注目のワード

官能小説 【中編】妖の番


この作品について

この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した
「妄想小説コンテスト」の優秀賞作品です。

助けてくれたのは

「うん」

頷いてくれる彼の頭にはぴんと立ち上がった耳に大きな尻尾が揺れていた。その姿はどう見てもおかしくて現実ではないような光景ではあったけれど、先ほどの男のように化け物だとは感じなかった。健斗さんの外見に対する恐怖よりも安堵の方が勝り、私はそのまま涙をこぼし続けた。

「もう大丈夫だから」

ぎゅっと抱きしめられていると体温が伝わってきて、震えが幾分落ち着いた気がした。暫くそうした後、勇気を出して訊ねてみる。

「……あの、どういうこと、ですか?」
「ん?」

くるんとした目がこちらを向く。

「……その耳と尻尾、本物、ですか? さっきの人も、知っているんですか……?」

健斗さんは首を傾げながら、私の方をちらりと見ると困ったように笑った。

「あーうん。何から説明しようかなあ。うーん、とりあえず雨に濡れないところに行こうか」

健斗さんのヒミツ

そのまま帰ったら親が心配すると連れてこられた健斗さんの家で、お風呂に入り暖かいお茶をご馳走になっていた。

「鞄は綺麗になったけど、シュークリームは食べれないし水筒は壊れちゃってて使えなさそうかな」

持ってきてくれた荷物を見ると、水筒は大きく歪んでいて確かに使い続けられそうにもなかった。

「ありがとうございます」
「いえいえ」

わざわざ確認してくれたことへ感謝を述べると健斗さんはふわりと笑った。

「落ち着いた?」
「はい、大分。ですので、説明してもらっても良いですか?」

机を挟んで向かいに座る健斗さんの頭にはやっぱり耳があって、後ろには立派な尻尾も生えていた。その耳がぴくぴくと動いているのを見ながら私は口火を切った。

「簡単に説明するとね、大学の近くに東神社ってあるでしょ? 僕はその神社の狛犬」

……そんな話をされても理解できない。そう思ったのだけれども、真面目な顔で話されると否定することも出来ない。確かに犬と言われれば耳も尻尾も似ているし、先ほどの事を考えると理解はできなくとも受け入れるしかなさそうであった。

「真子と僕は狛犬としてこの町を悪い妖とか良くないものから守っているんだけど、さっき襲ってきたやつは身の程をわきまえない妖だよ。僕達のような妖が本当の力を出すには生命力を共有できる番が必要なんだ。それで、詩織ちゃんの生命力欲しさに強引に手を出してきたんだろうね」

「生命力、ですか?」

「うん、詩織ちゃんは生命力が他の人より強いんだよね。だから、僕達みたいな者はどうしても惹かれてしまう。だからと言ってさっきのは犯罪だからとっちめないといけないけれど。
僕も番がずーっといなくて、でも詩織ちゃんを見たときにぴんときたんだ。この子は僕の運命の人だって!
最初は強い生命力を持っているから気になってたんだけど……詩織ちゃんてかわいいし、性格は大人しそうなのに自分の意志はちゃんと芯が通っていて素敵だし、甘いものには目がないところもちょっとおっちょこちょいところも……とにかく全部好きになっちゃった」

つまり私は生命力が強いせいで妖から好かれるということなのか。後半はなんだか告白されているように感じたが、ふにゃりと笑いながら言う健斗さんを見ていたら突っ込むこともできずに私は聞いていた。

「でも、詩織ちゃんが大きくなるまでって思って、幼稚部のころから真子にも協力してもらって見守ってたのに。成熟した途端手を出そうだなんて失礼だよね」
「えっと、手を出すって、そのまんまの意味ですか?」

さっきの男も処女だとか言ってたなと思い出しながら尋ねる。

「うん、想像したことであってると思うよ」
「……その、妖ってたくさんいるんですか?」
「隠れているのは多いかな。変身するためにはそれなりに力がいるからあんまり人前に出てこないけど。詩織ちゃんに最近ちょっかい出してきていたのも僕らと同じ妖だよ。貧弱だからこどもに化けるのが精一杯だったし、ちゃんと節度は守ってたみたいだけどね」

