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官能小説 【中編】破れた恋の忘れ方 〜世話焼き後輩を煽ったら甘く返り討ちにされました〜
この作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した
「妄想小説コンテスト」の優秀賞作品です。
挑発
(……あぁ、洗濯物干したままじゃん)
ごろりと寝返りを打って見上げた先に、服や小物類がぶら下がっているのを見つけた。
最近は雨が続き今朝も天候が良くなかったので部屋に干していたのを今の今まで忘れていた。
その中には下着も吊るされている。
間違いなく目にしただろう。
迷惑を掛けてくる先輩の下着など見たくないだろうに、しかしハルトはそれをおくびにも出さなかった。
干していたことを忘れていたとはいえ、すでに散々情けない姿を晒している相手だとしても配慮はするべきだ。
(私ってほんとだめだめじゃん……)
振られたのは昨晩だ。
あと一日さえ待ってくれれば金曜日で、翌日のことなんか考えずにボロボロになるまで一人泣くことが出来たのに。
泣くのは今夜と決めていたから朝の気怠さも乗り切れたが、仕事を終えるともうだめだった。
すぐに帰ろうとしてしかし元気のなさをハルトに見抜かれて、ついつい吐き出してしまった。
もう後輩に甘えてばかりいられないと思っていたのに。
自宅にまで付き合わせるほど泣くつもりなどなかったのに。
ハルトにだって付き合いがあるだろう。自分に付き合わせてばかりで本当に申し訳なく思う。
(私もうだめかも……)
失意のどん底にまで落ちれば、心が影に覆われたような思いが巡る。
ネガティブな感情ばかりが顔を出して、どんどんと暗くなるばかり。
本当はしっかりなんてしたくない。
好きな人にワガママ言って困らせたい。
思う存分甘えたい。
嫌われまいと背伸びして、相手に合わせてばかりだったからいけなかったのだろう。
────こんな自分だから、きっと他の誰かにさらわれてしまうのだ。
「それじゃあ、先輩。僕帰りますよ」
やがて風呂掃除を終えたハルトが浴室から出てきた。
浴槽を洗うのに邪魔だからと袖を折ったのだろう。
いつもは袖に隠された前腕部が表に出ている。
(ハルトって、意外と逞しそうな腕してるんだ……)
帰ろうとする後輩を見送る気力もなく、ミカコはベッドに横になったまま支度をするハルトをぼんやりと観察した。
いつの間にネクタイも解いたのか、第三ボタンまで開けられたシャツの隙間から覗く鎖骨に、太い首にくっきりと隆起した喉仏。
歳下かつただの後輩だからと今まで意識したことはなかったのだが、こうして見るとハルトにはなかなかに“男”を感じるところが結構あるようだ。
そういえば、のしかかった背中も思ったより広くがっちりしていたような気がする。
「おーい、先輩?また沈んじゃってるんですか?」
ミカコが何の反応も返さないことを気にかけて、上着を羽織りながらハルトが傍までやって来た。
ベッドの横で膝をついたハルトと正面から目が合う。
(……睫毛……長い……)
こうして間近で見て初めて知れるハルトの一部。
絶世の美青年──では決してないが、猫のようなくっきりした目が案外可愛らしく見える。
もしかしたら結構モテる方の部類なのではないか。
本人に言ったら怒られそうだが、童顔なハルトの見た目が好きという女性は多い気がする。
そういえばいつも自分の話ばかりで彼の恋愛遍歴を聞いたことがない。
だからミカコは、彼に今、恋人がいるのかどうかさえも知らなかった。
「よしよし。先輩なら大丈夫です。きっといつもみたいに三日くらい経ったらけろっとしてて、前を向いてますよ」
優しい励ましの声が掛けられる。
だからもう泣くなと、大きな広い手がミカコの頭を撫で始めた。
まるで優しい兄のような感触。
これではどっちが歳上なのか分からない。
「……私そんなに切り替え早くないよ」
「そうですか?僕の中では、結構早くに立ち直って美味しい物食べたいって食欲に走ってるイメージなんですけど」
「何それ……」
「あ、笑いましたね。先輩。そうやって笑えるなら大丈夫です」
ミカコからつい漏れた小さな笑みに、ハルトもつられるように微笑んだ。
