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官能小説 フライト×KNIGHTの秘密の恋 後編

私だってこれから

「いいよな城崎は、自由で」

「旅行が好きだっただけ」

そっけなく返答した。脳裏が落ち着かない。
(なんで元彼にまた会ってるんだろう)脳裏は吉秋のことばかり。凄くダメな女になった気がしてきたからだった。

でも、やっぱり。


弾力のある男の手が伸びてきた。

「悪かったと思ってる。やり直さないか?」


麻衣香は心のなかで、吉秋を強く想った。

「ごめん、もう無理」


男の手が緩んだ。がっくりと椅子に座る姿を見ないようにして、喫茶店を飛び出した。
雨……。惨めになろうと一歩踏み出したところで、携帯にメッセージが届いた。


『成田に帰還しました。良かったら空港で逢えませんか』

「そこ、職場なんだけど……」


雨は一層強くなって麻衣香は頬を晒した。目に映る灰色の空が滲んで見える。
 ……わたしは本当の自分をさらけ出せないと思っていた。それでだめならダメでもいい。もう二度と嘘はつきたくない。

 寂しかった可愛くなるためのトレーニングの日々。最後には、名前を呼びながら、さらけ出すシミュレーションまでやったのだから。


(あたし、頑張ったんだよ、可愛くなったと思う)

 そんな風に努力して来たから、みんな恋が凸凹でも巧く行くんだ。
私だってこれから……まだ、遅くはない。きっと。

騙していてごめんね。

『空港の第二ターミナル、72番搭乗口です。ラスベガスから今、戻りました』

 メッセージを確認しながら空港の入り口に飛び込んだ。
あまりに広いエントランスのエスカレーターを駆けあがって、第二ターミナル近くの待合所まで走った。

「……アメリカの発着便、ないじゃない」

 ラスベガスからの便は二時間前に一つだけロサンゼルス経由の便。しかしとっくに電光掲示板からも消えている。

「なんなのよ……もう」ショーウインドーに映った自分を見、唖然とした。
雨に濡れて潰れた髪はゆる巻きが外れていて、伸びてしまった。高級な革のサンダルは水浸しで再起不能で切れかかっている。
コートには濡れた水の染みが残っていて、何より大慌てで走ったせいで、雪山を走り回った雪ん子の如く、鼻が赤い。

「最悪」とベンチに座るなり笑いがこみ上げて来た。
みっともなくも一生懸命な姿が愛おしくて可笑しいなどと感じ始めたのはいつからだろう。 マリンビーンズがぽんと浮かんだ。

「……うん、そうね、うん」恥ずかしさで頬を撫でた瞬間、急に首筋が重くなった。
力のある腕が麻衣香の肩をしっかりと押さえている。確かな抱擁をくれた腕を掴んだ。ゆっくりと涙が出て来てお帰りなさいも言えなくなっていく。


「良かった。ちゃんと来てくれたんだ……ただいま」

 抱擁が温かくなって、麻衣香は染みわたる感情をゆっくりと噛み締めた。

「お帰りなさいの前に、これだけ言わせて」


 涙声が脳裏にも響く。なんて弱い女。弱い女にはなりたくなかった。でも、弱くてもこの人はあざけったり、失望はしないだろう。

いま、震える声で、ちゃんと、言うから。


「騙してて、ごめんね。意識高いとか、嫌われたくなくて……仕事、嘘を言ってたの」

 吉秋はただ、無言で麻衣香を抱きしめ、鼻を摺り寄せた。無機質のベンチは一層温かくなった。

「うん、聞く。勝気な貴女の決心だね」

「……ACC航空会社キャビンアテンダントなの。長期出張が多くて、逢えない日が多いけど、仕事が好き。寂しかったなんて勝手だけど、会いたかった」

「驚いた。ずいぶん素直になっちゃって。飛行機、好きだもんね?」

 ふ、と吐息が首を擽るを止めて、耳朶に風が吹いた。

「貴方が置いて行ったもののおかげでね。空港が好き、飛行機が好き、この職業に誇りを持ってるの。こんなあたしでも、いい?」


 抱擁の姿勢の吉秋はゆっくりと声を響かせ、寂しさに染まっていた麻衣香の鼓膜を揺らして見せた。


「ん、早く味わいたいな。すっかり食べ頃になった貴女を」

(素直になったけれど……何て返せばいいんだろう)

麻衣香は「うん……」と小さく頷いて、 しばらく顔を向けられず、困惑の中で、時間は穏やかに過ぎて行った。

可愛くなったのはどうして

官能小説挿絵:ベッドの上でキスをしている
男女

「本当だ、唇も柔らかくなってる」


シャワーを浴びた後の愛の交しはゆっくりとキスから。うっとりと目を閉じた。
壁に寄り掛かった姿勢で、胸を開けられて、緊張した突起を指先で撫でられる。丁寧な仕草で勃たされて、今度は強く目を瞑った。絶妙な舌先の動きにベッドの縁をぎゅっと掴む。
溶かすような吉秋の愛撫は性急過ぎるわけでも、遅すぎるわけでもない。