やっぱり最近の出来事はおかしかったんだなと原因が分かってすっきりすると同時に不安にもなった。そこそこの数がいるということは、また同じようなことがおこるかもしれないということだ。そのことが顔に出ていたのか、健斗さんが恐る恐るといったように問いかけてくる。

「……怖い?」
「はい……」
「そうだよね、いきなりこんなこと言われても」
「あ、いえ。健斗さんのことは怖くないです! よく知ってますし、真子のお兄ちゃんだし、昔から助けてもらってたし、いつも優しいし……」

急にぺたんと垂れた耳と力なく揺れる尻尾が視界に入り、慌てて言葉を紡ぐ。だが、健斗さんが怖くないというのはは本心だった。優しくて理想のお兄さんが私の記憶の中にはいたし、それは人間ではなかったとしても本質は変わらないと思った。健斗さんは私の言葉を聞きながら、思案するように目を一旦閉じてから思わぬ言葉を口にした。

健斗さんの頼みごと

「……僕が妖と知っても怖くないなら、僕の番になってくれない?」
「えっ……」

急に切り出された言葉に戸惑う。
突然そんなことを言われても困る。番というのは結婚すると同じ意味なのだろうが、まだ将来のことなんて考えられない。返事に困ってあちらこちらに視線を動かしながら健斗さんの顔を伺うと、いつもの柔和な笑みはなく真剣な顔をしていた。私もちゃんと話さないといけないと深呼吸をして、ゆっくりと頭の中でまとめた自分の考えを声に乗せた。

「私はまだ学生だしそんな大切なこと、決断できないです。
……でも、初めてを誰かに奪われるくらいなら、健斗さんがいい。だから、私とまずは交際してから番の件は考えさせてください」

そう告げると、困ったように眉を下げた。

「それは……ごめん。僕も毎日会っていたから油断してた。でも、そんな怖いことを考えなくていいから。詩織ちゃんは大切な人なんだから、もう二度と今日みたいなことが起きないように守るよ。今の話は忘れて?」

私なりの精一杯の告白は、今後の事を考えた結果だと思われてしまったようだった。
でも、それは違う。私は先ほどの事を思い出しながら、先ほど気がついた気持ちを正直に告げた。

「違うんです。私、さっき思ってしまったんです。こんな目に遭うならもっと遊んでおけば良かったって、……本当に馬鹿みたいだけど。
その中に恋愛も含まれていて。そこで一番に健斗さんの顔が浮かんだから……」
「……それ本当?」

返答の変わりに立ち上がって彼の横に行くと勇気を出して唇を軽く合わせた。

キスする男女

啄むように唇を何度も合わせていると、ぺろりと舐められた。そっと目を開けると、健斗さんは目を細めて笑っていた。大きな手のひらが首から後頭部を包み込み、健斗さんの方に引き寄せられる。唇を割って入り込む舌に自分のそれを絡ませた。角度を変えながら何度も舌を絡ませていると、頭がぼーっとしてくる。

限界だと胸を押して唇を離すと唾液が糸を引いていて、それを舐めとる舌がやけに赤く見えた。
腕が背中と膝裏に差し込まれ、抱き上げられる。階段を上がって左手の部屋に入り、手を離されると体が柔らかなベッドに沈み込んだ。いつの間にか健斗さんの頭から耳は消えていて、上に乗っかってくるその綺麗な顔を見つめた。

「……しても良い?」

付き合ったその日にするなんて早急すぎる気もしたが誘ったのは明らかに私から、だと思う。健斗さんなら、と頬を撫でられながら耳元で囁かれた言葉にそっと頷いた。

⇒【NEXT】思わず健斗さんの肩にしがみつく(【後編】妖の番)