穏やかで人懐っこそうな笑顔は、何度も見たことがある。
──彼は他にどんな顔を向けるのだろう。例えば、恋人、とか。
ふとそんなことが気になった。
「ねぇ、ハルトは彼女いないの?」
「……何で今それを聞くんですか」
「いいじゃん、教えてよ」
急な質問にハルトは思い切り眉をひそめた。
あまり聞かれたくないことなのか、穏やかな表情が少し怪訝に歪む。
それでもミカコが重ねて問えば、彼は深く溜息を吐いてから小さく『いませんよ』と答えた。
「……いたら流石にこんな時間まで先輩に付き合いませんよ」
「ふぅん……好きな人も?」
「そ、そこまでは言わなくていいでしょ!」
更に問えばハルトは頬をほのかに染めてふいっと顔を背けてしまった。
目に見えて分かる動揺に、酒と失恋の余韻が未だ残るミカコでも察する。
──これはいる、と。
「……いいなぁ」
ぼんやりとハルトを見つめながら漏らした呟き。
心の中で留めておくつもりだった声は、なぜか外に漏れていた。
それを聞いたハルトのきょとんとした表情で気付いたが、もう遅い。
「いいなぁ、って何ですか?」
「……ハルトに想われる人が、羨ましいなって」
言ってしまったものは仕方がないと、ミカコは正直に答えた。
こんなこと言ったところで困らせてしまいそうだが、──ここはひとつ酒と失恋のせいということにして思うままにぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「ハルト、優しいじゃん。……私みたいな面倒くさい奴の愚痴にも付き合ってくれるし、……大事にしてくれそうだなって思ってさ」
出会ってからこれまでのハルトを見てきたからこそ抱いた正直な印象だ。
ぽろりぽろりとこぼすと、ハルトの頬にまた紅が乗る。
長い睫毛が照れくさそうに伏せった。
「…………じゃあ、僕に大事にされてみます?」
「……えっ?」
今度はミカコがきょとんとする番だった。
伏せられた睫毛越しに、再び目が合う。
ハルトの瞳が揺れている。
(大事にされてみます、ってどういう……?)
一体何を思ってそれを言ったのか。
揺れる黒色の中から思惑を見つけ出せずに、しばし見つめ合う。
すると突然視界にシャツの白がいっぱい飛び込んできて、かと思えば大きな手のひらが頭を掴んで、わしゃわしゃと髪を乱してきた。
「──ていうか、何でいる前提で話してるんです!?僕、いるなんて言ってませんよね!?」
「ああ、ちょっと髪の毛乱れる……」
「あと風呂入るだけでしょ、この酔っ払いめ。湯船で寝たりなんかしないでくださいよ!」
あれは気のせいだったのか、誤魔化すようにミカコの髪を一通りぐちゃぐちゃにしてハルトが立ち上がる。
追いかけるように彼を見上げたが、逆光のせいで彼の表情はよく見えなかった。
「……いつか絶対先輩だけを想ってくれる人が現れますよ。だから大丈夫です」
「ハルト……」
「それじゃあ、また月曜日会社で!」
「待って、帰りのタクシー代……」
「いりません!お気遣いなく!」
ミカコの反応も待たずにハルトは慌ただしく荷物を拾い玄関へ向かう。
帰りのタクシー代は当然負担しようと思っていたのに、彼の急な慌ただしさなんだか逃げているように見える。
一体突然なぜ。
ハルトまで自分から逃げるというのだろうか。
そりゃそうだろう。
何せミカコはこれまでたくさん彼に迷惑を掛けている。
いい加減うんざりしてもおかしくはない。
さきほど彼が言ってくれた大丈夫の言葉が、傷を癒さない。
「それじゃ──」
「待って!」
酔った身体のどこにまだそんな瞬発力が残っていたのか
──ミカコはベッドから飛び降りるように、靴を履き終えて立ち上がりかけたハルトの背中を引き止めた。
帰宅時にものしかかった、あの広い背中に抱きついて。
「せんぱ──」
「本当に大丈夫だって思ってる?」
胸元に回した腕を振り払われそうな気がして遮る。
何かを言われる前にとミカコは腕に力を込めた。
あたたかな温もりが肌を通して伝わってくる。
こうしてみると彼の背中の広さがよくわかるが、逞しさを感じている余裕はない。
「それに、いつかっていつ?そんな人にやっと出会えたと思ったのに、私振られちゃったんだよ。出会えるなら今すぐ出会って私だけを想われたいよ……」
