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官能小説【前編】あなたとひとりエッチ


発覚したヒミツ

★作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、「ラブグッズで熱く感じる小説コンテスト」のLC賞作品です。ドキドキの小説をお楽しみください。

「俺はね、ほんと時々ナナが、天然なのか計算なのかわからなくなるよ」

ちょっと貸して、と言って座ったあたしのノートパソコンの前で。

諒ちゃんがそう呟いたのは、ちょうど一週間前のこと。

―――そして今。

「さて、どれから使う?」

そう言って、諒ちゃんはにっこりとイイ笑顔を見せた。

一週間ぶりのお泊りの土曜日。
向かい合う二人の間には、一緒に晩ご飯を食べた白いローテーブル。
今日のメニューはオムライスと唐揚げで、健全な食事が置いてあったそこに、今は、所狭しと並べられた、ピンク、ピンク、ピンク。

その向こうで笑顔の諒ちゃんとは反対に、あたしは引き攣った顔で、目の前に広がるピンクを凝視するのみだ。

「とりあえずナナの履歴追って買ってみたけど、ご希望の品に間違いありませんか?」

爽やかスマイルで、ショーケースから取り出した各種ケーキの確認を迫る店員みたいに言う諒ちゃんが怖い。

「いや、えっと、あのデスネ…」

「女性向けサイトだけあって、やっぱグッズもビジュアルが可愛めなんだね。ナナもコレなら抵抗ない感じなの?」

「あ、あの」

「種類も豊富だし。ローターもどれがいいのか悩んだけど、一応定番をチョイスしてみた」

「え、う」

「バイブもね、とりあえず初心者向け、ってとこで選んだけど、ナナ、それで良かったかな?」

「あ、や」

「だって、ナナが洗面台の下に置いてたディルドは、初心者のファーストチョイスにはちょっとハードル高そうだったから」

「…っ」

立て板に水。
流れるように言い連ねた諒ちゃんの手元で、ぶいいぃん、と鳴るモーター音。
動作確認するようにピンク色のダイヤルを回せば、楕円形の物体が諒ちゃんの手の中で跳ねて。

「あ、結構な振動。―――ごめんね、七海。俺の身体じゃ物足りてなかったんだよね」

にこり。
スイッチを切って言った諒ちゃんの笑顔に、

「…っ、ちがうんですぅうう!!」

あたしは半泣きで後ずさり、土下座した。

好奇心は身を滅ぼす。
先人から伝わる格言は、現代でも生きているだけあって確かだ。
そこに、「うっかりも身を滅ぼす」という一言も付け加えたい。

発端は、衝動的に買ったラブグッズ。

笑顔に油断して

その時あたしは、悩んでいた。
原因はアレだ。毎月毎月、否応なく訪れる、排卵日前のエロモード。
とにかくムラムラする。ムラムラしてなかなか寝付けない。
したくてしたくて仕方ない。

そんな、どうしようもなく激しい欲求。
それに襲われるたび、女の人生はつくづくホルモンに支配されているんだな、とあたしは思う。

とはいえ、致し方ない生理現象だとしても、いつだって都合よく彼氏に満たしてもらえるわけはなく、だからってもちろん、好きでもない男の人とする気もない。

仕方ない、なんとか自力でこの疼きを収めようと、自分で自分を慰める夜を過ごすのは、25年も生きてれば珍しいことじゃなかった。
自分の指で身体に触れて、刹那の快感を得て。
それでもなんとか満たされていたのだ、―――今までは。

それじゃダメになったのは、どう考えても諒ちゃんのせい。
外の突起を触って、絶頂を味わっても物足りない。
グチョグチョに濡れた膣に自分の指を入れても、切なさはつのるばかりで。
欲しいのは指じゃない、触れて欲しいのはもっと奥で。

諒ちゃんに教えられた、狂おしく全身が痺れるような深い快感。
それが欲しくて恋しくて。
もっと太くて硬い物で、奥を攻められたい。
その欲求は、半端に自分を慰める夜を過ごすたび、あたしの中で大きく膨らんでいったのだ。

―――これってどうなんだろう。他の人は?ひょっとしたらあたし性欲が強いのかな―――新たにそんな悩みまで派生させながら。

とうとう我慢できなくなったあたしは、その日、一大決心をして、パソコンの検索ボックスにその文字を入力した。
バイブ、と。

検索対象にバイブを選んだのは、まぁ単に中を攻めるグッズとしてはメジャーなものだったから。
というか、ローターとそれくらいしか知らなかったから、他に選択の余地がなかった。
とはいえ、バイブ。

ムラムラの勢いに任せて検索したものの、そういうグッズのイメージは「なんか怖い」で。
そういうサイトのイメージも「なんか怖い」。
黒くて紫でグロテスク、そんな感じ。

