い出して、私は軒下のドアを押し、小さな喫茶店に入った。
入るなり、PCとスマホメールチェックは職業病である。
メッセージが一件。
『同業種の飲み会があるんだけど』
店内に歌が流れている。
「思い切って見れば、きっと出会えるはずなの。勇気を出して神様お願い、幸せのメッセージ」……。
急にこんなことを考えているのは、外回りの仕事に限界を感じているせいかもしれない。
夏は日焼けするし、春は眠気に勝てなくなってきた。
このまま年を取るのだろうかと思ってしまう。
『場所、教えて』
スマホ先で友人は驚いているかもしれない。
でも、私は今変わらなきゃ。
そんな気がするの。
***
不動産業界はいつでもにぎやかなイメージがある。
デベロッパーやバイヤーなど、人脈作りも重要。
(とはいえ、いきなり参加は気が引けるのよね)
戦闘服のスーツは気に入っているが、場違いな気がする。
壁際の花でいようと、移動した時だった。
「貴方、変わってますね」
ふとそちらを向くと、どうみてもホストにしか見えない青年がそこにいた。
(あれ?会場間違えた?)
と相手のネームプレートには『不動産営業 石積 大地(いしづみ だいち)24歳』とある。
(不動産営業?!この風貌で?)
前髪長め、今風の襟足が長いウルフカットの茶髪、前髪の合間から少し厳しそうな眼がちらちらと私を見ている。
この物色の仕方は、営業特有だと私は納得した。
「不動産営業の飲み会と言ったら、お手付き・持ち帰りされようとみんな気合入れるものでは?」
「急に決めたし、これが気に入ってるの」
カクテルの一杯もひっかけたい気分で答えると
「へえ?」と相手は面白そうに眼を細めて見せた。
「悪くないですね、そういう女性も」
そういう女性?!
「好感が持てたってことですよ。このまま抜け出しません?」
「あなたには、もっと年が近い子のほうが良いと思うけど。もう帰るところなの」
(私はいかにも遊んでる風な男は好きじゃない。けど、なんて真っすぐに言ってくるの)
今夜の私の収穫は、以上だった。
第二章
「潤! 聞いてるの?!」
翌日、飲み会に誘ってくれた友人に呼び出されたランチタイム。
私はついっと窓に向いた。
「紹介するって言ったら絶対断るから飲み会ってことにしたのに!それに好かれるのってすごいことなのに、なんで相手のこともよく知らずに断るの?」
「なんで知ってるのよ。断るでしょ、一回りも違うなんて」
「貴方に興味を持った稀有なタイプでしょ!酔っぱらって『仕事より恋愛』の愚痴を聞かせたのは、あなたじゃない」
そんなことも、あったような。
「うん、わたし、やっぱり合わないみたい。仕事に生きる」
「潤!」
呼ばれる声を振り切って、私は外に出た。
また、雨。
(考えたら、久しぶりに声かけられたな)

家に帰り、日課と化したベランダでの一人晩酌をしながら、友人からの言葉を思い返して気がついた。
「石積 大地(いしづみ だいち) 24歳か……壁の花に興味を示すなんて、勿体ないよ」
きれいな目をしていた。
24歳の人生を謳歌する目。
きっと恋愛も楽しいのだろう。
少し濃いめのビールが回り始めたようだ。
(久しぶりに声を掛けてもらえた)ことに今頃気づいてしまうなんて。
「一人の生活も楽しいけど、やっぱりもう一度恋愛を楽しんでみたい。そうは言っても…今更恋愛に本腰入れられないし可愛げないし…」
可愛げがあったら、とっくに誰かに愛されているでしょうに。
「ねえ?」
手すりに現れた黒猫に何気に話しかけた。
酔っていたのだろう。
私は、このマンションに黒猫が突然現れたこと自体が謎なことになど、気づかなくて。
「まだ、恋愛できると思う?34歳。すり減らす靴と同じように、魅力もすり減っていくのに。通帳が唯一の…」
黒猫は「何言ってるんですか」
と石積くんの口調で聞こえるような声音で一声鳴くと、たたっと去って行った。
「引越しにでもついてきたのかな」
そろそろ冷える、とベランダから引き揚げようとしたところで、つま先で本のようなものを蹴った。
「なに、この本。魔法書みたい」と、その本を開いてみた。
開くとコスメ8つほど。
アイカラー、フェイスマスク、スカルプパック、インバスクリーム、ボディウォッシュ、香水、洗顔美容液、ネイルオイル……どれもそれなりに高そうなコスメだった。
「なんのマジック?」思わずベランダの椅子に座り込む。
“悪くないですね、そういう女性も”
石積くん……と言ったかな。
“女”扱いされたの、何年ぶりだろう。
私はコスメを握りしめた。
これはチャンスかもしれないと。
第三章
34歳が24歳に向き合う。
決めた以上はなおさら手は抜けない。
「友人さんに教えてもらいました」
のメッセージにはっとさせられ、私は自分磨きを始めた。
綺麗になれたと思うまで、メッセージには返信しない。
相手が冷めるか、私が自信を取り戻すのが先か。
決めると、元来の性格や仕事のノウハウも手伝って、私の自分磨きは効果を出し始めた。
喜んだのは、あの友人だ。
「最近綺麗になったね。というか色気でた!」
「実は、石積君と向き合ってみようかと思って…」