言ってる途中で浮かんできた涙がまたミカコの視界を滲ませる。
通算三度目の破局は、今までずっと同じような理由で別れを経験してきたミカコの自信を喪失させた。
友人の中でミカコだけが出会いと別れを繰り返している。
周りは結婚だの、何年目だの、子供が生まれただの、落ち着いているのに。
そんな中で自分だけが一人残されている、そんな気がしてならなくて、焦ってしまう。
「大丈夫と言うなら、今すぐ保証してよ。でなきゃ帰さない」
「一体、何、言ってるんですか……」
「ハルトが言ったんじゃん、大事にされてみるかって。ねぇ、ハルト、試しに私に教えてちょうだいよ。ハルトの言う、大事にされるってこと」
ミカコ自身、何を言ってるんだと頭では分かっていた。
だが走り出した感情は止められなかった。
誰でもいいわけではない。
でも、目の前の相手に縋りつきたくなるくらいには、失くした自信と失恋の傷みがミカコを衝動に走らせていた。
ぎゅっと強くハルトの背中を抱き締めると、心臓の音が聞こえてくる。
どちらのものかは分からないくらい大きな鼓動が、どくんどくんと。
「──それとも、言ったことは全部嘘なの?本当は誰も大事になんかできないんでしょ」
精いっぱいの挑発をハルトの背中に伝える。
だが、しばらく経っても返事はなかった。
無言が彼の答え、ということだろう。
「……ごめんね。面倒くさい先輩で」
胸元に回していた腕を解いて、広い背中からそっと離れる。
ハルトが何の反応を示さないことが、思ったよりも辛い。
それこそ失恋の傷を塗り替えるほどの苦しさが、ミカコの胸を締め付けていた。
完敗
「タクシー代、いくらだったか月曜日に言って。返すから」
見送りをするのさえ、辛い。
震える声を一生懸命取り繕って、ミカコはハルトに背を向けた。
目頭が熱い。じわりじわじわと涙が視界を覆い始める。
再びベッドに戻ろうと、とぼとぼ歩き出して────突然身体が浮いた。
「──ひゃ!?」
驚いて状況を飲み込む前に、身体が浮いたまま移動を始めた。
逞しさを感じる腕が膝の裏とわきの下を通って、ミカコの身体を持ち上げている。
それを誰がしているのか、思い当たる人はたった一人。
ミカコのすぐそばに、ハルトの顔があった。
「ハル、トっ?」
ぼふん、と柔らかい衝撃がミカコの背中を伝う。
ベッドの軋む音が聞こえて、またもう一度揺れる。
せっかく着た上着をもう一度脱ぎながら、ハルトが片膝分の体重を乗せてミカコを覆おうとしていた。
「ハル──」
「先輩、コンドームどこですか?」
「え?コン……?」
「コンドームですよ。──この部屋でシたことくらい、あるでしょ?」
「あ、ある……けど」
人懐っこさを消したハルトの表情に気圧されるように頷き返す。
不意にセクシャルな話題を持ち出されて流石にミカコも戸惑った。
無言の圧が場所を聞いているようだったので、ちらりとサイドテーブルに目を向けると、抑揚のない声が『そこか』と呟く。
一段しかない引き出しにハルトの手が伸びて、それほど数の減っていない小箱が取り出された。
「え、あの、……するの?」
性的な行為の必需品であるそれを出されては、このあとの流れが分からない訳がない。
しかし念の為と恐る恐るミカコが問えば、ハルトは小箱から取り出した中身の一つを切り離しながらさも当然のように『しますよ』と言う。
「え?は?な、なんで?」
「なんでって、先輩が挑発してきたんでしょ」
「わた、私そんなつもりじゃ」
「じゃあどんなつもりだったんですか」
顔の横にハルトの手が置かれる。顔の両側を挟まれて完全にハルトに押し倒されているような状態になってしまった。
「まさか自分から『俺』を煽っておいて、怖気づいちゃったんですか?」
自分を見下ろす可愛らしいと思った猫のような目が、小憎らしくミカコを挑発する。
いつもの穏やかな感じから雰囲気を変えたハルトについドキッとしてしまう。
だが挑発し返されたとなれば、ミカコも戸惑ってばかりはいられない。
今度こそ歳上の矜持を、挑発には挑発を。
「そんな、ワケないじゃん。お手並み拝見、といこうじゃない」
「ふうん?あとでやっぱ無理って言っても止めませんよ」
「言わないし──て、てか!アンタ、俺って……っ」