だから、即座に表示された検索結果を前に、やっぱりしばらく悩んで、だけど女性向け、と書かれた説明文にちょっとだけハードルが下がったサイトを、あたしは期待と不安でドキドキしながらクリックした。
それは、人生で勇気を出したランキングでいえば、かなり上位に入る行為。

なのにいざ開けば、そこには拍子抜けするほど、なんだか清潔で明るい雰囲気と、ポップでカラフルでファンシーなラブグッズの世界が広がっていて。
怯えていた分、その思いもよらない明るさの世界に安心して、あたしはつい、好奇心のまま次々とラブグッズのページをクリックしてしまったのだ。

そうしてうっかりと、購入したラブグッズを諒ちゃんに発見され、さらにそこからPCに残った履歴をチェックされて―――現在の状況に至る。

「やぅ、だ、だから、諒ちゃんとのエッチに満足してないとかじゃないって言ったぁ…っ」

「うん、聞いた。あ、でもコレはいいね。ナナ、いつもより反応いいし」

「んっ」

太ももの内側をなぞる諒ちゃんの手。いつもより強い力でそうされても、ぬるりと滑る透明な液体で覆われた肌は快感を感じるばかりだ。
ビクビクッ、と筋肉が痙攣して、

「ああ、ここも?いつもならこんなに感じないとこなのにね」

諒ちゃんのからかうような言葉に、羞恥で震える。
でも、与えられる快感に抗うことが出来るはずもなく、あたしは、肌を滑る諒ちゃんの手のひらに、どうしようもなく濡れた身体をくねらした。

―――『ああ、そういうこと。…うん、わかった』。

あわあわしながらのあたしの説明に、すんなり納得してくれた諒ちゃん。
基本彼は、うっかりでお間抜けなあたしの言葉を疑うことはないし―――今回に至っては、ムラムラして一人エッチしてるなんて、正直彼氏にも言いたくなかったことを羞恥に打ち震えながら暴露したんだから尚更だ。

だから、もともとあまり負の感情を引き摺るタイプでもない諒ちゃんが頷いてくれた後、いつも通りの笑顔で『じゃあ、遅くなったし、今日は一緒にお風呂入ろっか』なんて言ってくれたから、ああ良かった、ってあたしはホッとして。

だからうっかり、その問題にまだ未解決な部分があることと、もう一つの問題が発生したことを見逃してしまったのだ。

―――バスルームに連れ込まれてどれくらい経つんだろう。
身体と同じくらいドロドロになった頭で、ぼんやり考える。
正確には、これも買ってみたんだよね、って言った諒ちゃんに、ぬるぬるのローションで身体中撫で回されはじめてからどれくらい、だ。

くちゃくちゃ、ピチャピチャ。

いやらしい音を響かせながら肌を這い回る手のひらに、泣きたくなるほど身体の熱を高められて、味わうのは拷問のように苦しい、甘い時間。
そう。諒ちゃんとのセックスに満たされてないわけじゃないって、あたしのその言葉に頷いてくれても、手に入れたグッズを諒ちゃんが使う使わないはまた別の問題で。

ナナが気持ち良くなってくれる分には、いくらそうなってくれてもいいわけだから、と言った諒ちゃんに抱え込まれた後は、身体も頭の中もトロトロにされて、あたしは必死で嬌声を堪えながら、もうずっと諒ちゃんの腕の中で悶え続けていた。
だけど。

官能小説挿絵:彼の腕の中で抱かれる女性

不穏な感情

「ナナ、えろい顔。ずっと腰揺れてるよ」

「やっ」

揶揄するような声。
その声音に、諒ちゃんがただこの行為を楽しんでいるわけじゃないってことをうっすらと感じて、快楽に溺れながらも、あたしの胸の底にはかすかな怯えが滲む。

だけどそれでも、触れられるあたしの身体がどうしようもなく乱れてしまうのは―――触れてくる諒ちゃんの手がちっとも乱暴なものじゃないから。

そして、ちゃんと説明したのに、納得してくれたはずなのに、まだどこか不穏な感情を抱えている諒ちゃんのそのわずかな不機嫌が、そのままこの執拗な愛撫になっているんだってことがわかるから。

「んっ」

諒ちゃんの左手が胸の丸みを掬うようになぞって、あたしの身体がまた跳ねる。
―――こんなの、いつもと違いすぎる。
乾いた肌をくすぐられるのとは違う。もどかしくて、なのに溶けちゃいそうに気持ちいい快感。
その初めての感覚に、頭も身体も引きずり込まれて、夢中になってそれを貪ってしまう。

「ナナ、ここのトロトロはナナの?それともローション?」

「んんー…っ」

マッサージするような手つきで、内腿の付け根を往復する諒ちゃんの右手。
その動きを追えば、嫌でも目に入る自分の痴態。
透明な液体でぬらぬらと光り、諒ちゃんの膝に足を開かれた状態で。触れられなくてもツンと起ちあがったままの乳首を身悶えるたびに震わせて、それは泣きたくなるくらい淫らで恥ずかしい姿。

