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官能小説 結婚8年目、夫の理性が壊れた夜


結婚8年目、夫の理性が壊れた夜

「ねえ、修平。今日の夕飯、カレーでいい?」

「ん、いいよ。いつもありがとうね」

リビングの深緑色のソファから返ってくる夫・修平の声は、壁掛けテレビから流れる薄っぺらいバラエティ番組の笑い声に半分ほどかき消されていた。

39歳になるまみは、トントンと軽快な音を立てながら、まな板の上で人参を薄切りにしていく。
切ったばかりの野菜の少し泥くさい甘い匂いが、夕暮れ時のキッチンにほのかに立ち込めていた。

結婚して8年。子どもはいない。
お互いにフルタイムで働き、家事もほどよく分担し、大きな喧嘩もなければ浮気の心配すらない。

夜の営みだって完全にゼロというわけではないのだ。
月に1、2回程度、お互いの仕事の疲れや体調のタイミングが合えば、極めて滑らかに、丁寧な儀式のように行われる。

嫌いなわけじゃない。
それどころか、いつも穏やかで誠実な修平のことは今でも深く愛していると思う。

けれど、ふとした瞬間に胸の奥がすっと冷たくなるような感覚を覚えることがあった。
褒められることもなければ、叱られることもない。

新婚の頃のように熱い眼差しで見つめられることもなく、ただ『安定した夫婦』という頑丈な枠組みの中で、今日と同じような明日が淡々と過ぎ去っていく。

私の存在は、この快適で清潔な家の中でどれくらい鮮明なのだろう。

贅沢で身勝手な悩みを抱く自分に小さく嫌気が差し、まみはふうと息を吐きながら鍋の蓋を閉めた。

***

そんな重たく停滞した日常に小さな揺らぎが訪れたのは、肌寒い風が吹き抜ける金曜日の夜のことだった。

修平の勤める専門商社で創立記念パーティーが開催されることになり、配偶者としての同伴が求められたのだ。

普段のまみは、どこにでもあるような無難なカットソーにスラックスという、街を歩けば誰かと被る動きやすさ重視の格好ばかりだが、この日ばかりは銀座の百貨店で買い求めたネイビーのタイトドレスに身を包んだ。

背中が少しだけV字に開いたデザインは、着るのに少し勇気が要った。
髪をアップにまとめ、首筋にほんの少しだけ柑橘系のパフュームを吹き付ける。

姿見に映る自分は、思いのほかまだ『女』の佇まいを残している気がして、胸の奥で小さな高鳴りが弾けた。

鏡に映るドレス姿のまみ

静かにリビングに入ると、黒のタキシード風スーツに着替えた修平がスマホの画面を眺めていた。
カフスボタンの銀色が、部屋の照明を受けて冷たく光っている。

「お待たせ。どうかな……ヘンじゃない?」

修平はゆっくりと顔を上げ、まみの全身を上から下へと一瞬だけ視線でなぞった。

「うん、すごく綺麗だよ。よく似合ってる。じゃあ、そろそろタクシーが来るから行こうか」

その声はどこまでも平坦で、凪いだ海のように波立っていなかった。

綺麗と言ってくれたけれど、それは「遅刻しないように出発しよう」という定型句の前に添えられた、ただのマナーのような言葉に思えてしまう。

まみの胸の中に膨らみかけた小さな期待は、一瞬で萎んで小さくなった。

***

華やかな高級ホテルの宴会場は、洗練された立食パーティの熱気とグラスの触れ合う澄んだ音で満ちていた。

高級なシャンパンの泡が弾ける甘い香りと、人々の濃厚な香水の匂いが混ざり合っている。

営業部の中核として活躍する修平は周囲からの信頼も厚く、会場に入るやいなや次々と役員や取引先から声をかけられていた。
まみは彼の少し後ろに寄り添い、控えめな微笑みを浮かべながら何度もお辞儀を繰り返す。

「まみ、ちょっと常務にご挨拶してくるから、ここで少し待っていてくれるか?」

「ええ、いってらっしゃい。気にしないで」

修平が人混みの奥へと消えていくと、まみはグラスを手に壁際へ移動し、小さく息を吐いた。
人酔いしそうな熱気の中で、ひとりの時間ができたことに少しだけ胸を撫で下ろす。