「ああ。本当は“俺”派なんですよ。今までちょっと猫被ってただけで。俺童顔だし、そのほうがそれっぽくて社会も渡りやすいかなって。もう先輩の前で猫被らなくても良さそうだし」
ミカコの指摘に、ハルトはけろっとしていた。
これがハルトの素らしい。
どうりで知らない顔ばかり見ているような気がしたワケだ。
──そもそも先輩後輩という関係でしかミカコは彼を知らない。知らない顔があって当然だった。
「キスは?します?」
問いかけと共に、とうとうハルトの身体全部がミカコの上に乗った。二人分の重みにベッドが揺れる。
「……えっと」
いざ問われるとどうしようかと言葉を詰まらせる。
恋人でもないのにキスをするのはどうなのだろう?
まあ、これからそれ以上の事をしようとしているのだから愚問のような気もするが。
「──しますね」
「えっ?あっ、ちょ」
しかしハルトはミカコの返答を待たずに唇を重ねてきた。
聞く必要なかったじゃん、と言うことも出来ずに唇を唇で優しく挟まれ、吐く息が向こうの口内に飲み込まれていく。
(なに、これ……)
ちゅ、ちゅっと、甘く啄むようなキスに頭が混乱する。
今までの人もそれぞれで仕方が違ったが、ハルトのキスは特別違うもののように感じる。
それはそっと宝物を抱きしめるかのようにされながら、キスを受けているせいだろうか。
ハルトの逞しい腕が脇の下を通してミカコの頭を抱き寄せていた。
苦しくもなく、不快でもなく、激しくも乱暴でもない。
果実を口にするような動作で唇を食べられ、最後にちゅっとキスを落としてハルトが離れた。
「どうでした?」
「どう、って……」
「俺のキスですよ。今までの人と比べてどうでした?」
「……ま、まあまあ、じゃない」
「フッ。顔紅くなってるくせに、素直じゃありませんね」
「な、なってない!!」
──いや、なってる。
ミカコもそれは自覚していたが、素直に良かったと口にするのはなんだか悔しい気がしたのだ。
「ま、いいんですけど。まだまだ序の口だし」
「……え?」
「先輩、服脱ぎましょうか」
「あ、ちょっと待ってシャワーくら…──んっ」
せめてする前にひと浴びさせてもらいたい。しかしハルトにここで中断するつもりはなさそうだ。
再びハルトの唇が重なって、黙らされる。
ハルトの大きな手のひらがミカコの身体をなぞりながら胸元へと向かう。
ひとつボタンが外される度に、涼しくもぬるくもない空気が入り込む。その感覚がややくすぐったい。
ハルトのその手つきは慣れているようで、キスをしているうちにシャツのボタンは全て外されていた。
「ハル……ンっ」
肌着の中にハルトの手が潜り込んできたときはくすぐったさが強く、身体がびくりと跳ねた。
ハルトの手はそれでも止まることなく、ミカコの背中側に滑り込んでブラのホックを外す。
「今までの人は、どんな風に先輩を抱いてきたんですか」
「……っ、ど、どんな風って……ふ、普通だよ」
「普通?かつての彼氏さんは先輩をちゃんと気持ち良くイカせてくれました?」
「イ、イカ……っ!?そ、そりゃあ………………」
「そりゃあ……?」
肯定しようとしたが、嘘だ。処女ではないが正直よくわからない。
ミカコはそこまでセックスの経験がなかった。
というのも、初めてのときの痛さが印象にばかり残って、積極的になれなかったのだ。
これまでの人とは、恋人だから一応シなければならないかと思って、義務的な感覚だった。
──もしかしたら、そういうところもダメだったのかもしれない。
「イ、イカせられ、まくった……わよ……」
敢えてハルトにそれを正直に伝えなかったのは、ニヤニヤしながら聞いてくるのが腹立たしい上に、見抜かれているような気がしたからだ。
「ふぅん?じゃあ、そのイカせられまくった過去に負けないくらい、俺も先輩のこと良くしてあげますね」
「えっと……あの」
「そうしなきゃ、俺の“大事にする”ってことが伝わらないだろうし」
「ちょ、ちょっと待って?」
「待ちません」
「ハル──ひぁッ」
ハルトの手は本当に止まらなかった。
あたたかくて大きな手がミカコの胸を優しく包んで、尖端に時々悪戯をしながらゆっくりと揉み始める。
(どうしよう、なんでか、すごく、くすぐったい……!)