あらすじ

バイトの帰り道に謎の男たちに襲われそうになったところを、親友の兄であり憧れの健斗さんに助けてもらった詩織。
彼にある秘密を明かされ…

あわせて読みたいコンテンツ特集

お知らせ
休業案内
夜の道具箱
  • クンニ
  • さくらの恋猫
  • ヌレヌレSP
トロけるエッチ
騎乗位動き方
公開中のエピソード 全100話公開中
カテゴリ一覧
官能小説
幼馴染
仕事一筋
遠距離恋愛
夜明け前〜解放〜
夜明け前〜出逢い〜
絵の中のあなた
空をつなぐ
恋のチカラ
恋愛エクスプレス
キミに出会う旅
君が気づかせてくれたこと
home sweet home
恋の花の咲かせ方
まだ見ぬ君へ
ここにいること
未来の花ムコ
彼女の生きる道
本当の幸せ ―私の誤算―
コイの記憶
救世主
再びの春
天使の羽
キャンパス
恋愛診断
傷心旅行
甘い恋愛
始まりは雨
【小説版】遠回りした私たちの恋
LOVERS〜恋が始まる〜
LOVERS〜恋が揺らぐ〜
LOVERS〜恋がざわめく〜
揺れる明るみ〜癒し〜
揺れる明るみ〜包容〜
うずきがとける
おんなの、秘めごと
バースデーバレンタイン
【小説版】安藤呂衣は恋に賭ける
私の知らない私
ウーマン・オブ・プラネット
官能小説の書き方(投稿)
その指が恋しくて
あなたを感じる〜電話エッチ〜
寂しさの粒
ルームナンバー701
美味しいセックス
目で感じる官能エロ小説
「もうひとつ」の誘惑
新着小説作品
あなたを掴まえたい
夜はまた明ける
秘密の氷が溶ける音
心の糸を結ぶ場所
Sweet of edge
【小説版】となりのS王子 ファースト・クリスマス
【小説版】となりのS王子 恋におちたら
先生とわたし
【小説版】シンデレラになる方法 〜誓子の場合〜
【小説版】夜ごと課外レッスン
クロスラバーズ spotA 谷崎美陽の場合
クロスラバーズ spotB 吉井月乃の場合
妄カラ女子 spotA 小森未由の場合
純白と快感のあいだ
妄カラ女子 spotB 榊川彩子の場合
パラレルラブ spotA 加藤直紀
パラレルラブ spotB 高木洋輔
同居美人 projectA 名取千織
同居美人 projectB 上塚想子
心も体もつながる夜は
幼なじみの甘い脅迫
【小説版】甘恋レッスン
【小説版】恋のメイクレッスン
【小説版】彼女を震わせるモノ
オンナノコ未満、オンナノコ以上
本当にあった物語
恋猫、飼い始めました。
Lovecure
二度目の恋におちたから
【小説版】Vな彼女と彼氏
【小説版】タワーマンションの女たち
【小説版】年下わんこのおねだりタイム
【小説版】今夜は私から
私も知らないわたし
初めてのひみつ
心も体も通わせて
マンネリ打破!恋愛スイッチ
プリンセスになりたい
恋の誘惑は唇から
インサート・コンプレックス
上手なキスの仕方を教えて?
秘密、蜂蜜、果実蜜
エッチな女性はお好みですか?
【小説版】私だけの、キミでいて。
あなたのすべてが性癖なのです。
【小説版】きみの声じゃないと駄目なんです!
欲望まみれの執事に愛されて
彼の知らない私と、私の知らない彼
「気持ちいい」を聞かせて
恋する貴女へ特別な快感(おもてなし)を〜若旦那の恋の手ほどき
読切官能小説
投稿官能小説
大人の恋愛小説
夏目かをるが描く官能小説
官能コラム
夢も欲も愛も飼い慣らして
恋愛とセックスのかけ算
【小説版】絶対ナイショのラブミッション
本当にあった!ラブ物語
ガールズストーリー
わたしたちのラブストーリー
メンヘラ社会人×ラブコスメ
同居美人 番外編
カレントループ〜蠍座と蟹座の秘密の共有〜
アストロロジーの恋愛処方箋
私のことが好きすぎるワンコな彼氏の甘い逆襲
朝靄の契り
恋欠女子とバーチャル男子
今夜の夜テク
招き恋猫