すると突然、隣から爽やかな声がかけられた。

「あの……もしかして、吉岡先輩の奥様ですか?」

振り返ると、そこにはピシッとした新品のスーツを着こなした若い男性が立っていた。
胸元には社員証のネームプレートが下がっている。

「あ、はい。吉岡です。はじめまして」

「はじめまして! 今年入社した営業部2課の桐野と申します。いやあ……びっくりしました。吉岡先輩から『妻が来る』とは聞いていたんですけど、まさかこんなにお綺麗な方だなんて」

桐野と名乗った20代半ばの青年は、眩しいほどの笑顔でまっすぐにまみを見つめた。
その瞳には隠しきれない感嘆の色が浮かんでいる。

「そんな、お世辞でも嬉しいです。ありがとうございます」

「お世辞じゃないですよ! そのドレスもすごく上品で素敵ですし……正直、遠くから見た時からずっと目が離せなくて」

真っ直ぐすぎるほどの視線と称賛の言葉に、まみの頬がカッと熱くなる。
何年も忘れていた『ひとりの女性として見られている』という甘い羞恥と照れくささが、胸の奥をキュッと締め付けた。

「グラス、空になりそうですね。シャンパン注いできますよ」

「あ、大丈夫ですよ、自分で――」

桐野が気さくに身を乗り出し、まみのグラスに手を伸ばそうとしたその瞬間だった。

ぐいっ、と強い力でまみの腰が引き寄せられた。バランスを崩したまみの背中が、固く厚い胸板にすっぽりと収まる。

強い力で抱きかかえられた肩越しに視線を巡らせると、いつの間にか戻っていた修平が立っていた。

修平の大きな手は、まみのドレスのV字に開いた背中に直接触れていた。

仕立ての良いジャケットの隙間から伝わってくるのは、尋常ではない夫の体温と、かすかに震える指先の硬さだった。

「桐野。うちの妻にあまり親しげに話しかけないでくれないか。人見知りするんだ」

修平の声は、言葉こそ丁寧だったが、桐野に向けられた瞳の奥には見たこともない冷ややかで鋭い光が宿っていた。

まるで自らの大切な領域に踏み込んできた侵入者を強く警戒するかのような、異様な威圧感。
自分でもこの湧き上がる感情を抑えきれていないかのように、修平の呼吸はかすかに乱れていた。

「あ……す、すみません! 吉岡先輩! ちょっと、あまりにもお綺麗だったものでつい……失礼しました!」

修平から放たれる異様な空気に気圧された桐野は、ぺこぺこと何度も頭を下げながら逃げるように去っていった。

残された二人の間に、重苦しい沈黙が流れる。

修平の手はまみの背中を強く抱きしめたまま、むしろさらに力を込めて自らの体へと密着させていた。

「修平……? どうしたの、急に。知り合いの方でしょ?」

「……別に。もう挨拶は済んだ。帰るぞ」

修平の低い声には、普段の穏やかさからは想像もつかないような、ピリピリとした緊張感と険しさが混ざっていた。
彼自身、胸の奥で渦巻く未知のドロドロとした熱い感情に、激しく困惑しているようだった。

帰りのタクシーの車内は、息が詰まるほどの沈黙が支配していた。
流れる街灯のオレンジ色の光が、窓ガラス越しに修平の横顔を幾度となく照らし出す。

固く結ばれた薄い唇、微動だにしない顎のライン、そして膝の上で強く握りしめられた大きな拳。
修平の整った横顔は、これまで見たこともないほど歪み、葛藤に満ちていた。

まみは戸惑いと、そして理由の分からない激しい鼓動を胸に感じながら、隣に座る夫の横顔をじっと見つめていた。

タクシーの中、夫の横顔を見つめるまみ

マンションに到着し、自室の重い玄関ドアを閉めた瞬間だった。

ガチャン、と施錠の金属音が響くと同時に、まみの身体は強く壁に押し付けられていた。

「きゃ……っ!?」

背中に走る壁の冷たさと同時に、暗闇の中で修平の大きな体が覆いかぶさってくる。
まみの手から滑り落ちたクラッチバッグが、フローリングの上に無機質な音を立てて転がった。