なのにそんな自分に興奮してる自分もいて、こんなんじゃ諒ちゃんの思う壺だ。

ゆるゆると恥丘に迫る手に、ふやけた頭が期待と慄きで震えてる間に、それは中心にたどり着いて。
ピチャピチャッ、とわざと音を立てながら、諒ちゃんはそこを指先で軽く叩いた。

「んっ…!」

「すっごい音」

囁いて、今度は小さな窪みをくるりと撫でる。
縁をなぞる感触に、思わずひくん、と揺れたそこに、諒ちゃんは小さく笑った。

意地悪な問いかけ

「ナーナ、これはどっち?」

「や、わかんな…っ」

そんなの分かるわけない。だってどこもかしこもローションまみれの手で撫で回されて、敏感になりすぎたあたしの身体はもうずっとそこからいやらしい液を零し続けている。

「…舐めたら分かるかな?」

そんなことを言って、耳たぶをぺろりと舐めて、諒ちゃんの指が、グリグリと穴を押し撫でるから。
期待と興奮に、吐く息が震える。
諒ちゃんの指。
入り口に押し当てられたそれが、中に欲しくて。

「りょ、諒ちゃ、」

焦らされて焦らされて、収縮を繰り返す膣口。
懇願する声で名前を呼び、あたしは必死で首を回して、諒ちゃんを見上げた。

「諒ちゃん、お願い、もう」

だけど見つめるあたしに薄っすらと笑って、

「ナナ。まだ、一番肝心なこと聞いてなかった」

諒ちゃんはそう言うと、

「―――ね、ナナ。このディルド、ここに何回入れたの?」

あたしの目の前に、ピンク色のそれをひょい、とぶら下げた。

「…っ」

小首を傾げる仕草を前に、あたしは一瞬、快感も忘れて目を見開く。

―――それか!

頭にひらめく、諒ちゃんの微妙な不機嫌の理由。

「な、なんでそれ」

「んー、抹殺しようかとも思ったんだけどね?ナナの話聞いたら、使わせてあげないのもかわいそうかなーと思って」

―――だって結局、俺のせいみたいだし。

「え、いや…っん!」

ぬぷり。
不意に指先を挿し込まれて、それがぐるりと内側をなぞるから、思わず腰が震えた。

「あ、っ」

「でもなんていうか…この形状的に。どうも許せない気持ちもあるっていうか」

「あ、あ…っ」

「ね、何回こいつに気持ちよくしてもらった?」

ぐち、ぐちゅ。
浅いところの弱い場所。そこを強く弱く掻きながら、耳元で意地悪に訊いてくる声。
掛かる息にも震えて。

「ナナ、これでどんなふうにしたのか教えて?」

「ん〜〜〜っ」

「俺以外のペニス、どんな顔で咥えたの?」

「やぁ、それ、違う…っ」

「違わないでしょ。バイブで検索したくせにディルド買って。ああ、ほんとこの形が欲しかったんだなぁ、って思っちゃった」

「〜〜〜っ」

「かわいいね、ナナ。もう、コレがなくちゃ満足できない身体になっちゃったんだ」

笑いを含んだ声に言い当てられて、恥ずかしさに強く目を瞑った。

諒ちゃんの言う通り。
結局あたしはあの日、バイブではなくディルド、なるものを購入して、それはやっぱり…形状がそれっぽかったから。

あたしの最優先の欲求は、とにもかくにも、単純にアレで奥を突かれたい!で、だったらその目的を果たすのには、あの形が一番だと思えたのだ。
とりあえず、別口でも快感を得たいっていうような、オプション的な要素を求めてもいなかったっていうのもある。

あと、お風呂で使って気楽に丸洗いできそう、って感じも、めんどくさがりのあたしにはポイントだった。

「ナナ?」

「い、一回だけ…っ!」

グッチュグッチュ、と動きの大きくなった指が、中を掻き回す。ひっきりなしに溢れてくる愛液が大きな音を立てて、それにも恥ずかしさが増して、あたしはイヤイヤするように首を振った。

「せっかく買ったのに?一度だけなの?」

あたしの言葉に、疑問形の諒ちゃんの声が少し柔らかくなる。

「ふ、だっ、て…。…あ、あんまり気持ちよく、なかった。から」

⇒【NEXT】あなたが欲しいのに、どうして(あなたとひとりエッチ 後編)

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あらすじ

『したくてしたくて仕方ない』――…。
そんな欲求から、好奇心で購入したラブグッズが彼にバレてしまう。
わずかに不機嫌な彼からの執拗な愛撫で、身も心もとろとろに溶かされて…。

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