「色々分かったけど、私は相当の頑固ものね。何も考えなくて良かったの。してあげる」

「え? いいんですか?」


 麻衣香はこくりと頷いた。あれほどまでに焦がれた恋人が目の前にいる。
ただ、恋して愛でれば良かった。欲しいと、今日は言えるだろう。

 丁寧に気持ちを込めて、口唇で包むと、吉秋は小さな声を聴かせてくれた。


「恋にハイスペックの秘密は要らないんだって……教えたかったのね?」

「麻衣香さ……喋らないで、ひび、く……から」


 一層熱くなった血流を強く受け止める覚悟をして、そのまま飲み干した。けほっと咳き込む麻衣香を吉秋はすぐに抱き上げ、膝の上に連れて行く。
既に勃起を始めた己にスキンを被せると、先端をゆっくりと麻衣香の秘部に充て、息を潜めるように問う。


「俺がいない間、いっぱいした?」

「え……ここで、聞くの? した……よ、何回かは数えてな、い……」


 明らかに以前とは違う。絶妙な濡れ具合は微かな水音で感じ取ることが出来た。
秘部を片手で押さえて、膝をつけたまま、太ももに力を入れて、腰を浮かせて少し反らせる。


「分かるでしょ……今、道を開けるから……来て」


 頬はみっともなくも緩んでいるだろう。目も耐えがたく潤んでいるだろうし、唇はきっと濡れて少し淫靡に見えるかも知れない。
でも、いい。もう、後悔はしたくないから。


「もう、隠し事はしな……ああっ……」

「ちょっと妬いたから」

「え? 妬くと大きくな、るの?」

「こんなに思う通りに行くとは思わなくて」


(あ……すごい、来る、ここで、グッと……引き込める……)

腰を浮かせて奥に引き込む。あのマリンビーンズで知った最後の秘密だ。


「そんなことまで出来るんだ。気持ちよく連れて行かれた……もつかな」

 嬉しそうな表情のまま両手で包んで、引き寄せると麻衣香からキスを落とす。


「……お互い頑張りましょ……今日は、大丈夫」

「ん。言った通りに可愛くなったね、麻衣香さん」


――振動を思い出す。けれど、今日はずっと熱くて重い。膝に載って頭をかき抱きながら、合わせた動きを取ってみると、やっとひとつになれた実感。目尻から熱い涙が滴り落ちた。

あたたかい、とても。融け合ってる、ちゃんと、一緒に、真っ白にきっと飛べる。


「可愛いよ」この言葉がわたしに似合うとは思わなかった――。

フライト×knightの秘密の恋

何度目かの絶頂の余韻に目を閉じる麻衣香に、吉秋がふと、告げた。

「俺も隠し事してたよ。二つほど。言えば心配するし、不在時は連絡も取れない。待っててくれたのは、麻衣香さんだけだったな」

 きょと、と余韻からゆっくりと還って来た麻衣香を吉秋はまだ挿れたまま抱きしめた。

「本当は、空港で麻衣香さんを良く見かけてたんだ」

「空港? ああ、搭乗のお客様ね?」

 吉秋は言葉に詰まり、復活したそうにゆるゆると突きながら、視線を一瞬だけ反らせて、また瞳を輝かせた。

「騙すつもりはなかった。俺も国際線の副操縦士」

「副操縦士? じゃあ、わたしと同じ境遇……?」

 吉秋はバツが悪そうな声音で、頷いた。

「航空会社は違うけどね。よく麻衣香さん見かけてたよ。あと、俺は年下です」

「ええええ? 同業な上に年下? 貴方のほうが、秘密が大きいよ」

「年下だと言うと、捨てられそうだったから……つい。見栄を」


(ふふ、そうだったの)と幸せな心地で、ぎゅっと抱き着く。すると大きく震えた中の吉秋に胎内を擦られて、再び眼界がぼやけて来た。


「麻衣香さん。そんなに可愛くなった原因を教えてよ」

再度、マリンビーンズを思い浮かべ、今度こそ頬が熱くなった。

「貴女からの素敵なプレゼントのせい」

「本当かな。今度可愛くなってる姿、見たいな」

「わかってるでしょ本当は! 今度、逢える時でいいならね」



 ***

 ――数日後。


(そう、私は飛行機が好き。飛び立つこういうのが好きだった)

朝陽を浴びた飛行機がテラスからも見える。麻衣香はスカーフを首に巻いた。
吉秋は17時間のアメリカロスへ。麻衣香はウクライナ経由のフランス・イギリスを回り、また日本へ。次に逢えるは二か月後。


「じゃあ、お互い元気で。また逢おうね」

薬指に指輪を輝かせてすれ違いながら、一歩進み、背中越しに手を振った――。



END

あらすじ

吉秋からもらったラブグッズでかわいくなるためのトレーニングを頑張っていた麻衣香。>br>吉秋が出張中、彼のことが頭から離れない…。
そして、吉秋から帰国の連絡が来て、麻衣香はついに…!

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