「修平……!? ちょっと、電気つけないと――」

「いらない」

耳元で落とされた声は低くかすれており、恐ろしいほどの熱を帯びていた。
修平の両手がまみの首筋を包み込み、そのまま強引に唇を奪われる。

「ん……っ、ふ……っ!?」

いつものおやすみ前のキスのような優しいものでは断じてなかった。

歯列を力任せに押し開かれ、温かく湿った舌が口腔の奥深くへと侵入してくる。
柔らかな粘膜を強く舐めとり、逃げようとするまみの舌を強く吸い上げるような、貪欲で激しい口づけ。

息ができなくなり、まみが修平の胸元を叩くと、彼はわずかに唇を離した。

しかしその瞳は、暗闇の中でもはっきりと分かるほど激しく揺れ動いていた。

「……自分でも、どうかしちゃったんだと思う」

暗闇の中、修平の掠れた声が玄関の静寂に響いた。彼の額が、まみの肩口にぽんと預けられる。

「パーティー会場で、あんな若い男と楽しそうに話してる君を見た瞬間……胸の奥が焼きちぎられるみたいに熱くなって、頭の中が真っ白になった。今まで生きてきて、誰かにこんな感情を抱いたことなんて一度もなかったのに……これが『嫉妬』なんだって気づいたら、自分でも恐ろしいくらいだった」

修平の指先が、まみの頬をすっとなぞる。その手はかすかに震えていた。

「君が他の男に見られて、僕の手の届かないところに行っちゃうかもしれないと思ったら、理性が全部吹き飛んだ。こんな格好、僕以外の男に見せたくない。君の笑顔も、声も、全部僕だけのものにして閉じ込めておきたいって……自分でも呆れるくらい凶暴な感情が溢れ出してきたんだ」

修平の初めて見せる人間らしい弱さと、激しい独占欲の告白。
その告白が、まみの心の奥底に溜まっていた冷たい孤独を、一瞬にして熱く溶かしていく。

「修平……私、ずっと寂しかったの……っ。あなたが何も言わないから、ただの同居人になっちゃったのかなって……っ!」

「ごめん……本当にごめん、まみ。僕が君の存在に甘えてた。言わなくても伝わってると思ってたなんて、全部僕の言い訳だったんだ……っ!」

修平の長くて硬い指先が、まみのドレスのバックファスナーへと伸びる。

ジ・ジ・ジという低い金属音が静まり返った玄関に不穏に響き渡り、ドレスが肩から滑り落ちた。

冷たい空気が裸身に触れた瞬間、修平の熱い掌がダイレクトにまみの胸元を覆う。

「あ……っ!」

「まみ……見せて。君の全部を僕に頂戴」

修平はまみの身体を軽々と抱き上げると、そのままリビングの深緑色のソファへと力任せに押し倒した。

ドレスと下着が一瞬のうちに剥ぎ取られ、全裸にされたまみの上に、ネクタイを乱暴に緩めた修平が覆いかぶさる。

そこにいたのは、いつもの『穏やかな夫』ではなかった。
自らの内に目覚めた激しい嫉妬と欲望に突き動かされる、一人の男だった。

「修平……っ」

「見て、まみ。僕がどれだけ君に狂ってるか……」

修平の手がまみの細い脚の間に滑り込み、熱く湿った秘所へと深く指をあてがった。
すでに溢れ出ていた密液の熱さに触れ、修平が小さく息を呑む。

「……すごく、濡れてる。僕の告白で、こんなになってくれたのか?」

「あ……っ、や、言わないで……っ!」

「言わせてよ。二度と君を不安にさせないって決めたんだから」

修平は指先で敏感な秘豆を優しく、時には意地悪く弾きながら、まみの耳元で甘く熱い言葉を囁き続けた。
『綺麗だ』『可愛い』『ずっと僕のものだと言い聞かせたかった』。
これまで言われなかった数年分の愛の言葉が、弾丸のように胸を突き刺し、身体の芯を痺れさせていく。