今までの誰に触れられても、揉まれている感覚がするだけでくすぐったさなど覚えたことはない。
これは飲んだ酒のせいなのだろうか?経験が少なすぎて、判断ができない。
「先輩」
「──ひゃっ!」
胸から昇るくすぐったさに集中していたら突然耳に吐息が振りかかって驚いた。
というより、くすぐったい以上の感覚が走り抜けたことの方に身体が反応していた。
「へぇ、先輩……耳、弱いんだ」
「ンッ、そ、んな風に、耳元で、喋るから……!」
「そんな風にって、どんな風?」
「あっ、ンん……っ」
ハルトは少しSっ気があるのだろうか、ミカコの反応を見て楽しそうに囁き続ける。
ハルトの意地悪な声がぞわぞわして頭の中に広がる。
その間も胸への愛撫は続いていて、自然と出てしまう声にミカコはたまらず口を手で押さえた。
「先輩、それダメ」
「んっ……なん、で……ぇ、っ?」
「先輩が気持ち良くなってるのか分かんないからです。だから、その手はこっち」
こっちってどこ──?そう思った次には、口を押さえていた手にハルトの指先が絡められた。
そしてそのまま顔の横に手を移動させられる。場所はそこらしい。
「怖いことはしないから。だから先輩は安心して俺に身を委ねて?それでも、たまらない気持ちになったら俺の手ぎゅっと握り締めてくれていいんで」
ミカコがよく知るハルトがそこにいる。失恋したミカコに励ましの言葉を贈るように、優しく穏やかな声が紡いでいた。
しかしいつもと違うのは、猫のような目に浮かぶ真摯な色。
ハルトの言葉に嘘はないと信じられる。
だからミカコは、今度は素直に頷いた。
「フフッ、素直。──先輩のそういうとこ、可愛いですよ」
ぶわ、と体温が上昇する。
まるで恋人に言うような甘い囁きだ。そんなことも今までの誰にもされたことがなくて、ミカコはどう受け取ったらいいか分からず赤面してしまう。
そんなミカコに穏やかな微笑みを向けながら、ハルトの顔が再び近づいて来た。
「声、我慢しないでくださいね」
キスが落ちる直前に囁かれて、空いていたもう片方の手も同じように指先を絡められた。

ミカコを押さえつけるかのように、しかし甘く、ハルトの口づけは続く。
舌を入れられるキスは実はそんなに好きではなかったが、ハルトのならすんなりと受け入れられた。
どう絡めればいいか分からないミカコの舌先を、ハルトのが導くように突く。
同じように突き返せば、果汁を啜るようにじゅるりと吸われた。
でも、嫌ではなかった。
(……きもち、いい)
身体から力が抜けていくのを感じる。
ハルトのキスに身体が溶かされている。そんなような気持ちになった。
やがて、ハルトの唇がそっと離れ、そのときにはもうミカコの息は荒くなっていた。
こんなに長くキスをしたのも初めてのような気がして、酸素が足りない。
頭の中まで熱くなったようで、ぼーっとしてしまう。
「んっ」
首筋にハルトの唇。
筋に沿って這い降りるかのように、吐息がミカコの素肌を滑る。
くすぐったい。
でも、それがなんだか心地良くて、胸がドキドキする。
行為のときはいつも緊張して強張っていたのに、今はそんなこともない。
初めての感覚ばかりがミカコに与えられる。
首筋から鎖骨へ。
鎖骨から胸元へと滑る口づけはどんどん下へと向かう。
おへそのあたりにキスが落ちたときにはあまりにもくすぐったくて身を捩ってしまった。
そこで右手がハルトの手から解放される。