「じゃ、自分から誘いなよ」
と言われ、スマホを突き付けられた。
「ひたむきに送ってるのに、なにこれ」
「……自信が持てたらと思って。既読無視を」
「デートしてきなよ!潤」
友人が前のめりになった。
「この子、私と同じ会社なんだよね。本当にあんたが気に入ったらしいよ。私前から思ってたんだけど、潤、年上より年下が合ってるんじゃない?」
「え?」
「人には、無償の愛も必要なんだよ。石積くんはそういうタイプ。少し前に年上にフラれたんだって」
「年上に」
……鏡に映った自分は、いつしか綺麗になっていた。
ベランダの晩酌を済ませてから、スキンケア、寝る前のヘアケア、日中のささいなストレッチ、コスメの研究を怠った日はない。
「営業も、そうだった……こつこつ飛び込みを繰り返して、大きな柱を掴んだの」
同じことかもしれない。
私は恋愛もコツコツから始めれば良かったんだ。
繰り返してみていたチャットを開き、メッセージを置いた。
「こんにちは」
彼が使うような相手を和ませる「絵文字スタンプ」などはない。
すぐに「こんばんは!」となにやら元気な鳥が翼を上げたスタンプのあと「お疲れ様です!」と挨拶。
「なんか、楽しくなってきた」
友人の前で、私はささやかにメッセージを送ってみた。
「良かったら、食事でもしませんか?」
「いつにしますか!今夜、どうですか?」
あわあわとスマホを浮かせる前で、友人は「OK」と打ち込んでしまった。
「決めたらグダグダしないんでしょ!仕事も恋愛も同じなほうが、あんたらしい」
友人は「じゃあね」
とレシートを手に去っていき、私は彼と食事の約束をした。
コスメってなんか、楽しくなるのよね。
持ち歩いていたネイルオイルと、ヒキヨセアイカラーを並べて、私は心の奥から「ふふっ」とほほ笑んだのだった。
第四章
石積くんは意外と真面目で、仕事に熱心で、結婚願望もあるようだった。
「俺、彼女はもう作れないと思います。未来のために貯金したいのに、現在に投資させられてね」
「おねだり上手だっただけでしょ」
「いや、女の子って金かかるときはかかるんで。俺が出さないと嫌な顔する子もいるんです」
「厳しいなら、ここ、払うから。好きなもの頼んで」
「潤さん、それはだめです」
いつでも石積くんは割り勘か、自分が払うと言ってくれた。
私のほうが長く働いていて生活も安定しているとわかるだろうに、
「今日給料日前なので、せめて半分だけ」と言ってくる。
たった一杯の珈琲でも、彼はちゃんと支払ってくれた。
それから数回デートに行き、3回目のデート。
「順番逆かもしれませんが、俺と潤さん、金銭感覚も、職業も似ていますし」
「同じよねぇ。ライバル会社だけど」
「今日給料日ですから、覚悟決めてきたんですよ」
石積くんは私の手を取った。
「俺と、今晩付き合ってくれませんか?」
恋愛すら数年ぶり。
もちろん、肌の触れ合いなんて……
私は自分のデコルテに触れて、はっとした。
昔、細やかだといわれた覚えがある。
でも最近は、仕事仕事で分厚い何かを纏ってしまった。
それが、今になってきれいに無くなって、欲目かも知れないが、綺麗に見える。
(きっと、大丈夫)
黒猫が落としたコスメは、とても香りが高級で、幻想的な美しささえ感じさせた。
学生時代に憧れた魔性の大人の女性の妖艶さ、高級感あふれるフローラル。可愛げのある甘いバニラに、愛らしいチェリーの香りの組み合わせ。
「潤さんは、年上なのに、愛らしさもあって、そして官能的なんて欲張りですよ」
「きみは、最初からそういう口調だったよね」
「きみ、じゃなくて、大地」
さらりとした唇に、”溶け合っている”と実感するキス。
窓際での抱擁に、静かな部屋。
だからこそ、わたしの香りが生きるのだろう。
「すごい、香ってるね」
「なんでだろう」
「俺に恋しているからですか?」
変わらず、イメージは「生意気な年下」でも、満たされる。
(そうか、私の恋はこうなんだ)
これなら迷わずに受け止められる。
もう、ベランダで涙を押し殺して晩酌もしなくていい。
今は、石積くんとの電話のほうが多いのだから。
「こんな私だけど、頑張ってると思うんだ」
挿入の予感を感じて、私は彼…大地にゆっくりと告げたりする。
「だから、いまも頑張るの」
ワンレンにウエーブの髪が舞い降りる。
もう、目が霞んで見えなくなる。
嬉しさと、困惑と、期待と緊張で。
丁寧にほぐされたそこに、大地の熱を感じた瞬間、私は目を閉じた。
「仕事も、没頭型だからね」
***
蒼い時間が過ぎて、私は念願の腕枕で、満足の一息を吐き出したところだった。
大地は何度も瞬きを繰り返している。
「あの……恋が久しぶりって嘘だよね」
「ううん、ほんと」
言うと大地はくるっと背中を向けて、またちらっとこちらを見て顔を手で覆って見せた。
「ねえさん、エロすぎます…」
どうやら、大地も没頭型らしい。
仕事と恋と、両方できる年下は、私の大切な大切ないとおしい恋人になった。
END
あらすじ
ずっと仕事に命を捧げてきたため、恋愛経験ほぼゼロの潤。
でも本当は、色気をつけて素敵な恋愛をしてみたいけど一歩踏み出す勇気が出ない。