「あ……あん、っ! 修平、もう……入れて……っ!」

まみが耐えきれずに腰を浮かせておねだりすると、修平は自らの猛りを解き放ち、一気にまみの最奥へと貫いた。

「あぁっ……!!」

太く熱い存在感が、子宮の奥底を直接叩く。
久々の強い肉体的な衝撃に、まみの爪が修平の堅固な背中に深く食い込んだ。

「あ、は……っ、すごい……修平、奥まで……っ!」

「まみ、まみ……っ、愛してる、誰よりも愛してる……!」

修平は狂おしいほど激しく腰を突き動かし始めた。

いつもの丁寧で静かな行為とはまるで違う。
激しい体温のぶつかり合い、肌と肌が合わさる淫らな音、部屋中に充満する甘い蜜の香り。
修平の額から落ちた汗がまみの胸元を濡らし、ふたりの体温がどこまでも跳ね上がっていく。

「んぁっ、あ、あっ! すご、い……壊れちゃ……っ!」

「壊れない……僕が絶対に離さないから……っ!」

修平はまみの手を力強く握り締め、指を固く絡ませた。

左手の薬指に嵌められたシンプルな指輪が、カチリと音を立てて重なり合う。

ただの日常の金属だと思っていたそれが、今は二人を一生逃がさない鎖のように思えた。

「あ、あ……っ、イッ…ちゃう……っ!」

「一緒にイこう、まみ……っ!」

大きな絶頂の波が襲いかかり、まみの体内が強く絞り上げられるのと同時に、修平も奥深くで熱い種子を吐き出した。
視界が真っ白に染まり、まみは修平の肩に噛みつきながら、圧倒的な快楽の波に呑み込まれていった。

静寂が戻ってきたリビングで、二人は重なったまま荒い息を整えていた。

修平の体重が心地よく重く、肌にまとわりつく汗すら愛おしい。
修平はまみの乱れた髪を優しく撫でながら、何度も何度も額や頬、唇にキスを落とした。

「……痛くなかったか?」

「ううん……すごく、幸せだった」

まみが微笑むと、修平は少し照れくさそうに、でも愛おしそうに目を細めた。

「明日、どこか出かけようか。君が行きたがってた、新しいカフェとか」

「……うん! 行きたい」

「それと……さっきのドレス、もう僕以外の男の前で着ちゃダメだからね。僕と二人だけの時にして」

少しだけ意地悪く囁く修平の瞳には、以前のような無関心さは欠片もなかった。
そこにあるのは、初めて嫉妬を知り、妻を愛してやまない一人の男の情熱だった。

この8年間、自分たちは間違いなく幸せだった。

穏やかで、優しく、温かい日常。
何一つ不満なんてなかったはずなのに、今胸を包み込んでいるのは、あの平穏な日々とはまったく質の違う、熱く濃密な充足感だった。

お互いをただの「家族」や「同居人」としてではなく、ひとりの「男」と「女」として強く求め合い、剥き出しの感情をぶつけ合ったからこそ得られた、愛おしい絆の感触。

「修平」

「ん?」

「これからも、ちゃんと嫉妬してね。私も……あなたのカッコいいところ、誰にも渡したくないって思うようになったから」

まみが少し背伸びをして修平の唇にちいさくキスをねだると、修平は驚いたように目を見開いた後、心底愛おしそうに破顔した。

「重いよ? 僕の執着は。覚悟しておいてね」

「ふふ、望むところだよ」

明日になればまた、掃除をして、洗濯をして、夕飯のメニューを考える日常が始まる。

けれど、もう昨日までの「ただ過ぎ去っていく毎日」ではない。
これからは、言葉を交わし、ときには嫉妬し合い、互いを熱く求め直す、新婚の頃よりももっと深く甘い恋人同士のような日々が待っている。

指輪の嵌まった左手を力強く握り返されながら、まみは修平の胸に深く顔を埋めた。
聞こえてくる彼の力強い鼓動は、これから始まる新しい二人の時間に、愛おしい期待感を鳴らし続けていた。

END

あらすじ

刺激のない夫婦生活。
だが妻が美しく着飾った夜、温厚な夫の激しい嫉妬と独占欲が溢れ出す!

公開中のエピソード 全100話公開中
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