(手、離れちゃった……)
左手は繋いだままだが、右手が離れたことが少し寂しい。
ハルトの手はどこへ行ったのか、それはスカートのファスナーがジジジと下ろされる感覚で気付いた。
緩んだウエストから手が滑り込み、ストッキングごと脱がされる脚。
その様子をミカコはぼーっと見下ろしていた。
ショーツだけになった下半身と、再開される素肌へのキス。
キスの場所がその先に近付いたのと、ショーツを脱がされようとしたところで、ミカコはやっとハルトがしようとしていることに気付いた。
「あっ、あの、ハルト、待って」
だが制止もむなしく、ハルトはするりとミカコのショーツを脱がしてしまった。
「ハルト……っ」
「俺に身を委ねてって言ったでしょ、先輩」
外気に晒されたその場所にハルトの顔が近づく。
(ちょっと待って。待って、それは)
そういう愛撫の方法があることくらいミカコは知っている。
しかし知っているだけでされたことがある訳ではない。
近付いたハルトの頭を押し返そうとして右手を伸ばしたが、直前で捕まえられてしまった。
「あっ、やァ……ッ!」
水がぴちょんと跳ねたような、そんな感覚の反動で腰が浮く。
すでに舌先で触れ合ったあとだったから、そのざらついた感触がハルトのものだとは分かる。
だからこそ、羞恥で身を焦がされそうな思いがするのだ。
少し前まではただの先輩と後輩だったのに。誰にもそんな方法で触れられたことがない場所を、ただの可愛い後輩だったはずのハルトに口で愛撫されている。
大事に食べるかのように、ゆっくりれろりと舐め上げられると、どこに逃せばいいか分からない感情が身体の中にたまり込んで、ミカコはハルトの手をぎゅっと握り締めた。
すると彼も同じようににぎにぎとミカコの手を握り返す。そのやり取りでさえ、くすぐったい。
「ンッ、く、は、ハル、トぉ……っ」
「先輩のココ、すごい、溢れてきますね。気持ち良いですか?」
「あっ、やぁ……そ、ンなところで、喋らないで……ぁッ」
入り口の近くにある敏感な場所。そこをちゅるりと吸い立てられて、今までで一番鋭い刺激が迸った。
お腹のあたりで熱が集まっているような感覚がする。
足の先から裏側にも、ぞわぞわしたものが集中している。
こんな感覚を知らない。
誰かに愛撫されることが、こんなに気持ち良いものだったなんて、知らない。
「ハルぅ……なんか、だ、めぇ……ッ」
「だめじゃないですよ」
「ちがうの、へんなの……なにか、あふれそうな、ンッ、あ、やぁっ、まってぇ……──っあアッ!」
ぶるぶると身体が震える。
ぞわぞわしたものが爪先から頭の上へと走り抜けた。
それはまるで空気いっぱい吹き込まれた風船がパンと弾けたような。
ここまでの感覚は本当に初めてで、戸惑いとその感覚の余韻にミカコは喘いだ。
「それが、イクっていう感覚ですよ。先輩」
額に優しいキスが落とされた。それと共に告げられた言葉に、やはり見抜かれていたことを悟る。
きっととっくの昔にそうなっていただろうが、──歳上の矜持、ここに崩れたり。完敗であった。
⇒【NEXT】(ハルトの息、あつい……)(【後編】破れた恋の忘れ方 〜世話焼き後輩を煽ったら甘く返り討ちにされました〜)
あらすじ
振られてしまったばかりの酔ったミカコを彼女の家に送り、愚痴を聞く後輩ハルトだったが、ミカコの好きな人いるの?という突然の質問に戸惑ってしまった。
実はミカコが好きだったハルトは…